aituに乾杯

aituに乾杯

2017.06.01
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カテゴリ: 写文俳句


暦より食卓に六月ありき


こよみよりしょくたくにろくがつありき




六月

父と母と 
畑仕事に行った子供の頃
山道の脇に湧き出る湧水を
みんなで飲んだ
コップなどない
父が大きな葉っぱを二つ折りにして
水をくんで渡してくれる
宝石のようにきらきらと輝く水が
緑のコップの中でゆれていた

笑う薬が入っているかのように
その水を飲むとみんな笑顔になった
僕らも真似をして
水をくんでは弟や妹と
水かけをして遊んだ

何年か前の夏
法事で久しぶりに故郷の田舎に帰った
山の畑を見に行った
もうとっくに畑ではなくなって一面に植えられた杉の木が
空高く聳え立っていた

そこにあった 家族で昼飯を食った小屋も
牛を繋いでいた蜜柑の木も
もう跡形もなく
ただ夏草が深々と生い茂っているだけだった

その帰り道
ふと思い出して
あの湧き水のあった所に寄ってみた

大きな目印の岩があって
その下には今もあの湧き水が
昔と同じようにこんこんと湧き出していた
近くの土に軽トラのタイヤの痕があるので
現在も山仕事の人に使われているのだろう

亡き父の真似をして
近くの木の葉っぱをコップにして
湧き水を飲んでみる
僕の喉は
およそ半世紀の前の味を覚えていた

あの時と同じ笑い薬と
もうひとつ 妙にしょっぱい
思い出薬が入っていた







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最終更新日  2017.06.01 23:04:23
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