サリエリの独り言日記

サリエリの独り言日記

2010.12.20
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 話はまた逸れますが、考えてみると「倫理学(ethics)」という学科、小中学校では私の時代、ずいぶん古臭く「道徳」というような呼ばれかたをし、確か高校になってから初めて「倫理・社会」といった教科で括られていた記憶があります。「政・経・倫・社」というように、すこぶるマイナー(定期試験対策としては一夜漬け、大学受験科目としては選択科目の最後)な感じでしたね。

 おもしろいのは、当時この「倫理・社会」という教科の中で、「哲学」や「宗教」がまとめて扱われていたことで、本来なら倫理学は哲学の一部(実践哲学)であるし、その「哲学」もまた西欧的な概念から言えば、もともと「宗教学」から派生したものでしょう。日本では知識(主として受験対策の)として、「倫理」や「哲学」の一部を取り扱うことはあっても、それをこの先、実際に苛烈な娑婆を生きていくうえでの、自身の行動規範とか振るまいかたを考えさせる、つまり生徒に「自ら問いを立て」させるような教科ではなかったということです。
 というか、そういう教えかたをする教科というのは、間違いなく当時一つもなかったですね。学校ではそうした「自ら問いを立て」なければならないような考えかたは、すべて注意深く排除していたような印象がある。今から考えれば、「現代文・古文」にしても「英語」にしても、あるはひょっとして「数学」も「物理」「化学」も、扱いようによってはすべて「自ら問いを立て」られる教科であり得た、にもかかわらずです。

 それをしなかったのには、何より「受験対策」最優先という、ごく現実的な要請があったから(「受験地獄」だの、「四当五落」といったコトバが、まだ生きていましたな)なのでしょうが、どうもそれだけではなかったような気もする。
 実際に「倫理」を教えていた先生、一応地方の秀才ばかり集めた高校生相手に、なかなかキップの良い印象があったのですが、教える中味にかんしてはまったく意味不明、この人がカントだヘーゲルだといろいろ講釈しても、まずここから先も腑に落ちない。「ああ、この先生自身が、たぶん何も分かっちゃいないな」というのが、気の利いた生意気な生徒たちには何となく分かってしまう。
 これって、なかなか「悲喜劇的状況」を教室に生み出すのですが、この先生に限らず、先生よりも生徒のほうが、明らかにその教科の内容をよく理解しているという雰囲気は、いわゆる進学校と言われる高校ではけっこうあるものです(「私がそうだった」という意味じゃないですよ)。嘆かわしいのは、それによって先生が「一部の生徒に媚びる」という、本来あり得ない風景が現出することなのでした。

 今、思い出しても不思議なのですが、そうした「一部の生徒たち」というのは、例外なくトップクラスの一群を成していて、彼ら同士で一種独特のサロンを作っていたような記憶がある。間違いないのは、彼らは先ほど私が上げたような命題、つまり「自ら問いを立てる」というような仕方では、絶対に勉強していなかったということです。
 そのように平然としたマインドを見せられるにつけ、「こりゃ、とても付き合えんわい」という感じがあって、私など敬して遠ざけていたものでした。「生きかた」の学問を、自らの生きかたとはまるっきり切り離して、すべてたんなる知識情報として、きれいに整序して処理出来てしまう。こうしたある意味タフなマインドの持ちかたというのが、実際に自分と同年齢の若者にいるのだという驚きと、おそらくこういう連中こそが、たぶん世の中のいわゆるエリートというものになって行くんだな、ということが若いながら良く分かるのです(事実、彼らの多くが、一流大学、一流企業、あるいは医者というコースに進んで行ったようです)。
 世の中には、確かにその種の感覚を、ごく自然と備えた人たちがいるらしいので、私のように「倫理」は当然として、「現代文」に用いられたテキストの中味にも、いちいち足を取られるという人間は、やはり多少特殊だったのかもしれませんね(「古文」は中味以前に、読みかたで足を取られていました)。しかしそれでも比較的、疎外感を抱かずに過ごせたというのは、同じようなしかたで「落ちこぼれ」た連中が、これまた不思議と私の周辺にも何人かいたということで、彼らとは今でも私は親友なのです。
 何だか妙にセピア色の話になってしまいましたね。

― つづく ―





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Last updated  2010.12.20 15:02:38
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ナガノ@ Re:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) 2年遅れで、この文章を読んで泣けてしまっ…
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