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2006/05/09
価格・・つづき
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以前、メンズのスーツセットが少量入荷したことがありました。スポット入荷なので、売る値段は気にする必要はありません。実験用です。
さて、この商品を目玉商品として、店頭に2980円で展示しました。
ところが、いつものようにお店は繁盛しているのに一時間経ってもそのスーツセットだけは売れないのです。
不思議に思い、店頭を観察しました。
すると何人もの通行人が立ち止まっては眺め、行きかけては戻りまた眺めるということをしています。もちろんラベルを見たりする人もいますが、やはり気にしながら去って行きます。
しかも顔は不審気です。
そこで、ポップの2980円という価格の下に(ただし10円玉298枚持ってきた人だけ・・)という表示をつけ加えました。
すると、次の10分間に3人の人がレジに来て同じ事を尋ねます。
(あの表示は本当ですか?)
私は(もちろん、本当です、ただし、10円玉以外はお断りしますので10000円出すといわれてもお売りしません。それと、一着しかありませんので、早い者勝ちになっていますのでご了承ください。)と答えました。
その後10分ほどして、3人の人が10円玉6本を持って、どうやら、皆さん走られたようで、はあ、はあ言いながら戻ってこられました。
もちろん、最初の方にお譲りしてすぐに売れてしまったのですが、実は価格は単純に安くても売れません。
消費者の中には、それぞれの商品について、街で一般に販売している(購入できる)価格帯が形成されています。(価格帯という表現をしないといけないのは、お店のランクもいろいろあって、さまざまな価格で販売されているからです。)
そして、消費者は自分の持ついろいろな情報と照らし合わせてお店で販売している商品を買うべきかどうかを判断しています。
ところが、売り手はそんな消費者の気持ちを考えてジャストミートした価格をつけているかというと実は少しずれている場合が多いのです。
価格には、
1安いほうが売れるだろうという信仰の対象になりやすいですし
2競合に気がつきにくい
3売り手と買い手との間の合意部分なのに売り手しか判っていないことが多い、
という特徴があります。
安いほうが売れるだろう、安ければ売れるだろう、これは売り手しか持ち得ない感覚です。そのとき、もしも自分が買い手なら売り手が想定している値段で買うのかどうか?という点がすっぽりと抜け落ちている場合がほとんどです。
同時に、商品にデメリットの部分があっても、価格でなら補えるだろうという発想が根底にある場合がほとんどなのです。
ファッション商品のように身につけることで、価値観を表現するようなものの場合には(価格の低い物=安物を身につけさせる。)ということになってしまいます。
逆に言えば、価格が高額であれば良いものであると思い込んでいる人も多く存在するということでもあります。(高額なビニールバッグが良く売れていることを考えるとよくわかりますよね・・)
つまり、ファッション商品においては、安い価格には、あまりメリットなどないことになります。
バーゲンには人があふれているではないか・・確かにそうなのです。バーゲンという大義名分があるときに販売されている物は、安物ではなく普段は高い価格のものが安くなっているということが人を行動させるのです。
同じようなことは、免税店でもおこります。(最近は、商品にかかる税が少なくなったのであまり値打ちがなくなってしまいましたが・・・)
つまり相場よりも安いということには、理由が必要なのです。その理由がなくなると、急いで買う理由はなくなりますし、あえて、安物を買う理由もなくなることになります。
そのため、一年中、バーゲンを続けると非日常から日常になりますので、誰もありがたがらなくなります。
(流動客の多い場所では、常に新しい客が来ますので、年中バーゲンも成立します。)
さて、あなたのお店では、いわゆるスーパーマーケットの理論などで言われる980円や1980円などの9表示8表示が多くなっていませんか?
いわゆる8,9表示ですが、8,9表示にすると安く感じるという心理から生まれたものです。
1000円というよりも980円といったほうが20円の差で安さがもっと大きく感じられるという程度のあいまいな根拠から習慣化しているのが本当です。
しかし、ファッションにおいては、安い価格は決してプラスになりません。
私は、時々、一つの商品を前にして、何人かのスタッフと、価格について考えて見ます。
価格をスライドさせてしだいに高くしていくと、ある金額で、微妙な壁を感じるところがあります。また、その心理的な壁は価格帯によって何段階もあるように感じますので、
丁度価格に対する価値観は、変則的な階段状になっているとでも言えるでしょうか・・・
そして、そのようにして感じる価格の壁は、必ずしも8や9の数字のところで感じるわけでないことがわかると思います。
つまり、細かな部分でも利益の追求をするときには、いくらの価格をつければよいかわかると思います。
価格は、一般的な経済学を学んできた人からすると、(特に経済学という学問でなくともテレビのバラエティショーでの説明程度でもかまいません)価格の高低と需要の大小が反比例するという常識を持っています。
そのため、売れない=価格の引き下げという公式を頭の中に持っています。
それは、本当に正しいでしょうか?
社会が成熟して、物あまりの時代という表現をされるようになると低価格化=販売量の上昇という単純な図式がかけなくなります。
たとえば、100円ショップが全国的にありますが、最近はそんなお店にも少し変化が出てきました。
88円や99円という価格競争を前面に打ち出すところ、
100円ショップなのに200円や500円以上の商品を展開するところなどが出てきて、
100円ショップも苦しみ始めているように見えます。
実際のところ、100円ショップでも慣れてしまうと、必要なものしか買わなくなりますし100円商品の中でも選択をするようになります。
つまり、100円均一のお店の中でも、売れない商品が出てくることになります。
こういった状態が価格の競合と考えても良いと思います。
100円という最近では使用感がほぼ最小単位に近い金額で、買い物をするときにも、何が得で何が損なのかを考えることは、お店の形態や状況を意識しなくともごく自然に行うようになります。
つまり、消費者は、何回も同じお店を訪れることで、価格と商品とお店に対するセット化された慣れの感覚を持つようになります。
ファッション商品においても、同じように価格に対する慣れの感覚があります。
この感覚は、バーゲン時期などには販売者の側にも、意識されやすいのですが、普段はあまり意識されません。(わかっていない・・・?)
一般的に、消費者はそれぞれの商品について価格の相場感を持っていて、その価格帯は少しずつ街の情勢によって変化しています。
特に意識をしないでも、商品の性格(どのような商品で何時、流行し始めたのか、供給の度合いはどうかなど・・)によって市場でのその商品の価格帯を上下に調整しています。
そして、売れ筋商品の価格設定をするときに、消費者が持つ価格帯を打ち破ると、商品は爆発的に売れることが多いようです。
また、そういった価格設定をする際に、通常のサービスとして納得できる価格は3割引き程度になります。
それ以上になると、むしろ商品に対する不信感のほうが大きくなり販売数量はやや、減少します。もちろん、もっと割引率が大きくなり商品の値段が0に近づくと通常の経済学が教えるように販売量は急激に増加します。
(バーゲン時期などには商品に対する相場観が、まとめて変化します。そのため、通常では不信感を持つ価格帯が、当たり前の感覚になると考えられます。)
商品の性質や周りの環境(消費者の相場観はそれほど広い範囲の影響で形成されるのではありません。)によって、販売数量は変化しますが、小売業者が一番間違いやすいのはここです。
売れ筋商品という性質と時期などの要因により消費者の行動が変化するにもかかわらず、どのような商品でも安ければ売れるだろうというワンパターンな思考が、売れない=値下げという方向に価格を向かわせます。
また、通常の発想では価格は、一度下げると上げることが出来なくなるという下方方向性を持っていますので、お店の商品は入れ替えるまで、次第に二足三文の売り場に堕ちてゆくことになります。
そのため、私はいつも(売れないときにはまず、値段を上げろ)と指導していました。
値段を上げると売れるようになるか・・・?
もちろんそれだけでは、売れるようになりません。
ただ、価格を上げるほうが、売り場全体で見ると実は全体のバランスが是正されることが多いのです。そして、価格を上げても販売数量の変わらないものと、思い切った価格で勝負をする物(目玉商品)とのメリハリをつけることが必要になります。
根底には売れてなんぼ・・という考えたたがあるのだと思いますが、得られる利益をトータルで考えることが出来るようになると、目玉商品を作り出すことができるようになり、商品の価格決定の主導権をメーカーから奪うことができるようになります。そのため、販売では同業他社には負けなくなります。
(目玉商品を作るときには、販売のノウハウの逆を考えます。販売価格を原価割れで設定しても、その商品はなるべく売れなくする方法を駆使することで、マイナスの影響は小さく出来ます。その後、客数を稼いでそのほかの商品で利益をカバーするように考えます。
ちなみに、初期のスーパーマーケットは、このような商法を中心にしていました。
卵や牛乳を目玉にして客数を稼ぎ、その他の商品の“ついで買い”で、カバーする方法でした。しかし、創業者がいなくなり、制約ができたので、そのような商法はほとんど見られなくなりました。また、卵や牛乳は何処で買っても違いがわからない、日々の必需品である、供給も十分にされる、単価が安いという理由でよく対象商品になりました。そのことを考えると、今の某スーパーがダメな理由がわかります。・・・笑)
一方、価格を下げることにより悪循環にはいると、在庫が増え、商品回転率が落ち、商売の形態が、現金から手形へ、買い取りから委託へと変わらざるを得なくなります。
皮肉なことに商売の形態が変化すると、利益率は少なくなるのですが、リスクを他人が持つようになり、商品の販売価格が上ることで、一時的にはお店の経営状況は改善しますので、それもひとつの方法かもしれません。
ただ、上で述べたようにファッションの本質は安売り価格とは矛盾したところにあるのです。そのため、売れないときの解決策を単純に価格の引き下げに求めるのは正しいとは言えなくなります。つまり、下げた値段は元に戻す、もしくは、上げるほうが正しい結果を導くことが多いのです。
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Last updated 2006/05/09 04:37:59 PM
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