サリエリの独り言日記

サリエリの独り言日記

2010.01.31
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テーマ: 古典の日(312)
カテゴリ: 文学
 「螢」の終わりで夕霧が登場したあと、彼が想いを掛け続ける雲井の雁の追想が入って、話は内大臣家の様子に移ります。

―  内の大臣(おとゞ)は、御子ども、腹々いと多かるに、その生ひ出でたるおぼえ、人がらに従ひつゝ、心にまかせたるやうなる思え、勢(いきほひ)にて、みな、なしたて給ふ。 ― (山岸徳平校注、岩波文庫()筆者)

 内大臣は、お子様が、(あちこちの女君との)間でたいそう多く出来ていらっしゃって、その生まれた(母方の)お血筋や、(本人の)資質にしたがって、(今や)我が意のままになる声望や、時の勢いに任せて、みんな、(しかるべく)取り立てていらっしゃった。

 何かと光源氏に対抗して、若かりし頃よりあちこちの姫君その他に手をつけては、大勢の子供をなした内大臣ですが、なぜかしかるべき血筋の女娘は、正妻である右大臣系四の君との間の「弘徽殿の女御」と、今は按察大納言に嫁いでいる皇族系の姫君との間に出来た「雲井の雁」の二人だけなのです。
 しかし相手の身分を度外視すれば、何やらそのほかにもいそうな感じで、ハッキリしているのは、かつて「帚木」の帖で源氏たちに語ったこともある、娘子まで宿したまま姿を消した「夕顔」の面影。ここで私たちは、この玉鬘の話が「帚木」の帖で語られた「雨夜の品定め」と繋がっていて、それはおそらく「帚木」に始まるb系物語が「玉鬘十帖」まで、当初から一連の話として構想されていたことを確認するのです。
 内大臣は大勢の子息たちに向かって、

― 「もし、さやうなる名のりする人あらば、耳とゞめよ。心のすさびにまかせて、さるまじき事も多かりし中に、これは、いと、しか、おしなべての際にも思はざりし人の、はかなき物鬱(ものうむ)じをして、かく少なかりける、もののくさはひ一つを、失ひたる事の、口惜しきこと」 ― (山岸徳平校注、岩波文庫()筆者)

 「もし、そのような名乗りをする人がいたら、(絶対)聞き逃すなよ。(若気の)遊び心に任せて、みっともない話も多かったなかで、この人(夕顔)ばかりは、ホントに、そのような、月並みな相手とは思っていなかったのに、つまらないことで気落ちして(身を隠してしまったので)、このように(ただでさえ)数少ない、娘子の一人を、失くしてしまって、残念でならんのじゃ」

 と、いかにも懐かしげに話すのですが、本当のところは例の光源氏への対抗心であるようで、

― 中頃などは、さしもあらず、うち忘れ給ひけるを、人の、さまざまにつけて、女子かしづき給へるたぐひどもに、わがおもほすにしもかなはぬが、いと心憂く、本意なく、おぼすなりけり。 ― (山岸徳平校注、岩波文庫()筆者)

 ひと頃までは、さしたることもなく、(行方不明の母娘のことなど)つい忘れていらっしゃったのであるが、源氏の殿が、しかるべき身分に応じて、我が娘たちを大事にお世話なさるようには、我が意がままならないのが、まことにうっとうしく、(また)残念に、思っておられるのである。

 玉鬘のうわさは、内大臣のもとへも当然伝わっていて、なかんずく我が長男の柏木なども、その婿候補に名乗りも上げているのですが、何といっても内大臣としては冷泉現帝の中宮の座を、我が娘(弘徽殿の女御)は、源氏方の秋好中宮に奪われ、雲井の雁は源氏の息子、夕霧とおかしなことになってしまい、はなはだ腹膨れる思いであったところに、新たな姫君が源氏方に登場したとなれば、宮廷内での勢力図がさらに変化すること(一族にとって不利になること)を考えざるを得ないのです。

― つづく ―





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Last updated  2010.01.31 11:50:02
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TNサリエリ @ Re[1]:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) ナガノさんへ  コメントいただき、ありが…
ナガノ@ Re:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) 2年遅れで、この文章を読んで泣けてしまっ…
TNサリエリ@ ふたたび、コメントありがとうございます。 cocolateさんへ 私自身、彼女の演奏に刺激…
cocolate@ Re:エレクトーンというガラパゴス 1.(06/17) 再びおじゃまします。 826askaさんのYouT…
cocolateさんへ@ コメントありがとうございます。 三年ほど前に826asukaさんのことを知り、…

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