サリエリの独り言日記

サリエリの独り言日記

2010.07.21
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テーマ: 古典の日(312)
カテゴリ: 文学
 常に光源氏をキャッチアップして張り合ってきた、かつての頭の中将は今や太政大臣という、世俗代表として功成り名を遂げた立場になったにもかかわらず、かつての威勢の良さがない。もちろんこの夕霧の件について、ついに源氏に対して、こちらから頭を屈したという思いがあるのでしょうが、世間的には何ら萎れる理由などないのです。
 この人のこれまでの振るまいで、「いと、ものあはれにおぼさる」だの、「うちしをれ給ふ」などといった素振りというのは、もっとも縁遠い所作であったように思え、ここに来て急にそれが煩出してくるのはなぜなのか?

 一つには太政大臣というのが、世俗の最高位であるにしても、どうも名誉職というか、実務的な采配からは離れたような官職の印象があるのです。光源氏も太政大臣を拝命してからは、かえって六条院にこもることが多かったような気がしますね。してみると、実際的な権力行使に秀でていたかつての内大臣が、太政大臣に昇進したということは、実務からのお役御免の合図とも取れ、要は隠居を待つばかりの立場になった、ということでしょうか。
 しかしそうとも言い切れないのは、彼の父左大臣は退隠の身から、源氏に請われて政界に復帰したという経緯があり、一概にすべてそうというわけでもなさそうです。とすれば、こうした官位というのは今でもよくある人事で、名のみ残した定年までの閑職という意味合いと、さらに上の取締役員を目指すステップという二つの筋があった、ということかもしれません。
 ここでの太政大臣という人事は、明らかに閑職としての意味合いであったでしょう。彼にずいぶん元気がなくなったというのは、そのもっとも得意とする実務的な権力を奪われた、というところにあるのではないか?体育系のきわめて有能で仕事熱心であった人が、閑職にまわされた途端に、我が身の退隠の時期が間近に迫っていることに忽然と気付く。自他ともに認める実力者であっただけに、この時の虚脱感というのは大きくて、その間隙をつくように色濃く現れてくるのは、「老い」という生き物には避けがたい表象であったでしょう。

 父大臣の何だか突然ボキッと折れたように老け込んだところ、確かにビックリしますが、それでもここまでさまざまな場面で示されて来た、彼のいわばとても分かりやすい性格からすると、こういうこともあろうか、という気がしますね。
 私はここの夕霧若夫婦と父大臣の様子の対照が、世代交代というかたちで時の推移というものを、とても鮮やかに表わしていて好きなのです。

 さて、この帖のおしまいというか、「源氏物語」前半のフィナーレは、冷泉現帝と朱雀院の六条院への行幸というかたちで賑々しく描かれます。世間的には腹違いの三人兄弟(実際には冷泉帝は源氏の子)であり、さらに夕霧まで加えると、まさしく故桐壺系の貴種の一族が一同に会し、その栄華の中心に光源氏が鎮座するという、そもそもの「貴種流離譚」という古物語の結構の締めくくりとして、まことに相応しいのですが、そのあたりは本文を読んでみて下さい。

― つづく ―





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Last updated  2010.07.21 11:23:27
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TNサリエリ @ Re[1]:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) ナガノさんへ  コメントいただき、ありが…
ナガノ@ Re:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) 2年遅れで、この文章を読んで泣けてしまっ…
TNサリエリ@ ふたたび、コメントありがとうございます。 cocolateさんへ 私自身、彼女の演奏に刺激…
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