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熟々と夜の満ち来る祭りかな じゅくじゅくとよるのみちくるまつりかなこの時期あちこちの町内で夏祭りが催されている準備する役員の方々は大変だと思うけれど暑い夏の一夜を楽しみにしている人たちもいる祭りの始まる時刻はまだ外も明るい小さな子供に浴衣着せて出かけてくる人の多い時刻だおじいちゃんやおばあちゃんに手を引かれてくる子もいる夜の闇に包まれた祭り風景ももちろんいいけれどこの夕刻の 日がだんだんと暮れていき少しずつ少しずつ提灯の明かりに切り替わっていく時間帯が好きである大人たちの顔もそれに伴なって子供のころの顔にもどっていく家を出て遠くから櫓太鼓の音が聞こえ会場に近づいたころ暮れかけの空に 連なった祭り提灯の目に入る一瞬が一番うきうきとするそれは子供のころから変わらない
2016.08.09
老猫も時にはじゃれて通る道 おいねこもときにはじゃれてとおるみちこの草にはこれといって特別な思い出はないけれど毎年この草を見ると懐かしさよりも幼友達のような親近感が湧く泣いた日も笑った日もいつもいっしょに遊んでくれた泣き濡れたひとりぼっちの道仲間を追いかけた野山の道その手にはいつも猫じゃらしが握られていたような・・・数々のシーンの名脇役だったからこそ特別な思い出はないのだろう猫じゃらし
2016.08.08
風死してまたもや一機墜落す かぜししてまたもやいっきついらくす野球の解説者が言う「先ほどのエラーから流れが変わりましたね」とか「四番の一本が流れを呼び込みました」とかチャンスを潰してばかりいると流れが相手に傾くとか野球でもサッカーでも流れはまだこちらにあるとかそんな言い方をする流れっ てなんだろう?人間はメンタルな生き物だよく平常心という言葉が使われるようにいつもはどうってことないのに本番になると実力の半分も発揮できないときがある時も運もバイオリズムも流れの中にある止まってしまうとマグロのように死んでしまう
2016.08.06
秋近し四角い顔の丸めがね あきちかししかくいかおのまるめがね ふりむくとまた追いかけくる者がいるもう何人に追い抜かれたろう追い抜かれるたびに足が止まりそうになる止まれば楽になるぞともう一人の自分が言うそれでも もう少しあの電柱まであのポストまであの曲り角までそうやってやがてゴールは見えてくるよくやったとほめてくれる汗にまみれたもう一人の自分がいる人はみな心に一枚の鏡を持っている鏡に映るもう一人の自分と闘っている中学の時の四角い顔に丸メガネの担任の先生が夏休みに教えてくれたこと
2016.08.04
ひと通り探させてみて夏雲雀 ひととおりさがさせてみてなつひばり上空から雲雀の声小さいくせに声だけはすぐそこにいるように鳴くでも なかなかにその姿は見つけられない探すのをあきらめかけたころにようやくお前は姿を現すレンズの一点に付いた小さなゴミのように吹けばどこかに飛んでいっちまうようなお前お前の存在の三分の二は鳴き声にあるその鳴き声も夏ともなるとかすかな哀しみを帯びたようにも聞こえるちょっと目をはなすとお前はすぐにどこかにいっちまう俺も一度すっと消えてみてぇよ
2016.08.04
糸よりもかよわきあんよ糸とんぼ いとよりもかよわきあんよいととんぼ人類が二足歩行を始めてからどれだけ年月が経ったのか知らないけれどその間に生まれてきた子供はいつまでたってもすぐには歩けない人ならしめる話す言葉もせっかく苦労して覚えても生まれてくる子供はまた一から習得せねばならないさかのぼれば自分のルーツがどこにたどり着くのか分からないけれどいい加減に進化してDNAの中に歩く方法も話す術も遺伝情報として刻み込んでもらいたいものだでも這えば立て 立てば歩めの親心 だつかまり立ちや伝い歩きのころのまわりの者たちの顔は それはそれは幸せそのものだった
2016.08.02
深海を潜るが如く夏の草 しんかいをもぐるがごとくなつのくさ背の高い草藪の中をのぞくときはなぜか海に潜るときと同じように大きく息を吸って止めているそんな子供のころの思い出を藪の中に見つけるときがある草深き故郷の匂いにむせながら耳を澄ませばそこからもうすぐあの虫の音が聞こえてくる深海を覗くような不思議さに息をするのも忘れてしまっている気がつけばあのころの自分がそこにいる気がつけば森の中で魚になっている僕
2016.08.01
夢ひとつ見つからぬまま草茂り ゆめひとつみつからぬままくさしげり人は人の形を作りたがる古代の遺跡からも人の形の土偶などが出土する幼い少女がお人形さんを欲しがるように今や科学は人工知能を持つ高性能のロボットまで開発しているそのうち人類はロボットに操られる存在になるのかと危惧するそうでなくとも今や携帯やスマホがロボットに見えてくる自転車に乗った若い女性が前からやってくるスマホをいじりながら・・・まったく前を見ていないもう少しでこちらの車と正面衝突自己意思のないロボットに操られる人間を見たような気がする
2016.07.31
神頼み命惜しむか夜の蝉 かみだのみいのちおしむかよるのせみついこの前初蝉の声を聞いたと思ったらもう蝉の遺体が地に転がりはじめている参道の両側にはりっぱな常夜燈が建っている困ったときにのみ信心する輩にもその足元を照らしてくれるのだろうか今はだれもいない参道誰もいなくても明かりは灯される夜に蝉がケ ケ ケ ケ ケッと鳴く神社の森に命乞いをしているのかもしれない
2016.07.30
運び来る人の姿や夏の朝 はこびくるひとのすがたやなつのあさ牛乳配達夫が踏切の番人のように夜のカーテンをあけてゆく夏の朝灌木の茂る窓辺から細く長く覗き見るあの寒く暗い孤独の季節からようやく姿を現した人は軍手の手袋を脱ぎすてそこの塀の角を曲って行ってしまった列車の通過したあとのような静けさの中で
2016.07.29
しばらくは瑞穂の国となりにけり しばらくはみずほのくにとなりにけり時代劇のロケ探しではないけれどこの頃はどちらにカメラを向けても電柱やら鉄塔が画角に入ってくることが多い田んぼのど真ん中であったり山々の峰伝いであったり赤い鉄塔がはるか遠くからでも視野に入ってくるこれまで国を大いに豊かにし発展させてきたのだから文句はないけれどこの見渡すかぎりの青田の緑を眺めていると豊かさと引き換えに置き忘れてきた何かを思い出させるような気がする置いてきたものを思い出せる人はまだいい置いてきたものを知らずに育つ子供たちの未来にも瑞穂の国でありますように・・・
2016.07.27
ひまわりの納まりきらぬ胸の内 ひまわりのおさまりきらぬむねのうち少年はサッカーが好きだった初めてお兄ちゃんとお揃いのユニフォームをお母さんに買ってもらい毎日ボールを蹴るのを楽しみにしていたお兄ちゃんのお下がりでないのがよっぽどうれしかったらしくこの日もそのユニフォームを着て「行ってくる」と母にうれしそうに言って河川敷のグラウンドに出かけた はずだったその日の夕刻友だちと川遊びに出かけた少年はユニフォームをびしょ濡れにして母の元に帰って来た母がいくら泣きすがっても二度と起き上がらずいくら名前を呼び叫んでも二度と返事をすることはなかった母親はユニフォームの最後の洗濯を自分の手で洗い 物干しにその服だけを干したきっちりとアイロンを掛けそれは小さな箱の中の少年と一緒に天に昇っていった以来ここに花の絶えることはない
2016.07.26
頭角を現す石や夏の川 とうかくをあらわすいしやなつのかわどこからいつここに流れ着いたのかわからないここにたどり着くまでに幾度の川の氾濫があったのだろう川の中ほどに水位が下がるといつも頭角を現す石がある頭角を現す とはこういう場合には使わないけれどどうも 頭角を現しては消えてゆく凡人のようにも見える人は川辺に立つとなぜかその辺の小石を拾い上げて川に向かって投げてみたくなる自分の投げた石でできた波紋に生きている証を見るのかもしれないあるいは頭角を現しては消えてゆくもののはかなさを波紋に見るのかもしれないそれが世の中だと改めて自分に言い聞かせているのかもしれない
2016.07.25
母が摘む生きる色してプチトマト ははがつむいきるいろしてプチトマト「ちょっと食べてみぃ、甘いで」実家に帰ると母が庭先のプチトマトを摘んできた口に入るものよりも目を楽しませるものを植えるようになったとこの前 書いたけれどやはり おいしいものが採れるとうれしそうだ農家に生まれ 農家に嫁いで昔の大家族の口を支えてきた母にはどんなに見事で美しい大輪の花を咲かせるよりもみんなの口を少しでも満たすことの方が何よりの喜びだったのかもしれない「ん あまいね おいしいね」と答えると母の年寄り特有の茶褐色の瞳が少女のように輝いて見えた生きる色とはこのトマトの色ではないのである
2016.07.24
空蝉を着せてやりたし骸かな うつせみをきせてやりたしむくろかな早朝蝉の声が遠くの森から聞こえてくるそろそろ夏も盛りを迎える麦わら帽子に虫捕り網ランニングシャツに半ズボン夏の風物詩スイカにクワガタ カブトムシ夏の日の夕暮れ 弟と裏山に登って 樹液の多い木を選んで根元の辺りを足で蹴飛ばすとパサ パサッとクワガタが落ちてくる蚊にかまれた半ズボンの足をポリポリ掻きながら落ちた辺りを探し拾い集めた春夏秋冬子供のころの記憶にある夏は一年の半分くらいはあったようなそんな思い出に満ちあふれた季節そうかといって長いようで短かった夏休み成虫期間のわりに幼虫の時代を長いもので六年くらい土中で暮らす蝉道端にこの夏成虫になり鳴くはずだった蝉の子が仰向けに乾いて死んでいるなんのための長い土中生活だったのか蟻に食いちぎられた前足の先には無念のこぶしが握られているような・・・
2016.07.22
晒井や呼び水ほどの時も枯れ さらしゐやよびみずほどのときもかれ 情深くして夏掛けの薄さかな 橋本栄治よみうり新聞の朝刊に長谷川櫂氏の四季の欄があり毎日いろんな方の俳句や短歌を紹介されている毎朝そこから目を通す何年か前の夏に紹介されていたこの句の横には昼寝でもしているらしき幼子の写真おなかの所に夏掛け説明するだけヤボになるこの朝は気分がすこぶる良くなった出勤途上 ずっと口の中でつぶやいていた「俳句を無形文化遺産に」今朝のよみうり新聞の小さな囲み記事のタイトル芭蕉の生誕地伊賀で発起人会と今や俳句は日本だけのものではないらしい芭蕉の細道は 海を渡ることはなかった夢にも思わなかったにちがいない芭蕉が生きていたらなんと思うだろう世界の奥に細道を切り拓き世界の枯野をかけめぐり世界中に俳句の面白さを浸透させたかもしれない 四季のない国の枯野ぞかけめぐる wako天
2016.07.22
やじ悲し汗びっしょりのピッチャーに やじかなしあせびっしょりのピッチャーに テレビ中継画面より田中角栄本がいま売れているらしい本屋にもよく並んでいるあの人も現役の頃は汗かきだったある夏の日街中に立って演説する田中角栄の姿がテレビに映し出された例のダミ声で「まあ、みなさん・・・」とマイクを片手に一生懸命前を向いて集まった聴衆に声を張り上げているテレビ画面に顔がアップになると広い額にも 口髭のまわりにもネクタイから上はもう汗びっしょりそれを家のテレビで見ていた田中角栄のお母様はごくろうさん ごくろうさんと言いながら手ぬぐいを持ってきてアップになったテレビ画面の我が息子の額の汗を拭いてやったそうな一国の総理大臣だろうがペーペーのサラリーマンだろうが母親は同じなんだなあといつかどこかの本屋で立ち読みした記憶がよみがえった
2016.07.20
くちびるに秘密の薫り醸す夏 くちびるにひみつのかおりかもすなつ男はプロセスを面倒くさがり女は そのプロセスを愛する性急な男は嫌われる美しき孔雀の羽も蝉の鳴き声も 獣の遠吠えも フェロモンもハンマーオーキッドの涙ぐましき努力もプロセスを面倒くさがる男どもは女を愛する資格はないとそのうちあっさりとこの地上から滅びる運命にあるのかもしれないクワバラ クワバラ
2016.07.19
海の日やどこへいつたかよその国 うみのひやどこへいったかよそのくにドラマなどで若き頃の伊達政宗や織田信長が生まれて初めて海を見るシーンがあるそれが彼らの海の日であり海を見ることがなければ歴史もまた変わっていたかもしれない昔は海どころかあの山の向こうに何があるのかさえ知らずに一生を終える人がいたかもしれない自分の海の日ってあったかな?生まれた時から家の前に海があり潮騒を聞いて育ったその海に蛸のような生き物が棲息している驚きが僕にとって海の日だったような気がする
2016.07.18
今生に蝉は鳴きたり惜しみなく こんじょうにせみはなきたりおしみなく人間はそのままではいくら腕を羽ばたかせてもどんなに猛練習したって鳥や蝉のように空を飛ぶことはできない鳥や蝉はある程度羽が生え揃ったら誰に教えられなくても猛特訓しなくても飛ぶことができる素晴らしい能力を持って生まれてくるもちろん人間も近世紀になってやっと空を飛べるようになったけれどそれには精密で頑丈なでっかい機体とパイロットの猛烈な訓練と知識と経験が要る蝉にはそんなものは要らない生まれた時から美しい羽と飛ぶ能力を備えているそんな人間にはない素晴らしい能力をほんの短いひと夏の終わりと共にあっさりと捨て去るように蝉は土に還る惜しみもせずにそれにしても飛行機を発明するほど人間の持つ知恵や才能もすごいけれどほとんどの人間の能力は生まれた時から備わっているものは少ない人間の他の生物にはない話す能力も生まれるたびにそのつどみんな一から時間をかけて教育しなければ発揮されない面倒なことだもっとも赤ん坊が「こんにちわぁ~」と産まれてきたら助産婦さんでなくともびっくりするだろうけれど・・・
2016.07.17
闇夜田は見渡す限り夏蛙 やみよだはみわたすかぎりなつがえる代掻きの頃から夜ともなると 待ちかねたように蛙の声が一斉に聞こえてくる遠くの灯りよりも耳に眩しく響いてくるこれまでの目にやかましき色合いの花の季節から耳に命の讃歌が眩しい季節となる耳にサングラス
2016.07.16
初蝉のさざれ石とや君が代の はつせみのさざれいしとやきみがよの誰が鳴けと言ったわけでもない林木の枝先から蝉の声がするそういえば真新しい空蝉が苦行の形相のまま家の板壁にしがみついていたみな種のために個の命をチェーンのように延々と繋いでいる君が代の短き命 哀れむや俳句人病に倒れ部屋の窓から見える庭の景色だけを毎日眺むる生活になっても日々の変化を感じ取れる感性を磨いておこうこの輝く白い小さな花の裏にかくれた枝葉の思いこの季節初めて聞いた蝉の音の感動いつまでも
2016.07.14
鐘楼の撞木に蝉の初音かな しょうろうのしゅもくにせみのはつねかな隣の家で大工さんが家の修繕仕事庭の銀木犀の木に携帯を吊るしてときおりその携帯が鳴り大工さんが大きな声で話をするいつでも好きな場所から電話がかけられる生きているうちにそんな時代が来るとは夢にも思っていなかったつい十数年ほど前はまだせいぜいポケベルだった池に釣りに行くまわりには電話もなく世間から解放されていたそのうち隣のおじさんが何か独り言を言っていると思ったら携帯電話だった初めのうちは静かな湖面にうるさいな と思ったりした対岸でも話し声が水面を伝ってよく聞こえるそのうちみんなが持ち始めて慣れっこになってしまったそしてお互いにそっちの池はどうやとか連絡を取り合い呼出音も気にならなくなった技術の進歩は目覚ましく速いスピードで生活の中に浸透していく浸透してしまったものについていかなければ 電池の切れた携帯になるやがて地面にころがる蝉のように 鳴くこともできない今年も蝉が鳴きはじめた
2016.07.12
大陸の東の果ての梅雨晴間 たいりくのひがしのはてのつゆはれま人生は手漕ぎボートのようだと誰かが言っていた時は次々と背後から現れ風景の如く遠のいていくが未来は見えない未来は見えないからいいのかもしれない不安でもあるが 楽しみでもあるオールを漕ぐ手の平にできた血まめは自分を裏切らないそうあって欲しい
2016.07.12
をかしげなる飛べぬ毛虫の急ぎ足 おかしげなるとべぬけむしのいそぎあし君たちとは遠い子供のころからの付き合いだ私が大きくなる間に君たちは何度生まれ変わったのだろう思へば君たちの宿命も大変だな誰がその宿命を君たちに背負わせたのか知らないけれどそういう俺たち人間の宿命も大変なんだよたいがい嫌われ者の君たちだけどいずれは羽を持ち宙を飛べることの羨ましさそんな君たちがどこへ行くのか知らないけれどその急ぎ足を見ているとなんだかかわいくて滑稽で健気で思わず笑ってしまったよ足を止めてちょっとポーズでもとんなよ写真撮ってやるからハイ パチリ!
2016.07.10
はしゃぐほど悲しみ深き雲の峰 はしゃぐほどかなしみふかきくものみね何十億という人間の顔はおよそ何十億以上もあるずいぶんと前のことある電車に乗り合わせた向かいの席に座った女性の微笑みが忘れられない何かいいことがあったのだろう彼女はもう心底からの喜びの表情喜びをかみしめているのではないどちらかというと喜びをかみころしているよう心の襞からにじみ出る言葉では言い表せない柔和な面相仏の面相に似ている人間の持つ煩悩の表情には無限のものがある心底からはしゃいでいると思っていた人の何かの拍子に垣間見せた眉間の孤独の哀しみ仮面の下には人それぞれの事情があるこのブログも一年近くなるけれど誰も仮面を覗かせてくれないなあ!ちょっと飽きてきたなあ!ひとりだけの仮面舞踏会
2016.07.09
帰れんと聞いてや母の遠き声 かえれんときいてやははのとおきこえこの頃は電話ボックスに郷愁を感じるようになったいつ以来だろう公衆電話を使ったのはいつの間にか財布の中からテレホンカードも消えていた携帯 スマホの時代好きも嫌いもないネットの時代老いも若きも時代に取り残されまいと必死のぱっち「詳しくはホームページで・・・」当たり前のように言う若き日に小銭をいっぱい握りしめふる里に電話した日のこと盆や正月に帰れんと返事をした途端細く遠くなった電話口の母の声硬貨の落ちる音が早いほど耳に受話器を強く押し当てて早口になるふる里に声のみ帰した日の電話ボックス その姿は変われど 今もありき今も残るこの狭い箱の中にはいくつものドラマがあったような気がする
2016.07.08
手の平をすりぬけてゆく水羊羹 てのひらをすりぬけてゆくみずようかん真っ青な空が突如 暗雲に包まれたかと思うと空に穴でもあいたように雨が一気に落ちてくるそこらの水路はまたたく間に溢れだし場所によっては道が冠水するそれもつかの間すぐにパッタリと雨はやみ嘘のようにまた青い空が広がる警報を出す暇もない忘れた頃にやってくるのがいいことならタナボタでうれしいけれどこの頃の災害は忘れる間もなく 追い打ちをかけるようにやってくる何かが 何かに怒っているようにも見える何かが おかしい 天も地もでも「人間が一番 恐ろしかとよ・・・」ばあちゃんが生きていた頃 よくそうつぶやいていた昔は人間の持つ業や性の哀れさに 幾ばくかの同情の余地もあった今は訳の分からぬ誰でもよかった症候群失うものが何もなければ それにこしたことはない失うもののない淋しさは 時に罪もない他人を道連れに死のうとする俺にはまだまだ失うものがいっぱいあるありがたきかな
2016.07.07
忘却は思ひ出すより籠枕 ぼうきゃくはおもいだすよりかごまくら見えない一本の糸に操られたやせ細った魚体のはらわたを裂くとどす黒い血にまみれた思い出ばかりが抉りでてくる腹を空かした女は今日もまた魚臭い部屋で気の遠くなるような時間を鍋に閉じ込め とろ火でじっくりと煮込んでいる煮詰まってしまうのを女は腹を生臭くして待っている
2016.07.06
にがうりに苦き時代を笑ふなり にがうりににがきじだいをわらうなり♪ そんな時代もあったねと いつか笑って話せるさ ♪公園の小径どこかの若い夫婦がなかよく乳母車を押して通る俺たちにも あんな時代があったなあ結婚しない時代結婚しても子供をつくらない時代そして離婚する時代人様の生き方にケチをつける気はさらさらないけれど子供の成長を見守る喜びは親になってみないとわからない今 目の前を通り過ぎて行く若きおしどり夫婦にうしろから小さな心の声援を送る昔 押して通った乳母車の跡を懐かしむようにいつか笑い話に花がいっぱい咲きますように子供が大きくなった今では気にもならないのだけどファミリーレストランなどのレジーの横にはちょっとしたおもちゃを売っていたりする子供連れだと 会計をしている間に子供がそれを欲しそうにするなかには床に寝転がって駄々をこねる子も多い僕たちは妻が会計を済ます間に僕が子供の気を他にそらしてささーっと外に連れ出したりしたなあ・・・余計な所におもちゃなど置きやがって と思いながらファミレスのレジーの横のおもちゃ売り笑って話せるそんな時代 だったなあ・・・
2016.07.05
この夏は一度きりだと君の背に このなつはいちどきりだときみのせに夏は毎年やって来るけれど今年の夏は一度きり近くの公園の草むらで子供たちが虫捕りをしているもうすぐ蝉たちも鳴き始める蝉も毎年決まったように鳴きだすけれど去年と同じ蝉ではない蝉の抜け殻に驚く君たちに蝉の一生の話をしたところでなんになるどうせリセットボタンを押せば生き返ると思っている君たちが蝉を捕まえようとすること自体が滑稽に思えてくるせいぜい蝉にしょんべんかけられて取り逃がすのがおちだそれでもおじさんは思うのだこの暑い夏に屋外に出て 蝉の抜け殻に驚きしょんべんかけられながらでも蝉しぐれをじかに自分の耳で聞くことは君たちの頭葉の若き細胞をやさしく分裂させるそしてやがていつか過ぎた年月を道連れに鮮やかな人生のBGMとなって天から降ってくる蝉の一生を知ることはそれからでも遅くないしそんなに驚くことでもない虫取り網を持つ君の背中に
2016.07.04
手摺りなき捩花登る母の目は てすりなきねじばなのぼるははのめはこれまで植えるものといえばほとんど口に入るものが多かった母この頃やっと自分の目を楽しませるものを庭のあちこちに植えるようになったいっしょに散歩に出かけてもよくあちこちで立ち止まるもうあくせくと急ぐこともなくなった母は気の済むまで路傍の草花を愛でるやけなか やけなか と電柱の陰から顔を出す捩花に声をかける健気に咲く花を見つけるといつもそうつぶやくやけなか とは田舎の言葉で かわいそう という意味人知れずじっと咲く花に八十八年生きてきた自分自身を重ねているのかもしれない
2016.07.03
道端に蚯蚓が乾いて死んでゐる みちばたにみみずがかわいてしんでいる道端に大きな蚯蚓が乾いて死んでいる私を待つ時間がその向こうで大きく口を開けて待ち構えているようだぞっとするような蟻の大群が立ち止まってしまった私を一気に引きずり込もうとする閉め忘れた汗腺の隙間から冷たい汗が ひとすじ背中をつたっていった
2016.07.02
ああ涼し言葉涼しき自動ドア ああすずしことばすずしきじどうドアこの国には言わぬが花 という言葉があるけれど言わなくても 分かっていても口に出して言ってもらいたいのは何も恋愛ものだけではない夕食時娘らはテレビのバラエティー番組に目がくぎ付け笑いながら はしゃぎながら の食事も結構だけれどそんな時「お前ら うまいのか まずいのか?」とわざわざ訊く時がある妻が毎日の献立を考えて作った食事に何か意思表示しろ と言うそれでも「おいしいよ」と言うだけだけどそれだけでもいい飯を作る機械じゃねえんだからこの頃の高速道路の料金所にはETCが大幅に増えてきたうちも何年か前にETCに切り替えたけれどそれまでは一般のブースを通っていたその料金所の係員は料金のやり取りの際 必ずあいさつをしてくれた昔はそんなことはなかった「おはようございます」「あっ おはようございます」必ず返事をするようにしていた定年前後の年寄りがほとんどだったけれど返事を返すと 向こうもチラッとこちらの顔を見るその視線がうれしそう「お気をつけて」 おまけまで付いてくる口は災いの元とも言うけれどわざわざ言葉にすると思わぬ効果がある時もある世のお父様方たまには奥様に「愛してる」の一言でも言ってみては?ウィンクが返ってくるか 鍋が飛んでくるか・・・
2016.07.01
息止めて潜るが如く夏の草 いきとめてもぐるがごとくなつのくさ一面の菜の花畑も一面のれんげ畑もいいけれど一面の緑の原も心の深淵をなごませてくれるなんでもないようなことだけどわざわざ車を止めてまでこの一面の緑を見てみたいと思う衝動はなんだろう植物の大半に緑を配した創世主は何故人の血に赤い色を配したのだろう何故赤い色を見るとビクッとするのだろう草むらをのぞき込むとき何故海に潜るかのように息を止めるのだろう
2016.06.30
夏至過ぎてあとは過ぎゆくばかりなり げしすぎてあとはすぎゆくばかりなりよく生きて百歳とするならば人生の折り返し点となるけれどなかなかそうはうまくいかないだろうからもうとっくに半分は過ぎたと思ったほうが無難かもしれない人生を瓶に残ったウィスキーに例えるのも馬鹿らしいけれどもうかまだかはそのウィスキーの熟成にもよるしブレンドにもよる今年ももうあと半分 いやまだ半分なんやかんやうまいこと言うても時は決して立ち止まってはくれない時は立ち止まらないからウィスキーはうまい酒になる
2016.06.29
濁り鮒釣バカどもが夢の跡 にごりぶなつりばかどもがゆめのあと子供たちが小さい頃は家族でよく「釣りバカ日誌」の映画を楽しんだ大きくなってからはあまり見なくなったけれど西田敏行のファンだった結局 何作目くらいになったのだろう私の釣りバカ日誌ももう八冊目になっている釣行日 場所 天候 竿 仕掛け エサ などそれにその日に気づいた事 よかったこと 悪かったこと次回にやってみたいこと などを記しているあまり細か過ぎると長続きしないのでその辺は大雑把な所もあるそれでも後日改めて見てみると役立つことも多い懐かしさも加わる近ごろはこの懐かしさに思いを寄せることが多くなった日誌の行間にその時の場面や人の顔が浮かんでくる時もある脳梗塞で倒れたおじさんが足を引きずりながら毎回のぞきに来ていたことそしてリハビリを頑張ってまたいっしょに竿を出せた日のこと池で奥さんのことをいつも「うちのババアが・・・」と悪口ばかり言っていたおじいちゃんある日からぷっつりと来なくなったとうとうおだぶつしたかー と最初の頃はみんな冗談を言い合っていたけれどその奥さんが亡くなり 釣りもやめたと 人伝えに聞いてしんみりした日のこと並んで座った二人連れの 片方だけが釣れに釣れて何かのきっかけでつかみ合いの喧嘩になりみんなで仲裁した日のこと映画の釣りバカ日誌にも 思い出があるけれどこの日誌にもめくれば止まらないアルバムのような懐かしさがある
2016.06.27
汗かきの母の額や雨の花 あせかきのははのひたいやあめのはな額に汗して働く長らく労働者の美徳だった近ごろ何か古臭いもののように見てやしないか働く者は 知恵を出せ知恵の出ない者は 汗を出せ汗も出ない者は やめちまえ昔の上司の口癖だった知力と体力この頃は同じ知恵でも悪知恵ばかりはたらく者が年寄りを餌食にする振り込め詐欺悪知恵のはたらく者は汗などかかない他人の汗の代償に得たものを涼しい顔で奪うさも自分の知恵を誇らしげに騙される方が悪いのだと 罪の意識がないせめて 冷や汗くらいはかかせてやりたいものだなるほど今の社会は生き残るための知恵比べの時代だ額から流れ落ちる汗よりも脳みそにかく汗が要求される傾向にある額に汗して愚直に働く姿勢がなんだか敬遠されているような気がしてならない私は自分の母親の額の汗を誇りに思ってきた
2016.06.26
恋ごころ出会ひはいつも木下闇 こいごころであいはいつもこしたやみ子供たちが外で遊ばなくなって久しい昔はまわりにあるものを色々と使った遊びが多かった缶けりや 缶ぽっくりもそのひとつ缶けりは 鬼が缶から離れた隙に缶をける見つかるか 先に缶をけるか スリルがあった大きい子も小さい子もいっしょになって遊んだ缶も さば缶や蜜柑の缶詰がよかった缶ぽっくりは竹馬感覚で パカパカと缶の鳴る音が響いて楽しかったわざと水たまりを歩いたりした今では街中に空き缶はあふれているけれど遊ぶ子供たちは見かけない空き缶を集めて生活の糧にしている一部の人たちはいるけれど・・・
2016.06.25
父の手をひらきて蛍蚊帳の中 ちちのてをひらきてほたるかやのなか夏の季語は重なりやすい未熟なるものには 苦しい季節蚊帳この年代でもさすがに蚊帳の記憶はうすいそれでもかすかに残っているのはあの蚊帳の独特の匂いとひとつ屋根の下にもうひとつの小さな家 そう隠れ家か 秘密基地があってそこに親子して並んで眠れることが なんだかうれしかったなあ風呂あがりの母の石鹸のいいにおいもしてもう何十年も蚊帳は見かけなくなったけれどこの頃は世界の災害救援にひっぱりだこだと聞く蚊による 特に子供たちの伝染病予防に役立っているとこれもなんだかうれしくなる季語はいくら重なってもいいからあの頃の蚊帳の中の幸せをもう一度味わってみたいものだ
2016.06.24
どくだみや踏み場なくして通せんぼ どくだみやふみばなくしてとおせんぼ妻の客 来たる迎えに出てくれと言うので玄関へ話せば長くなるけれどあいにく今日は事情があって玄関からは入れないので裏手に回ってもらうよく考えたら裏に通じる通路はただいまドクダミがいっぱい「これ 踏んでもいいですから・・・」と言っても 少し躊躇されている遠慮されていると思って何度目かの誘いでやっとのことそれでも ドクダミの合間をぬって通って来られたよく見ると高価そうなよそ行きのハイヒールドクダミを踏みつける心配よりも靴に付くドクダミの移り香を気になさっていたらしい後で妻から聞いた話申し訳ないことをしたドクダミにはなんの罪もないけれど私には彼女の落とした香水のかほりがいっときドクダミを忘れさせてくれたけれどはたしてドクダミはどう思ったか・・・
2016.06.23
思ひ出は遠くに見へて蚊帳蛍 おもいではとおくにみえてかやぼたるいつものひょうたん池いろんな人が釣りに来るある日 池の対岸に小学3年生くらいの一団がやって来た男の子女の子合わせて20人くらいでひとりの若い男の先生は全ての子供に小さな竿を配り えさの付け方を教えて釣りを始めたしばらくすると子供たちは(先生釣れへん 先生糸がもつれた 先生これどうするの・・・)とそれはもうあちこちから声が掛かって先生は大忙しそれでも(どれどれ)と必ず一人ひとり様子を見に行く魚が釣れると先生は真っ先に駆けつけ(おう!でかい!よう釣ったなあ)と一人ひとり必ず何かをほめるそして(ハイ チーズ)と言って釣れた子の写真を撮ってやる釣れた子だけでなく(おう みんな入れ入れ)と言ってまわりの子も集まって写真を撮る魚が釣れるたびに輪ができるおよそ一時間くらいのほんの短い釣りタイムだったけれどこの先生が子供たちにどれだけ慕われているかということが実によく伝わってきた最後に先生はまわりの釣師の人たちに「大変お騒がせしました」と礼を述べて帰って行かれたいえいえお礼を言いたいのはこっちの方です総じて年寄りの多いひょうたん池でなんとなく清々しい一日となったのは僕だけではなかったように思う
2016.06.22
一年が昨日の如くのうぜん花 いちねんがきのうのごとくのうぜんか過ぎ去りし日が昨日のことのように思えるのは何もこの花だけではないのはわかっている下の娘が生まれたのは予定日より早くて僕はあわてて仕事先から妻のいる産院に駆け付けたその産院の長い廊下の向こうにまだヨチヨチ歩きの上の娘がいて僕を見つけるとうれしそうに パパ~と叫びながら走って来る(2,3歳ころまでは私もパパと呼ばれていた)その走り方が今にも転びそうで危なっかしくて走らんでいいよと言ったけれど彼女はそのまま両手を上げて走って来るとしゃがんだ僕の胸に飛び込んだ妹ができる喜びもあったのだろう僕は彼女の両脇をかかえて高々と抱き上げたこの時に生まれた下の娘が小学校の下級生のころだったか運動会のかけっこで一番になるのだとよく近くの公園でいっしょに練習をしたその娘が運動会のかけっこで一番になった彼女はゴールするとそのままグラウンドを横切って応援席の僕の所まで走って来た走りながら僕の胸に飛び込んだ僕は彼女の両脇をかかえてぐるぐると回った過ぎ去りし日が昨日のことのように思えるのはこの花だけではないけれど何故かこの花を見るとうれしかったことを書きたくなる凌霄花
2016.06.21
焼酎や夜行列車の鳴く夜に しょうちゅうややこうれっしゃのなくよるに僕の思い出にはどうも嗅覚が大きく影響していることが多い正月の餅には湯気の上がる蒸篭(せいろ)の匂い山から切ってきた竹には友だちと釣りで遊んだ磯の匂い彼女のくれた手紙に同封されていたくちなしの花今でも真っ白な便せんを見ると 条件反射のように香る花乳の匂いは初めて抱いたわが子の両腕をすり抜けそうな命の重みそして 夜行列車に焼酎の匂いもある小学校四年生の時に九州の南の果てから大阪へ夜行列車に揺られて家族で出てきた夜行列車といっても寝台などに乗れる身分ではない家族五人 狭い座席に座り一晩以上かけての旅だった必要最低限の家財道具は先に大阪に出ていた父のもとに送っていたけれど見送りの人たちにもらった土産もあり 荷物も多かったその中に焼酎の一升瓶が二本あった荷物になるからと断ったけれど親戚の人が田舎で作った酒だからと言ってきかなかった南国の田舎では酒といえば夏でも冬でも焼酎のことであり日本酒などまず作っていなかった冠婚葬祭もみな焼酎だったその風呂敷に包んだ二本の一升瓶をぶら下げて 父は列車に乗り込んだあの頃はまだ蒸気機関車で窓を閉め忘れるとトンネルに入るたびに黒い煙が入ってきたどの辺を走っていた時だろう寝る所の足場が狭いので 床に置いていた一升瓶を父が網棚に上げようとした時何かの拍子に列車が大きく揺れて 父は一升瓶を床に落としてしまったたちまちあの芋焼酎独特の匂いがそこら中に広がった父と母はまわりの人に平謝りに謝りながら 手ぬぐいだけでなくみなの着替えの下着までつぎ込んで 床にこぼれた焼酎を拭いてまわったそれでも匂いは残ったあからさまにいやな顔をするおばちゃんもいたけれど酒の好きそうなおじさんや まわりを一緒に拭いてくれる人もいたもったいないことをしたと父に言っては笑っていた夜遅かったのだろう僕はその焼酎の匂いよりも睡魔に負けて四角い座席に不自由な格好で眠ってしまったので後のことはよく覚えていない列車のゴトンゴトンという音と 時折 窓外を飛んでいく踏切の鐘の音と酒の匂いに包まれて眠ったあとで聞いた話では大人たちはあれから結局割れなかったもう一本の焼酎で酒盛りになったらしい父も好きな方だった割れた一升瓶と空の一升瓶をぶら下げてわが家族は大阪の地に降り立った小さい頃から焼酎を飲む父のそばにいたのでその匂いには慣れていたのだろう焼酎の匂いだけなら どうってことはないけれどそれに列車という言葉がつくとたちまちあのすすの匂いと焼酎の匂いの揺れる車内が今でも眼前に現れるのである
2016.06.20
イチローの白髪におもふ半夏生 イチローのしらがにおもうはんげしょうこれはと思って撮った写真はこれはと思ったときに使わないとあとで そのうちに と思っているとなんでもない平凡な一枚になりさがってしまう逆に何気なく撮った写真が時には思わぬ展開に結び付くこともあるけれど大方の撮りだめの写真はパソコンやメモリーの肥やしになっていることが多いこれはと思ったときには見えない何かを心の中で無意識に感じているのだろうそれが写真にのり移っていないものがおそらく半導体の肥やしになっているのかもしれない何も肥やしが悪いと言っているわけではない芽が出ないだけのことである
2016.06.19
電柱も山もひしゃげて梅雨鯰 でんちゅうもやまもひしゃげてつゆなまず用事で妻が一人で実家に帰っている今夜はお刺身が食べたいと言う娘たち仕事の帰りにハマチとサーモンとマグロのブロックを買ってきてあとは娘たちにまかせたにぎにぎしい声が台所から響く大皿に敷いた大根のけんの上にこれはまた男料理のような分厚い肉が盛られたそれでも旨そうじゃねえかと三人で囲んだ夜の卓大葉の青さが初々しく食の灯りに照らされてまだまだ嫁には行けんぞ お前たちコップに冷の銘酒が美味かった
2016.06.17
茄子の葉を座布団にして花の咲く なすのはをざぶとんにしてはなのさく茄子のうまさ二十四にして知りテレビでどこかの芸人が言っていた確かに子供には人気がないれんこんや竹の子 ごぼうににんじん ピーマン自分も子供の頃 好きではなかったでも今はどれもこれも実においしい焼きナス たまらんこういったものはあるていど社会にもまれないとその旨みが分からないのかも知れない妻がこんなおいしいものがどうしてわからん と言う娘がこれのどこがおいしいの?と反論する「茄子の葉は座布団にせよ」と言う開花するまでに枝葉を十分に発達させると うまいなすびができると言う味覚も身体を十分に発達させないとその感覚が100%機能しないのかもしれない娘も早くなすびの味のわかる女になってもらいたい黙っていてもおそらくいくつかの涙の味を調味料にして 心が座布団になったころしみじみその味をかみしめることになるのかもしれない
2016.06.14
網戸越ししばし聞き入る雨の音 あみどごししばしききいるあめのおと寝間の外から雨の音朝から降ったりやんだりの雨その音が聞きたくてそっと雨戸を開けてみる夜の闇網戸越しに雨の音だけがする庭の梅の木にもつわの葉っぱにも紫蘭の葉にも夾竹桃にも下草の竜のひげにも今宵はひたすら相等しく雨の降る静けさの中に 満ち足りた眠りがある口に今夜食ったカレーの匂いがするそういえば無性に野菜が食いたくなる時がある身体が欲しているのだろう無性に雨音の恋しい夜心が 枯れかかっているのかも知れない
2016.06.13
ぽっかりと空いた心やあめんぼう ぽっかりとあいたこころやあめんぼうふいに川面をのぞく今までそこにいたあめんぼが四方に散り水面だけが残る風がやみ波が消え水面に不気味な二つの目だけが残る空にぽっかり白い雲
2016.06.12
梅雨雲をぼたもちにして棚の下 つゆぐもをぼたもちにしてたなのした今日は昼からの釣行雨の落ちてきそうな天気朝からの人はなかなか釣れていないらしい釣人のずらりと並んだ堰堤(えんてい)に入る遅れて入るので隣の人に何尺か訊く13尺 同じ長さの竿を出す本当はもう少し長いのが好きなのだが・・・短尺の好きな人もいれば長竿の好きな人もいるどちらかと言えば長い方が好きだ魚を掛けた時の取り込みの感触がたまらない短い竿は楽だけれども どうも竿で釣っている感じがしない釣り支度が済むと小雨が落ちてきたパラソルを広げて釣り開始この前の仕掛けエサで少し深めの棚から始める30分位エサ打ちしたころ モズッとした当たりで中型がのってきた朝から釣れない周りの人に気を使いながら 静かに取り込むしばらくしてまた釣れた「まぐれ まぐれ」と心にもないことを言いながら取り込む打ち返すゆっくりとウキがなじんでゆくふわりと少しだけ戻したあと シュパッとウキが消し込んだまた釣れちまった 困ったもんだ打ち返すもうしばらく当たらんどいてと思う間もなく またウキは水中にもぐってしまった竿を上げたくないなあいやいや?上げるとこれまた40cm近い良型が大きな口を開けて上がってきた素直に喜べない辛さ 困ったもんだ打ち返す たびに釣れてくるどうなってんの?まわりはしまいに無口になり いや~な空気とうとう竿を仕舞い始めた困ったもんだ
2016.06.11
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