サリエリの独り言日記

サリエリの独り言日記

2010.05.26
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テーマ: 古典の日(312)
カテゴリ: 文学
 元来が宮家というのは、表向きの格式高さとは違って経済的には不安定で、式部卿の宮が長女を髭黒に嫁がせたのには、それなりの計算があったでしょう。髭黒としても宮家の外戚という、朝廷内での政争に必須な格式が得られるということで、お互いの利得は一致していたのです。
 しかし男どもの思惑が一致するからといって、万事、男の勝手な都合で事柄が進んでいくのはいかがなものか。この北の方の心病というのは、そういう女の側から見れば、どうしようもない理不尽さを表わす挿話として、そのもっとも極端な例を示しているようにも思えます。「玉鬘十帖」をふくむb系物語全体が、男=オス全体に対する意趣返し的な要素があることは前にも触れましたが、最後になって笑い飛ばすわけにはいかないシリアスな話を登場させたのでした。

 さてバラバラにされた子供たちは、その後どうであったかというと、

― ひめ君をぞ、たへがたく恋ひきこえ給へど、たえて見せたてまつり給はず。わかい御心のうちに、このちゝ君を、たれもたれも、許しなう恨みきこえて、いよいよ隔て給ふことのみまされば、心細く、悲しきに、男君たちは、つねにまゐり馴れつゝ、かんの君の御有様などをも、おのづから、ことに触れてうち語りて、「まろらをも、らうたく、なつかしうなむし給ふ」「明け暮れは、をかしきことを好み物し給ふ」などいふに、うらやましう、かやうにても、安らかに振舞ふ身ならざりけんを、嘆き給ふ。あやしう、男・女につけつゝ、人に物を思はする、かむの君にぞおはしける。 ― (山岸徳平校注、岩波文庫)

 (髭黒は)姫君(真木柱)を、耐え難いほどに恋い慕いなされるが、(式部卿は)決してお合わせにならない。(真木柱は)子供心にも、あの父君を、(この式部邸では)誰も彼も、許さずお恨みなさって、ますます疎遠になさるのが明らかになるにつれ、心細くも、悲しんでいるが、男君たちは、いつも(式部邸に)お訪ねすると、尚侍の君(玉鬘)のご様子などを、(真木柱に)自然と、ことに触れて話し、「(玉鬘は)私どもも、可愛がって、お優しくして下さいます」「日頃は、面白いことがお好きで楽しんでいらっしゃいます」などと言うので、羨ましくて、このように、(男君のように)気楽に振るまえる身でない、(女の身であることを)嘆いていらっしゃる。不思議と、男も女も(大人も子供も)、人の気を揉ませる、尚侍の君なのであった。

 玉鬘の姫をめぐる長い物語の〆は、どうやらこの「あやしう、男・女につけつゝ、人に物を思はする、かむの君にぞおはしける」であるようです。これが春三月の話で、以下後日譚が語られます。

― その年の十一月に、いと、をかしき児(ちご)をさへ、抱き出で給へれば、大将も、「思ふやうにめでたし」と、もてかしづき給ふこと、限りなし。その程の有様、いはずとも、思ひやりつべきことぞかし。父おとゞも、おのづから、「思ふやうなる御宿世」と、おぼしたり。
 … おほやけごとは、あるべきさまに知りなどしつゝ、まゐり給ふことぞ、やがて、かくて、やみぬべかめる。さてもありぬべきことなりかし。 ― (山岸徳平校注、岩波文庫()筆者)

 その年の十一月には、たいそう、可愛い赤ちゃんまで、(玉鬘は)お産みになって、(髭黒の)大将も、「願ったりでめでたい(ことだな)」と、いつくしみなさること、この上ない。その時の(喜び)様は、(わざわざ)言わずとも、想像つくでしょう。父内大臣も、もともと、「願っていたとおりの御運(が開けたの)だわい」と、お思いになっている。
 … (尚侍としての)公務は、しかるべく執り行なっているが、参内されることは、結局、こうして(子供が出来たので)、沙汰止みになりそうである。それもあり得ることなのかしらん。

― つづく ―





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Last updated  2010.05.26 08:24:55
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TNサリエリ @ Re[1]:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) ナガノさんへ  コメントいただき、ありが…
ナガノ@ Re:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) 2年遅れで、この文章を読んで泣けてしまっ…
TNサリエリ@ ふたたび、コメントありがとうございます。 cocolateさんへ 私自身、彼女の演奏に刺激…
cocolate@ Re:エレクトーンというガラパゴス 1.(06/17) 再びおじゃまします。 826askaさんのYouT…
cocolateさんへ@ コメントありがとうございます。 三年ほど前に826asukaさんのことを知り、…

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