サリエリの独り言日記

サリエリの独り言日記

2010.04.26
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テーマ: 古典の日(312)
カテゴリ: 文学
 以下、髭黒の北の方の素描が行われます。

― 女君、人に劣り給ふべきことなし。人の御程も、さるやむごとなき父親王の、いみじうかしづきたてまつり給へる思え、世に軽からず、御かたちなども、いとようおはしける、あやしう、執念き物の怪にわづらひ給ひて、この年頃、人にも似給はず、現(うつし)心なきをりをり多く物し給ひて、御仲もあくがれて、程経にけれど、「やむごとなき者」とは、又ならぶ人なく、思ひ聞え給へるを、珍しう御心うつる方の、なのめにだにあらず、人に勝れ給へる御有様よりも、かの、うたがひおきて、皆人の推し量りしことさへ、心清くて過ぐい給ひけるなどを、「ありがたう、あはれ」と、思ひ増し聞え給ふも、ことわりになん。 ― (山岸徳平校注、岩波文庫()筆者)

 女君は、(もともと)人に引けを取るような方ではなかった。(この)人の身分柄は、あの高貴な父式部卿殿が、たいそう大事にお育てなさって、世の評判も(決して)軽くなく、ご器量なども、とても美しかったのであるが、不吉にも、しつこい物の怪に患われなさって以後、この数年来、(普通の)人とは打って変わってしまわれて、正気を失われる折りがたびたび重なり、(夫婦の)御仲も失せて、久しいのであるが、「(この方は)格別な人だから」と、(髭黒は)これまた並びなき人として、思い扱っていらっしゃったのが、(このたび)珍しくもお心を動かした方(玉鬘)が、尋常ならず、人に勝っておられるご様子であるうえに、例の、(源氏との間柄を)疑って、皆が想像していたようなことも、(この玉鬘は)潔白になさって来られたことが(分かってきて)、「何とも、気高いことよ」と、ますます想いが深まっていくのも、無理のないこと(ではあった)。

 このあわれな北の方、父が親王の式部卿の宮であることが明らかにされ、ということは紫の上とは異母姉妹なのです。このころ髭黒は三十三、四歳で、北の方はその三つ四つ年上とありましたから、齢三十六、七、つまりいわゆる女の厄年に当っていそうです。ちなみにこの時、紫の上は二十九から三十歳ですね。
 紫の上は正妻腹の娘ではなかったので、どうも子供のころ継母(この北の方の実母)にいじめられたらしいのは、ずうっと初めの「若紫」の帖などで推測されるのですが、今や立場は逆転して飛ぶ鳥を落す光源氏の正室である。このあたり、直接ではないにしても、本筋の登場人物との絡みを予感させますが、まあそれは後にするとして、当然興味がわいて来るのは、この北の方に憑りついた「執念き物の怪」の正体ですね。

 「現(うつし)心なきをりをり多く物し給ひ … 」とあることから、それがどうやら精神性の疾患であることが推測されるのですが、それが始まったのが「この年頃(この数年)」とあるところを見ると、今回のダンナの浮気がもともとの原因ではないのです。してみれば最初の発症の時、何か明らかな原因があったのかどうか?
この物語では、髭黒関連は傍系の話なので、何の説明もありません。まあごく一般的に考えて、それが女の大厄三十三歳ごろだったとすれば、世間によくある子育て疲れとか、夫の浮気とかが考えられますが、この人の場合、夫の髭黒はいたって堅物で、今回の玉鬘まで浮気の話は無かったのですから、それは原因ではなさそうです。たぶん紫式部にとって、この北の方の病気の原因はどうでもよくて、要はその病が今回の主人の浮気で、よりいっそうひどくなった、ということであれば充分だったのでしょう。
 しかし我々からすると、女の大厄だからといって、それがなぜ乳がんや子宮筋腫のようなフィジカルな女性疾患でなく、心の病として発症したのか、というのはおおいに気になるところですね。

― つづく ―





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Last updated  2010.04.26 14:27:57
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TNサリエリ @ Re[1]:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) ナガノさんへ  コメントいただき、ありが…
ナガノ@ Re:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) 2年遅れで、この文章を読んで泣けてしまっ…
TNサリエリ@ ふたたび、コメントありがとうございます。 cocolateさんへ 私自身、彼女の演奏に刺激…
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