サリエリの独り言日記

サリエリの独り言日記

2012.04.17
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カテゴリ: カーネーション
カラリとした「死生感」
 「お早うございます。死にました。 … 」で始まる糸子のナレーションは、これまでの「いつでも、どこでも聞いていてくれるはずの誰か」に向っての語りではなく、逆に当の「いつも聞いてくれているはずの立ち位置」から彼女は語っているわけです。だって彼女はすでに、この世の人ではないわけですから。
 という意味で、ここはリアルな捉え方をしても意味がない。一種の謎掛けめいた「遊び」と考えたほうが、いいようですね。となると最後のシーンが、「だんじり」でも「ミシン」でもなかったのは、それらがまさしく「生者の世界」の象徴であって、死者たちの世界とは関係がないからということになります。

 「死者」の風景とは、非常に身も蓋もない言い方をすれば、生きることを止めた身体が、それを構成していた気体や液体や固体という元素に還元されて、なおかつ「この世に存在し続ける」ということでしょう。で、それは時には生き物の身体になったり、自然の一部であったりするにせよ、姿形を変異させつつ、ずうっとこの世に「在り続ける」ということでもある。
 映し出される映像が、岸和田らしき街並みと、緑、光、水などといった、これまでこのドラマで観たことのない「風景」なのは、それが「生者と共に在る、具体的な死者」の風景だからです。「自然」は人間界の喧騒とは関係なく、生者と死者の間を架橋するものとして、そこにいつでも「在る」わけでしょう。

― 泣かんでええ。 … 泣くほどのことちゃう。
… ウチはおる。 … あんたらのそば
空、商店街、心斎橋、緑、光、水の上、ほんでちょっと退屈したら
また何ぞ、オモロイもんを、探しに行く。 ―

 その糸子が「退屈したら、時々覗きに来る … 」と言って、風となって病院のドアを開き、「カーネーション」の冒頭場面に戻って来るというのは、堂々巡りではなく、まして「永劫回帰」とか「インカーネーション(受肉)」といった小難しい話でもなくて、例えばテレビの画像となって、「ウチはあなたの記憶の中だけに居りますよ」ということなのでしょう。私たちはその中味を観てしまっているので、すでに糸子は記憶の中に「折り畳まれて」いる。彼女は「いつでも、どこでも」ふとした拍子に、いたずらっぽく私たちの前に顔を出す。「いっちょいで」とか「どの口が言うてんや。このアホが!」という立ち居姿で、ということなのでしょう。
 私としては、これくらいのカラリとした締め括り方も、今となっては「有り」かなと思っています。

 さておしまいに、またまた「源氏物語」から、紫式部が「物語(虚構)」の存在理由について、光源氏に語らせたくだりを挙げておきましょう。

― その人の上とて、ありのままゝに言ひ出づることこそなけれ、よきもあしきも、世に経る人の有様の、見るにも飽かず、聞くにもあまることを、後の世にも言ひ伝へさせまほしきふしぶしを、心にこめがたくて、言ひおきはじめたるなり。 … ふかきこと、浅きことのけぢめこそあらめ、ひたぶるに、空言(そらごと)といひはてむも、事の心、違(たが)ひてなむありける。 ― 第二十五帖「蛍」の巻(山岸徳平校注、岩波文庫()筆者)

 口語訳するなら、
― (そもそも、物語というのは)誰それの人のこととして、(何もかも)ありのままに語るということではないけれど、善きにつけ悪しきにつけ、この世に生きる人の有様で、見るに飽かせず、聞き捨てにも出来なくて、後の世まで語り伝えたいような事柄を、心一つに収め難くて、語り置き始めたのでしょう。 … (書き方に)深い、浅いの違いは(もちろん)あるにせよ、何もかも全部、ウソと言い切ってしまうのでは、ことの本質を、見誤ってしまいます。 ―
といったところでしょうか。

 一千年前の日本に「空言(Ficthion)」が許される根拠について、このように透徹した見かたをしていた女性がいた、ということ自体が驚きを越えて、ほとんど奇跡のように思えますが、さて「カーネーション」は「糸子的在りよう」を描くにあたって、「見るにも飽かず、聞くにもあまることを、後の世にも言ひ伝へさせまほしきふしぶしを、心にこめがたくて、言ひおきはじめたるなり」ということになったのかどうか?

― なぜか「朝ドラ」が面白い! おわり ―





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Last updated  2012.04.18 00:33:14
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TNサリエリ @ Re[1]:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) ナガノさんへ  コメントいただき、ありが…
ナガノ@ Re:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) 2年遅れで、この文章を読んで泣けてしまっ…
TNサリエリ@ ふたたび、コメントありがとうございます。 cocolateさんへ 私自身、彼女の演奏に刺激…
cocolate@ Re:エレクトーンというガラパゴス 1.(06/17) 再びおじゃまします。 826askaさんのYouT…
cocolateさんへ@ コメントありがとうございます。 三年ほど前に826asukaさんのことを知り、…

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