サリエリの独り言日記

サリエリの独り言日記

2012.04.08
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カテゴリ: カーネーション
震災の記憶
 じつは、新シリーズで奈津の登場が「あらすじ」で予告されたとき、てっきり私は、彼女は旦那を阪神の震災で亡くしたのではないか、と勝手に決めてかかっていたのを思い出します。
 直接的ではなくても、「東日本大震災」の被災者に対するメッセージ性というのは、これまでにもドラマの中に随所に見られたのですが、もしそれをもっと前景化させて語るとするなら、時系列的にもここしかないだろうという気がしたからです。とすれば、奈津というのは、またしてもその人生そのものが、糸子とは真反対の形で昭和と平成の日本を体現するものとして、ドラマティックに現れるのかなと期待していたら、見事に引っ繰り返されてしまいました。
 例のインタビューで、渡辺さんは「あえて、今回の震災には触れない」というスタンスで、脚本に臨まれたようです。それはそれでとても一貫した姿勢で、私など自分の不明を改めて思い知らされるわけです。ことさらなメッセージ性は、得てして「善意の押し売り」とは言わないまでも、ドラマ的には「厭味」になることは有り得るのです。で、それこそ例えば十年ほど経ってみれば、真っ先に陳腐化してしまう種類のものでもあるのでしょう。

 とはいえ、「阪神淡路大震災」については、何らかの形で出して来るかもしれないという期待は、糸子の一生を最後まで描くというスタンスであれば、かなり必然性があるのも事実なのです。
 考えてみるとこのドラマ、戦後史お決まりの復興映像(例えば、新幹線、東京オリンピック、大阪万博)を、ものの見事にすべてカットしていたことを思い出します。定番化して誰一人疑うことをしない、戦後史のすっかりセピア色化した映像を、いったん全部捨像してみれば、どんな日本が見えて来るのか?というような構えであるとするなら、これまた何というチャレンジ精神と、内心舌を巻いていたのですが、阪神の「震災」だけは何らかの形で取り上げるかもしれないな、と思っていたのでした。
 それをされなかったのには、先ほどの理由以上に、エピソードとして取り入れるには、この「震災」があまりにも重い課題として(「末期がん問題」と同じく)、この脚本家にはあったのかもしれないという気がする(勝手な推測ですよ)。

 震災体験をどう捉えるかについては、ずうっと以前にこのブログでも何回か触れたことがありますが、私の場合それは、いわば「戦争体験の替わり」としての「世界の崩れ」体験でありました。今年が震災後十七年という事は、敗戦後十七年つまり昭和三十七年にあたり、戦争体験者はそのような経過年数で、「世界の崩れ」から十七年を過ごしたのだろう、と類推したわけです。で、その時代なら私もセピア色の記憶として、思い出すことが出来る。時間というものがどのように経過し、廃墟が周囲の風景から消えて、私たちの記憶の中だけに折り畳まれて行くのか?
 それともう一つ、たぶんこちらのほうが大事だと思うのですが、たんに未体験の揺れを経験したという事ではなく、私にも友人知人で現実にアパートや住宅に閉じ込められ、傷ついたり亡くなった人もいるわけです。そうした友人たちから「あの体験だけは、実際に遭ってみないと、絶対分からへん」と言われれば、「それは、そうだろう」とこちらは「沈黙」を強いられる。つまりそういわれた時に、自分が「絶対的非対称」の位置に置かれていることを思い知らされるのです。「壁が崩れ落ち、テレビがこちらへ飛んでくる。為す術なく弄ばれる身体を感じながら、『死ぬということは、たぶん、こういうことなんやな』と思った」と言われたら、それは同じ「崩れ」を体験した人にしか、どないしても「共有」出来ない事況だろう、と思うしかないでしょう。

 これは何も「他者との共有」などというのは、厳密に「有り得ない、不可能だ」ということを強調しようとしているのではなく、安易に「共有」とか「絆」を語ることなど、とても危なくて出来ないな、ということを言いたかったのでした。
 で、それはおそらく、戦時経験者の体験についても同じことだろう。「戦争なんていうのは、実際に遭ってみないと、本当のことは絶対分からへん」という親の言葉は、そのまま震災体験者の言葉と、私の中では同じ響きとなって聞えて来るのです。
 私が「カーネーション」で、アホみたいに異様に高揚したのは、戦争未体験者が戦争を語る「語り方」の道筋の一つを、ひょっとして示しているのかもしれないな、と感じたからでした。何も下調べが行き届いているから、といった話じゃない。未体験者の側から戦争に近付いて行くのに、これほど「まっとうな」アプローチを試みているドラマを、今まで観たことがなかったからです。

― つづく ―





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Last updated  2012.04.08 10:06:00
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TNサリエリ @ Re[1]:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) ナガノさんへ  コメントいただき、ありが…
ナガノ@ Re:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) 2年遅れで、この文章を読んで泣けてしまっ…
TNサリエリ@ ふたたび、コメントありがとうございます。 cocolateさんへ 私自身、彼女の演奏に刺激…
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