サリエリの独り言日記

サリエリの独り言日記

2010.04.03
XML
テーマ: 古典の日(312)
カテゴリ: 文学
 帝の意向を呈した源氏の消息に対して、公事らしく堂々とした玉鬘のご返事に、夕霧はますます「野分」の折りに見た彼女の、匂い立つような姿形が思い出される。そこで彼は源氏が言伝てていないような事柄を彼女に話してしまう。

― 「「人に聞かすまじ」と、侍ることを、きこえさせんに、いかゞ侍るべき」 ―  (山岸徳平校注、岩波文庫)

 「(父大臣が)『人には聞かせまい』と、思っておりますことを、お話したいのですが、いかが致しましょう」

 と、近くから女房たちを下がらせたうえで、

― 空消息を、つきづきしくとり続けて、こまやかに聞こえ給ふ。うへの御けしきの、たゞならぬ筋を、「さる御心し給へ」、などやうのすぢなり。いらへ給はむこともなく、うち嘆き給へるほど、忍びやかに、美しういと懐しきに、なほ、えしのぶまじく、
 「御服も、この月には脱がせ給ふべきを、日ついでなむ、よろしからざりける。十三日には、河原へ出でさせ給ふべきよし、のたまはせつる。なにがしも、御供にさぶらふべくなむ、思ひ給ふる」
と、きこえ給へば、
 「たぐひ給はむも、ことごとしきやうにや侍らん。忍びやかにてこそ、よく侍らめ」
と、のたまふ。「この御服などのくはしきさまを、人にあまねく知らせじ」と、おもむけ給へるけしき、いと労あり。 ―  (山岸徳平校注、岩波文庫)

 (夕霧は、源氏からの)ニセの言伝てを、まことしやかに言いつくろって、こまごまとお伝えなさる。帝の(あなたに対する)御執心が、並々でないから、「しかるべく注意なさいませ」、といったような中味である。(玉鬘が)お答えのしようもなく、そっと嘆息されているのが、しめやかに、美しくてたいそう優しそうなので、やっぱり、ガマンが出来ず、
 「御喪服も、今月にはお脱ぎになるべきところ、(吉日の)日取りが、よろしくなかったようで。十三日には、河原へお出まし下さるよう、(父源氏も)申されております。私も、お供致そう、と思っておりますが」
と、おっしゃると、
 「ご一緒なさるのは、事々しくはございませんでしょうか。(出来るだけ)目立たないように(参上)したほうが、よろしいのでは」
と、答えられる。「この服喪などの事情を、世間には広くは知らせまい」と、配慮なさっている(玉鬘の)気配りは、なかなか行き届いている。

 この空消息は、夕霧の下心から発したもので、当然このあと何がしかのすったもんだを、私たちは予想してしまいます。しかし丸谷さんの言われるとおり、近代小説で描かれるウソというのは、必ずあとになってそれがバレることで、話が大きく展開するものですが、ここではこの場面だけの趣向に使われていて、あとあと発展することはありません。応対に困ってしまった玉鬘に、夕霧がひたすら言い寄る口実としてだけ使われているようです。
 しかしこの年、玉鬘二十三歳、夕霧十六歳で、所作動作は何となく玉鬘のほうが上手を行っている感じですね。

― つづく ―





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

Last updated  2010.04.03 11:28:23
コメント(0) | コメントを書く


【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
X

PR

×

Calendar

Archives

2026.05
2026.04
2026.03
2026.02
2026.01

Profile

TNサリエリ

TNサリエリ

Comments

TNサリエリ @ Re[1]:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) ナガノさんへ  コメントいただき、ありが…
ナガノ@ Re:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) 2年遅れで、この文章を読んで泣けてしまっ…
TNサリエリ@ ふたたび、コメントありがとうございます。 cocolateさんへ 私自身、彼女の演奏に刺激…
cocolate@ Re:エレクトーンというガラパゴス 1.(06/17) 再びおじゃまします。 826askaさんのYouT…
cocolateさんへ@ コメントありがとうございます。 三年ほど前に826asukaさんのことを知り、…

Favorite Blog

まだ登録されていません

© Rakuten Group, Inc.
X
Create a Mobile Website
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: