サリエリの独り言日記

サリエリの独り言日記

2010.05.15
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テーマ: 古典の日(312)
カテゴリ: 文学
 ― 大将の君、かく、わたり給ひにけるを聞きて、「いとあやしう、若々しきなからひのやうに、ふすべ顔にて物し給ひけるかな。正身(さうじみ)は、しか、ひききりに、きはぎはしき心もなき物を。宮の、かく、かるがるしうおはする」と思ひて、君達もあり、人目もいとほしきに、思ひ乱れて、かんの君に、
 「かく怪しきことなん侍る。なかなか心安くは、思ひ給へなせど、さて、かたすみに隠ろへてもありぬべき、人の心やすさを、おだしう思ひ給へつるに。にはかに、かの宮の、し給ふならむ。人の聞き見ることも、なさけなきを。うちほのめきて参り来なむ」
とて、いで給ふ。 ― (山岸徳平校注、岩波文庫()筆者)

 (髭黒の)大将の君は、このように、(北の方が、子供を連れて実家に)引き取ってしまわれたことを聞いて、「まったく妙に、若やいだ(夫婦の)間柄のような、やきもちを妬きなさったものだな。本人は、こんなに、せっかちで、ハッキリした性格ではないのに。(きっと)父宮が、かように、軽率でいらっしゃっるから(なさったのだろう)」と思って、子供たちもおり、世間体も気になるので、思い余って、尚侍の君(玉鬘)には、
 「このように困ったことが起こりまして。(そうであれば、こちらは)かえって気楽にも、感じられますが、さて、(邸の)片隅に引っ込んでも(気にせず)おられるような、あの方は気安い性質と、安心しておりましたのですが。(おそらく)急に、あの(父)宮が、なさったことで(ありましょう)。人が聞いたり見たりすることも、情けないので(このまま放ってはおけません)。ちょっと顔を出して参ろうと(思います)」
と(言って)、お出かけになった。

 要は、髭黒が六条院の玉鬘のもとに入り浸っている間に、奥さんが子供を連れて実家に帰ってしまった、ということで、彼が気にするのは何しろ世間体が第一。しかし玉鬘のほうは例によって、プイとあっちを向いている。彼女から見れば、自分が原因で髭黒の家が崩壊した、と思われてはたまったものではないのです。

 で、とにもかくにも髭黒は文句の一つも言おうと、式部卿の邸に向かうのですが、その前に自邸に寄ってみれば、当然の話ですが北の方付きの女房たちは去ってしまい、もともとの髭黒の側つき女房だけが残っている。例の木工の君が、一人娘(真木柱)の愁嘆場などを報告するので、さすがに気持も崩折れるが、向かう矛先はというと、

― 「さても、世の人にも似ず、あやしき事どもを見過ぐす、こゝらの年頃の心ざしを、見知り給はずありけるかな。いと、思ひのまゝならむ人は、いままでも、立ちとまるべくやはある。よし、かの正身は、とてもかくても、いたづら人と見え給へば、同じことなり。幼き人々も、いかやうにもてなし給はむとすらむ」 ― (山岸徳平校注、岩波文庫)

 「まったく、普通の人とは違った、怪しいことなど(心病)もガマンして来た、ここ数年来の(私の)心配りを、(北の方は)分かって下さらなかったのかしらん。ごく、我がままな男であれば、ここまで、(一緒に)過ごせるわけがないのに。まあ、当のご本人は、いずれにしても、正気を失った人とお見上げするから、同じことではあるが。(しかし、父宮は)幼い子供たちも(皆、引き取ってしまって)、どのように取り扱いなさろうとするのか」

 このあたりの髭黒の言い分をどう取るかは、なかなか微妙なところで、少なくとも女性方たちからは、おおいにブーイングが出て来そうです。確かにこの男の関心が、すでに奥さんではなく子供と、彼らをせっかちに引き取った式部卿に向いているのは噴飯物ではありますが。

― つづく ―





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Last updated  2010.05.15 10:35:07
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TNサリエリ @ Re[1]:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) ナガノさんへ  コメントいただき、ありが…
ナガノ@ Re:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) 2年遅れで、この文章を読んで泣けてしまっ…
TNサリエリ@ ふたたび、コメントありがとうございます。 cocolateさんへ 私自身、彼女の演奏に刺激…
cocolate@ Re:エレクトーンというガラパゴス 1.(06/17) 再びおじゃまします。 826askaさんのYouT…
cocolateさんへ@ コメントありがとうございます。 三年ほど前に826asukaさんのことを知り、…

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