サリエリの独り言日記

サリエリの独り言日記

2012.04.07
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カテゴリ: カーネーション
不治性の表象
 「死」とか「病」「老い」が、生き物にとって不可避的な様態であるにも関わらず、現代の極度な「唯脳社会」は、それらが世に存在しないことを前提に構築されている、ということを指摘されたのが養老さんでした。近代経済学はヒトを優れて「経済合理的に振るまう」存在と措定して、世の動きを把握し予測しようとします。しかし言うまでもなく、ヒトは未熟な子供の時もあれば、病気で立てない時もあれば、老いさらぼいてまともに口も聞けなくなる時もある。
 全人的に「大人(経済人)」ばかりの、ノッペリした一様な人間ばかりが、この世を構成しているわけではないし、早い話、一個人としても終日「経済人」として過ごしている人などいない。まあ、トレーダーと言われるような人たちは、そういった特異な部類に入るのかもしれませんが、さてそれが、全人的な「大人」と措定出来るのかどうか?仮に世界中がトレーダーばかりの人間になったとして、今どきの計量経済モデルが成立するのかどうか、考えてみれば良い。
 そこには何やら、彼ら以外の「愚かな多数者」が、実際には世にいることを前提にしている感じがあって、それに寄り掛かってゲームをしているのじゃないかしらん。彼らにも「老病死」は不可避的に訪れるのです。どれだけ大枚を叩いても、これを回避することは誰にも出来ない。

 「老い」と「死」は、さしあたって先の話として捨像出来るにしても、「病」ばかりは抽象化された「経済人」といえども、常に我が身に降り罹り得るものとして、その「背後」にあるわけです。「がん」というのは、成人が出会うべきもっとも真近な「病」であると同時に、きわめて不条理な「死」の表象でもある。自身の周囲を見渡して三十代~五十代のうちに、何人の「がん患者」に遭遇したか、そして壮年期の「がん」がいかなる態様を示すものであるか、知らない人はまずいないでしょう。
 「末期がん患者」が体中にチューブを埋め込まれて、「死」と抗う姿を見届けるのは、生きている側の人間にとって、はなはだ苦痛を強いられるものです。たんに患者が苦しむ姿を見るのが辛いというレベルじゃない、何かしら「生きる」あるいは「生き物」ということは、これほど苦しみ続けなければならない存在ということなのか?そうしたことを否応なく突き付けられる光景というのは、現代では「がん」という病の様態以外無くなってしまいました。
 戦前までは、「結核」が「不治の病」の代表的な表象であり、その他にも今よりかなり身近に「死の表象」は、そこここに見え隠れしていたようですが、今や「がん」だけが「不治性の表象=死」として、現代医療器具に囲まれてなお我々の前にあるのです。
 総婦長の諦めに似た嘆息は、仕事上長年にわたって、数多く見て来た「死」に関して、医療のプロとして誠実に接すれば接するほど、露呈して来るであろう「徒労感」と「不条理」を現していて、その疲れ切った表情は生きている側の本音を現して秀逸でしたね。

 しかし、だからと言って、それを医療を越えた何か、「奇跡」という「明示性」で回収するのは、やはりちょっと安易かな?という危惧は抱かざるを得ない。「奇跡」はあくまでその希少性に依拠しているのであって、実際は起こらないほうがはるかに多いのです(だからこそ「奇跡」と呼ばれる、という背理がそこには潜んでいる)。まあそのベタな演出のせいもあるのですが、それでもまだファッションショーで終わっていれば、一時的でも「救い」と「希望」であったはずなのが、最終回ですっかり回復している患者を見て、シラけた人は多いでしょう。
 中村優子さんと夏木マリさんの鬼気迫る長回しの熱演が、演出放置状態で台無しになっている。まあ、このあたりが「朝ドラ」で取り上げるには、あまりにも重いテーマであったということなのかもしれません(しかし、「戦争」だって、あれほど真正面から喰らいついて行ったじゃないの、という思いもまた残りますね)。

 ところで、「生老病死」という人間の根本問題に対する、脚本家の強いこだわりには、かなり強い個人的な体験が関わっているのかもしれません。で、察するところ、すぐ思い当たるのが、「阪神淡路大震災」のことなのです。
 この震災は、少なくとも関西にいる「戦争を知らない世代」にとっては、生まれて初めての、自身の存在を「根底から脅かされる」という体験であると同時に、九十年代に始まったバブル崩壊の決定的表象としてあったでしょう。自身の近くで世界が崩れて行く、友人知人が傷つきあるいは死亡するのに直面するというのは、私の場合、京都にいたので直接では無いにせよ、かつてない揺れを体験し、鉄道が止まり、死者を運ぶ自衛隊ヘリが、上空を飛び交うのを目撃するという状況で、生まれて始めて「死」とか「喪失」のような人生の根本問題と、自分が真正面から「対面」することを、余儀なくさせられた事況としてあったのです。

― つづく ―





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Last updated  2012.04.07 16:09:26
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TNサリエリ @ Re[1]:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) ナガノさんへ  コメントいただき、ありが…
ナガノ@ Re:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) 2年遅れで、この文章を読んで泣けてしまっ…
TNサリエリ@ ふたたび、コメントありがとうございます。 cocolateさんへ 私自身、彼女の演奏に刺激…
cocolate@ Re:エレクトーンというガラパゴス 1.(06/17) 再びおじゃまします。 826askaさんのYouT…
cocolateさんへ@ コメントありがとうございます。 三年ほど前に826asukaさんのことを知り、…

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