サリエリの独り言日記

サリエリの独り言日記

2010.01.21
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テーマ: 古典の日(312)
カテゴリ: 文学
 季節がどんどん進んで行くなか、のどかな六条院の中で、相変わらず一人思い悩んでいる玉鬘ですが、

― かの、監(げむ)が憂かりしさまには、なずらふべきけはひならねど、かゝるすぢに、かてけも、人の思ひより聞ゆべき事ならねば、心一つに思しつゝ、「さま異に、うとまし」と、おもひ聞へ給ふ。なに事をもおぼし知りにたる御齢(よはひ)なれば、とざまかうざまに思し集めつゝ、はゝ君のおはせずなりにける口惜しさも、又、とりかへし、惜しく悲しくおぼゆ。 ― (山岸徳平校注、岩波文庫()筆者)

 あの、(筑紫のむくつけき大夫の)監の鬱陶しさには、比ぶべくもない気分ではあるけれど、このような(はしたない)話は、どう考えても、誰もお気付き申すことではないので、(姫ご自身の)心一つに思い収めて、「(殿の)様子がヘンで、イヤらしいわ」と、思い申し上げていらっしゃる。(もうすでに)何事も分別のつくお歳なので、あれこれ考え合わせられるに、(根っこは、結局のところ)母君が亡くなっておられないのが(原因)と無念で、(それを)また、あらためて、口惜しくも悲しく思っておられる。

 要は後ろ楯のない悲しさ、真実を内大臣に知らせようにも、一人身の玉鬘には光源氏の圧倒的な権勢に逆らう術がない。これは仮に内大臣が彼女を知ることになったとしても、相当慎重な対応を迫られることをも示しているので、今や源氏の威光を止める人がいない、何だか今どきどこかの政府みたいですね。

 ところで、皆さんは気付かれました?この玉鬘をめぐる「求婚譚」は筑紫の話につづいて、二回目であることを。こういう言わば二番煎じの話を、臆面もなく出してくることについて、紫式部はおそらく充分それを分かっていて、やっているのではないか、と思うのです。
 筑紫での、はなはだ童話的な、ということは「竹取物語」のような昔物語の雰囲気に近い話を、彼女はもう一度根っこから見直して、まったく新しい物語を創ろうとしたかのようですね。換骨奪胎というのが、これまでの彼女の主たる得意な手法であることを考えれば、当初はこの部分を、結構自信を持って構想していたのではないか、と思えるのです。ということは、「玉鬘十帖」における最後の意外な結末は、最初から彼女の頭の中にあったかと思われるのですが、それがなぜこの途中に到って頓挫してしまったのか?

 前の「胡蝶」の帖のおわりで、その根本原因がどうやら「求婚譚」という、使い古された題材にある、というような話をしましたが、それとは別に、例の大野さんは対談「光る源氏の物語」(中公文庫)で、b系物語全体を通じたテーマが、光源氏の失敗談であろう、という話をされていて、一つの手がかりになるのではないか。確かに空蝉も夕顔も末摘花も、そして結局玉鬘も源氏にとっては、言わばみっともない話、公けには出せない話として、正系(a系)の物語とは別に、並びの巻として編まれた可能性は高いのですが、かといって、玉鬘の結末は明らかに他の三人とはトーンが違う。
 要は前の三人との話が、滑稽譚と猟奇譚で読者を引っ張っていって、じゅうぶん飽きさせない(その点では「末摘花」の話も、その品格は別として話し上手ではあるのです)のに対し、読むのも書くのもしんどいというのが、何度も言いますが「初音」「胡蝶」「螢」の三帖なのです。私はこの大野さんの説には必ずしも賛成できないのですが(a系物語にも失敗譚は、朝顔の宮のようにあるじゃないですか)、とはいえもし紫式部が失敗譚のくくりとして「玉鬘十帖」を考えていたのだとすれば、最後に面白くもおかしくもない話になってしまった、ということになってしまいます。

 その原因の一つを、今回読み直しながら考えています。

― つづく ―





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Last updated  2010.01.21 11:39:03
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TNサリエリ @ Re[1]:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) ナガノさんへ  コメントいただき、ありが…
ナガノ@ Re:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) 2年遅れで、この文章を読んで泣けてしまっ…
TNサリエリ@ ふたたび、コメントありがとうございます。 cocolateさんへ 私自身、彼女の演奏に刺激…
cocolate@ Re:エレクトーンというガラパゴス 1.(06/17) 再びおじゃまします。 826askaさんのYouT…
cocolateさんへ@ コメントありがとうございます。 三年ほど前に826asukaさんのことを知り、…

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