サリエリの独り言日記

サリエリの独り言日記

2013.01.17
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カテゴリ: カーネーション
 誰かに向ってどうしても言っておきたい、聴いてほしい何かがあるとき、最も効果的な語り方とはどのようなものなのでしょう?声高に叫ぶことでしょうか、人のあげ足を取る仕方でしょうか、他責的な安全地帯からもの言う形でしょうか、こうした今はやりのディベート的な発語の仕方では、どれも他人の共感を得ることはできないと私は思う。理念なきディベートほど不毛な対話はありません(勝ち負けだけを目的とした発語法に、他者との共有共感などという概念は、初めから想定されてない)。
 そもそも自分を隅から隅まで分かってくれる「他者」など、この世に存在しない。理屈からすると、それでは「他者」ではないことになってしまう。この「他者」との共感共有の意味している本質的な「不可能性」を思い知ることこそが、最初の大前提なのだと思うのです。
 じゃあ共感とか共有などというのはマヤカシで、自己満足の宇宙に引きこもるしかないのか、と言えばそうでもない。

 この一見不可能性に満ちた共感とか共有を、かろうじて可能にするのは「他者への配慮と敬意」をもってコトバが発せられる時だけなのだと思うのです。自分宛に発せられた「親展」のようにしてコトバを聴き取った時、人はそのコトバの意味をしかと吟味せざるを得ない。それは聴き手それぞれが自分のコトバで新たな「物語」を、想像的に語り始めることと言ってもいいのでしょう。
 大事なのはそれを仲介しているのが、充分に配慮された糸子のコトバだということなのです。この場合の「配慮」とは、糸子の選ぶコトバが彼女のたんなる「一人語り」ではないということ、例えば父善作が祖父母から受け継ぎ、糸子に受け渡そうとしたような仕方で発せられたコトバとして扱われているということでしょう。イメージとしては走り続ける「だんじり」を担ぐ人々の態度に重なりますね。
 コトバがこのように「他者に対する配慮、あるいは敬意」をともなって発せられる時、初めて語り手の切実な思いは、「ただならぬことが語られている」あるいは「私宛に特別に発せられている」という仕方で、聞き手の心に届くのだと思う。

 先に糸子のナレに満ちている「敬意と配慮」は、一意的には「かつての自分に対して」向けられていると言いましたが、これは言い換えれば、一番めの「他者」とは我が身に他ならないということも示しています。「我が身」の分からなさ加減を思い知ることによって、軽々にはコトバを発することができないということになる。それは同時に「我が身」を最大の配慮をもって、「処する」ということでもあるでしょう。「身を処する」とは自己チューの対極にあるものです。一見矛盾するように聞こえるかもしれませんが、「我が身」に最大の敬意を払う人は自己チュー足り得ない。「我が身」の至らなさ加減を思い知っているからです。
 「我が身大事」というようなコトバは、本来こういう地点から発せられるべきかもしれませんね。

 少し話が飛びますが「教育」とは突きつめれば、この「我が身の未熟さ加減を、真の底まで思い知らせること」の一点に尽きるのかもしれない。「分からなさ加減を知る」とは、絶えざる成熟(大人)への欲求を起動させることでもあるです。
 イチローを見てください。四十近くになっても自身のアスリートとしての身体と、ずうっと対話をし続けているじゃないですか。彼ほど「我が身」に敬意を払っている人は、そういないんじゃないですか?たぶん彼は身体を十全に自身のもの(所有物)とは見做していないのだと思う。むしろはるか彼方のどこかから、たまたま到来して我が身に付着している、この異能なる「他者」の振るまいを、驚きの眼をもって観察するような仕方で見つめているのではないか知らん。
 で、同じような態度が、糸子のナレにもあるような気がするのです。確かに彼女は自分の発するコトバを、自身固有の体験(所有物)とは見做していない。異能なる我が内なる「他者」を見つめるような仕方で語っているのです。

― つづく ―





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Last updated  2013.01.17 11:38:08
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TNサリエリ @ Re[1]:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) ナガノさんへ  コメントいただき、ありが…
ナガノ@ Re:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) 2年遅れで、この文章を読んで泣けてしまっ…
TNサリエリ@ ふたたび、コメントありがとうございます。 cocolateさんへ 私自身、彼女の演奏に刺激…
cocolate@ Re:エレクトーンというガラパゴス 1.(06/17) 再びおじゃまします。 826askaさんのYouT…
cocolateさんへ@ コメントありがとうございます。 三年ほど前に826asukaさんのことを知り、…

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