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2008.02.20
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 コナラの葉裏にいるアブラムシ類の補食者として、既に何種かの昆虫を紹介したが、かなり沢山居るのにも拘わらずまだ掲載していない虫がある。ヒラタアブ類の幼虫である。

 葉裏には無色で半透明の蠕虫が多かった。我が家の庭やその周辺にいるヒラタアブの大半はホソヒラタアブなので、この透明な蠕虫も、確証はないが、恐らくはホソヒラタアブの幼虫と思われる。


ヒラタアブの終齢幼虫
囲蛹になる直前のヒラタアブの幼虫.右が頭(2007/11/08)



 この幼虫、前日から殆ど動いて居らず、また、その直ぐ横に前にはなかった脱糞の形跡があるので、囲蛹になる直前と判断した。

 次の日見に行くと、予想通りチャンと囲蛹になっていた。半透明の綺麗な囲蛹である。これから本当にホソヒラタアブが出て来るかを確認するために、早速葉を切り取ってシャーレに確保した。

ヒラタアブの囲蛹1
上から見たヒラタアブの囲蛹.左が頭(2007/11/09)



 ヒラタアブ類の囲蛹は既に紹介済みだが、この囲蛹は特に綺麗なので、3方向から撮った写真を載せることにした。

ヒラタアブの囲蛹2
横から見たヒラタアブの囲蛹.眼の様なのは後気門(2007/11/09)



 前にも書いた通り、カタツムリの眼の様に見えるのは後気門で体の後方、丸いお尻の様なのが前方である。

ヒラタアブの囲蛹
前から見たヒラタアブの囲蛹.丸い方が前方(2007/11/09)



 上の写真では、アブラムシの有翅虫が「これは何だろう?」と言う様な感じで、兄弟の仇敵であるヒラタアブの囲蛹に触れている。何となく、滑稽な図。

コバチの出て来たヒラタアブの囲蛹殻1
コバチの出て来た空の囲蛹(2007/11/26)



 さて、これまでの経験からすると、囲蛹になった後約10日で成虫が出て来るはずである。しかし、10日経っても、2週間経っても何も出てこない。どうやら、この囲蛹も寄生バチにやられている様である。



 この囲蛹の場合は、16日目になって30頭ほどのコバチが出て来た。コバチの形態は、一見したところでは、以前に別の囲蛹から出て来たコバチとよく似ている。上に示したのは既にコバチの出て来た空の囲蛹である。

ヒラタアブの囲蛹から出て来たコバチ1
出て来たコバチ、その1.触角が黒くその間隔は狭い.体長約1.5mm(2007/11/24)



 一寸見ただけでは、何処にもコバチの出て来た穴が見当たらないが、前の方から見ると小さな穴が開いている。他に穴は無かったので、この穴からコバチが出て来たのであろう。

コバチの出て来たヒラタアブの囲蛹殻2
コバチの出来てた穴が見える(2007/11/26)


 このコバチ、一見似てはいるが、良く見てみると3種類に分けられる。最初に示したコバチは、触角が黒く、その各節はほぼ同じ長さであり、2本の触角の間は狭い、また、脚には黄色い部分がある。2番目(下)は最初の個体と似ているが、触角の色が薄い。また、3番目に示した個体では、触角の間隔が広く、その第1節(写真で見たとき:柄節)は長く、また、第3節(写真で見たとき)以降は色が薄い。


ヒラタアブの囲蛹から出て来たコバチ2
出て来たコバチ、その2.触角は淡色で間隔は狭い(2007/11/24)



 ホソヒラタアブの蛹に寄生するコバチ類としては、ヒラタアブトビコバチ(トビコバチ科)とヒラタアブコガネコバチ(コガネコバチ科)がよく知られている。しかし、これらの写真を見ると何れの個体も胸部と腹部が接しているので、腹部に柄のあるヒラタアブコガネコバチではない様に見える。

 3番目の個体は中脚脛節の距(棘の様なもの)が長く、これはほぼ間違いなくトビコバチ科に属すと思われる。しかし、図鑑に拠れば、ヒラタアブトビコバチは全身黒色で単眼は正三角形を描くとされている。この3番目のトビコバチは、体はやや赤味(黄味)を帯びていて、脚には黄色い部分が多く、また、写真の撮影角度にも拠るが、単眼は2等辺三角形に配列している様に見える。個体変異がどの程度あるのか良く分からないが、どうもヒラタアブトビコバチではないらしい。

 結局、例によって、出て来たコバチの種類は分からない、と言うことと相成る。

ヒラタアブの囲蛹から出て来たコバチ3
出て来たコバチ、その3.触角は淡色でその間隔は広い(2007/11/24)



 ところで、読者諸賢はこのコバチの出て来た空の囲蛹を見て少し変だとお思いにならないであろうか? 囲蛹の内側に妙な粒々が沢山くっ付いている。普通の寄生者が出て来た場合にはこんなものは見られない。しかし、これより少し前にやはりコバチが出て来た別の囲蛹でも同様の粒々が認められた。コバチが出て来たヒラタアブの囲蛹には、この様な「構造」が見られることが屡々あるらしい。一体何であろうか。


コバチの出て来たヒラタアブの囲蛹殻4
空の囲蛹の内側.蠕虫の死骸の様な物が沢山ある(2007/11/26)



 中を確かめるために、囲蛹の殻を破いて、中を見てみた。丸い粒々の様に見えたのは、実際丸い粒々であった。これは、ヒョッとして、ハチの幼虫(蠕虫)の死骸ではないであろうか。

 寄生には1つの寄生主に1つの寄生者が付く単寄生と複数の寄生者が付く多寄生がある。ヒメバチなどは単寄生で、もし寄生者が複数あった場合は、初齢の時に片方がもう一方を殺してしまう。ブランコヤドリバエなどは単寄生か多寄生で、一つの蛹から1~3匹程度の蠕虫が出て来る。この場合は複数の卵から生じた多寄生である。一方、このヒラタアブに寄生するコバチや多くのコマユバチ等の場合は勿論多寄生だが、卵は基本的に1個で、1つの卵から通常数10の個体を生じる(キンウワバトビコバチの様に1000以上もの個体を生じる例もある)。これを多胚生殖、或いは、単に多胚と言う。人間の一卵性双生児も多胚の1種である。

 卵には細胞質の多い動物極と卵黄に富む植物極がある。第3卵割ではこの両極間で分割が起こるので、どうしても不等割となり、割球は全能性を失ってしまう。だから、普通の多胚はアルマジロの様に4個体が限界なのだが、コバチの様な場合は何故か1000以上もの個体を生ずることも可能である。

 ・・・とすると、囲蛹の内側にくっ付いているのは、多胚で余りに多くの個体を生じた為、成虫になる途中で食糧不足になって死んでしまった幼虫なのであろうか?

 ところが、自然と言うのはもっとややこしい場合もあるのである。

コバチの出て来たヒラタアブの囲蛹殻5
拡大して見た「蠕虫」(2007/11/26)



 キンウワバトビコバチの場合は、多胚により1個の卵から1000以上もの個体を生じる。しかし、その全てが成虫になる訳ではない。生じた個体は遺伝子的には皆均一で所謂クローンであるが、ミツバチやある種のアブラムシの様な階級分化を生じ、一部の個体は生殖細胞を持たず、「兵隊」として他種や同種他個体の卵から生じた幼虫を探索してこれを殲滅するのを専らとする。この兵隊は成虫にはならず幼虫のまま死んでしまう(この兵隊の機能は雌雄で異なり、また、発生段階に因り2種類の兵隊がある。詳しくは「キンウワバトビコバチ」で検索して他の適切なサイトを参照サレ度)。

 写真に見られる幼虫の死骸の様に見える粒々は、実はこの兵隊の死骸ではないかとも思われるのだが、そうだとするとまた別の問題点が出て来る。兵隊がいれば異種の幼虫は殲滅されているはずであり、また、同一の親から生じた雄と雌の幼虫が共存した場合は、雄の幼虫は殺されてその成虫は殆ど出て来ないとのこと。だから、出て来るコバチは基本的に1種類の筈である。ところが、このヒラタアブに寄生したコバチの場合は、写真で見る様に明らかに3つの種類がある。この内2種類は雌雄の違いとしても、その比率には大した差がない・・・。

 まァ、この兵隊の話は、キンウワバトビコバチと言うキンウワバ類(ヤガ科キンウワバ亜科)に寄生するトビコバチの話なので、このヒラタアブの囲蛹から出て来たコバチの場合は少し事情が違うのかも知れない。何れにせよ、分からないことだらけで、今回の話も「虫の事情は複雑奇怪」で終わるしかない。ヤレヤレ・・・。







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最終更新日  2008.02.20 08:30:21
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