サリエリの独り言日記

サリエリの独り言日記

2010.05.10
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テーマ: 古典の日(312)
カテゴリ: 文学
 以下、しばらく北の方の女房、そして子供たちとの愁嘆場が続きます。

― 「さこそはあべかめれ」と、かねて思ひつることなれど、さしあたりて、「今日を限り」と思へば、さぶらふ人々も、ほろほろと、泣きあへり。
 「年ごろ、ならひ給はぬ旅住みに」「せばく、はしたなくては、いかでか、あまたはさぶらはん」
かたへは、おのおの、
 「里にまかでて」「しづまらせ給ひなんに」
などさだめて、人々、おのがじし、はかなき物どもなど、里に運びやりつゝ、乱れ散るべし。 ― (山岸徳平校注、岩波文庫)

 「こういうことになるかも」とは、以前から予想していたことではあるが、まさしく、「今日が最後だわ」と思うと、仕える女房たちも、ホロホロと、泣き合っていた。
 「長年、ご経験のない(実家での)仮住まいでは」「手狭で、気が置ける(式部卿の)邸では、どうして、大勢(女房が)仕えることが(出来ましょう)」
と何人かは、それぞれ、
 「(とりあえず、自分の)里に帰ります」「(仮住いが)落ち着かれたら(、また考えましょう)」
などと決めて、女房たちは、各々、ちょっとした私物などを、実家に運んだりして、散り散りに去って行くのであろう。

 夫婦のあつれきが、こうして側付きの女房たちの生活にも、見える形で現れて来る。
 しかし一番あわれなのは、この夫婦の三人の子供たちで、以下語られる北の方の話は、オペラのアリアめいて、なかなかの聞かせどころになってますね。

― 君達は、何心もなくてありき給ふを、はゝ君、みな、呼びすゑ給ひて、
 「身づからは、かく心憂き宿世、今は見果てつれば、この世に跡とむべきにもあらず、ともかくも、さすらへなむ。おひさき遠うて、さすがに、散りぼひ給はむ有様どもの、悲しうもあべいかな。姫君は、となるとも、かうなるとも、おのれに添ひ給へ。なかなか、男君だちは、えさらず、まうで通ひ、見えたてまつらんに、人の、心とゞめ給ふべくもあらず、はしたなうてこそ、たゞよはめ。宮のおはせん程、かたのやうに、まじらひをすとも、かのおとゞたちの御心にかゝれる世にて、「かく、心おくべきわたりぞ」と、さすがに知られて、人にもなり立たむこと難し。さりとて、山林にひき続き惑はん事、後の世までいみじきこと」
と、泣き給ふに、みな、ふかき心は思ひわかねど、うちひそみて泣きおはさうず。 ― (山岸徳平校注、岩波文庫)

 お子たちが、無心に遊びまわっているのを、母君は、皆、呼んで(前に)座らせなさって、
 「我が身は、このようにも辛い運命を、今となって(すっかり)見届けてしまったので、この世には(何の)望みもなく、ひたすら、さまよう(出家する)ばかり(です)。(しかし)生い先長いのに(そなたたちが)、さすがに、(このまま)散り散りになってしまわれる様子(を見るの)は、悲しくて仕方がありません。姫君は、とにも、かくにも、私についていらっしゃい。しかし、男君たちは、(ここを)離れる事も出来ず、参上して、(髭黒に)お会い致す(ことになるの)でしょうが、あの人が、(そなたらを)心に止めなさるはずもなく、きっと中途半端で、戸惑うことに(なるでしょう)。父宮が(生きて)おいでの間は、(しかるべき)筋として、宮仕えするとしても、(今は)例の大臣方(源氏、内大臣)のお考えのままの世ですから、『例の、心許せぬ一族の(輩だ)』と、結局見られて、人として出世するのは難しい。かといって、山林に(私の後に)引き続いてさまよう(出家する)ことになっては、後々の世まで恨みを残すこと(で、耐えられません)」
と、お泣きになるので、皆、深い意味は分からないが、何となく落ち込んでベソをかいている。

― つづく ―





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Last updated  2010.05.10 10:24:55
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初めまして  
花*衣  さん
夜更けに失礼いたします
どうしてもお礼に伺いたかったものですから ・・・

ご訪問とコメントありがとうございました

びっくりしています !
すごいブログですね !

それに
女性だと想っておりましたので
二度びっくりです♪

またゆっくり寄らせていただきますね

ありがとうございました
(2010.05.11 00:57:39)

Re:花*衣さん  
 ご訪問いただき、ありがとうございます。
 ブログというのはヘンな空間で、自分の庭でありながら、半ばパブリックなところがありますね。自分の庭だと思って、際限なくしゃべりまくっていますが、時にこうしてコメントいただけると正気に戻って、自己満足にならずに済むので、とてもありがたいのです。
 またいつでもお越し下さい。

 それと「源氏読み」の人は、女性ばかりじゃないですよ! (2010.05.11 11:28:50)

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ナガノ@ Re:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) 2年遅れで、この文章を読んで泣けてしまっ…
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