サリエリの独り言日記

サリエリの独り言日記

2010.10.07
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 ともあれ、「軍国少年」になるのは他愛ない子供の話であって、チャンバラごっこや戦争ごっこに打ち興じるのと同じレベルの話でしょう。
 問題は実際に兵役に取られる年代というのが、少年から青年、大人への移行期であるということで、山本青年に見られるように、彼らは戦争と戦場の中で否応なく大人にさせられた。気付いてみれば、大人のエゴイズムと苛烈な組織のど真ん中に放り出されて、手探り状態のまま外界とこすれ合っていかなければならなかったと言うことです。これは何も兵役に限らず、大人になる時には多かれ少なかれ生じる事態ですが、彼らはそれを死と隣り合わせの組織に絡み取られている、ということを前提にして、自身を納得させなければならないということなのでした。若者に通有の外部世界への戸惑いと、かなり蓋然性の高い来るべき「死」という観念とを、どう折り合いをつけて行くのか。

 このあたりは、同じ応召兵であっても、すでに社会人として大人になってから、戦争に絡め取られた大岡昇平さんともだいぶスタンスが違う。山本さんは学徒動員の司馬さんとむしろ同世代なのです。さて大岡さんは若い兵士たちを「大人のエゴイズムを知らない点みんな人が好く、そのぶん彼らは自身の命を粗末にした」という意味のことを書いておられますが、体力を調整することを知らない若い兵士たちは、まっさきにマラリアに罹って倒れたと記しています。同じように過酷な死に直面せざるを得なかったフィリピンの戦場にありながら、この二人に招来した気分と周囲を見つめる眼には、明らかな世代の違いが感じられる。
 戦争未体験者の私たちは、得てしてかつての日本兵というものを、のっぺりした一般的なイメージで概括してしまいますが、やっぱりそうではなく、戦争というのは社会全体つまり、それぞれの「顔」を持って生きてきた人間たちを、洗いざらい根こぎにするようにして絡め取っていくもの、という捉えかたをしないといけないのでしょう。で、その根こぎに絡め取っていく機関とは、紛れもなく戦争行為を唯一認められている国家という組織でありました。

 さて、そこで国家が軍隊組織の求めていた兵士というのは、もちろん自意識に目覚めた青年ではなくて、唯々諾々とは言わないにしても、余計なことは考えずに黙って命令に従う人間たちであって、その点で高学歴の青年というのは使い物にならない、という牢固とした抜きがたい観念があったようです。彼らは使い捨てに出来る部品としての兵士が必要なのであって、いちいち理屈をつけてくるインテリというのをいちばん嫌う。そこで彼らが用いたのが「娑婆の気を、とことん抜く」ための「私的制裁」というものでした。個人としての人格を完全に破壊する場合、ヘンに頭が良く出来る若者は厄介で、無理無体でも上司の言うことには何でも従う、あるいは媚びへつらう人間のほうが都合が好い。であるなら、むしろ高等教育を受けていない若者の方が、はるかに扱いやすかったでしょう。
 これはあるいは内田樹さんのいう、人間としての「顔」が現れるのを徹底して削いでいく、内務班の仕事とは兵士一人一人から「顔」を奪って、代替可能な部品に仕立て上げるのを第一義としたのです。

 完全な閉鎖組織内では、直近の上司(班長と言うんですか)が全能で、表向きの軍律とか常識というのは、すべて排除されて、その内部で実際に起こっていることについては、上官といえどもいっさい手出し出来ず、表向きは何もなかったことにする。建て前では皇軍の兵士に対して、私的制裁を加えることは(私的であることで)厳禁されており、実際何度も「私的制裁を受けた者は、すぐ申し出よ」という訓示もなされたようですが、閉鎖組織に完全に取り込まれた兵士たちは、もちろんそんなことをチクるわけがない。あとで兵舎内でどんな目に合わされるか、みんなよく知っていたからです。
 このあたり当時の軍隊組織における「班長」という位置づけ、地方出のおそらく小学校を出た程度の教育しか受けていない上官の、インテリに対する屈折した感情も感じられ、それは旧日本軍全体を覆う観念でもあったようです。

― つづく ―





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Last updated  2010.10.07 11:52:05
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TNサリエリ @ Re[1]:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) ナガノさんへ  コメントいただき、ありが…
ナガノ@ Re:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) 2年遅れで、この文章を読んで泣けてしまっ…
TNサリエリ@ ふたたび、コメントありがとうございます。 cocolateさんへ 私自身、彼女の演奏に刺激…
cocolate@ Re:エレクトーンというガラパゴス 1.(06/17) 再びおじゃまします。 826askaさんのYouT…
cocolateさんへ@ コメントありがとうございます。 三年ほど前に826asukaさんのことを知り、…

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