サリエリの独り言日記

サリエリの独り言日記

2010.05.24
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テーマ: 古典の日(312)
カテゴリ: 文学
 以下、光源氏の繰り言が、ながながと続きます。

― 大殿は、「さても、つれなきわざなりや。『いと、かう、きはぎはしう』としも思はで、たゆめられたる妬さ」を、人わろく、すべて、御心にかゝらぬ折なく、恋しう思ひ出でられ給ふ。「宿世などいふ物、おろかならぬことなれど、わがあまりなる心にて、かく、人やりならぬものは思ふぞかし」と、おきふし、面影にぞ、見え給ふ。大将の、をかしやかに、わらゝかなる気色もなき人に、添ひ居たらむに、はかなき戯れ言もつゝましう、あいなく思されて、念じ給ふを、雨いたう降りて、いとのどやかなる頃、かやうのつれづれも紛らはし所に、わたり給ひて、語らひ給ひしさまなどの、いみじう恋しければ、御文たてまつり給ふ。 ― (山岸徳平校注、岩波文庫)

 (源氏の)大殿は、「それにしても、素っ気ないやりようではないか。『まったく、これほどまで、あからさまに(やってのける)』とは思い到らず、(すっかり)ダマされた悔しさ(は、ガマンがならん)」と、人聞きも悪いが、(それにしても)何かにつけて、(玉鬘のことが)お心にのぼらない折とてなく、懐かしく思い出していなさった。「宿縁などというものは、(もちろん)おろそかには出来ないことではあるが、(結局)自分の余計なまでの好き心から、このように、誰のせいにも出来ない物思いに耽ってしまうのかしらん」と、寝ても覚めても、(玉鬘の)面影が、(眼に)散らついていらっしゃるのである。(髭黒の)大将のような、無風流で、愛想(好さ)の気配もない人に、連れ添っていては、ちょっとした冗談口(を、かけるの)も憚られ、どうしようもなくて、遠慮なさるが、雨がひどく降って、まったくすることがないような頃合いには、こんなときの退屈しのぎに、(玉鬘の部屋に)お出でになっては、語らいなさった記憶などが、ひどく恋しく(思い出され)、(とうとうガマン出来なくなって)御文を差し上げなさった。

 御所への伺候から戻って来るべき六条院から、髭黒にまんまと謀られて、玉鬘は突然居なくなってしまう。その唐突な喪失感というのは、分からないではないのですが、しかしその悔しがる感じは、何となく子供が自分の玩具を、誰かに盗られた時のような、たわいなさにも見えます。

 さてここで、私にとっては、ちょっと意外なことが起こるのです。本文によると、源氏はやはり玉鬘本人に出すのは憚って、側付きの右近宛てに手紙を送った、とあるのです。
 右近については、この帖のはじめのほうで髭黒とのすったもんだの際、彼女がいないのはおかしいということで、さんざん議論して「もうすでに引退していたのだろう」だの、「だとすれば、その時期はたぶん玉鬘の御裳着のあとだろう」などと、勝手な想像をしていたのですが、ここで顔を出しているとなると、これは一体何なんだ、ということになってしまいますね。この人、夕顔の乳母姉妹から始まって、この物語のごく初期から、三人の姫君を見てきたわけで、光源氏とも対等ではないにしても、いろいろわたり合ってきた間柄なのです。とくに「玉鬘十帖」冒頭の長谷寺での玉鬘一行との奇跡的な出会い後の活躍は印象に残っているので、こんな所で出てくるのなら、なぜ髭黒を手引きした「おもと」を邪魔しなかったのか、と思ってしまうのは私だけでしょうか。

 ここでこのように書かれるくらいなら、むしろ出て来ずに終わっていた方が良かった、それでも載せたのには、あるいは同じような疑問が、当時の読者からも出ていたのかもしれませんね。紫式部としては「玉鬘十帖」のはなはだ冗長な展開を、軽く終わらせるためにあえて登場させなかったけれども、読者から疑問が出た、あるいは彼女本人がやはり気になっていて、ここでそっと登場させたということでしょうか。彼女の気質からみて登場人物のケジメをつけるということには、わりとこだわる人だった気もします。しかしこれでは右近の幕切れとしては、何としても物足りない気がする。
 しかしこんな話は、これ以上いくらしても、(本文からは)何にも出てこないので終りにします。ひょっとして右近は例によって、暇をもらって長谷寺詣でに(願解きで)行ってたのかも、なんちゃって!?

― つづく ―





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Last updated  2010.05.24 10:29:49
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TNサリエリ @ Re[1]:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) ナガノさんへ  コメントいただき、ありが…
ナガノ@ Re:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) 2年遅れで、この文章を読んで泣けてしまっ…
TNサリエリ@ ふたたび、コメントありがとうございます。 cocolateさんへ 私自身、彼女の演奏に刺激…
cocolate@ Re:エレクトーンというガラパゴス 1.(06/17) 再びおじゃまします。 826askaさんのYouT…
cocolateさんへ@ コメントありがとうございます。 三年ほど前に826asukaさんのことを知り、…

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