サリエリの独り言日記

サリエリの独り言日記

2012.11.30
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カテゴリ: カーネーション
 先日、侮り難い新書として四冊ほど名前をあげたのですが、中味とは関係なくそこに綴られた字句が、他の私の想念と結びついて、かってに「なるほど、そうだったのか」という連想を生むことが時にあるようです。
 それは例えば、

― 私は人間の不正直は責めるが、人間の愚かさは責めない ― 「日本農業への正しい絶望法」神門善久(ごうど よしひさ)新潮新書

というような言葉で、以前に似たようなパラグラフを(たぶん聖書か何かで)見たような気もするのですが、目下の懸案にこれほど新たな「ものさし」を与えてくれる字句もない。

 またぞろ例の「カーネーション」の話で、我ながら呆れてしまうのですが、例の「親族会議」のシーンのことなのです。
 「けどなあ、糸子。アンタはそれでええけどなあ、子供らがなあ…」
とは、
 「許してくれとは言いません。許されんかて構いません」と言い放ち「 … けど、ホンマにすいませんでした」
と糸子が畳に顔を伏せた直後に、千代さんが彼女にかけた言葉です。

 以前にも触れましたが、この直前の糸子の弁明シーンを、私は本編最高の場面だったと思っています。「絶対的背理」に追い込まれてなおかつ一歩も引かずに、すべてを「引き受けよう」とする糸子からは一種の崇高さが立ち昇っていて、何人も口を挟むことが出来ない。「不倫」というテーマをあえて取り上げたのは、ここでの「他を以って変え難い糸子らしさ」を表現するためだったろうとさえ思ったものです。
 さて普通ならそのシーンで多少引っ張ってでも終えそうなところ、間髪入れず上の言葉に続き三姉妹の登場となるわけで、観た当時は「せっかくの名シーンの印象が薄まってしまうんじゃないの」と思ったものでした。それを敢えてしているのは何だろう、とずうっと思っていたのですが、先の神門さんの言葉によって今になって多少新たに気付くことが出て来たのでした。

 子供はこの三姉妹に限らず「親が社会道徳的に非難されたら、必ず親をかばう」という話は以前にしたので、ここでは繰り返しません。要は糸子らしさがもっとも現れたシーンの直後に、その印象を薄めてでも、このシーンを挿入した理由は何だったのかということなのです。
 クリムトの「接吻」という絵に代表されるように、「恋=エロース的情動」というのは本質的に「二人称の関係」であって、それ以外の外部を拒む性質を持っているのではないかという話も以前にしました。早い話、恋人同士は「互いの親を疎ましく思う」し、今現在の法悦状態が「永遠に続く」ことを望むものです。つまり通常の時間と外部を拒否したような在りようなのでしょう。
 しかし糸子がどれだけそれを望んでも、自身が「母から生まれ子を産んだ」という事実は否定しようがない。とすればここでの千代さんとか三姉妹というのは、ヒトが「時間性そのものに取り込まれた存在」であることを示すものとして置かれているのであって、こうした生き物の本質的に引き裂かれた在りようというのに抗って、何が何でも両立させようとする糸子に、それは二重線を引っ張って撤回を迫るものとしてあるわけです。
 現にこのあと糸子は往生したまま何も言えませんでしたね。

 ここで驚くのは、それまで積み上げた当の「糸子らしさ」そのものも相対化してみせるという、作り手の「蛮勇」力であって、これも糸子的在りようを一意的に「権力化」させない「構え」だったのでしょう。
 それは同時に糸子の強がりが長くは続かないことも示しているわけで、実際次の回では、周防とのまことに哀しい「別れ」が描かれていたわけです。周防には別の店を持たせたのですが、その理由を「いろいろありまして…」とナレではぐらかしてあるのは上手い。有限でありながら無限を意識させられた人間の在りようというのは、ドラマとか映画では表現し得ない。あとは皆さんで考えて下さいということでしょうか。
 二人だけの世界であるかぎり、互いの所作動作がすべて「幸せ」の表象であったのに、同じ事柄が(親も子もあるという)時間性の中に置かれたとたん、ただちに「困惑」のスパイラルに陥ってしまうのです。

 という意味で、「ウチは周防さんを、ホンマに幸せには出来へんのやな」という糸子の述懐は泣かせますね。「ホンマに」とは「どういう仕方、いかなる手段をもってしても、この世では実現不可能」という、人の「引き裂かれた」在りようを言い当てていてすごい。

― つづく ―





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Last updated  2012.11.30 15:35:54
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TNサリエリ @ Re[1]:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) ナガノさんへ  コメントいただき、ありが…
ナガノ@ Re:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) 2年遅れで、この文章を読んで泣けてしまっ…
TNサリエリ@ ふたたび、コメントありがとうございます。 cocolateさんへ 私自身、彼女の演奏に刺激…
cocolate@ Re:エレクトーンというガラパゴス 1.(06/17) 再びおじゃまします。 826askaさんのYouT…
cocolateさんへ@ コメントありがとうございます。 三年ほど前に826asukaさんのことを知り、…

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