ヴィーテ・イタリア高岡(Hiruccio)のイタリアワイン&主夫日記

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2008/05/25
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カテゴリ: 映画と読書
マキャヴェッリの生涯を通じて、ルネッサンスの華であったフィレンツェ
共和国を描き、また逆にフィレンツェ共和国の栄華と衰退、崩壊を通じて
マキャヴェッリの生き様を追った力作です。


塩野七生ルネサンス著作集(7)


本題からはややそれるかもしれませんが、マキャヴェッリが提唱した
いくつかの政治理論を通して中核的なポジションを占めた、

「祖国を守るためには傭兵制度からの脱却し、国民軍を
 持たねばならない」


という考えの「傭兵制度」と彼らがしていた「当時の戦争」に
ついてのコメントに興味を持ちました。


「十四、五世紀のイタリアを特徴付けたものの一つである
 傭兵制度は、簡単に言えば、隊長の実力に相応した数の
 兵とそれに必要とされる武具込みで、これらを指揮する
 傭兵隊長と傭い(やとい)先である国が、雇用契約を
 取り交わすことで成り立っている。

 契約は普通一年、二年目は問題がなければ自動的に
 更新されることになっていた。

 この制度に需要が絶えなかった理由は、イタリアの
 中世は都市を基盤にして成り立った国家が多く、
 その種の国家の方が経済的にも繁栄していたから
 だろう。

 都市国家なのだから、都市が国家の中心を占める。

 都市の住民は、商業と工業にたずさわる者が多い
 のは当然なのだから、市民の主流なのである。

 日本ではブルジョワというフランス語で知られて
 いる市民階級は、イタリア語ではボルゲーゼという。

 ゲルマンに語源を持つ語と思うが、市壁に囲まれた
 街の中に住まう人、という意味である。」



そう、「ボルゴ」とはイタリア語で、町を意味したり
城壁の外に発達した区域をも意味しますが、いずれに
しても都市の機能が及ぶ範囲をさすのだと思います。

因みに、フランスのブルゴーニュ地方はイタリア語
では

BORGOGNA ボルゴーニャ

と言いますから、この言葉の語源もボルゴでしょう。

ワインにも「ボルゴ」がつく名前がたくさんあります(^^)

ボルゴーニョ・バローロ・フランコ・ボスキス 2000



さて、傭兵制度に関して続けましょう。どんどんんと
面白くなります。


「ところが、当時の戦争ときたら、天候の都合で春から
 秋にかけて行われるのが普通なのだが、そのような
 仕事に絶好な季節に、「市民」たちを戦争に駆り出す
 わけにはいかない。

 ならば戦争などしなければよいとなるが、二十世紀の
 今日に至るまで、非合理的だからという理由で戦争
 回避に成功したためしはない。

 それで、仕事に絶好な季節に、仕事に絶好な年頃の
 男たちを戦争に駆り出して経済の疲弊をまねくより
 彼らには仕事に専念してもらって、その仕事から
 あがる利益の一部を税として徴収し、それでもって
 傭った(やとった)戦争専門屋に、そちらのほうは
 まかせるということにしたのだった。

 この制度の普及のおかげで、イタリアの戦争といえば
 傭兵同士が戦うものになったのである。」



この辺りまでで、「傭兵制度」というものが当時の経済
社会の面から見て、理にかなっていたことが良く分かると
思います。

 この辺り、もうちょっと具体的に見てみましょう。

 「需要が増えれば、供給もまた増える。イタリアの
 国々は、仕事に絶好な季節に仕事に絶好な年頃の
 男たちを十分に活躍させたためか大変に豊かだった
 ので、ドイツやイギリスから、イタリアに出稼ぎに
 くる戦争屋も少なくなかった。

 しかし、これらの傭兵隊長にとってみれば、配下の
 兵は立派な設備である。

 設備なのだから、なるべく損傷のないようにと願う
 のも当然だ。

 その結果、華々しく戦闘を展開をしておきながら、
 死者は落馬が基で死んだ一人だけなどという、愉快
 な戦争が普通になってしまったのであった。

 ブクハルトが、「芸術作品としての戦争」と名づけた
 ものである。」



ここで思い出すのが、エルマンノ・オルミ監督の映画
「ジョヴァンニ」です。「黒隊のジョヴァンニ」こと
ジョヴァンニ・デ・メディチの最期を描いた名作ですが
あの映画では、塩野七生さんのいう「愉快な戦争」を
非常にリアルに、また「生真面目に」に描いていたように
思います。

「芸術としての戦争」を「人が人と対峙して剣と剣で
戦う戦争」を人間的と見做して、それ以降の大砲の出現
から近代戦争までを非人間的と批判的に見るオルミの
視点があり、それゆえにか、非常に耽美的な作品に
仕上がった映画です。

DVDで出ていないのが残念です。イタリアのアカデミー
賞ともいえる「ダヴィッド・ディ・ドナテッロ賞」を
総なめにした2001年の作品です。

でも塩野七生さんの視点は、もっとそのことには距離を
おいて俯瞰しているように思えます。続けましょう。

「しかし、芸術的なる戦争で、随分と長い間、全員が
 満足していたのである。

 市民たちは仕事に専念できる。国家は、しないでは
 すまない戦争を、したという形だけはつくれる。

 「ボルゲーゼ」とは見られていなかった農民だって
 馴れ合いの戦争なのだから、敵の兵たちも穏健で
 ヨーロッパの他の国々では通常だった、敗者が
 こうむる略奪におびやかされる心配もない。

 (略)」


「全員が満足していた」というのが良いです。そういう
ポジションを探るのが、「賢い人」であり「賢い社会」
でしょうから。

この制度は洗練の極みであり、「洗練された文化」と
いう気がします。それが2世紀の間続いて来たと言います。

 でも、そういうことが分かる人だけなら、何も苦労は
ないんですよね。それを痛感させるのがこれ以降の
歴史であり、それこそがルネッサンスを終焉させて
いきます。

 「この、ちゃらんぽらんではあったが人間世界の
 機微には通じていた愉快な制度が大打撃をうけたのが
 1494年のフランス王シャルル八世のイタリア侵入 
 である。

 都市国家の群立するイタリアと違って、中央集権化は
 進んでいても、当時のフランスは、イタリア人に
 とっては後進国である。

 経済的にも、イタリアの方が豊かだった。当時のイタリア
 人が見下していたフランス人だが、彼らには、戦争は
 まじめにやるものと思う点では伝統がある。

 そのフランス人に、まじめにイタリアに侵入されさたの
 だから、イタリア人は深刻な打撃を受けたのである。

 シャルル八世の軍は、非芸術的とされようがおかまいなく
 略奪と暴行に徹底したからだった。」



十字軍遠征の「いいだしっぺ」はフランス人ですからね。
「まじめに戦争をやる伝統」というのはわかります。

このシャルル八世が教皇アレッサンドロ6世に神聖同盟で
ナポリ、そしてイタリアから追い出される。

次の王ルイ12世、ミラノ侵攻して、スフォルツァ家を追放。

教皇ジュリオ2世の神聖同盟でフランスをミラノから追放。

次の王フランソワ1世、再びミラノ侵攻、スフォルツァ家を
再び追放。神聖ローマ帝国皇帝の地位をスペインのカルロス
1世と争い敗北。

カルロス1世が、神聖ローマ帝国カール5世として即位、
フランスをスペインとドイツから挟み込む形になる。

教皇レオ10世、カール5世と組んで再びミラノを奪還。

教皇クレメンス7世、コニャック同盟を結んで、神聖ローマ
帝国に対する。

これへの報復としてスペイン、ドイツ軍がローマを目指して
南下する。

スペインは、最も先鋭的だったカトリックの宗派ドメニコ会
や日本にも多大の影響を与えたイエズス会の本拠地ですよね。

そしてドイツと言えば、このころすでに大きな勢力を持って
いたプロテスタントの本拠地。

この両極端の勢力がハプスブルグ家の元で一体化して
イタリアを攻めたものだから、都市国家の集まりであった
イタリアでまともに生き残れたのは、ヴェネツィア共和国
だけでした。

ヨーロッパ史の大きな流れが急速に変化していく時代の
黎明期、おそらくはまだイタリアがその経済的、文化的な
力をヨーロッパに及ぼした最期のともし火、それが
ルネッサンスというものの一面だと思います。

マキャヴェリズムというのは、現代の平和社会から見ると

「目的のためなら手段を選ばない恐怖の思想」

というような位置づけなのかもしれないですが、大国に
蹂躙される恐怖に常に脅かされた時代に、冷徹な視線で
それを回避するアートを綴ればマキャヴェリズムに到達
するのは当然の帰結なのかもしれません。

そしてルネッサンスの華フィレンツェ共和国は滅ぼされ
法王庁ローマは強奪されます。ローマにバロック建築の華が
咲くのは、ルネッサンス建築がほとんどすべて焼き尽くされた
からなのでした・・・。

史実は頭をこんがらがらせますが、ルネッサンスの気概とは
どういうもので、どんな歴史的背景から生まれ、他国と
イタリアがどのように違っていたのかなど、知れば知るほど
ワクワクする、七生ワールドなのでした。


塩野七生ルネサンス著作集(7)





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Last updated  2008/05/28 05:46:31 PM
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