サリエリの独り言日記

サリエリの独り言日記

2010.05.30
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テーマ: 古典の日(312)
カテゴリ: 文学
 年の暮れに子供が出来て、玉鬘の話は収まったのですが、年が明けると源氏のほうは、唯一の娘である明石の姫君の御裳着の式が急がれる。というのも、東宮の元服が迫っているので、いずれ新帝の外戚をもくろんでいる彼としては、この娘を早々に入内させようと思っているのです。
 明石の方との間に授かって、紫の上が手塩にかけて育ててきた明石の姫君には、当時の摂関政治のシステムにあっては、自ずとそういう重大な役割があったのでした。

 さて、しかしここでは本文を追いかける前に、前の帖から引き続いてa系b系の話をしなければなりません。何度も繰り返しますが、このa系b系の区分けについては(源氏1000年 その二 32.)の表を見てください。要は「源氏物語」の前半「桐壺」から「藤裏葉」までの帖は、光源氏の「貴種流離譚」を中心としたa系物語と、玉鬘を中心とした「求婚譚」のb系物語があって、当初a系で書き始められたのが、途中でb系をあらためて書き出し、しかるべき時系列に挟まれたのだろう、という議論です。
 この「b系物語あとから挿入説」は、その文体や構造の変化からいっても、ほぼ間違いないと思うのですが、私が問題にするのは、それがいつごろ書かれ始めてa系物語に挟み込まれたのか、ということです。この議論はうっかりするとa系がすべて完成したあと、b系が書かれ始めた、と勘違いされる恐れがおおいにありますね。
 これもさんざん話したように、a系は「槿」でいったんストップして、「帚木」から書かれ始めたのだろう、というのが私の議論なのでした。しかしこれにはまだ未解決の問題が残っていて、それこそ、ここの「梅枝」と続く「藤裏葉」の二つの帖が、もしa系物語の完結編であるならば、これらはいつ書かれたのだろう、という話になってくるわけです。

 筋書きからいうと、明らかにこの二つの帖はa系物語の締めくくりをなしていて、「桐壺」の帖で高麗の相人が予言した、

― 「国の親となりて、帝王(ていわう)の上(かみ)なき位に昇るべき相(さう)おはします人の、そなたにて見れば、乱れ憂ふることやあらむ。朝廷(おほやけ)の重鎮(かため)となりて、天の下を輔(たす)くる方にて見れば、またその相違(たが)ふべし」 ― (渋谷栄一氏、校訂)

 「国の親となって、帝王の最高の地位につくはずの相をお持ちでいらっしゃる方で、そういう人として占うと、国が乱れ民の憂えることが起こるかも知れません。朝廷の重鎮となって、政治を補佐する人として占うと、またその相ではないようです」(渋谷栄一氏、同訳)

という見立てが、いよいよ光源氏が准太上天皇(帝に准じる位)に昇り詰めるという形で、「藤裏葉」の帖で実現する、という結構になっているのです。
 さらに大野さんは、この二つの帖がb系「真木柱」の帖に続けて書かれたとした場合に、次のような問題点を指摘されます。それはこの二つの帖には、b系物語に登場した主要な人物、玉鬘や髭黒などが、いっさい登場していないということで、そう見ていくとb系の主要人物は、夕顔も空蝉も末摘花もa系物語の中に登場して来ない、という構図が見えてくる。
 ひるがえってa系物語の主要人物、光源氏や紫の上は当然として、内大臣や夕霧その他まで、b系物語のほうにも盛んに出て来るところをみれば、当然「b系あとから挿入説」というのが出て来るわけです。

 となると、これはa系物語がすべて書かれた後、b系物語が書かれ始めた、という強力な論拠になって来るわけですが、はたしてどうなのか?そのあたりを多少意識して、本文に入って行きたいと思っているのですが。

― つづく ―





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Last updated  2010.05.30 12:39:35
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TNサリエリ @ Re[1]:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) ナガノさんへ  コメントいただき、ありが…
ナガノ@ Re:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) 2年遅れで、この文章を読んで泣けてしまっ…
TNサリエリ@ ふたたび、コメントありがとうございます。 cocolateさんへ 私自身、彼女の演奏に刺激…
cocolate@ Re:エレクトーンというガラパゴス 1.(06/17) 再びおじゃまします。 826askaさんのYouT…
cocolateさんへ@ コメントありがとうございます。 三年ほど前に826asukaさんのことを知り、…

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