続・ハラヘリビトノウタ

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Tommy-japan

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2006.07.19
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カテゴリ: カテゴリ未分類
人はもしかしたら,地名のついた土地を踏み締め歩く事ででも,何かを食べたり聞いたりする事ででもなく,
ただただそこに吹く風の加減ややわらかさ,温度を感じながら旅するのかもしれない。
下町を歩いて,まずそう思った。

**

『今号のNumber,今電車のつり革をみるとあると思うんだけど,W杯イタリア選手の優勝のときの顔が表紙で,歓喜というものをその写真から感じた。なんか,ちょっぴりぞっとするんだけど,ずっと眺めていたくなる感じ。見てみてね。それで,ともちゃんがどう感じるか知りたい。』


今朝はスレッシュの授業があった。
授業をするカフェに向かう道のりの途中,
友人からのそんなメールがきた。
職を失い集中授業を始めてからの彼の上達には
目を見張るものがある。
一文字も,読めなかった彼だ。
一緒に受けていたサムスンについていけないと言っていた彼だ。
やはり何事も,こうなりたいという気持ちが全てなのだろうか。
この仕事をしていて嬉しいと感じることは多くあるが,
その中でも格別なのが,生徒の上達をあらためて感じる時だ。そして,その生徒の上達と共に,自分が成長していると気付くことでなおさら嬉しい。
日本語教育のテキストにはたいがい教師マニュアルというものがあり,効果的な教え方というのは確かに存在する。

が,実際の現場でもっともっと重要なこと,それは『呼吸』であるという気がする。

リピートさせること。
間違いを指摘するタイミング。
付加的な情報をどこで教えるか。
生徒の呼吸を読み取り,その上にのっかって,合唱の音程を合わせるかのようにリズムを乗せていく。時にはこちらのリズムを貫き,それに強制的に乗らせる。

そのさまは、まるで音楽のよう,風のようだと思う。

何度同じ事を教えても,相手が違えばリズムはかわる。
従来の方法が通用しない事だってある。それは,教える内容が簡単でも難解でも変わりはない。その『呼吸』のとらえかたが,随分みについてきたと感じられることが嬉しい。

そして,嬉しいことはもう一つ。
長らく授業の途絶えていた生徒がまた復活してくれること。
国に帰ったり何かで忙しくなって一旦中止してしまうと,そのままになる生徒だっている。
今回リスタートすることになったのは,香港のウィニー。
たいやきが大好きな,明朗快活な大学院生で,論文を書くのに忙しく,しばらく中断していた。
『論文終わりました!再開したいです』
そのメールが心から嬉しかった。
よく知っている生徒であるのに,春一番みたいな強い風が吹き始めるような感覚を,リスタートの時にはいつも感じる。きっと,中断の間に流れる私の時間や生徒の時間,そこにつまった人生が,再び通い合った瞬間にどっと流れ込んでくるからなのだろうと思う。

授業を終えてから,下町散策に出掛けようと,友人と浅草で待ち合わせした。

**

仲見世に吹く風が好きだ。
そして今日はもう一つ,そんな風の吹く場所を見つけた。
老舗『前川』。ウナギやのある通りだ。
雑誌で見つけ,
『う~んウナギたべたい』『とりあえず,いっとく?』
いやはや,でもこのうな重,3990円と書いてある。
た,高い…

近頃夏ばてを感じていたし(これホント),
土用の丑の日も近いし(かなり、言い訳),
なにより私たちはつねにノリと勢いで行動するので,今回も気付いたら『前川』に向かっていた。

本当に,本当に,たまらなく美味しかった。
皮と身が全く一体になっていて,ふわっとして,本当に絶妙なのだ。なぜか急に,自然を大切にしたいような神妙な気持ちがわいてきてしまう。

食べ物が人を作っているとは本当だなと思う。以前,遊んで沢山歩いたあと,真夜中2時過ぎに焼肉を食べた時の事を,今でもよく覚えている。食べる前は歩き疲れていたのに,食が進むにつれて,背中の後ろからぶわっと力が出てくるのが確かに感じられたのだ。あの時の感覚を今も忘れられず,こうして久しぶりにそれを感じたきがした。

ところで前川のおっちゃんはとても陽気で,娘さんがスペインに行っていたとかでしきりにラテン系の歌を歌い,『アディオス!』なんて言ってくる。酔っ払っているのかと思うくらいだ。なんでも,次週末の丑の日は,『うなぎ』というワ-ドが出てくる番組には必ず自分が出るからミテネ,とのこと。さすが老舗…

おっちゃんに手を振りながら店の前を歩くときのそよそよした風に目を細めてしまう。ついさっきまでは,暑い昼下がりをぬけだすみたいに道を歩いていたのに。

**

その後縁日を見て回り,喉が渇いたのでラムネをのんだ。桃味やメロン味という色のついたラムネも売っていて,私は桃味にしてみた。まピンクな水がなんだかとてもかわいらしい。

『涼しいね…』通りを吹き抜ける風を感じながら,じゃあ次は甘味を満喫しようと,電車にのるために駅へ向かった。汐留,新橋,最後はやはり若者の街でおおはしゃぎ,カラオケ部始動。飛んだり跳ねたり、もはやブルーハーツ?普段はしおらしい(?)私たちの本性炸裂。

**

Numberの表紙を,私は帰り道の吊り革で発見することになった。ブラジル戦の夜の熱気がよみがえる。確かにそれは,あまりの歓喜にどこか悍ましささえ感じさせるような写真だった。
しばらく眺めていた。

『ん?』次の瞬間,私は気付く。
目の前につりさがっている写真を見ているのは私の眼だ。
確かにそうだ。しかし今私はこの写真から,熱気や歓喜の声,悍ましさを確かに感じている。見つめる自分の顔じゅういっぱいに。

それらは一体どこから??

そう,その正体は,写真全体から発せられる風だったのだ。

その瞬間,老舗『前川』の前を歩いた時に感じた風の匂いが蘇った。頬をかすめる風,その加減ややわらかさ,温度。

**

人はもしかしたら,地名のついた土地を踏み締め歩く事ででも,何かを食べたり聞いたりする事ででもなく,
ただただそこに吹く風の加減ややわらかさ,温度を感じながら旅するのかもしれない。

そうだ,きっとそうだ。
過去の素敵な出来事を思い出す時,愛する人たちの顔をふと浮かべる時。そこに吹いていた風の匂い,その人から発せられてくる風の温度を,いつも私たちは先に,思い出している。

だから,そんな風を,普段より,いつも生活している場所よりダイレクトに感じられるところへ,人は時々行きたくなるのだろう。時代の,ぐるぐる回転するわけのわからない速さの車輪に巻き込まれてしまわないように。

風をさえぎるもののなにもない海辺や,風の産まれる空に少しでも近い山の上や。子供の神様が住んでいる原っぱや,小さい頃に育った場所や。

もしかしたらそれが『なつかしい』の正体かもしれない,下町に『なつかしい』を感じるのはそんな理由からかもしれない。


まるで宝ものでも発見したかのように,私はそう思った。





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Last updated  2006.08.15 08:54:39
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Milky5555 @ 神田川のほとり こんにちわ 私は子供の頃、神田川のほと…
Milky5555 @ 無の涙 「無の涙」それはきっと表現できない感情な…
Tomomi@ Re:友達っていいね(02/17) Milky5555さん >さり気なく傍に居てくれ…
Milky5555 @ 友達っていいね さり気なく傍に居てくれる事が 何よりも…

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