全554件 (554件中 1-50件目)
今回も、前回と同じく、4年前の6月に撮影した虫を紹介する。 虫屋の大敵、ヒメマルカツオブシムシ(Anthrenus verbasci)である。この虫、この辺りでは春に咲くハルジオン等の花に良く見られるが、今日紹介するのはイタリアンパセリの花に来たものである。ヒメマルカツオブシムシ(Anthrenus verbasci)イタリアンパセリの花の上に16頭も居る(写真クリックで拡大表示)(2012/06/08) 前年に植えたイタリアンパセリが年を越して開花し、それに集っていた。もう紹介済みだと思っていたのだが(実は別のWeblogであった)、余りに沢山来ているので、つい写真を撮ってしまった。上の写真中に16頭も居る。ヒメマルカツオブシムシ.触角がぼけている(写真クリックで拡大表示)(2012/06/08) 体長は2.5mm前後、色や触角の形状は異なるが、体の輪郭はルリマルノミハムシに似ている。ルリマルノミハムシの方が少し大きい。 保育社の「原色日本甲虫図鑑III」に拠れば、体長は2.0から3.2mm、個体差が大きい。これは、一枚目の写真を見ても良く分かる。この手の虫は、餌が少なくても途中で死なないで何とか成虫になる様で、それで幼虫時の栄養状態によって大きさに大差が出る。ヒメマルカツオブシムシ.色がかなり違う(写真クリックで拡大表示)(2012/06/08) カツオブシムシ科(Dermestidae)、マルカツオブシムシ属(Anthrenus)に属す。上科については、上記図鑑ではカツオブシムシ上科(Dermestoidea)となっているが、どうも現在ではナガシンクイムシ上科(Bostrichoidea)に入れるのが普通らしい。この上科には、以前紹介した我が家の大害虫ジンサンシバンムシが属すシバンムシ科(Anobiidae)、乾燥標本を食害するその名もヒョウホンムシ科等、乾燥動植物や木材の大害虫がゴロゴロしている。横から見たヒメマルカツオブシムシ(写真クリックで拡大表示)(2012/06/08) この手の屋内害虫に付いては、別のWeblogで少し詳しく書いたので、興味のある方は此方をどうぞ。
2016.07.07
コメント(2)
4年以上掲載をサボっていたが、ネタが切れて掲載出来なくなった訳ではない。「写真倉庫」の中には、出番を待っている写真が山ほど詰まっているのである。今日はその中から、ほぼ丁度4年前の2012年6月23日に撮影した、キスジトラカミキリ(Cyrtoclytus caproides)を紹介する。 体長は約17mm、トラカミキリとしては中位の大きさである。キスジトラカミキリ(Cyrtoclytus caproides)(写真クリックで拡大表示)(2012/06/23) 我が家のクチナシの上に留まっていた。実は、我が家だけでなく、この辺りでキスジトラカミキリを見たのはこれが初めてだと思う。これまで我が家で記録のあるトラカミキリと云えば、タケトラとエグリトラ位なもので、トラカミキリ類の記録は少ない。しかも、エグリトラは、子供の頃はかなり普通であったが、私がこの家に戻ってきてからは一度も見ていない。斜め上から見たキスジトラカミキリ(写真クリックで拡大表示)(2012/06/23) 尤も、我が家から2町ほど北へ行った角にあるクワの木に、トラカミキリとしては大型のトラフカミキリ(只の「トラカミキリ」とも呼ばれる、クワの害虫として有名)が毎年発生していたり、家にブドウ棚の有る同じ町内に住む友人は、毎年庭でブドウトラカミキリ(葡萄の害虫だが、かなりの美形)を採集していた。 また、トラカミキリではないが、かつて方々に植えられていたイチジクの木には、シロスジカミキリ、ゴマダラカミキリ、キボシカミキリ、クワカミキリ等がよく見られた(何れのカミキリも広食性だが、イチジクをかなり好む)。特定の樹種のある所に行けばそれなりのカミキリムシが居る様である。しかし、我が家にはそれらの「特定の樹種」がない。横から見たキスジトラカミキリ(写真クリックで拡大表示)(2012/06/23) 調べて見ると、キスジトラカミキリの幼虫は、特定の樹種ではなく、ケヤキ、サクラ、カキ、コナラ、カバノキ類等、様々な樹種の伐採木を食すとのこと。庭の広かった改築前の家では、毎年2回植木の手入れをして、切った枝は風呂の燃料として庭の隅に束ねて山積みにしていた。そこから発生する可能性もあったと思うが、見た記憶はない。或いは、只忘れているだけなのかも知れないし、枝の太さがカミキリの好みでなかった可能性も高い(これが重要)。反対側(写真クリックで拡大表示)(2012/06/23) トラカミキリ類は、カミキリムシとしては触角が短く、動作も機敏で、一種独特の余りカミキリムシらしくない雰囲気を持つ。黒っぽい体に黄色の横縞が有る種が多いので「虎」カミキリなのであろう。一見似た様な種類が多いが、良く見ると、それぞれの種で模様が結構違うので、一般に判別は容易である。キスジトラカミキリの顔(写真クリックで拡大表示)(2012/06/23) トラカミキリ類は、模様がある種のハチ類に多少似ているので、よくハチを擬態していると言われる。しかし、子供の頃にハチばかり採集していた私には、ハチに似ているとは思えない。 擬態と言うのは、その捕食者をかなり擬人化した解釈であり、全部を否定はしないが、かなり怪しい概念だと思う。人間から見て似ていると感じられるだけで、捕食者と人間では、見える光の波長も違うであろうし、どの様に見えているのか分からないではないか。
2016.06.29
コメント(0)
先日、久しぶりに投稿したが、実は同じ日に別の綺麗な虫をもう1種撮ってある。 ベッコウガガンボ(Dictenidia pictipennis)である。ガガンボ科(Tipulidae)ガガンボ亜科(Tipulinae)Ctenophorini(クシヒゲガガンボ族?)に属す。以前、紹介したホリカワクシヒゲガガンボと同族だが同属ではない。 ホリカワクシヒゲガガンボより少し小さい。雌なので、触角は単純で短いが、雄では「クシヒゲ」状となる。ベッコウガガンボ(Dictenidia pictipennis)(写真クリックで拡大表示)(2016/06/03) 少し弱っていたのか高く飛べないので、捕虫網で確保して、居間のカーテンに留まらせて撮影した。 本当は、更に部分拡大写真を撮るつもりだったのだが、カーテンの下の落ちた後、何処かへ消えてしまった。ガガンボは何処、ガガンボは居ずや、室内隈なく尋ぬる三度、呼べど答えず探せど見えず。 そんな訳で残念ながら、写真は1枚しかない。
2016.06.26
コメント(8)
特に是と云った心境の変化もないのだが、Weblogを再開することにした。尤も、今後どの程度続くかは自分にも分からない。少なくとも、毎日書き込む様なことはない、とだけは言える。この記事も、写真を撮ってから、既に3週間も経っている。 前回の書き込みは平成24年4月1日だから、4年以上ほったらかしにして居たことになる。この間、読者諸賢には何かと御心配頂いた様で、感謝の念に堪えない。 久しぶりに書く気になったのは、これまで我が家で見たことのないウラナミアカシジミ(Japonica saepestriata)が出現したからである。下の写真では、既に御臨終であるが、その前日に生きている所を見つけ、急いでカメラを持って来たのだが、もう見当たらなかった。ウラナミアカシジミ(Japonica saepestriata)(写真クリックで拡大表示)(2016/06/03) 次の日に我が家の簡易雨量計(円筒形の屑籠)を動かした時、その下から、前日の個体と同じ翅の破れ方をしたウラナミアカシジミが、上の写真の様な状態で発見された。 ウラナミアカシジミは、私が小学生の頃は、近くの「成城3丁目緑地」の辺り(当時は只の雑木林)に居たことが分かっていたが、その後絶滅したものと思っていた。しかし、その緑地の傍に住む友人が、最近は沢山居ると云うので喜んでいたのだが、まさかわが家の庭に現れるとは思いもよらなかった。 ウラナミアカシジミは、緑色の光沢はないが、ゼフィルスの仲間である。この辺りに現在も生息しているゼフ(ゼフィルス)としては、他にミズイロオナガ(Antigius attilia)があるが、勿論、我が家で見たことはない。アカシジミ(Japonica lutea)は、以前は少し北の方(調布市)へ行った「中央電気通信学園」(現NTT中央研修センタ)に沢山居て、夕方になると敷地内のコナラやクヌギの梢辺りを乱舞していたものだが、現在ではどうだか不明である。ゼフとしてはかなり異端のウラゴマダラシジミ(Artopoetes pryeri)も少数ながら、通信学園に隣接する谷に棲んでいた。しかし、調布市が、食草であるイボタノキの群落を全部伐採して、平凡な公園(調布市入間公園)にしてしまったことにより、いとも簡単に絶滅してしまった。この当時の市長は、確か古い農家や林の保存に尽力した人物であった様に記憶しているが、全く残念な事をしたものである。イボタノキならば、庭木としても使えなくもないので、それを活かして公園にすることも出来たのではないだろうか。
2016.06.24
コメント(6)
これまで、楽天フォトを使用してWeblogを書いて来たが、今日、2012年4月1日より、楽天フォトは廃止となった。今まで楽天フォトに入れた写真はどうなるのかと思ったら、楽天の案内に「楽天フォトの写真アップロードサービス(50KBまで)は、楽天ブログに引継ぎ提供させていただきます」とある。しかし、小生は有料サービスで容量を増やしたので、約126MBの写真が楽天フォト内にある。50MBを越えた分は一体どうなるのか。 問い合わせてみたところ、「(前略)ブログにアップする画像が、現時点で既ににアップされている画像容量も含め、合計しても、50MB以内であれば、4月1日以降も、楽天ブログのフォト機能のみでご利用いただくことは可能でございます.しかしながら楽天フォト有料サービス終了後、50MBを越えた容量で画像登録がある有料会員様の場合、閲覧・削除は可能ですが、画像の投稿はできなくなってしまいます.そのため楽天写真館のご利用をご検討いただきますようお願い申しあげます(後略)」とのことであった。 其処で、楽天写真館に写真を入れてからWeblogに取り込むと、何と、貼られた画像は既に縮小されており、拡大が出来ない。ジンチョウゲの花.日当たりが悪いので影が少し写っている写真をクリックしても、別画面に同じ写真が出るだけ(写真クリックしても拡大不可)(2012/03/29) 上がその縮小された画像である。試しに写真をクリックしてみて頂きたい。同じ大きさの写真が別画面に現れるだけである。 この点に付いてやはり楽天に問い合わせたところ(実は、此方の問い合わせの方が先)、「(前略)縮小せずにブログ内へ取り込む機能は、現在網羅されておりません.予めご了承ください.有料プランでご利用いただいているフォトにつきましても、4/1以降も現在と同じ機能のため、拡大表示はできません.しかしながら、この度いただきました「縮小せずにブログ内へ取り込む機能の設置」に関するご意見は、楽天ブログをご利用のユーザ様からの貴重なご提案として承り、今後のシステム改善やサービス向上のため参考とさせていただきたく存じます(後略)」との御回答を得た。些か分かりづらい日本語だが、これまで拡大出来たのが4月1日からは出来なくなるのか? 拙Weblogは詳細な写真を拡大表示出来るところがミソである。拡大機能が無くなれば、他所に移らなくてはならないし、今まで書いた記事も何処かに避難させねばならない。「緊急避難」は一応済ませたが、今まで拡大出来たものを出来なくなるするには、新しく縮小した写真を用意して、HTML(ソースファイル)中のファイル名をそれに書き換えるか、或いは、サーバーの方でアクセスがあった時に一々縮小しなければならないだろう。縮小処理はサーバーに相当な負担を掛けるだろうし、また、HTMLを書き換える様な面倒なことをするとは考えられない。 其処で、今日4月1日まで待って、これまでに書いた記事の写真をクリックしてみた。・・・以前と同じ様に拡大出来る。先ずは一安心。 次は、楽天写真館に入れた写真を原寸で取り込めるかである。普通に取り込んだ場合のソースファイル(HTML)を調べて見ると、画像のファイル名は「image.space.rakuten.co.jp/d/strg/ctrl/2/ac1a8251393e5b95c686da018faa4bcc8c9e29b2.64.2.2.2.jpg?thum=53」となっている。どうも、この後に付いた「?thum=53」が怪しい。其処で、これを取り除いて見た。結果は下の通り「?thum=53」を取り除いた.写真館に入れたのと同じ大きさの写真が取り込まれており、クリックすれば、その原画が表示される(写真クリックで拡大表示)(2012/03/29) チャンと原寸でロードされており、拡大出来る。別にファイル名を書き換えたからといって、楽天ブログの規約に抵触することもないだろう。先ずは目出度し目出度し。 尚、拙Weblogではこれを幅500ピクセルに縮小して表示しているが、楽天写真館からロードする場合には、widthとheightの指定が無いので、これを付け加える必要がある。この写真の場合、原寸は1000×800ピクセルなので、幅500ピクセルに縮小する為、<img>タグの中に「width="500" height="400"」を書き加える必要がある(heightは無理に書かなくても良い)。この方法は、楽天写真館から上手く写真を取り込めない(縦横比を一方的に決められてしまうらしい)で困っている人がかなり居る様なので、その人達の参考にもなると思う。 ところで、写真のジンチョウゲである。ず~と前から植えてあるのだが、位置的に日陰になる時間帯が長く、また、単純な花なので、花を解剖して内部を見たりしなければ面白くないであろう。そう思って今まで掲載しなかった。 今回は、楽天フォトから楽天写真館への移行に伴う問題について書くのが主目的で、花の方は説明の為に撮っただけである。来年か再来年にでも、解剖して超接写をしてみようと思っているが、最近の更新頻度から察するに、本当に掲載するかどうか、かなり怪しい。
2012.04.01
コメント(13)
楽天ブログがメールや足跡機能を削除してからすっかりやる気を無くし、また、最近はWeblogに割く時間が殆ど無かった為、2月の更新は零回、3月もそろそろ4月を迎える今日が初回である。尤も、昨年の記録を見ると2月は2回、3月も3回しか更新していないから、それ程異常な状態、と云う訳ではない。全体として、此処2年程は更新頻度が低下しているだけのことであろう。 2ヶ月と10日ぶりの更新は、虫ではなく草本植物のクリスマスローズの実生。これも記録を調べると、草本植物を紹介したのは2010年4月24日の「トキワハゼ」が最後だから、草本は約2年ぶり登場である。 昨年の3月6日にクリスマスローズに吸蜜に来た「セイヨウミツバチ」を掲載した。クリスマスローズも基本的に虫媒花なのか、昨年は例年になく沢山の種子が着いた(その種子が地面に落ちている写真も撮ろうかと思ったのだが、結局撮らなかった)。 その結果が、今日紹介するスザマジイ数の実生である。昨年のセイヨウミツバチの訪花により、異常な数の実生が出現した(写真クリックで拡大表示)(2012/03/14) クリスマスローズは、我が家の庭の「優占種」で何十株もあり、その根元付近は、程度の差はあるものの、総て写真に近い密度で実生が生じている。恐らく、全部で数千株はあるであろう。花が地面に倒れた状態で種子がこぼれ落ちたらしい(写真クリックで拡大表示)(2012/03/14) 余りに数が多いので、Weblogのネタにしたのだが、去年以外にセイヨウミツバチがクリスマスローズに訪花したことはないし、今年も全く現れていないので、これは今後とも記録的なものになると思われる。2つのプランターの間に生じた実生.プランターの下にも、モヤシ状の実生が密生していた毒草なので、そのモヤシは食えない(写真クリックで拡大表示)(2012/03/14) これだけ多数の実生を生じても、恐らく、残るのは僅か数株だけであろう。プランターにでも植え換えてやれば、数百株は残ると思うが、多数のプランターを置く場所はないし、また、これ以上クリスマスローズを増やすつもりもない。 クリスマスローズはキンポウゲ科の毒草であり、これを食草とする昆虫は寡聞にして知らない。また、クリスマスローズを更に増やせば、その面積分だけ我が家の植性の多様性が失われ、訪れる昆虫の種類もそれに比例して分減ってしまうであろう(葉の上は、日向ぼっこをするには良い場所らしいが・・・)。回りの大きなクリスマスローズも一緒に撮影赤紫色のには濃い赤紫の花が着く(写真クリックで拡大表示)(2012/03/14) 更に、どうもクリスマスローズには負のアレロパシー(negative allelopathy:他の植物の生育を阻害する)がある様に感じられる。クリスマスローズの密生している所には、余り雑草が生えないのである。だから、クリスマスローズを増やせば、その専有面積以上に多様性が失われることになる。 ・・・と云う訳で、読者諸氏の中には「勿体ない」と思われる御仁が居られるかも知れないが、これらの実生の99.9%は、やがて枯れてしまう運命にあるのである。
2012.03.25
コメント(4)
さて、今日は昨年の暮に掲載した「Meteorus属の1種(コマユバチ科ハラボソコマユバチ亜科:繭)」の続きとして、その繭から羽化したコマユバチを紹介することにする。羽化したギンケハラボソコマユバチ(写真クリックで拡大表示)(2011/12/15) そのコマユバチを、Entomological Society of Canada<カナダ昆虫学会>のサイトにある「Hymenoptera of the World<世界の膜翅目>」と、Maeto Kaoru(前藤 薫)氏の「Systematic Studies on the Tribe Meteorini (Hymenoptera, Braconidae ) I~VII<Meteorini族の分類学的研究(膜翅目、コマユバチ科)>」を使って科から検索した結果、コマユバチ科(Braconidae)ハラボソコマユバチ亜科(Euphorinae)に属すギンケハラボソコマユバチ(Meteorus pulchricornis)であることが判明した。 しかし、科から種までの検索は、かなりややこしく、また、証拠写真も多数を必要とする。其処で、今日は蜂の生体写真のみを載せ、種の検索については別の機会に譲ることにした。冷蔵庫から出した直後のギンケハラボソコマユバチ一見死んでいる様に見えるが、直ぐに起き上がる(写真クリックで拡大表示)(2011/12/16) 羽化したのは、前回の繭の写真を撮ってから9日後の12月14日、体長約4.5mm(産卵管鞘を含まない)の繊細なコマユバチであった。 こうゆう小さな虫は、以前紹介した「アブラバチの1種(その2)」の様に、カーテンに留まらせて撮ることも出来るが、虫が小さいので、カーテン地の網目が何とも目障りになる。其処で、管瓶に入れて冷蔵庫に放り込み、よ~く冷やして動けなくし、室温に戻して常態に回復する時を狙って撮影した。横から見たギンケハラボソコマユバチ繊細な姿と長い触角が魅力的(写真クリックで拡大表示)(2011/12/16) 2番目の腹側から撮った写真は、冷蔵庫から出した直後で、殆ど死んでいる様に見える。しかし、20秒ほど(測定はしていない、単なる印象)で起き上がってしまう。ヒラタアブ類は、もう少し時間がかかり(分単位)、飛び出す前に身繕いなどするので撮り易いが、こう云う小さい虫は、回復が非常に速い。体重は体長の3乗、表面積は2乗に比例するので、小さい虫ほど速く冷えるし、速く暖まるのである。正面から見たギンケハラボソコマユバチ複眼に毛が生えているのが見える(写真クリックで拡大表示)(2011/12/15) 起き上がっても、脚がシッカリして居る訳ではない。それでも、動かない脚を引きずる様にして(下の写真の右前肢付節)移動し始め、やがて翅を開いて飛んで行ってしまう。しかし、完全に回復してはいないので、近くに留まったりして再捕獲。 見失ったこともあるが、暫くすれば明るいカーテンの方に行くので、心配は要らない。また管瓶に入れられ、冷蔵庫行き。その後、半日以上は入れておかないと、立ち所に回復してしまい撮影する機会が殆ど無い。今日のコマユバチ成虫の撮影には、何と4日もかかったのである。脚がチャンと働かなくても動き出し、直に飛んで行ってしまう(写真クリックで拡大表示)(2011/12/18) こうゆう小さなコマユバチには見ていて綺麗だなと思う種類が多い。幼虫は内部捕食寄生性だから、まァ、生態はオドロオドロしいとも言えるが、最後は綺麗な成虫に成長する。別に色彩に富んでいる訳ではない。しかし、体全体と言うか、姿が美しい。横からの写真をもう1枚(写真クリックで拡大表示)(2011/12/16) 前掲の前籐氏の論文に拠れば、このギンケハラボソコマユバチは日本で最普通種の一つとのこと。東京都本土部昆虫目録にもチャンと載っている。しかし、"ギンケハラボソコマユバチ"をGoogleで画像検索しても殆どヒットしない。一方、学名で検索するとそれよりもずっと多い写真が出て来る。本種は、日本全国、欧州、土耳古の他、世界の様々な地域に分布するらしい。 和名での検索がヒットしないのは、写真を撮っても種類が分からないのでお蔵入り、或いは、「コマユバチの1種」としてしか掲載されていないからだと思われる。現に、昨年もう一つのWeblogで紹介した「お知らせ+コマユバチ科の1種(Braconidae gen. sp.)」は、写真の解像度が低いので検索は出来ないが、本種に非常に良く似ている(但し、縁紋や後腿節先端の色は多少異なる)。蜂が脱出した繭(脱殻)。カパッと蓋が開いた感じ(写真クリックで拡大表示)(2011/12/14) また、前掲論文に拠れば、本種はコブガ科、ヒトリガ科、ドクガ科、シャクガ科、ヤガ科、カレハガ科、アゲハチョウ科、シジミチョウ科、タテハチョウ科等の幼虫に寄生することが報告されており、広く鱗翅目の幼虫一般に寄生することが出来ると考えられている。 その為、世界的に鱗翅目害虫の駆除に天敵としての利用が研究されており、また、本種が産しない国では、外国からの導入も検討されている様である(既に米国に導入されている)。我国でも、本種が最近被害の多いオオタバコガの有力な土着天敵の一つであることから、飼育の容易なハスモンヨトウを使って増殖させ、オオタバコガの駆除に利用しようと云う研究がある(農業・食品産業技術総合研究機構-平成10年度四国農業研究成果情報)。
2012.01.15
コメント(15)
正月の掲載も一応済ませたので、これから一昨年~昨年に掛けて撮影した虫を紹介しようと思う。 先ず、最初はクロヒラタアブ(Betasyrphus serarius)の飼育幼虫。クロヒラタアブはこれまでに、幼虫~成虫を2回(此方と此方)も掲載しているが、幼虫の詳細な形態についてはまだ触れていない。其処で、今回はその幼虫の形態についての詳細を紹介する。 実を言えば、本当はクロヒラタの幼虫を飼育するつもりなど無かったのだが、一昨年の12月に掲載した「ヒメナガカメムシの幼虫」を飼育して居た時、餌として与えていたコスモスの花(幼虫はその種子から吸汁していたものと思われる)に付いていたのである。 クロヒラタの幼虫は、コスモスの花に付いていた極く僅かのワタアブラムシ(多分)を食べていたらしい。しかし、直ぐに餌が無くなり、1頭が11月の中ごろ、餌を探しに飼育箱(100円ショップのパン・ケース)の内壁に現れた。其処で早速、シャーレの中に入れ、コナラの葉裏に付いているアブラムシを与えて飼育した。 そのカメムシの幼虫は、始めは正体不明なので飼育して居たのだが、「カメムシBBS」に問い合わせたところ、超普通種のヒメナガカメムシであることが分かった。ヒメナガの幼虫では飼育しても面白くないので逃がしてやろうと思い、コスモスの花殻を分解しながら探している時、更に2頭のクロヒラタの幼虫を見つけた。全部で3頭もの幼虫がコスモスの花に潜んでいたのである。クロヒラタアブの幼虫(3齢=終齢)腹部にやや不明瞭な白黒の模様がある右が頭、左の黒い突起は後気門(写真クリックで拡大表示)(2010/12/10) 写真の幼虫は、その後から見つかった幼虫の内の1頭である。その時は、色々な虫を飼育していてシャーレの不足を来していたので、2頭を一緒に飼育した。餌のアブラムシは充分与えてあったのだが、或る時、幼虫を探してみると1頭しか見当たらない。よ~く調べて見ると、皺クチャになったクロヒラタの幼虫が見つかった。何と、共食で1頭になってしまったのである。残った1頭が写真の幼虫だが、共食いの後、急に大きくなった。 この時、他にもヒラタアブ類の幼虫を飼っていたのだが、彼らは一緒にしても共食いなどしなかった。クロヒラタの幼虫は、かなり凶暴と言える。尚、ヒラタアブ類の幼虫が共食いをするのは珍しいことではないらしく、フタスジヒラタアブ(フタスジハナアブ)は共食いばかりでなく、鱗翅目の幼虫や蜘蛛まで補食するとのこと(昆虫写真家新開孝氏の「昆虫ある記」に拠る)。横から見たクロヒラタアブの幼虫腹脚に似た構造が認められる上の写真とは反対に左が頭部(写真クリックで拡大表示)(2010/12/10) 此の連中の幼虫期は3齢しかないので、これは終齢=3齢幼虫である。体長は約8.0mm、体が柔らかいので縮んだ時と伸びた時ではかなりの差が出る。 見つけた時は、体長5~6mmで、体の白黒の縞がもっとハッキリしていた。しかし、大きくなるにつれ、次第に白い部分が黄褐色を帯びて来て、写真を撮った時点(2010/12/10)では縞模様がかなり不明瞭となってしまった。斜め上から見たクロヒラタアブの幼虫(写真クリックで拡大表示)(2010/12/10) 横から見ると(2番目の写真)、白黒模様が体節ごとにあるらしいことが刺毛の分布から分かる。G. E. Rotheray著「Colour Guide to Hoverfly Larvae」(Dipterists Digest No.9、1993)に拠れば、ハナアブ科(ヒラタアブはハナアブ科Syrphidaeヒラタアブ亜科Syrphinaeに属す)の幼虫は、胸部は3節、腹部は8節なのだが、皺が多くて何処が体節の境目なのか良く分からない。 腹側には、芋虫毛虫の腹脚に似た構造が見える。同書に拠れば、一般にハナアブ科の幼虫は腹部の第1から第6節に歩行器官(locomotory organ)を持つとのこと。今まで撮影したヒラタアブの幼虫には写っていないが、隠れて見えなかっただけなのであろう。今度飼育する時は、一度ひっくり返して歩行器官を見てみよう。真っ正面から見た先頭部分.黄褐色の突起は前気門で前胸にある頭部は中央下の黒っぽく見える部分で小さい(写真クリックで拡大表示)(2010/12/10)少し斜めから見たクロヒラタアブの先頭部分(写真クリックで拡大表示)(2010/12/10) 先頭部を見てみると、黄褐色の眼、或いは、角の様なものが1対ある。これは前気門で、第1胸節(前胸)にある。マガイヒラタアブの幼虫では明確であった Antenno-maxillary organ(和名不詳.antennaは「触角」、maxillaは「小顎」乃至「上顎」の意だが、機能的には触角に相当するものであろう)は、中央部下側のやや黒っぽく見える部分にあると思われるが、上の2枚の写真からは何処にあるのか良く分からない。この辺りは頭部である。 口器は何処かというと、主要部は体の中に入っており、この黒っぽい部分の下側から出てくるものと思われる。この幼虫の捕食中の様子は、別の機会に詳しく紹介する予定である。クロヒラタアブの後気門.全体に黒くて詳細が良く分からない上から順に、ほぼ真上、斜め横、真後ろから撮影(写真クリックで拡大表示)(2010/12/10) 最後は、後気門の写真。後気門の形態は分類の指標になるので、3方向から撮ったが、全体に黒くて詳細はよく分からない。一番上はほぼ真上から、中央は斜め横、下は水平に近い真後ろから撮影している。尚、後気門の右に見える丸く黒いものは単なるゴミで、幼虫の付属器官ではない。
2012.01.11
コメント(0)
正月三箇日中に新春初の掲載をしようと毎日カメラを持って庭をうろついていたのだが、適当な被写体が見つからない。植木鉢の下を探せば何か居るだろうが、新春の記事にコウガイビル(例えば此方)やヤケヤスデ(例えば此方)の様な虫を載せるのは幾ら何でも気が引ける。 3日目の昼過ぎに、諦めて部屋に入ろうとした時、入口の壁の上を這っているヒゲブトハムシダマシを見つけた。この虫は以前紹介したことがある。だから、単純な重複掲載にならない様、今度は顔の辺りでも超接写してみようと思い、早速管瓶に入れて冷蔵庫に放り込んだ(動きを止める為)。 しかし、台紙の上で撮影するのは味気ない。其処で、台紙の代わりに蕗の葉を取って来た。その葉裏に何かが付いている。一応調べて見ると、ゴミや脱皮殻ばかりだったが、葉裏ではなく葉柄にクモガタテントウ(Psyllobora vigintimaculata)が1頭、チョコンと留まっているのに気がついた。こんな風通しの良い所で越冬しているとは一寸以外であった。蕗の葉の葉柄横に隠れたつもり?のクモガタテントウ体長は2.25mmと非常に小さい(写真クリックで拡大表示)(2012/01/03) クモガタテントウは、2009年の正月にも掲載している。それ以前にも、「成虫」、「前蛹~成虫」を掲載しているから、このWeblogでは原則的に禁止している重複掲載も甚だしい。しかし、これまでのコメント欄に「重複掲載大歓迎」と書き込まれた読者も少なからず居られるし、ヒゲブトハムシダマシの顔(かなり恐い顔)よりはクモガタテントウの方がずっと可愛く、多少は正月向きと思い、敢えて重複掲載することにした。警戒してジッとして居るクモガタテントウ胸背は透明なので顔が見える(写真クリックで拡大表示)(2012/01/03) 実は、クモガタテントウはもう一つのWeblogの方にも掲載している。超重複掲載とも言えるが、此方のWeblogでは余り虫自体については書いていないので、少しこの虫の所属や来歴等に付いて書くことにする。 クモガタテントウは、テントウムシ科(Coccinellidae)テントウムシ亜科(Coccinellinae)カビクイテントウ族(Halyziini=Psylloborini)に属し、キイロテントウ、シロホシテントウ、シロジュウロクホシテントウ、稀種のアラキシロホシテントウ等と同族である(文教出版の「テントウムシの調べ方」によれば、日本産カビクイテントウ族は今のところこの5種のみ)。族名にある様に、アブラムシなどを食べる捕食性ではなく、食菌性のテントウムシで、ウドンコ病菌を餌とする。歩き始める直前のクモガタテントウ前翅(鞘翅)が少し開いている暖かければ飛ぶのかも知れない(写真クリックで拡大表示)(2012/01/03) クモガタテントウは在来種ではなく、帰化昆虫である。「テントウムシの調べ方」に拠ると、最初に発見されたのは1984年で原産地は北米、国内での分布は「日本各地」となっている。 最初に文献として報告されたのは、佐々治寛之(1992)「日本から最近新しく追加されたテントウムシ類」(甲虫ニュース、100、10-13)とのこと。だから、それ以前に書かれた図鑑には載っていない。 日本には、カイガラムシ類の駆除の為に導入されたベダリアテントウやツマアカオオヒメテントウの様な種もあるが、クモガタテントウが日本に侵入した経緯については情報が見つからなかった。斜め上から見た警戒中のクモガタテントウ(写真クリックで拡大表示)(2012/01/03) 写真のクモガタテントウの体長は約2.25mm(3桁の測定精度はないが、2桁以上はある)、これまで掲載した個体は2.5mm、2.3mmなので、今日の個体が一番小さい。 葉柄に留まっていたとは言っても、葉裏に近い日陰の部分なので、葉をひっくり返して写真を撮ろうとすると、葉柄と葉の付け根に逃げ込んだ(最初の写真)。 ストロボを焚き始めると、今度は葉裏の上を逃げ出した。葉を動かすと警戒して止まる。其処で撮影、暫くしてまた逃げ出す、葉を動かして止める、撮影・・・これを数回繰り返して何とか撮影を完了。 その後は、「お疲れ様でした」と言って、切った蕗の葉の隣の葉に戻してやった。蕗の葉裏を歩き回るクモガタテントウ.眼の下から横に拡がっているのは触角で、カビクイテントウ族の形をしているその下の斧の形をしたものは小腮鬚(写真クリックで拡大表示)(2012/01/03) 最近は、標本にして細部を検討しないと種が分からない双翅目(蚊、虻、蠅)や膜翅目(蜂、蟻)を撮ることが多い。かつて散々虫を殺して標本にしたので、今は出来るだけ殺したくない(虫屋も「殺す」とは言わず「絞める」と言う表現を使うことが多い)。このクモガタテントウの様に、見て直ぐ種の分かる虫に出合うとホッとする。 尚、撮影は3日の午前なのだが、3日の午後は色々と用があって、掲載は今日(4日)の夕方になってしまった。三箇日中には掲載出来なかったことになるが、調べて見ると、これまで三箇日中に掲載出来たのは2008年(元旦「ニホンズイセン」)ただ1度だけであった。
2012.01.04
コメント(6)
帰国した次の日、ベランダの椅子で一服していると、目の前のクリスマスローズの葉上に長さ5mm位の回転楕円形の物体が乗っかっているのに気がついた。上にはデュランタ・タカラズカの枝があり、まだ若干の花を着けているので、その花冠の取れた子房が落ちているのだろうと思っていた。 しかし、2~3日経つと、今度は葉の下にぶら下がっている。クリスマスローズの葉上には、ハエトリグモがよく徘徊しているので、蜘蛛の糸にでも絡んでぶら下がって居るのだろう。そう思って放っておいた。 蜘蛛の糸なら大して丈夫ではないから、その内落下すると予想していたのだが、何故かその気配は全く感じられない。シッカリとぶら下がって居る様に見える。これは、ヒョッとすると何かの繭なのかも知れないと思って、低い位置なので見難いが、マクロレンズで覗いてみた。クリスマスローズの葉からぶら下がる寄生蜂の繭(長さ5mm)葉への接着点と繭までの距離は2cmもない(写真クリックで拡大表示)(2011/12/05) 正確な正体は分からないが、どうやら寄生蜂の繭の様である。早速、葉ごと回収して小さなコップの中に吊るし、ラップで口を覆って、何が出て来るかを待つことにした。 この様な、何かにぶら下がる繭を作る寄生蜂としては、以前紹介したホウネンタワラチビアメバチ(繭と成虫:本当にその種なのか確信はない)がよく知られた居る。しかし、この正体不明の繭は、その繭とは形も作りも全く異なり、また糸は非常に太く、マクロレンズで撮ると、まるで針金の様である。分類学的にかなり離れた位置にいる寄生蜂に違いない。繭の拡大.繭の大きさに比し糸は非常に太いぶら下がっている糸の方が、繭を紡いでいる糸よりも太い様に見える(写真クリックで拡大表示)(2011/12/05) 其処で、「ハチ 繭 ぶら下がる」のキーワードでGoogle画像検索をしてみた。すると、似た様な繭の写真が見つかった。羽化後の空になった繭である。元を調べると、「下手の園芸ブログ」と云うサイトの2011年7月24日の記事「バラと幼虫と寄生蜂」であった。宿主の写真もあり、また、宿主から出て来た幼虫や、それが繭を紡ぐ所、その後の経過等を30枚以上もの多数の写真で記録されている。読者諸氏も是非御覧になられたい(拙Weblogでは、他所様のサイトへのリンクは、リンク切れの恐れがあるので、張らないことにしている。「"バラと幼虫と寄生蜂" ぶら下がる」で検索されたし)。上の写真の反対側.内側の糸は色が殆ど着いていないストロボの反射が見苦しいがお許しを(写真クリックで拡大表示)(2011/12/05) 羽化した蜂の写真も載せられていた。そのサイトの著者はある程度昆虫に関する知識をお持ちの様だが、このハチの名前に関しては何も触れられていない。しかし、翅脈の良く分かる写真が載せてある。一見して、コマユバチ科(Braconidae)に属す寄生蜂であることが分かった。 しかも、体形と翅脈にかなり特徴的なものがあり、Borror & Delong著の「Study of Insects」やその他の文献で調べてみると、どうやらハラボソコマユバチ亜科(Euphorinae)Meteorus属のハチらしい。ハチは既に羽化しているので、現在、詳細を検討中である。葉への接着点.かなりいい加減なくっ付け方(写真クリックで拡大表示)(2011/12/05) しかし、このコマユバチの寄主は何であろうか。繭の付いていた葉には寄主の残骸は無く、食痕も無い。毒草であるクリスマスローズの葉を食べる虫は今まで見たことがないので、その上に位置するデュランタに付いていた何らかの虫に寄生していたと考える方が妥当であろう。 恐らく寄主は寄生により衰弱してデュランタからクリスマスローズの葉上に落下し、其処からこのコマユバチの幼虫が出て来たのであろう。その後、寄主の死骸は風や雨で葉から落ち、この繭だけが残ったものと思われる。 Meteorus属の寄主は鱗翅目ばかりでなく甲虫類の場合もある。デュランタの方は、丁度その真上の部分を既に剪定してしまったので、食痕や寄主に関する何らかの情報を得ることは最早不可能である。[追記]この繭から羽化したコマユバチはギンケハラボソコマユバチ(Meteorus pulchricornis)であることが判明した。その記事は、此方をどうぞ。
2011.12.23
コメント(2)
帰国の挨拶を書いたので、次は昨年撮った写真から何かを紹介するつもりであったが、余りに沢山写真があり、どう整理するか迷っている内に3週間近くも経ってしまった。 既に調整を終えたマガイヒラタアブの蛹(囲蛹)の写真が沢山あるのだが、蛹だけでは読者も面白くなかろう。やはり成虫と一緒に紹介したい。しかし、楽天ブログの文字制限の為、写真は精々9枚が限度である。其処で、蛹の写真は一纏めにして写真の枚数を減らすことにし、成虫と一緒に掲載することにした。3枚一緒にして、縦幅1370ピクセルの写真もあるので御注意。マガイヒラタアブの蛹.上は蛹化した日、下はその3日後(写真クリックで拡大表示)(2010/11/26,29) マガイヒラタアブ(Syrphus dubius)の幼虫は今年の2月18日に掲載した(撮影は昨年=2010年の11月23日と25日)。今日紹介する蛹と成虫は、その幼虫のその後の姿である。 最初の写真で上の方は、昨年の11月26日(幼虫写真4番目の次の日)に撮影したものである。蛹化直後はもっと白かったのだが、うかうかしている内に色が濃くなり、撮影した時には御覧の様に赤茶けた色になっていた。しかし、囲蛹の内側には幼虫と同じ様な模様が認められる。 下の方は、その3日後、幼虫時の模様は不明瞭である。蛹化3日後のマガイヒラタアブの蛹(写真クリックで拡大表示)(2010/11/29) 3日後の囲蛹を別の方向から撮ってみた。本当はもっと沢山あるのだが、3枚だけにした。一番下は後気門を拡大したものである。前気門は真ん中の写真の隠れて見えない下側にある。蛹化後9日、羽化前日のマガイの蛹成虫の黄と黒の縞が透けて見える(写真クリックで拡大表示)(2010/12/05) 次は羽化前日の写真。写真全体に少し黒っぽく見えるかも知れないが、これは蛹が色濃くなったからで、下の葉っぱの色はかえって少し明るくなる程度に調整してある(コナラの葉っぱが次第に枯れて黄色くなって来ているのに御注意)。 囲蛹の下側にヒラタアブの黄と黒の模様が透けて見える。羽化したマガイヒラタアブの雄(写真クリックで拡大表示)(2010/12/06) 次の日の朝に羽化した。体が硬化したのを確認してから冷蔵庫で数時間冷やしてコナラの葉裏に置き、充分元気になる直前に撮影したものである。マガイヒラタアブやその仲間は成虫越冬なので、寒さに強い。1℃の冷蔵をに入れて置いても、室温に戻すと、忽ちの内に元気になり、飛んで行ってしまう。 こう云う寒さに強い虫の屋内撮影は、結構面倒なのである。横から.翅の基部下側に見えるのが胸弁下片なのか良く分からない(写真クリックで拡大表示)(2010/12/06) マガイヒラタアブはハナアブ科(Syrphidae)ヒラタアブ亜科(Syrphinae)ヒラタアブ族(Syrphini)ヒラタアブ属(Syrphus)に属す、最も正統的な?ヒラタアブである。同属にはケヒラタアブ、オオフタホシヒラタアブ、キイロナミホシヒラタアブの他、九州大学の目録には全部で10種が載っている。しかし、その10種の内、上記3種の他は総て?マークが付いており、どうも分類学的にハッキリしない点があるらしい。尚、マガイ(以下、「ヒラタアブ」を省略)は、最近キイロナミホシから独立したとのことで、九大目録には載っていない。 しかし、マガイの学名を正式に書くとSyrphus dubius Matumura, 1918 であり、このMatumuraは日本の昆虫学の開祖と云われる故松村松年氏(北海道帝國大学教授)であろうと思われ、それが最近まで認められなかったと云うのはどうも解せない。九大と北大との派閥争いか?。前から.複眼は無毛、顔の正中線には明確な黒条はない(写真クリックで拡大表示)(2010/12/06) 一方、ハナアブの研究者として知られる市毛氏の「ハナアブ写真集」には、マガイと上記3種の他、最近記載されたツヤテンとマガタマモンを加えた6種が載っているだけである。 どうも、Syrphus属にはまだ不明な点が多い様である。しかし、和名の付いた上記6種に関しては、余り問題は無いらしい。斜めから見た図.少し前ピン(写真クリックで拡大表示)(2010/12/06) さて、マガイの属すSyrphus属と他のヒラタアブとの違いを示さなくてはならない。先ず、Syrphus属のヒラタアブは、模様のよく似たフタホシやナミホシ等のEupeodes属の種よりやや大型であり、飛び方も力強く速い。図鑑や写真を見ると、良く似ており区別が難しいが、実際に飛んでいる所を見ると、かなり雰囲気が違う。また、フタホシやナミホシには、顔に黒色中条があるが、Syrphus属には明確な黒色中条はないらしい。 更に、今日の写真では明確でないが、Syrphus属の胸弁下片には黄色の長毛が生えている。これは、此の属の大きな特徴である(Manual of Nearctic Dipteraに拠る)。別個体.12月16日に羽化.これも雄(写真クリックで拡大表示)(2010/12/16) Syrphus属とすると、先ず、マガタマモンとツヤテンは、木野田君公著「札幌の昆虫」に北海道固有種とあるので、考慮する必要はないだろう。また、キイロナミホシも、北海道と東北以外には殆ど記録が無い様なので、除外して良いと思われる(拙Weblogを含めて、関東以西のキイロナミホシとする写真は、市毛氏に拠れば、マガイの見誤りらしい)。 残る3種の内、ケヒラタアブには複眼に毛が生えているので区別出来る。但し、雌の場合は相当に精度の高い写真でないと判別出来ない程度の細かい毛らしい。オオフタホシは名前の通りかなり大きい。現物が飛んでいる所を見ればマガイとの区別は明らかだが、写真ではそうは行かない。 前述の「札幌の昆虫」を見ると、雄の場合、後脛節は、オオフタホシではほぼ黄色で中程に暗色の輪があり、マガイでは先端過半が黒色である。また、雌の後腿節は、オオフタホシでは基部のみが黒色で他は黄色なのに対し、マガイでは先端部以外は黒色、となっている。雄では参照する部分が脛節、雌では腿節なので御注意! 写真のヒラタアブは雄で、後脛節は先端過半が黒っぽい。雌ではないが、腿節も先端部以外は黒色である。マガイとして良いであろう。後脛節はやはり先端過半が黒っぽく、腿節も先端以外は黒色(写真クリックで拡大表示)(2010/12/16) マガイヒラタアブの幼虫は3頭を飼育した。何れも囲蛹にはなったが、羽化したのは2頭のみであった。どうも、ヒラタアブ類の羽化成功率は余り高くない様である。 もう少し書きたいこともあるが、文字制限があるので、今日はこれでお終い。
2011.12.19
コメント(6)
一昨日の日曜日夕刻に帰朝した。2ヶ月と3週間、ほぼ3ヶ月の出張であったが、その割には疲れていない。 さて、帰国後第1回目の更新である。時既に晩秋で、ヒラタアブ類やアブラムシの有翅虫以外は余り虫も見かけない。しかし、この時期にはコナラの葉裏に何かが居る可能性が高い。そこで、コナラの葉を調べてみたが、残念ながら、今年はコナラに余りアブラムシが付いて居らず、その補食者も殆ど居ない。ところが、コナラの根際に植えてあるサツキの上に妙な白っぽい物体を見つけた。一瞬、ナミアゲハかと思ったが、良く見てみると、ボロボロになったアカボシゴマダラ(Hestina assimilis)(タテハチョウ科:Nymnphalidae、コムラサキ亜科:Apaturinae)であった。サツキの葉間に居た瀕死のアカボシゴマダラ(写真クリックで拡大表示)(2011/11/29) まだ生きており、翅も多少は拡げたり出来るが、枝や葉に掴まってぶら下がる程の力はない。かなり大きいし、翅の幅も広いので、雌と思われる。 アカボシゴマダラは、在来種のゴマダラチョウと同様、エノキ類を食草とし幼虫で越冬する(アカボシの場合は3~4齢らしい)。恐らく、この成虫はとうに産卵を済ませ、余生を楽しんだ後、来る冬を前に、漸く死を迎えつつあるだろう。多少は翅を拡げたり出来るが、翅はボロボロ(写真クリックで拡大表示)(2011/11/29) 瀕死のアカボシゴマダラは、以前掲載したことがある。これはこの辺りでは初見の記録の様である。また、発酵したバナナに吸蜜に来た元気な個体も紹介した。従って、今回は、拙Weblogでは避けている重複掲載になる訳だが、まァ、他にネタがないので、御勘弁願いたい。黒と白を基調とする中で、黄色い口吻が目立つ(写真クリックで拡大表示)(2011/11/29) 実は、前回の「お知らせ+シオカラトンボ(雌:ムギワラトンボ)」から、カメラもコムピュータも新しくなっている。今まで時間のかかっていた画像の調整もずっと短時間で終わるので、昨年の秋から溜まっていた画像をこれから少しずつ掲載して行こうと思う。乞う御期待!
2011.11.29
コメント(6)
明日(平成23年9月6日)、例年の如く南方へ出撃する。飯田洋二郎中将麾下の第15軍が展開した領域である。拙Weblogの更新(最近は少ないが・・・)を楽しみにされている読者諸氏には大変申訳無いが、2~3ヶ月の休みとなる。こればかりは何とも致し方ない。 文章だけでは味気ないので写真を載せたい。しかし、手元にあるのは飼育記等のシリーズ物が多く、写真を調整する時間が充分ないので、先日撮ったシオカラトンボ(Orthetrum albistylum)の雌(所謂ムギワラトンボ)を出すことにした。直ぐに逃げられてしまったので、2枚しか写真がない。普通なら没にする所だが、こう云う場合にはかえって好都合である。シオカラトンボの雌.通称ムギワラトンボと呼ばれている右後翅が羽化不全で少し短く、縁紋も変形しているオオシオカラトンボとは異なり翅(特に後翅)の付け根が黒くない(写真クリックで拡大表示)(2011/08/30) 3年前、同属近似種のオオシオカラトンボを紹介した。その時「住宅地の中にいるこの手のトンボは、シオカラトンボではなく、オオシオカラトンボのことが多いらしい.シオカラトンボは水田や湿地帯の様な開けた場所を好むので、住宅地には少ないとのこと」、と書いた。実際、その後もある程度注意していたところ、確かに、我が家にやって来るのは何時もオオシオカラトンボであった。 しかし、これでシオカラトンボもたまにはやって来ることが分かった。 尚、この個体、右の後翅が羽化不全でやや短く、縁紋も一応有るが変形しており、しかもその先の部分が無い。しかし、まァ、この程度の不全は飛翔には全く問題ない様であった。シオカラトンボ(雌)の頭部と胸部中々複雑な構造をしているが、時間が無いので解説はしない(写真クリックで拡大表示)(2011/08/30) シオカラトンボとオオシオカラトンボの違いについては、以前も書いたが、後者では翅(特に後翅)の付け根の部分が黒く、また、前者は後者よりやや小さいことが多くので、簡単に見分けが付く。 それでは、明日出発する。読者諸氏に於かれては、御風邪など召されぬ様、御自愛被下度候。
2011.09.05
コメント(7)
先日、オオカマキリ褐色型の終齢幼虫を掲載したので、ついでにハラビロカマキリ(Hierodula patellifera)の終齢幼虫も紹介することにした。但し、褐色型ではなく、普通の緑色型である。カラミンタ・ネペタに居たハラビロカマキリの終齢幼虫お尻は殆ど180度曲がって、裏側が表になっている(写真クリックで拡大表示)(2011/08/11) 実は、この個体、オオカマキリの幼虫を見つけるかなり以前から、カラミンタ・ネペタに棲み着いて居たのである。オオカマキリやコカマキリは放浪性が強いが、ハラビロカマキリは餌の良く来る所に定着する傾向がある。2週間以上も居て、1回脱皮して終齢に達し、数日経った所を写真に撮った。カラミンタの茎にぶら下がるハラビロカマキリの幼虫移動時にはお尻を伸ばしている(写真クリックで拡大表示)(2011/08/11) ハラビロカマキリは、これまで何回も掲載してきた。幼虫も初齢、2齢を紹介しているが、3齢以降の幼虫は我が家の庭では余り見たことが無く、写真に撮る機会が無かった。通例としては、デュランタが咲く頃になると何処からともなく成虫がやって来るのである。幼虫でも顔は一人前(一匹前)のカマキリしかし、オオカマキリよりは柔和「腕」はオオカマキリよりも太い(写真クリックで拡大表示)(2011/08/11) ハラビロカマキリ幼虫は、写真でお分かりの通り、お尻を上にピンと跳ね上げた格好をしているので、直ぐにそれと分かる。尤も、調べてみると、コカマキリの幼虫も若齢時にはお尻を少し上に曲げている様だが、ハラビロカマキリの場合は齢を増すにつれて、跳ね上がり方が段々顕著になるものと見える。ハラビロカマキリの「おにぎり顔」.単眼はやはり未発達(写真クリックで拡大表示)(2011/08/11) ハラビロカマキリ幼虫の顔写真を上に示した。やはりオオカマキリよりずっと表情が柔和である。私はこの丸味を帯びた顔を「おにぎり顔」と呼ぶことにしているが、読者諸氏は如何お感じであろうか。 「単眼」は、色が薄くて些か分かり難いが、左右の触角の間少し上に3個ある。しかし、オオカマキリ幼虫の場合と同じく、やはりレンズの格好はして居らず、まだ、単眼の原基の段階にあるらしい。翅の原基(翅芽).動き回る時しかお尻を伸ばさないので中々良い写真が撮れない.この程度で御勘弁を(写真クリックで拡大表示)(2011/08/11) 翅の原基(翅芽)も撮ってみた。しかし、最初の写真の様に、ジッとして居る時は、お尻を上に巻いているので、背側から撮ることが出来ない。移動する時は、腹部を伸ばす。しかし、細いカラミンタの枝は、カマキリの移動に伴ってかなり揺れるし、他の枝が邪魔になったりして撮影の機会が中々訪れない。上の写真は斜めだが、翅芽が一応見えるので、この程度で御勘弁頂きたい(何しろ直射日光下で、しかも、ヤブカに襲われながらの撮影なので、出来るだけ早く切り上げたいのである)。 当然、オオカマキリの翅芽とよく似ているが、後翅の先端は、オオカマキリ程尖っていない。横から見たハラビロカマキリの翅芽オオカマキリとよく似ているが比率として幅がかなり広い(写真クリックで拡大表示)(2011/08/11) 後翅の形の違いは、横から見ると、もっとハッキリする。前翅の方も、横から見ると、オオカマキリよりかなり幅が広く(比率として)、成虫の形態を反映していることが分かる。 このこのカマちゃん(我が家では、ハラビロカマキリは個体に拘わらず「カマちゃん」と呼ぶことにしている)が留まっているカラミンタは、庭の中でも、陽を最も長く強く受ける場所にある。そのせいか、酷暑になってからは余り虫も来ず、カマちゃんも何処かへ行ってしまった様である。 尤も、御覧の様に植物と殆ど同じ色をしているので、何処かに潜んでいて、こちとらが気がつかないだけなのかも知れない。 尚、ハラビロカマキリに関する他の記事に御関心の向きは、「昆虫(カマキリ)」と云うカテゴリーを設けてあるので、そちらを参照されたい。
2011.08.18
コメント(6)
一昨年、「ルリタテハの幼虫(4齢)」を掲載した時に、「悲報」として、ニシキハギに付いていたキチョウの蛹と終齢幼虫合計15頭以上がスズメ(多分)に食べられてしまったことを附記した。そのニシキハギは、何故かその年の秋に枯れてしまい、昨年はハギは無かったのだが、晩秋になってから1株購入し、今年はその新しいハギにキチョウ(キタキチョウ:Eurema mandarina)が卵を生み始めた。 7月の上旬まではその数も少なかったのだが、その後急に数を増し、8月の初旬には20頭以上の幼虫が終齢に達していた。これを全部スズメに喰われてしまっては大変、と急遽飼育することに決定。 手当たり次第集めて、数えると全部で25頭、これがアゲハ類だったら膨大な食草を準備せねばならないのだが、キチョウは極く小食だし、高密度で飼育しても喧嘩などしないので飼育は容易、100円ショップで売られているパンのケース2箱に詰め込んだ。 飼育後1~4日の間に全部が蛹化した。ハギの小枝2本に付いたキチョウの蛹、全17個他に4齢幼虫が1頭、中央右に写っている(写真クリックで拡大表示)(2011/08/13) キチョウの幼虫は、アゲハ類等とは異なり、今まで葉を食べていた場所の直ぐ近く(20cm以内)で蛹化する。上の写真の様に、ハギの小枝2本に集中して蛹が付いている。全部で17個の蛹が写っているのだが、お分かりだろうか? この小枝に付いてはいるが写っていない蛹が2個、その他、最初に集めた時に幼虫が掴まっていた極く小さな枝で蛹化したもの2頭、飼育箱の内表面で蛹化したもの4頭で、合計25頭。 それが、昨日から羽化し始めた。昨日は3頭だったが、今日は12頭が羽化した。残りは10頭。今日は更に、別に保護していたナミアゲハも羽化し、部屋の中は蝶々だらけで大層賑やか。しかし、その「賑やかさ」を写真に撮るのが難しい。窓際に集めて写真を撮ってみたが、丸で使い物にならない。色々考えてみたが、結局、12頭のキチョウと1頭のナミアゲハが部屋の中を飛び回る様子を読者諸氏の頭の中で絵にして頂く以外に方法はない、と云う無責任な結論に達した。 ・・・と云う訳で、今日は羽化した蝶々の写真はアリマセン。
2011.08.15
コメント(6)
このWeblogは「我が家の庭の・・・」なのだが、今日は「我が家」の生き物を紹介する。ジンサンシバンムシ(Stegobium paniceum)、屋内害虫の1種で、保育社の甲虫図鑑には「乾燥貯蔵動植物質の世界的大害虫」と書かれている。 シバンムシ科(Anobiidae)シバンムシ亜科(Anobiinae)に属す、体長1.7~3.0mm(同図鑑に拠る)の小さな甲虫である。世界中に分布する大害虫であるにも拘わらず、Web上に精緻な写真がない様なので、掲載することにした。ジンサンシバンムシ.この個体の体長は約2.7mm写真は何れもコントラストをやや強くしてある冷蔵庫で充分冷やしてから撮影(写真クリックで拡大表示)(2011/08/10) 此奴、実際に大変な害虫で、我が家に於ける被害は、金額的にも相当な額に達するであろう。 兎に角、食物スペクトルが広く何でも喰う。退治しようにも発生源を突き止めるのが容易でないのである。また、我が家の様に外国の食料サンプルを沢山貯蔵してある所では、複数個所から発生しているのが普通らしく、大発生している場所を見つけて退治しても、他の場所でも発生しているから、未だに根絶出来ない。全く困った虫である。 因みに、かなり以前に東南アジアから買って来た干メンにコクゾウムシの1種が付いていて、かなり我が家で繁殖したことがあるが、これは穀類かその加工品しか食害しないので、簡単に退治することが出来た。ジンサンシバンムシの腹側.常温に戻って暴れているところ図鑑に拠れば、「前胸腹板突起は短く三角形」とある矢印の部分が前胸腹板突起で確かに短く三角形(写真クリックで拡大表示)(2011/08/10) ソモソモ、このジンサンシバンムシが我が家に入って来たのは、今から20年程前のこと、ある大先輩に頼んでカルカッタから買って来て頂いたアサフェティダ(asafoetida、assafoetida、asafetida)と云う1種の香辛料に卵が付いていたのである。 アサフェティダは、Ferula assafoetidaを主とするセリ科植物の根元から採ったヤニ(樹脂)で、硫黄を思わせる強い異臭を持つが、インドやその近くの国では、これを野菜、特に豆のカレーに極く少量入れるのである。純粋なものは非常に高価で、インドでは固まりではなく、細粉にし乳糖か何かで10倍位?に薄めて缶入にしたものが一般的である。最近はInternetでも売られているが、これも同様であろう。 記憶に拠れば、頂いたのは7×3×2cm位の純粋なヤニの固まり、恐らく1000ルピー(1ルピーで野菜カレーが腹一杯食える)以上はしたと思われる。これを2つに割り、一つを砕いて料理用とし、こんな大きな固まりは珍しいので、残りの半分をサンプルとして保存して置いたのである。このサンプルの方からシバンムシが発生した。サンプルは結果的に穴だらけの火山岩の様になってしまった。少し斜め前から撮ったジンサンシバンムシ(写真クリックで拡大表示)(2011/08/10) 我が家で被害にあっているのは主に干メン類(蕎麦、うどん、素麺、スパゲッティ、米から作った干メン等)である。今まで30kg位は処分したと思う。しかし、記憶に拠れば、紫菜(支那式の岩海苔の干物)、干し椎茸、ダール(印度式の干豆、レンズ豆、ヒヨコ豆等)、小麦粉、東南アジアの黒砂糖と椰子砂糖、その他「こんな物も喰うのか!!」と驚く様なものまで食害された。正に、「乾燥貯蔵動植物質の世界的大害虫」なのである。 更に始末が悪いのは、成虫はかなり厚いプラスティックの袋でも食い破り、卵を産むのである。メン類などは、相当シッカリした容器に入れておかないと、未開封でもやられてしまう。正面から見たジンサンシバンムシ.やや警戒中この方向から見ると、触角先端3節は単純な[細長い球桿状]でない(写真クリックで拡大表示)(2011/08/10) 九州大学の日本産昆虫目録に拠ると、ジンサンシバンムシは1属1種だが、一見よく似た種に、やはりに世界的に分布する乾燥動植物質の大害虫であるタバコシバンムシがある。セスジシバンムシ亜科に属すので少し縁遠いが、体の外観はよく似ている。しかし、触角の先端3節が、ジンサンシバンでは写真の様に細長い球桿状であるが、タバコシバンでは鋸歯状なので容易に区別が付く。尤も、3mm程度の虫の触角を調べるのは一般的には一寸難しいかも? 尚、ジンサンシバンムシの「ジンサン」とは朝鮮人参の人参(ginseng)のことである。私は朝鮮語を解しないので分からないが、ginsengの本当の発音はジンセンよりはジンサンに近いのかも知れない。北京官話の「eng」は、日本人にはエンよりはアンに近く感じられる。図鑑には「各上翅は11本の点刻を含んだ細条溝をもつ」とあるが、勘定するとチャンと11本ある(写真クリックで拡大表示)(2011/08/10) 今日はジンサンシバンムシの被害についてばかり書いて、形態的特徴の方は本文中には殆ど書かなかった。代わりに写真の下に形態学的な説明を少し入れて置いた。
2011.08.11
コメント(5)
余り時間もないので、今日も手のかからない虫を紹介しよう。 オオカマキリ(Tenodera aridifolia)褐色型の終齢幼虫である。「北米原産シオンの1種」の上に居た。体長は既に約7cmとかなり大きい。Web上で調べると、褐色型は特に珍しいものでもない様だが、この辺り(東京都世田谷区西部)でオオカマキリの褐色型を見た記憶がない。其処で、どんな成虫になるか早速捕まえて飼育箱(100円ショップのパンケース)の中へ。オオカマキリ褐色型の終齢幼虫体長は約7cmでかなり大きい(写真クリックで拡大表示)(2011/08/06) 実を言うと、オオカマキリかチョウセンカマキリか、幼虫での区別の仕方を知らない。しかし、この辺りでチョウセンカマキリを見たことがないので、オオカマキリであろうと推測している訳である。何れにせよ、成虫になればハッキリする。少し横から撮ってみたが上と余り違いがない(写真クリックで拡大表示)(2011/08/06) 現在では、カマキリは螳螂目(Mentodea)に入れられている。しかし、私が子供の頃使っていた戦前の昆蟲圖鑑では、バッタと同じ直翅目に属していた。ゴキブリも一緒である。今でもカマキリ目とかゴキブリ目(Blattodea)と云われると、何となく変な感じがする。ズミの枝にぶら下がるオオカマキリの終齢幼虫(写真クリックで拡大表示)(2011/08/06) 捕まえたのは一週間程前のこと。飼育中の餌は鶏肉、小さく切って、ピンセットで抓んで目の前をブラブラさせると飛びかかってくる。しかし、結構気が弱く、余り激しく餌を振り回すと、逃げ出してしまう。まだ幼虫で自信がないせいか?「蟷螂の斧」を振りかざして威嚇する様なことは全くない。 写真は「やらせ」ではなく、庭に一寸放して「散歩をさせている」時に撮ったものである。逃げ足は速いが、草むらの中に入り込んで逃げる、と云う様なことをしないので、簡単に再捕獲されてしまう。まだ幼虫だが、顔は殆ど一人前(一匹前?)のオオカマキリ(写真クリックで拡大表示)(2011/08/06) 蟷螂の斧を振りかざす様なことはしないが、顔を見ると、既にリッパなカマキリである。オオカマキリらしく、以前紹介した緑色型の成虫と同じ「恐い顔」をしている。ハラビロカマキリは、顔の輪郭が丸くオニギリ型で、何となく愛嬌があるが、オオカマキリやチョウセンカマキリの顔は可愛げを感じさせない。顔の拡大。成虫の顔と殆ど差がないが、単眼が発達していない(写真クリックで拡大表示)(2011/08/06) 成虫と同じく恐い顔をしているが、良く比較してみると、幼虫と成虫では単眼が異なる。触角より少し上にある、左右の触角の間に見える3つの黄色い構造が「単眼」である。単眼もレンズ眼なのだが、写真ではレンズ的な感じがしない。恐らく、幼虫ではまだ「単眼」ではなく、単眼の原基に過ぎないのであろう。終齢幼虫なので、翅芽が発達している.模様が綺麗(写真クリックで拡大表示)(2011/08/06) 翅の原基(翅芽)が綺麗なので、ほぼ等倍で接写してみた。成虫になると、前翅と後翅では全然質が違うのだが、原基では、幅は違うが同じ様な構造をしている。 横から見たのが下の写真。但し、方向を反対にして撮影してしまったので、比較しやすい様に写真の左右をひっくり返してある。下の写真に写っている翅芽は、上の写真では上側にある。横から見ると、前翅と後翅で翅脈にかなりの差があることが分かる。横から見た翅芽.左右を反対に撮影してしまったので鏡像にしてある手前の翅芽は上の写真では上側の翅芽である(写真クリックで拡大表示)(2011/08/06) 今日は久しぶりに朝から暑い。昨日までカラミンサにワンサと集っていたハナバチ類が、今日は余り姿を見せていない。ある程度以上暑くなると、虫の方も「今日はアチーなー」とか言って何処かで休んでいるらしい。
2011.08.07
コメント(8)
少しややこしい話が続いたので、今日は分かり易い虫を紹介することにした。シマサシガメ(Sphedanolestes impressicollis)、サシガメ科(Reduviidae)Harpactorinae亜科に属す。 このHarpactorinae亜科、アカサシガメ亜科としているサイトもあるが、基準となるHarpactor属が日本に産しないので、一般に認められた和名はまだ無い様である。日本最大級のオオトビサシガメやヨコヅナサシガメを始め、ヤニサシガメ、アカサシガメ等の大型のサシガメが属す。このシマサシガメも体長は15mm前後と、かなり大きい。ダンギクの葉上にいたシマサシガメ体長15mm程度で白黒模様(写真クリックで拡大表示)(2011/06/22) 居たのは、昨年の秋に虫寄せ用として買ったが全く効果の無かった所謂ダンギク(菊と付いてもクマツヅラ科)の葉上で、6月下旬のことである。 同亜科に属すヨコヅナサシガメやヤニサシガメは動作緩慢で反応も鈍い。しかし、このシマサシガメはかなり敏感、何回も葉から葉へ飛び移り、最後は飛んで逃げてしまった。だから、正面からの写真が無い。こう云う白黒模様の虫は些か撮り難い簡単に黒つぶれ、白飛びしてしまう(写真クリックで拡大表示)(2011/06/22) 類似種が居ないので、それと直ぐに分かる「簡単な虫」である。比較的似ているのはヤニサシガメ位なものだが、本種は脚に白斑が沢山あるし、ヤニに被われず毛が多いので、区別は簡単。こう云う虫を紹介するのは気が楽である。検索表と睨めっこする必要が無い。複眼の後のマウンド上に単眼があり、胸背も盛り上がっている(写真クリックで拡大表示)(2011/06/22) 我が家の庭ではサシガメ類は少なく、このシマサシガメも今まで見た記憶がない。これまでに紹介したサシガメとしては、他にアカシマサシガメがあるのみである。しかし、これはヤスデ食いの地表性なので、一寸印象が異なる。体は白い毛に覆われている.赤い単眼が見える(写真クリックで拡大表示)(2011/06/22) サシガメ類は捕食性のせいか一般に眼が大きい。その中でも、このシマサシガメの眼は大きく、玉の様で特に魅力的?である。 単眼もかなり盛り上がったマウンドの上にあり、結構目立つ。少し下から見たシマサシガメ.眼が大きい(写真クリックで拡大表示)(2011/06/22) もう8月に入ってしまった。6月の更新はたったの1回、7月は2回しか更新していない。幾ら何でも、一寸、サボり過ぎである。ネタは色々あるのだが、写真を調整したり、原稿を書く時間が無い。 ・・・しかし、つべこべ言っている閑があったら、サッサと更新すべし。
2011.08.03
コメント(6)
前回に引き続き、2番目のニセアシナガキンバエを紹介する。田悟(2010)(「関東地方にて採集したアシナガバエ科の記録」,はなあぶ No.30-2,1-96)で、ウスグロエダナシアシナガバエの新称を与えられた、ホソアシナガバエ亜科(Sciapodinae)のMesorhaga sp.1である(今日の写真の種については、田悟氏から確認を頂いた)。 実は、一昨年の夏に「ニセアシナガキンバエ」を掲載した時から、どうもこの辺りに居る「ニセアシナガキンバエ」には複数種が含まれている様な気がしていた。其処で、以前に撮影した写真を調べてみると、遠目にはソックリだが、翅脈相の大いに異なる種が見つかった。撮影当時は、「ニセアシナガキンバエその1」であるウデゲヒメホソアシナガバエ(Amblypsilopus sp.1、以下ウデゲと略す)と区別が付かなかったらしい。 尚、Web上にある「アシナガキンバエ」の写真を1時間余り調べてみたが、明確に本種と思われる写真は見つからなかった。ウスグロエダナシアシナガバエ(Mesorhaga sp.1)の雄M1+2脈は分岐せず、緩やかに湾曲する背中の真ん中付近に中刺毛が見える(写真クリックで拡大表示)(2007/05/28) このアシナガバエは、2007年から毎年(日本不在の09年を除く)自宅やその近く(東京都世田谷区西部)で撮影されており、興味深いことに、撮影日は何れも5月17日から5月28日までの約10日間に限られていた。昨年は、写真は撮ったものの、「身柄の確保」に失敗したので、双翅目の掲示板「一寸のハエにも五分の大和魂・改」に御伺いを立てるのは控えた。同種の雌.上の個体とは異なり青味が強い(写真クリックで拡大表示)(2010/05/28) 其処で、今年こそはと思い、5月の中旬から自宅や近くの緑地で、その出現を待っていたのである。今冬は寒さが厳しかったせいか、虫の出や草木の開花が、種類によってはかなり遅れた。今年の初見は5月31日、最終は6月8日で、2週間程ずれているものの、やはり出現時期は極く狭い範囲に限られていた。同一個体.この手のアシナガバエはみな精悍な顔をしている雌の場合、中刺毛は不明瞭、乃至、見えない(写真クリックで拡大表示)(2010/05/28) ニセアシナガキンバエその1であるウデゲと「遠目にはソックリ」と書いたが、このウスグロエダナシアシナガバエ(以下、ウスグロと略す)は、その名前の通り翅がやや暗色で、光線の具合によっては殆ど透明に見える時もあるが、青やかなり黒い色に見えることが多い。同一個体の超接写写真(約1.5倍).この程度の倍率で撮影すると、中刺毛が微かに認められる(写真クリックで拡大表示)(2010/05/28) このウスグロの第1の特徴は翅脈である。本種の属すMesorhaga属では、写真でお分かりの通り、M1+2脈は分岐せずに緩やかに湾曲し(翅脈についてはこちらの5番目の写真を参照されたい)、他属のホソアシナガバエ亜科(Sciapodinae)の様に、M2脈を生じることはない。和名に含まれる「エダナシ」は、このことを意味する。 この様な翅脈相はホソアシナガバエ亜科の中では極めて特異的である。今年撮影した赤味の強い雄.かなり分かり難いが中刺毛が片側2列あるのが認められる(写真クリックで拡大表示)(2011/06/07) 九州大学の日本産昆虫目録を見ると、Mesorhaga属には、M. janataと、現在ではCondylostylus属に入れられているマダラホソアシナガバエ(マダラアシナガバエ)の2種が属すのみで、M. janataがどんな特徴を持つのかは、調べてみたが良く分からなかった。田悟(2010)にも何も書かれていない。また、田悟(2010)に載っているMesorhaga属は、本種1種のみである。上の個体の標本・頭部拡大写真(約3.5倍).2方向から撮影後単眼刺毛(poc)は3対に見えるが、他に極く短い刺毛もある略号については本文参照のこと(写真クリックで拡大表示)(2011/06/08-0703) さて、次にこのウスグロの細かい特徴を見ることにする。写真は何れも5番目の赤味の強い個体で、日付は撮影日であり、採集日(2011/06/07)ではない。 単眼刺毛(oc)は1対、後単眼刺毛(poc)は、田悟(2010)では4対と書かれているが、写真(上)では3対の様に見える。しかし、角度によっては極く細い刺毛らしきものが1本見えていたりするし(上写真の小白矢印)、写真で刺毛の数を数えるのはかなり困難である。頭頂刺毛(vs)は1対で、これは前方を向き少し下に曲がる。 他に、頭頂付近には後眼刺毛列に続く多数の曲がった長刺毛があり、後頭頂刺毛はそれらからの区別が難しい。尚、このウスグロでは、前回のウデゲとは異なり、頭部刺毛に関する雌雄の差は基本的に認められない。 また、触角第2節(梗節)からは短い刺毛が多数生じている。同一個体の胸部.中刺毛(ac)2列(ac1とac2)背中刺毛(dc)は1列で6本見える(写真クリックで拡大表示)(2011/07/02) 胸背の刺毛は、田悟(2010)に拠れば、中刺毛(ac)が(片側)2列で4~6対、背中刺毛(dc)が1列で5対以上、中刺毛はかなり不規則に並んでいる(上)。しかし、生態写真からは、中刺毛は、雄では細かいながらも認められるが(1、5番目の写真)、雌では不明瞭(2,3番目)、乃至は、疎ら(4番目)に見える。やはり、生態写真で刺毛を確認するのは相当に困難である。同一個体の胸部.記号については本文参照のこと(写真クリックで拡大表示)(2011/07/02) 胸部肩側の刺毛は、肩刺毛が無く(小毛は存在するとのこと)、肩後刺毛(ph)1、背側刺毛(np)2、横溝上刺毛(su)1、翅背刺毛(sa)2、翅後刺毛(pas)1、小楯板側刺毛(is)2となっており、これらは写真からも認められた。尚、刺毛の称呼については異説も色々有るらしいが、これらの名称は田悟(2010)に拠る。 尚、写真は省略するが、前脚付節先端の爪の間からほぼ垂直に伸びる1長毛があり、これはその中央付近で前方へ湾曲する。同一個体の尾端(交尾器).末端の尾角(cercus)の形状は独特横に伸びる長い刺毛が両側にある(黒矢印)(写真クリックで拡大表示)(2011/06/08) 最後に雄の尾端を示す。先端部の尾角(cercus)は先端が2つに分かれる独特の形をしている。また、その側面には強く長い1対の刺毛が認められる(黒小矢印)。 田悟(2010)を見ると、ホソアシナガバエ亜科には、他にも「ニセアシナガキンバエ」の候補が幾つかある。しかし、これ以上書くと楽天ブログの文字制限に引っ掛かってしまうので、これらについては、また別の機会に紹介することとする。
2011.07.22
コメント(3)
一昨年の8月に、世上で「アシナガキンバエ」とされているアシナガバエが、実際は亜科も異なる全く別の種であることを掲載した。今回はその「ニセアシナガキンバエ」の正体がもう少し詳しく分かったので、それについて書くことにする。 実は昨年、双翅目屋の集まりである双翅目談話会の会誌「はなあぶ」に、田悟敏弘氏が「関東地方にて採集したアシナガバエ科の記録」(No.30-2,2010)と云う、250枚もの図を含む96ページの大報文を載せられた。このWeblogの撮影場所は関東地方だから、以前掲載した「ニセアシナガキンバエ」は、当然この報文に載っている筈である。ウデヒゲヒメホソアシナガバエ(Amblypsilopus sp.1)の雄冷蔵庫で冷やして動けなくしてから撮影体長4.5mm弱、翅長4.0mm強普通の個体よりもかなり赤味が強い(写真クリックで拡大表示)(2011/06/24) 「アシナガキンバエ」としてWeb上に掲載されている”ニセ”アシナガバエは、実際にはかなりの種類が含まれるのではないかと思われる。しかし、その中で最も一般的な種は、我が家の庭(東京都世田谷区西部)にも沢山居るこの写真の種であろう。その正体をハッキリさせるには、生体の写真を撮るばかりでなく、虫を捕まえて細部を詳しく調べることが必要となる。特に重要なのは雄の交尾器(ゲニタリア)の構造で、これは生体では中々撮り難い。 ・・・と云う訳で、以下に示す様に、虫体を確保して色々調べた結果、このアシナガバエは、田悟氏が「ウデゲヒメホソアシナガバエ」と新称を付けられた、ホソアシナガバエ亜科(Sciapodinae)のAmblypsilopus sp. 1と同一であると云う結論に達した。この点については、田悟氏からも同意を頂いた。 和名があって、学名が未定なのは、一寸奇妙に思われるかも知れない。しかし、研究の進んでいない分野では良くあることで、世界のアシナガバエに関するデータが充分揃っておらず、種の記載にまでは至っていないのである。この田悟氏の報文の目的も、新種の記載ではなく、取り敢えず、日本産アシナガバエ科の不明種を和名と云う共通の認識に基づいて整理しようと云うことなのである。以下4番目まで同一個体.雄の交尾器は大きい(写真クリックで拡大表示)(2011/06/24) 一昨年に掲載したのは、雌の写真ばかりであったので、今回は雄の生体写真を載せることにした。しかし、この写真、実は一種の「ヤラセ写真」である。 この手のアシナガバエは、極めて敏感な上に、今年は早くから気温が高かったせいか常に動き回っていて、中々高精度の写真が撮れない。其処で、捕獲して冷蔵庫で冷やし、仮死状態になったのを蕗の葉の上に置き、元気を取り戻しつつあるところを据物撮りにしたのである。だから、何となく脚付きが頼りない。前から見ると非常に精悍.複眼の一部が赤紫なのは構造色胸背中央の左右各2列の刺毛は中刺毛、その横は背中刺毛(写真クリックで拡大表示)(2011/06/24) 尚、今回はストロボにディフューザーを付けて撮影しているので、全体の調子が柔らかく、実際に近い質感が出ている。冷蔵庫で冷やして仮死状態にした後、元気を回復中だがまだ充分ではないので、脚付きが些か頼りない(写真クリックで拡大表示)(2011/06/24) この種は、一般には金色から金緑、金青色を帯びた個体が多いが、写真の個体ではかなり赤味が強い。しかし、アシナガバエ科では、金青~金緑~金~金赤の色彩変化は普通の様である。ウデゲヒメホソアシナガバエの翅脈(写真クリックで拡大表示)(2011/07/07) これから、細部の話となる。まず最初に翅脈である。 このウデゲヒメホソアシナガバエはホソアシナガバエ亜科(Sciapodinae)に属し、この亜科では、翅脈相は上の写真の様に、M1+2脈がM1脈とM2脈に別れ、M1脈は前方に強く曲り、その後緩やかに元の方向に戻って、前方のR4+5脈の近くで翅端に達するのが一般的である(例外あり)。この種では、写真で見られる通り、M2脈はかなり弱い。 一方、本物のアシナガキンバエが属すアシナガバエ亜科アシナガバエ属(Dolichopus)の多くは、M1+2脈は2回直角に近い角度で曲り段状を呈す。 尚、九大名誉教授の三枝先生の御話に拠ると、M1+2脈は分岐するのではなく曲がるだけであり、此処で書いたM2脈は二次脈とする考え方もあるとのこと。頭部の刺毛.雄(左)と雌(右)で異なる(写真クリックで拡大表示)(2011/07/07) 次に頭部の刺毛。この種では、雄と雌で頭部の刺毛が大いに異なる。 雄(写真左)では前額の複眼寄りに多数の直立刺毛があり、普通この辺りにあるはずの頭頂刺毛(vs)が無い。また、単眼刺毛(oc)は強い1対があり、後単眼刺毛(poc)は、田悟氏の報文では1対だが写真では2対の様に見える(この辺りの判断は写真では難しい)。また、後頭頂刺毛は後眼刺毛列と一緒になっていてそれらと区別し難い。 一方、雌(右)では前額の直立刺毛は無く、その代わりに強い頭頂刺毛(vs)がある。単眼刺毛、後単眼刺毛、後頭頂刺毛は雄と大差ない。 胸部の刺毛については、3番目の写真で中刺毛が2列、背中刺毛が1列あるのが確認出来る。しかし、その他の肩に近い部分の刺毛(肩刺毛2、肩後刺毛1、背側刺毛2、横溝前翅内刺毛1、横溝上刺毛1、翅背刺毛2等)は、その数も多く、また、脱落していると思われるものもあって、色々な方向から写真を撮ってみたが、完全には識別出来なかった。やはり、実体顕微鏡が無いと、この手の刺毛の判別は難しい。「ウデゲ」の名は、前脚第1、第2付節に密生する短毛から来ている(写真クリックで拡大表示)(2011/07/07) このアシナガバエの前脚第1、第2付節には、その両側に短毛が密に生えている(上)。これがこの種の一大特徴で、「ウデゲヒメホソアシナガバエ」の名称は此処から来ている。雄の尾端.田悟氏報文の176図と基本的に一致する(写真クリックで拡大表示)(2011/07/07) 最後に雄の腹端部(交尾器)である(上)。田悟氏の報文に載せられた図と基本的に一致しており、類似した交尾器を持つ種は他に見当たらない。これは、この種が「ウデゲヒメホソアシナガバエ」であることを示す、最も決定的な証拠である。 本種は、一昨年の夏に双翅目の掲示板「一寸のハエにも五分の大和魂・改」で御検討頂いた種で、その結果は既に拙Weblogに載せてある。その時は、私が生態写真しか提示しなかった為、三枝先生がお手元の標本の中からよく似た種を探がす労を取られ、それをChrysosoma属である可能性が高いと判断された。今回の田悟氏の報文で、このアシナガバエは同亜科別属のAmblypsilopus属に属すことが示されたが、この不一致は、私が写真のみ、しかも雌の写真しか提示せず、細部を検討出来る標本を作らなかったのが原因である。私が、虫を殺さないと云う我が儘を通した為、結果として三枝先生には大変な御迷惑を掛けてしまった。先生には、此処に深くお詫びする次第である。 しかし、Chrysosoma属とAmblypsilopus属は非常に近い間柄にあり、このウデゲヒメホソアシナガバエの正確な所属については今後検討の余地があるとのこと。先生に御迷惑を掛けてしまい、すっかりショゲ返って居たが、これで少しは気が楽になった。
2011.07.17
コメント(2)
本当はWeblogの原稿を書いている閑など無いのだが、前回の更新から2週間も経ってしまったので、簡単な記事を載せることにした。 前回紹介したスイセンハナアブと同じ日に撮影したツゲノメイガ(Glyphodes perspectalis)である。「柘植之螟蛾」ではなく「柘植・野螟蛾」で、現在はツトガ科(Crambidae)ノメイガ亜科(Pyraustinae)に属す。以前は、例えば手元にある保育社の古い蛾類図鑑(昭和32年発行)では、メイガ科ノメイガ亜科の所属となっている。柿の木の葉裏に留まったツゲノメイガ(写真クリックで拡大表示)(2011/05/20) 庭を歩いていたら、足許からモンシロチョウ位の大きな白っぽい蛾が飛びだした。しかし、直ぐに近くにある草の葉裏に逃げ込んでしまい、姿は良く分からない。近づくとまた飛んで逃げる。何回か、追いかけっこをした結果、少し高く飛んでカキの木の葉裏に留まった。これなら姿が良く見える。 開張5cm位あるかなり大きな蛾である。白地で黒枠と云う模様から、ヨツボシノメイガ(ヨツホシノメイガ)や、お尻の先をクネクネさせるので有名なワタヘリクロノメイガ等と近縁の「アレ」であることが直ぐに分かった。真上にいる虫を撮るのはシンドイ.翅の左の部分はボケている(写真クリックで拡大表示)(2011/05/20) 早速図鑑を開いてみると、ツゲノメイガであった。しかし、この古い図鑑では、上記の2種の他に、ミツシロモンノメイガ、クワノメイガ等、何れも同じDiaphania所属となっているが、「みんなで作る日本産蛾類図鑑」に拠ると、ツゲノメイガとミツシロモンノメイガはGlyphodes属、ヨツボシノメイガはTalanga属、クワノメイガはGlyphodes属で、Diaphania属に属すのはワタヘリクロノメイガ1種のみとなっていた。 まァ、昭和32年の図鑑だから、現在の状況と大いに違っていても些かもおかしくはない。真上なので、今度は体を180度回転させて撮影前の写真よりもストロボの反射がより強く画像処理で誤魔化した為、色調がヘン良くない写真の例として載せた(写真クリックで拡大表示)(2011/05/20) こう云う純白に近い部分を持つ蛾は、自然光で撮らないと、白い部分の反射が強く露出過度になるし、構造色が出て本来の色と違ってしまう。しかし、頭上のカキの木の葉裏では、逆光で自然光での撮影は難しい。仕方なく、ストロボを焚いた。 その結果として、構造色で白い部分が青っぽくなったり、黒の筈が赤味を帯びた金色になっている所が随分ある。また、露出過剰で白飛びした部分を画像処理で誤魔化しているので、かなり変な色調になっている。特に最後の写真など、翅の後縁が妙に霞んでいるが、これは白飛びしている部分の明度を画像処理で無理矢理下げた副作用である。同様に、腹部胸部に見える淡い模様も、本来は存在しない人工産物(artifact)で、本当は全体に真っ白である。 今日の拡大写真は、何れも焦点が翅全体に合っていない。何しろ、カメラを真上に向けて撮らなければならないので、撮る方としては実にシンドイ。それに、余り体を反り返らせると、脊柱管狭窄症に非常に良くないのである。
2011.06.11
コメント(8)
作業が一段落したので、またWeblogの更新をすることにした。 実は、今日は別の虫を紹介するつもりだったのだが、一寸した訳があって、以前紹介したことのあるスイセンハナアブ(Merodon equestris)を、もう一度掲載することになった。クリスマスローズの葉上に留まるスイセンハナアブ(雄)遠くから見ると、コマルハナバチの働きバチに似る(写真クリックで拡大表示)(2011/05/20) 遠目に見ると、コマルハナバチの働きバチの様な大きさと色具合である。しかし、ハチとアブ(本当はハエだがアブとしておく)を見間違えることはない。 それにしても、今までこの辺り(東京都世田谷区西部)で見たことのない配色、これはシッカリ撮ってやろうと思ったのだが、結構敏感なヤツで、数枚で逃げられてしまった。斜め上から撮ったスイセンハナアブ(雄)翅脈がハラブトハナアブ属とは異なる真上からは今回も撮れなかった(写真クリックで拡大表示)(2011/05/20) 太めで毛深いハナアブ(ハナアブ科:Syrphidae)と言えば、ハラブトハナアブ属(Mallota)が思い浮かぶ。早速、市毛氏の「ハナアブ写真集」を参照してみた。しかし、ハラブトハナアブ属と今日のハナアブとでは、翅脈が明らかに異なる。 さて、それでは一体、此奴は何者・・・、と考えていたら、外来種のスイセンハナアブのことを思い出した。昨年の今頃に掲載したことがあるが、全身が黄褐色~灰褐色の毛で覆われていて、今日のハナアブとはまるで模様が違う。しかし、模様は個体変異かも知れない。横から見ると、後腿節が太く、脛節は曲りその内側に2個の突起があるのが見える(写真クリックで拡大表示)(2011/05/20) 早速、自分のWeblogを見直してみた。翅脈は全く同じである。「ハナアブ写真集」を良く見てみると、この様な翅脈はスイセンハナアブの属すMerodon属だけの様で、しかも、この属には他にカワムラモモブトハナアブが記録されているだけである。カワムラモモブトは「ハナアブ写真集」に載っており、明らかに別種である。・・・と言うことで、今日のハナアブはスイセンハナアブ(Merodon equestris)で間違いないであろう。Web上で探してみると、ソックリな写真が沢山出て来た。極く普通の変異の様である。 昨年掲載した時にも書いたが、北隆館の新訂圖鑑には、「脚は黒色で後脚の腿節は肥厚し脛節内側中央付近は広く瘤状に膨れ、末端内側には長い角状突起があり、外側には板状の突起がある」と書かれている。「板状の突起」は角度の関係で良く分からないが、内側の膨れと突起は上の写真で明らかである。斜め前から見たスイセンハナアブの雄右後から陽が当たって些か見苦しい(写真クリックで拡大表示)(2011/05/20) しかし、昨年掲載した時にも最初はハラブトハナアブの仲間と間違えている。進歩がない、と言うか、1年前に書いた記事のことはもうすっかり忘れている。全く、困ったものである。 尚、九州大学の日本産昆虫目録には外来種のスイセンハナアブは見当たらず、Merodon属にはカワムラモモブトハナアブ(Merodon kawamurai)とナガモモブトハナアブ(Merodon scutellaris Shiraki, 1968)の2種が載っている。しかし、「一寸のハエにも五分の大和魂・改」の関連サイトである「みんなで作る双翅目図鑑」(写真は殆ど無い)の一覧表(九大目録よりも新しい)を見ると、Merodon属はスイセンハナアブとカワムラモモブトハナアブの2種のみで、ナガモモブトハナアブは(Azpeytia shirakii Hurkmans. 1993)となっており、全然別の種となっている(族はマドヒラタアブ族で同じ)。 また、北隆館の新訂圖鑑を見ると、スイセンハナアブの学名はMallota equestris)であり、該一覧表とは属ばかりでなく族も異なる。Mallota属はナミハナアブ族(Eristalini)、Merodon属はマドヒラタアブ族(Eumerini)に属す。 この辺り、一体どうなっているのか、一介の素人には全く分からないが、此処では、市毛氏の写真集に従って、スイセンハナアブはマドヒラタアブ族に属し、学名はMerodon equestrisとしておく。
2011.05.27
コメント(2)
毎日同じ作業の連続で少し疲れた。其処で、今日は気分転換にWeblogを書くことにした。 冬の間にホソヒラタアブやクロヒラタアブの食事用と思ってノースポールを3株植えて置いた。これが4月頃から勢力を増しスザマジイ密度で咲いていたのだが、ある日、どうも1株分と言うか、1/3位の花が萎れ始めた。メガネを掛けて良く見てみると、何と、茎にアブラムシがビッシリ!! これは困ったことだと思っていたら、数日後、体長7mm位のクロヒラタアブ(Betasyrphus serarius:ハナアブ科Syrphidaeヒラタアブ亜科Syrphinae)の幼虫が数頭、花の上で日向ぼっこ?しているのを見つけた。やはり、アブラムシが発生すると、ヒラタアブの幼虫も出現することになっているらしい。ノースポールの花の上で日向ぼっこ?するクロヒラタアブの幼虫黒と白の矢印の先に全部で5頭見える(写真クリックで拡大表示)(2011/04/27) 2日後、またクロヒラタアブの幼虫が花の上で日向ぼっこをしていた(上の写真)。成虫は日向ぼっこが大好きだが、幼虫も日向ぼっこが好きなのか? 或いは、日に当たらないとヴィタミンDが不足するのかも知れない。 上の写真で、黒と白の矢印で示した先に、クロヒラタアブの幼虫が居る。全部で5頭だが、勿論、見えないところにもまだ居る。最初の写真で、右下側端から2番目の個体90度回転しているので御注意(写真クリックで拡大表示)(2011/04/27)最初の写真で右下端の個体を横から見たもの.花粉まみれである或いは、幼虫も花粉を食べるのだろうか?(写真クリックで拡大表示)(2011/04/27) しかし、2日前は7mm程度だったのが、2日で10~12mmに成長している。蛹化直前と云う感じ。 実際、既に蛹になったものも見つかった(次の次の写真)。花の下で2頭の幼虫が仲良く?並んでいた(写真クリックで拡大表示)(2011/04/27) 花の下で、2頭が仲良く?している場面も見つけた(上)。クロヒラタアブの幼虫は共食いをすることもあるので、こんな光景は珍しいのではないだろうか。因みに、細長い方が頭なので、上の写真では互いに「顔」を向け合っていることになる。 これまでの経験によると、蛹になってから確保したヒラタアブ類の羽化率はかなり低い。50%を越えたことはないと思う。コバチ類が「無数」に出て来るか、その儘干からびてしまうことが多い。ヒラタアブ類は蛹になってからコバチ類に寄生される、と何処かで読んだ。其処で、もう蛹化も近いし、見つけた個体(幼虫7頭に蛹1個)は全部飼育することにした。既に蛹になっている個体もあった(写真クリックで拡大表示)(2011/04/27) ところで、餌となるアブラムシは・・・と見ると、もう殆ど居ない。下の写真は、辛うじて残っているアブラムシを見つけ出して撮ったもの。背景になっている茎に見える白っぽい粒々は中身を吸われたアブラムシの殻である(一部に脱皮殻もあろう)。 アブラムシの居た茎の数は50本位で、各茎に50~100頭位のアブラムシが居たと思う。・・・と言うことは、全部で3000~4000位のアブラムシが、数日で殆ど全滅してしまったのである。 この時見つけたクロヒラタアブの幼虫と蛹は全部で8個体、他に、ホソヒラタアブの幼虫も数頭見つけた。勿論、見えないところにもかなりの数の幼虫(特に小さい個体)が居ただろうが、しかし、天敵としてのヒラタアブ幼虫の威力、スザマジイものである。ノースポールの茎に寄生しているミカンミドリアブラムシ周囲の茎にいたアブラムシは殆ど全滅している(写真クリックで拡大表示)(2011/04/27) このアブラムシ、全農教のアブラムシ図鑑で調べてみると、どうやらミカンミドリアブラムシ(Aphis citricola)らしい。体全体や脚、角状管、尾片等の色、角状管と尾片の形態、触角の長さなどが一致する。ミカンミドリアブラムシ.角状管と尾片は黒く、後腿節の先端部と脛節の基部、成虫の頭部は、角状管ほどではないが暗色(写真クリックで拡大表示)(2011/04/27) 同図鑑に拠れば、このアブラムシはミカン属、シモツケ属、リンゴ属、ボケ属、その他多くの木本植物や草本に寄生する。かつてアブラムシは寄主の違いで分類されたことが多いので、このアブラムシも、学名和名共に、沢山の名前を持っていた。 ユキヤナギアブラムシ(A. spiraecola)の名もよく知られているが、同図鑑に拠れば、これは本種のシノニム(Synonym:異名)とのこと(尚、九州大学の日本産昆虫目録を見ると、ミカンミドリアブラムシの名は見当たらず、ユキヤナギアブラムシがA. citricolaとして載っている)。確保したクロヒラタアブの幼虫と蛹全8頭総てが無事羽化した左は既に蛹になっていた個体で雄(5月4日羽化)右は幼虫から飼育したもので雌(5月7日羽化)(写真クリックで拡大表示)(2011/05/04、05/08) 幼虫7頭と蛹1個を確保したが、幸いなことに、全個体が無事に羽化した。飼育の甲斐があったと言える。クロヒラタアブはもう既に紹介済みだが(実は、幼虫も蛹も・・・)、写真の幼虫がクロヒラタアブであったことの証拠として、雄雌1頭ずつを並べて掲載することにした(酷似種にニッポンクロヒラタアブ(B. nipponensis)があるが、珍種の様だし関東では記録が無いのでその可能性は考慮していない)。 左が雄、右が雌。体長がほぼ等しくなる様に倍率を調整してある(実際の体長は、雌が約11.0mm、雄が11.5mmで殆ど違わない)。小楯板や頭部胸部は雄の方がかなり大きい。逆に言えば、雌は腹部の比率が大きい訳だが、腹には卵、或いは、その元(卵原細胞や卵母細胞)が詰まっている筈なので当然であろう。 尚、今回はクロヒラタアブの幼虫や蛹の詳細に付いては紹介しなかった。実は、昨年の暮れにその細かい構造や捕食行動をシッカリ撮影してある。しかし、余りに詳しく写真を撮り過ぎたので、どう整理するかがまだ決まっていない。その内、掲載すると思うが、何時のことになるか、自分でも良く分からない。[18日に掲載予定であったが、一部の写真が未調整であった為、19日の朝に掲載することになった。文頭の「今日」は昨日(18日)である]
2011.05.19
コメント(12)
東日本大震災から2ヶ月近く経った。我が家や我が身には何らの被害もなかったが、「新たな事象」が出来して、Weblogを書く時間的余裕が無くなってしまった。しかし、止めるつもりは無いし、写真もある程度は撮っているので、丁度、一区切り付いたところでもあり、ほぼ2ヶ月ぶりに更新をすることにした。クリスマスローズの葉に留まるイタドリハムシ体長は7.5mmとハムシとしては大きい(写真クリックで拡大表示)(2011/04/15) 4月の中旬に撮ったイタドリハムシ(Gallerucida bifasciata)である。ハムシ科(Chrysomelidae)ヒゲナガハムシ亜科(Galerucinae)に属す。属名はGallerucidaで「l」が2文字だが、亜科名はGalerucinaeで1文字。何処でどうなったのかは知らないが、屹度、何か曰くがあるのだろう。 ヒゲナガハムシ亜科はかなり大きな亜科で、日本産は約100種。我が家はハムシ科の虫が少ない(今日のイタドリハムシで漸く10種)のだが、この亜科のハムシはこれまでにウリハムシ、クロウリハムシ、ウリハムシモドキ、ヨツボシハムシを紹介している。今回で合計5種となり、我が家のハムシ科昆虫の1/2を占めることになる。触角の大きなギザギザが印象的前胸背左側に丸い凹みが見える鞘翅以外は脚も含めて真っ黒(写真クリックで拡大表示)(2011/04/15) 写真で示した個体の体長は約7.5mm、横幅もあるので、かなり大きなハムシと云う印象を与える。実際、ハムシ科の中では大型の方に属し、保育社の甲虫図鑑を観ると7.5~9.5mmとあるから、この個体はイタドリハムシとしては小さめと言える。 因みに、最大級のハムシとしてはオオルリハムシが有名で、同図鑑に拠れば11~15mmとある。正面から見たイタドリハムシ.ディフューザーを使わなかったのでストロボの反射で些か見苦しい写真になっている(写真クリックで拡大表示)(2011/04/15) 図鑑を見ると、触角が長く体全体が丸味を帯びて色は赤(橙)と黒、と云うハムシにはかなりの種類がある。しかし、こんなに大きくなるハムシはイタドリハムシだけらしい。 鞘翅以外は総て真っ黒だが、翅の模様には変化が多いとのこと。しかし、翅端近くにある錨の様な形をした黒紋には変化が少ない様である(3つに分離することはある)。イタドリハムシの顔.ハムシとしては比較的凶暴さを感じさせない(写真クリックで拡大表示)(2011/04/15) 他の特徴としては、前胸背に2個1対の凹みがある。写真からは分かり難いが、2番目の写真の前胸背左側(写真では上側)に微かに丸い凹みが認められる。種名のbifasciataは<2つ凹み>ではなく<2つの帯>の意だが、fasciaには他の意味もあるので、このハムシの構造と如何なる関係にあるのかは良く分からない。 図鑑には、「中・後脛節末端には顕著な1小突起を有する」と書いてある。しかし、今日の写真では何れも焦点を外れており、よく確認出来ない。葉の先端に来たイタドリハムシ.飛んで逃げるかと思ったが、その後も数時間同じ場所に居た(写真クリックで拡大表示)(2011/04/15) このイタドリハムシ、我が家ではクリスマスローズの葉に留まっていた。言う迄もないことだが、クリスマスローズが食草なのではない。食草は、名前にある通り、イタドリやスイバ等のタデ科植物とのこと。クリスマスローズは我が家に数10株生えているが、キンポウゲ科の毒草のせいか、この葉を食べる虫を見たことは一度もない(明確な食痕も見たことがない)。オマケにもう1枚(写真クリックで拡大表示)(2011/04/15) 前回以来、ほぼ2ヶ月ぶりの更新になってしまった。この次は何時になるか分からないが、気分転換に、時々は更新するつもりで居る。
2011.05.05
コメント(6)
昨年の2月に「ベッコウマイマイの1種(続)」を掲載したが、その記事の最後に「先日、性懲りもなく植木鉢の下を探していたら、もっと小さなベッコウマイマイ科と思われるカタツムリを見付けた.(中略)此処暫く寒い日が続いて新顔のネタも現れないので、その内また超微小カタツムリを紹介することになるかも知れない」と書いた。しかし、昨年の冬はネタ切れの為カタツムリを4回も掲載したので、余り同じ様なものが続くのも「如何なものか」と思い、結局、その儘御倉入りにしてしまった。 昨年の更新回数を調べてみると、1月は5回、2月は6回、ネタ不足の割りには結構頑張っている。一方今年はどうかと言うと、1、2月合わせてたったの6回、しかもその内の3回は去年の秋に撮った写真である。少しサボリ過ぎと言える。 其処で、今日は上で言及した「超微小カタツムリ」を紹介することにした。石の上を這う殻径1.4mmの超微小カタツムリ(写真クリックで拡大表示)(2010/02/09) 殻径は僅か1.4mm。これまでに紹介した「超微小カタツムリ」の中で最も小さい。今日の写真は、小さい被写体を撮る時にテレプラス×2を使うのが常道になっていなかった時期のものなので、普通の等倍撮影である。だから、最近の写真と比べて解像度がかなり低い。殻がベッコウ色をしていて中々美しい(写真クリックで拡大表示)(2010/02/09) 土の上では撮影し難いので、平らな径10cm位の石の上に載せて撮ることにした。土の中からほじくり出したのだから、当然、中身(軟体部)は殻の中である。しかし、前回(「ベッコウマイマイの1種(続)」)の経験で分かったことだが、こう云う殻に閉じこもった微小カタツムリは、水を1滴かければ中身を出して来る。先ず石全体を良く洗ってからカタツムリを置き、その上に水を一滴垂らす。何しろ殻径1.4mmと小さいので、表面張力でカタツムリの周囲に水がしっかりとくっ付き、一寸水滴の中で泳いだ様な状態になってしまうが、特に問題はない。乾燥した場所に移動して軟体部を殻に引き込めるところ中段は上段の50秒後、下段はその4秒後(写真クリックで拡大表示)(2010/02/09) 直ぐに軟体部を出して来て、暫くすると石の上を這い始めた。写真だけ見ると、普通の大きなカタツムリと何ら変わることはない。これが殻径1.4mmの「超極小カタツムリ」とは一寸思えない姿である。 この日は最高気温が21℃(気象庁過去の気象データ検索に拠る)にもなり、南風が少し吹いていた。忽ちの内に、石の表面は乾いて行く。2番目の写真で右側が白っぽく写っているが、これは水が蒸発し乾いて来た部分である。 水分は体長の3乗、表面積は2乗に比例するから、殻径1.4mmでは、あっと言う間に干物になってしまう。上の写真は、カタツムリが表面の乾いた部分へ移動してしまい、乾燥を恐れて軟体部を体に引っ込める所を撮ったものである。上段から下段まで、約55秒。殻頂から見たベッコウマイマイの1種.螺層は3層半に満たない(写真クリックで拡大表示)(2010/02/09) カタツムリに水滴をかけ、付いた土が落ちたところで、貝殻を撮影することにした。 撮影した写真から、一応科の検索をしておこう。東海大学出版会の「日本産土壌動物」にある腹足綱(マキガイ綱)の検索表を引くと、「渦巻き状の殻を持つ→殻口に蓋がない→触角の先に眼がある→殻口内に歯状突起などがない→殻は半透明で薄くてもろい→殻は低円錐形、臍孔は狭いが閉じる」で簡単にベッコウマイマイ科(Helicarionidae)に落ちる。臍孔は閉じている.半透明の殻を通して軟体部が見える(写真クリックで拡大表示)(2010/02/09) 以前、「ベッコウマイマイの1種」で書いた様に、この文献の本文解説を読むと、「貝殻は殻径2~18mm、薄質で多くは黄褐色を呈し、光沢がある.殻口縁は単純で薄い.(中略)日本産として記録されているのは22属約100種であるが、貝殻の特徴からの分類に加えて、生殖器形態を重視しなければならず、本科の分類学的検討が遅れている.そのため、本科の属までの検索は割愛する」と書かれている。 従って、属は不明だが、以前の「ベッコウマイマイの1種」とは殻高が異なり(今日の方が殻高がずっと低い)、明らかに別種であろう。結果として、今日の表題は「ベッコウマイマイの1種(その2)」と相成った。殻口は薄く、かなり丸味を帯びている(写真クリックで拡大表示)(2010/02/09) この超微小カタツムリを殻頂の方から見ると、巻数(螺層)はまだ3層半に満たない。保育社の「原色日本陸産貝類図鑑」のベッコウマイマイ科各種の解説を読むと、その多くは4~6層である(中にはスジキビガイの様に3.5層と云う巻き数の少ない種もある)。恐らく、このカタツムリはまだ成貝になって居らず、今後成長して、もっと大きくなるのであろう。
2011.03.10
コメント(10)
最近は、朝晩は寒くても、日中陽が射せばぽかぽかと春らしい陽気となってきた。啓蟄も過ぎて、虫が色々出て来てもおかしくない頃だと思うのだが、庭を飛んでいるのは常連のホソヒラタアブ、クロヒラタアブ位なものである。 しかし只一つ、今年は例年にはない「異変」が認められた。まだ、寒い1月下旬か2月上旬辺りから、時折ミツバチがやって来るのである。花に来ている様子はなく、木の細い枝や葉に留まり、30秒も経つと何処かへ飛んで行ってしまう。 それが、数10株もある庭のクリスマスローズが咲き始めた頃から急にその数が増え、昨日などは10頭余りが庭を飛び交っていた。クリスマスローズの花は下向きだから、訪花しているハチは花に隠れて見えないことを考えると、20頭以上は来ていたのではなかろうか。 こんなことは、我が家始まって以来?のことである。我が家でミツバチが現れるのはもっと遅くなってからだと思うし、こんなに沢山のミツバチがやって来たことは、生まれてこの方、記憶にない。しかし、良く見てみると、どうもニホンミツバチより少し大きい感じがする。また、腹部の黒い部分が少ない。ヒョッとして、これはセイヨウミツバチではないのか?背景用の厚紙の上を歩き回るセイヨウミツバチニホンミツバチよりも腹部が黄色い(写真クリックで拡大表示)(2011/03/05) セイヨウミツバチかニホンミツバチかは、翅脈を見れば簡単に分かる。しかし、クリスマスローズの花は下向きなので写真が撮れない。花を起こせばハチは逃げてしまう。其処で一計を案じた。 生け捕りにして冷蔵庫で冷やし、動けなくしてから写真を撮るのである。早速、捕虫網で1頭を捕らえ、網の中でシャーレに入れて冷蔵庫行き。このミツバチ達は越冬しているのだから、冷蔵庫程度の低温で死ぬことはない。ミツバチの翅脈.左:ニホンミツバチ、右:セイヨウミツバチ白と黒の矢印で示した部分が異なる(本文参照)(写真クリックで拡大表示)(2011/03/05) 1時間程よ~く冷やしてから取り出すと、ミツバチはシャーレの中でひっくり返っていた。一見死んだ様に見えるが、死んではいない。翅を畳んだ状態なので、此の儘写真を撮っても余り翅脈の見易い写真にはならない。其処で、動き出すまで暫し待つことにした。 やがて、脚と触角がゆっくりと動き始めた。更にもう少し経つと、今度はチャンと起き直って翅を少し拡げた。撮影のチャンスである。急いで翅の写真を撮った頃には、もうかなり元気になっていて、机上で接写をする時に使う台紙の上を歩き始める有様(最初の写真)。 しかし、翅脈が綺麗に撮れていることを確認するまで開放する訳には行かない。また、シャーレに戻って貰って、冷蔵庫行き。ノースポールの花に載せられたセイヨウミツバチ普段、ミツバチはこの花にはやって来ないそれでも赤い口吻を花に差し込んでいる(写真クリックで拡大表示)(2011/03/05) 1回目はピンぼけ写真だったが、2回目にはチャンと翅脈が撮れていた。やはり、セイヨウミツバチ(Apis mellifera)(ミツバチ科:Apidae、ミツバチ亜科:Apinae)であった。2番目の写真で、右がセイヨウミツバチ、左がニホンミツバチ(Apis cerana japonica)である。ニホンミツバチでは後翅のM脈末端がRs脈との接点(正確にはr-m脈)以降も少し伸びている(白い矢印)が、セイヨウミツバチにはそれがない(M脈はRs脈との接点で終わる)。 これは、晶文社の「あっ!ハチがいる」の検索表や、色々なWebサイトで示されている両種の見分け方である。しかし、他にもう一つ翅脈上の違いを見つけた。ニホンミツバチの前翅のr-m(?)脈にある「枝」(黒い矢印)である。セイヨウミツバチにはこれが見当たらない。この様な翅脈上の枝は、時として個体変異として現れることがあるらしいが、数年前に撮った別の写真にもチャンと写っていたし、また、Web上を探すと、同様な枝を持つニホンミツバチの写真が見つかった。まァ、例数が少ないので、今後ニホンミツバチを見つけたら出来るだけ写真を撮って確かめてみよう。似た様な写真をもう1枚.赤い口吻が印象的(写真クリックで拡大表示)(2011/03/05) さて、写真もチャンと撮れたので、ミツバチ君(雌だが・・・)を開放することにした。まだ飛べないので、取り敢えず、ヒラタアブ類の餌として植えてあるノースポールの花の上に置いた。ミツバチはクリスマスローズには沢山やって来るが、このノースポールは全く無視されている。従って、ノースポール上のミツバチは不自然で、ヤラセと言える。しかし、それでもお腹が空いたのか、将又、仕事熱心なのか、何回も筒状花に口吻を差し込んでいた。元気になってきたセイヨウミツバチ中脛節端の黄色い輪が気になる(写真クリックで拡大表示)(2011/03/05) やがて10分もすると、午後の日に照らされて体も充分温まったらしい。プーンと一気に飛び上がり、2度程小さな輪を描いてから、北の方へ飛んで行った。 数10年前読んだ本に、ミツバチは太陽の位置を判断して飛行の方向を定めると書いてあった。太陽が隠れていても、青空さえ見えれば、偏光を感知して太陽の位置を知ることが出来ると云う。しかし、身柄を確保してから2時間は経ったと思うので、太陽の位置は30度も西にずれている。間違った方向に帰って迷子になるかも知れない。少し心配になったので調べてみると、ミツバチは帰巣に際して視覚を有効に活用しているらしい。多分、チャンと帰ることが出来るだろうが、まァ、仮に迷子になったとしても、餌もねぐらも何処にでもあるのだから、死ぬことはあるまい。 セイヨウミツバチは、この数10年間、我が家では見ていないと思う。一体、何処からやって来たのであろうか。ミツバチの行動範囲は半径数km(通常2km位)にも及ぶと云うが、我が家のクリスマスローズ程度の蜜源に遠くからやって来るとは考え難い。この辺りには500坪を越える御宅もかなりある。何処か近くに、庭で養蜂を始めた蜂好きの御人が居られるに違いない。
2011.03.06
コメント(10)
先日、我が西洋長屋の入り口にある門を開けた時、その扉の下に何かサツキの枯葉の様なものが落ちているのに気がついた。しかし、良く見てみると、枯葉ではなく、コメツキムシであった。丁度、買物の帰りであったので、一先ず掌の中に確保し、荷物と一緒に室内に持ち帰った。越冬から目覚めたサビキコリ.胸背に1対の突起がある白く光っているのはストロボの反射による(写真クリックで拡大表示)(2011/02/26) 体長は13mm強、良く見てみると、サビキコリ(Agrypnus binodulus)の様である。コメツキムシ科(Elateridae)は九州大学の日本産昆虫目録に拠ると651種も記録されている大きなグループだが、今日のコメツキムシの様な胸背や鞘翅に光沢がないのは、サビキコリ亜科(Pyrophorinae;九大目録ではPyrophotinaeとなっているが、これはmisspelling)サビキコリ族(Agrypnini)と思ってマズ間違いないので、検索は容易である。サビキコリの腹面.前胸腹板に触角を収める溝がある中胸後側板は中脚の基部に達している(写真クリックで拡大表示)(2011/02/26) サビキコリ族には、前胸腹板に触角を収める深い溝がある。上の写真で、眼の下から後方に伸びている黒~赤の凹みがそれである。サビキコリ族から属への検索表を辿ると、「中胸後側板は中基節溝に達する→4mm以上→小楯板は単純で隆起線を欠く」で、サビキコリ属(Agrypnus)に落ちる。 サビキコリ属は、九大目録を見ると33種も載っているが、その多くは南方系で、東京都本土部昆虫目録を見ると6種しか記録されていない。この6種の内、ハマベオオヒメサビキコリを除いた5種は保育社の甲虫図鑑に記載があり、体長が10mmを越えるのは、サビキコリ、ムナビロサビキコリ、ホソサビキコリの3種だけである。横から見たサビキコリ.眼は大きいが半分以上隠れている(写真クリックで拡大表示)(2011/02/26) この3種の区別は外見から容易で、サビキコリは全体にゴツく、学名の種名(binodulus)に示される様に、胸背に突起状の隆起が2個(1対)ある。これに対し、ホソサビキコリは全体的に細長く胸背は平滑、ムナビロでは胸背が僅かに隆起するが、サビキコリとは異なり前胸背板は前方にかなり拡がる。 これらから、今日のコメツキムシはサビキコリであるとして問題無いであろう。また、サビキコリは成虫越冬することが知られており、今頃出現しても些かもおかしくない。前から見ても中胸背の突起が明らか(写真クリックで拡大表示)(2011/02/26) 尚、ハマベオオヒメサビキコリに付いては良く分からないが、京都府のレッドデータブックに「要注目種」として載っており、「体長7.5~12.5mm.扁平幅広、黒褐色で触角と脚部は多少とも赤褐色で、前胸背後角又は全身が希に赤褐色の個体もある.ヒメサビキコリ( A. scrofa(Candeze))に体長・体色・外形共に良く似ているが、下翅が常に退化縮小している」、「主として外洋性海浜地区に生息し、分布も局所的である」、「これまでの記録では4~8月に亘って採集されている」とのことなので、今日のコメツキムシである可能性はないであろう。斜めから見たサビキコリ.小楯板に隆起線はない(写真クリックで拡大表示)(2011/02/26) このコメツキムシ君、玄関のスレートの上に居たのだが、スレートではストロボの反射があるので撮影は無理、何処で撮影したらよいものか? 土の上に移して少し撮ってみたが、土の上では横からや前から撮る時にかなり無理な姿勢を強いられる。其処で、径10cm位の石の上に載せて撮影することにした。 コメツキムシだから仰向けにしておくとやがてモソモソ動き出し、パチンと撥ね跳ぶ。しかし、普通に腹ばいにして置いたら、何時まで経っても動き出さない。所謂「死んだ真似」の様だが、表では寒いのかも知れない。そこで石ごと暖かい部屋の中に入れて撮ることにした。頭部を超接写.表面が茶色っぽく見えるのは土が付いているからではなく褐色をした鱗片で覆われている為であることが分かる複眼は胸部からの黄色い毛で被われている(写真クリックで拡大表示)(2011/02/26) 待つこと暫し、やがて脚を伸ばし始めたので、急いで撮影したのが今日の写真。最後の頭部の写真を撮った後は、コソコソと歩き始めた。結構速い。径10cmの石では直ぐに縁に達して、下に降りてしまう。冷蔵庫で冷やして動きを止める手もあるが、既に一通り写真を撮った後なので、撮影は終わりにして、庭に逃がしてやることにした。土の上に置いたら、もう「死んだ真似」はせず、極く普通に歩いて行った。
2011.03.02
コメント(10)
うかうかしている内に、前回の更新から2週間近くも経ってしまった。どうも、少し間が空くと、ついつい面倒になって、書き込みをサボリ勝ちになるものの様である。 今日は、昨年の晩秋にコナラの葉裏に居たヒラタアブ類の幼虫を紹介する。この幼虫は飼育して、最終的にマガイヒラタアブ(Syrphus dubius)の幼虫であることが分かった。成虫については何れ紹介するが、どうしても今すぐ成虫を見たいと云うセッカチな御仁はこちらをどうぞ。マガイヒラタアブの3齢(終齢)幼虫.頭は右側、体長は約15mm後気門の他に、刺毛を伴う感覚器が認められる(写真クリックで拡大表示)(2010/11/23) 昨年秋に「クロツヤテントウ」を紹介した時、「今年は猛暑だったそうで、そのせいか、テントウムシ、特にダンダラテントウが少ない.御蔭で、我が家の外庭に植えられているコナラの葉裏にはアブラムシがビッシリと付いて甘露を排泄し、その下のスレートは毎日洗ってもベトベトの状態が続いている」と書いた。しかし、よく調べてみると、コナラの葉裏に今まで見たことのないヒラタアブ類の幼虫が2種類居た。言うまでもないことだが、これらのヒラタアブ類の幼虫はアブラムシを食べて成長する。 その内の1種が今日紹介するマガイヒラタアブである。もう一方の種類は、居間(室温、長日条件)で飼育したにも拘わらず、全個体が冬眠体勢に入ってしまい、未だに正体不明である。かなりの数を確保してあるので、越冬に失敗する個体があっても、何れはその正体が判明するであろうと思っている。上の個体を横から見たもの.かなり凸凹している(写真クリックで拡大表示)(2010/11/23) マガイヒラタアブの幼虫は4頭を飼育したが、成長の進んでいた2頭は既に羽化し、遅く蛹化した2頭は未だに羽化していない。非常に色黒くなっており、一見死んでしまったかの様に見える。しかし、追手門学院が創立120周年の記念事業として行った「大阪城プロジェクト」の一つである「陸の動物たち」によると、マガイヒラタアブは「飼育観察例から冬期は成虫・幼虫・蛹すべての段階で越冬することが可能であることがわかった」とあるので、今後もう少し暖かくなってから羽化する可能性もある。斜め上から.後の方はボケボケ(写真クリックで拡大表示)(2010/11/23) 今日の写真は全て同一個体を撮影している。下の写真1枚を除いて、蛹化(前蛹化)する3日前の写真である(下の写真は蛹化直前)。ヒラタアブ類の幼虫は3齢が終齢で、1,2齢期は各期とも2~3(a few)日程度の短期間、3齢になってからは1週間程度(several days)から数ヶ月、種によっては1年以上を経過して蛹化するとのことである。従って、写真の幼虫は3齢であろう。 体長は約14mm、体は柔らかいし、頭部と前胸中胸は後胸に引き込むことが出来るので、その時々によって1mm以上の変動がある。上の幼虫の2日後.かなり太り赤味がさしている次の日には蛹化した.頭は上とは逆に左側(写真クリックで拡大表示)(2010/11/25) ヒラタアブの幼虫は御覧の通り蠕虫状、体節構造は不明瞭で、何処がどうなっているのか甚だ分かり難い。しかし、基本は普通の昆虫の幼虫と同じで、頭部、胸部(3節)、腹部(8節)より成る。各節は感覚器(感覚子:sensillum pl:sensilla)の分布を見れば分かるが、上記の写真からは一寸難しい。低倍率で外部的構造として明確に見分けられるのは、尾部にある後気門位なものである。頭部胸部を正面から超接写したもの.記号については本文参照のこと(写真クリックで拡大表示)(2010/11/23) しかし、体の前部を高倍率で撮影して見ると、それなりの構造が認められる。上の写真で、Aは前胸にある前気門、ハナアブ類の幼虫は体の前後に1対ずつの気門しか持たない(双気門型)。BはAntenno-maxillary organと呼ばれるもので、日本語で何と呼ぶのかは調べてみたが分からなかった。antennaは「触角」、maxillaは「小顎」乃至「上顎」の意だが、まァ、機能的には触角に相当するものであろう。これは頭部にある。 CとDで示した小突起は体の最前部に位置し、何らかの感覚器であろう。Cは上下左右4個もあるので、この中心が口なのかと思ったが、これは誤りで、口はAntenno-maxillary organの下側(腹側)にあり、写真からは殆ど見えない。このC、Dの突起は前胸に属す。上より少し横から見たマガイヒラタアブ幼虫の前部.先端部は捕食の際に吸盤的な役割を果たすのではないかと思われる(写真クリックで拡大表示)(2010/11/23) この部分を少し別の角度から見ると、上の写真の通りで、全体が台状に盛り上がっている。クロヒラタアブの幼虫がアブラムシの幼虫を補食しているところを見ると(近日掲載予定)、どうもこの部分で獲物を吸い付け、その下から口器を出して獲物を食べる様である。 口器の主要部分は、捕食中には少し見えることもあるが、普段は体の中に引き込まれており良く見えない。上や下の写真で、体の中に透けて見える黒いものがそれである。頭部胸部を斜めから見た図.記号A、Bは前の写真と同じ記号Eについては本文を参照されたし(写真クリックで拡大表示)(2010/11/23) 少し斜めから見ると、頭部胸部は上の写真の如くである。第1腹節にあると思われる「E」の突起は、「一寸のハエにも五分の大和魂・改」に問い合わせたところ、ezo-aphid氏よりnon-functional spiracle(機能のない気門)ではないかと云う御意見を賜った。しかし、どうも良く分からない。non-functional spiracleと云うものがヒラタアブ類の幼虫にあるのは確かなのだが、Eの突起は写真の他の部分に見られる一般の感覚器と同じものなのかも知れない。後呼吸器突起.褐色の筋状の隆起部分が本当の気門上から、背面、後面、斜め横(写真クリックで拡大表示)(2010/11/23) 前気門は小さ過ぎてその構造が良く分からない。しかし、後気門(上の写真)はずっと大きいのでかなり良く分かる。左右に分かれて1対あるが、基部は3齢幼虫では癒合している(ヒラタアブ類の1、2齢幼虫では分離)。今まで「後気門」と書いてきたが、この突起は正確には後呼吸器突起と呼ばれるもので、本当の気門は褐色をした筋状の隆起部分である。写真からは良く分からないが、この気門の正中線に沿って隙間があり、そこから空気を出し入れする。 この気門の形状や配列は、幼虫同定の際に極めて重要な指標となる。 尚、ヒラタアブ類(ハナアブ科)の幼虫には眼がない。アブラムシを捕食するのを見ていても、全く行き当たりばったりで、目の前にアブラムシが居ても体が接触しない限りは全く捕食行動を取らない。昼夜の区別は出来る様なので、何らかの光受容器はあると思うが、手元の文献には何も書かれていない。一般に、ハエ類(ハナアブは名前は「アブ」でも「ハエ」の仲間)の幼虫には眼はないらしい。 今日の記事は、一部は北隆館の古い「日本幼虫圖鑑」を参考としたが、多くはハナアブの研究者として知られる市毛氏にお教え頂いた「Rotheray, G. E. (1993) Colour Guide to Hoverfly Larvae. Dipterists Digest No.9」に拠るものである。この本の御蔭で、ハナアブ類幼虫について基本的な知識を得ることが出来た。市毛氏には、この場を借りて御礼申し上げたい。
2011.02.18
コメント(6)
昨日今日と、少し暖かい日が続いている。しかし、我が家の庭にはユスリカの類が時折飛んでいる程度で、撮る気の起こる虫は現れない。昨年の暮れに撮ったネタもあるが、これは英国の古本屋に注文した文献が届いてから掲載したい。・・・と云う訳で、今日は昨年の今頃撮った土壌生物を紹介することにする。 普通、土壌生物を採集するにはツルグレン装置と云うものを使用する。それなりの店に行けば完成品を売っている(通販でも買える)が、白熱電球のスタンド、篩、大きなロートとコップがあれば、自分でも作れる様な簡単な装置である。その内、徹底的にネタ不足になったら自作するかも知れないが、今のところは作るのも面倒なので、土壌生物を探す時には、シャーレに土を入れ、少しずつ掻き分けて調べる程度にしている。 そんな簡単な操作?でも色々と奇怪な虫が出て来る。今日、紹介するのはそうやって見つけたヤスデの幼体である。ヤケヤスデ(多分)の幼体.体長は約7mm胴節は18節ある様に見える(写真クリックで拡大表示)(2010/01/25) 体長は約7mm。この辺り(東京都世田谷区西部)に居るヤスデと云えば、ヤケヤスデ(Oxidus gracilis)位なもので、成体の体長は20mm程度だから、これはその幼体であろう。この幼体は色が極く薄いが、成体は背面が焦茶色乃至海老茶色で、腹面と肢はかなり淡い色をしている。危険を感じると丸まって防御態勢に入る。これは、フサヤスデ等の一部の目を除いたヤスデ類(倍脚綱)の特徴である。ヤケヤスデの幼体で間違いはないと思うが、確証は無いので、一応「?」を付けておくことにした。尚、似た様な種にアカヤスデと云う別属の種が居るが、これは成虫越冬なので、その幼体である可能性はない。 村上好央氏の「ヤケヤスデの生活史」(動物学雑誌 71(8), 1962)に拠れば、ヤケヤスデは秋に繁殖活動を行い、5~7齢の幼体で越冬し、翌年の初夏に成体になるとのこと。他に、春に繁殖行動をし、成虫で越冬する別の系統(strain)があるとしていたが、これは後に同著者により別種であることが明らかになった(村上好央(1966) ヤケヤスデの生活史についての訂正, 動物学雑誌 75(2))。少し横から撮った写真.第2~4胴節には各1対以降の胴節には各2対の歩肢がある(写真クリックで拡大表示)(2010/01/25) ヤスデの体は、頭部と胴部に分けることが出来る。写真の幼体の胴節数を数えると(胴部の第1節と最後の2節程度は、その間の部分とは少し形が異なる)、胴部は18節から成る様である(最初の写真)。 ヤケヤスデはオビヤスデ目ヤケヤスデ(Paradoxosomatidae)科に属し、「日本の有害節足動物」では、成体の胴節数は20とされている。渡辺力著「多足類読本」に拠ると、オビヤスデ目は完増節変態を行う。これは加齢(脱皮)と共に体節数が増加し、成体になると脱皮を止め、同時に体節数の増加も止まる変態形式である。丸まって防御態勢に入ったヤケヤスデ(多分)の幼体頭部を内側にして守っている(写真クリックでピクセル等倍)(2010/01/25) 写真の幼体の胴節数はまだ18なので、これは今後脱皮により節数が2つ増加すると云うことである。体長は約7mmで、まだ成体の1/3程度だが、「多足類読本」には、ヤケヤスデは7齢を経て成体となると書いてあるので、6齢位の幼体なのかも知れない。防御態勢を解除しつつあるヤケヤスデ(多分)の幼体頭部が内側になっているのが良く分かる歩肢には折れているものが多い(写真クリックでピクセル等倍)(2010/01/25) ヤスデは、一般に第2~4胴節には各1対、以降は最後の2節を除いて各胴節に2対ずつの歩肢を持つ(第1胴節に肢はない)。ヤスデは、この世で最も肢の多い生き物である。最大はカルフォルニア産のIllacme plenipesで、何と、750本もの肢を持つと云う。 一方、ムカデ類では、後部の胴節でも歩肢は各節に1対しか持たない。ムカデは漢字で「百足」と書く。しかし、ジムカデ目以外のムカデ類では、歩肢数は最大で46本、100本には遠く及ばない。100本に達する歩肢を持つのはジムカデ目のみで、最大は191対(382本)の種類があるそうである。しかし、何故か、歩肢対の数(=肢を持つ胴部の節数)は何れも奇数ばかりで、偶数の歩肢対数を持つ種類は知られていない。100本の肢、と云うことは歩肢対数は50で偶数であり、この様な歩肢対数を持つムカデは未だに知られていないのだそうである(以上、何れも「多足類読本」に拠る)。第1胴節は他の胴節と形が異り肢もない触角の先端2節は色が濃い(写真クリックでピクセル等倍)(2010/01/25) ある種のヤスデは時々大発生し、これが大群を成して線路を渡り、それを踏んだ汽車の動輪がヤスデの脂で空転して汽車が動かなくなる、と云う記事を新聞などで見ることがある。この種の騒動を引き起こすのは、普通、その名もキシャヤスデ(汽車馬陸)と云う種類なのだが、今日のヤケヤスデも汽車を止めることがあるらしい。「新島溪子(2001):ヤケヤスデ列車を止める,Edaphologia (68)」に拠れば、平成12年7月19日に大糸線平岩駅の近くでヤケヤスデが大発生し、臨時急行列車「リゾート白馬アルプス」は2時間半に亘る停車を余儀なくサルルノ已ムナキニ至レリ、とのことである。 ヤケヤスデなど、何処にでも居る「つまらない」ヤスデだと思っていたが、時には、中々やるモンですな!!
2011.02.05
コメント(8)
今年は例年に較べてかなり寒いが、今朝はまた一段と寒かった。我が家の庭に於ける7時の気温は-2℃、6時頃は-3℃位であったらしい。近来にない冷え込みである。気象庁発表による今日の「東京」の最低気温は-1℃になっているが、これは都心の大手町での観測で、畑なども所々にあるこの辺り(東京都世田谷区西部)は「東京」よりもかなり寒いのである。 さて、今日はやっと今月4回目の更新、最近はすっかりサボリ癖がついていしまった。しかし、調べてみると、一昨年の12月はたった2回だからそれよりは多少マシとは言える。 今日は、これまで延々と掲載してきたオオタバコガ(Helicoverpa armigera)の蛹と成虫を紹介する。オオタバコガの蛹.上から背面、腹面、側面.頭は右黒い斑紋は腹部第2~7節までの気門(写真クリックで拡大表示)(2010/10/31) 最初の写真は、これまで紹介して来たのとは別の個体の蛹である。写真の枚数が多くなると必然的にHTMLのタグが多くなり、文字制限に引っ掛かってしまうので、3枚を合成して1枚にした。言うまでもないが、頭は右である。 一番上が背面、真ん中が腹側、下は横から見た姿。側面に見える黒い突起は気門で、腹部第2節から第7節の各節に1個ずつ合計6個見えている。幼虫では腹部第1節から第8節までの8個の気門があるのだが、蛹では腹節第1節の気門は後翅に隠れて見えない。また、第8節の気門は痕跡的で、3番目の写真に筋状の裂け目として写っている(第8節から第10節の3節は一つに癒合している)。 腹部より前方に胸部第3~1節があり、第3、2節の側方に広がるのは翅で、後翅(第3節)は前翅(第2節)に隠れて一部しか見えない。幼虫では胸部第1節に気門があるが、蛹では1節と2節の間にあり、背面と側面の写真にそれが見える。 その前方は当然頭部で、背面からは極く一部しか見えない。しかし、腹面から見ると色々とゴチャゴチャした構造があるのが分かる。オオタバコガの蛹腹面の拡大.かなりややこしい構造略号については本文を参照(Lf1は重複)(写真クリックで拡大表示)(2010/10/31) 腹面の前部を拡大してみた。略号は保育社の「原色日本蛾類幼虫図鑑」の図にあるもので、Ant:触角、Cl:頭楯、E:眼、Hs:吸管、L1:前脚、L2:中脚、L3:後脚、Lf1:前腿節、Lp:下唇鬚、Lbは説明がないが多分上唇(labrum)であろう(普通はLbrと略す、Lbiならばlabiumで下唇)。尾部の拡大.先端の1対の突起は尾突起と呼ばれる腹部第8節に裂け目状の気門が見える(写真クリックで拡大表示)(2010/10/31) また、尾端には針状の突起が1対ある。これは尾突起と呼ばれるもので、これで蛹を物体に固着させるのだそうである。 以上、Web上には蛾類蛹の外部形態に関する情報が少ない様なので、上記図鑑にある図を参考に説明を試みてみた。羽化した成虫(上の蛹とは別個体).もっと黄色かったと思うのだが胸部の毛の色など、かなり妙な色に写っている(写真クリックで拡大表示)(2010/11/24) さて、次は成虫の写真である。これは、これまで3齢を除いて2齢から6齢まで紹介して来た個体が羽化したものである。胴体が太くヤガ科(Noctuidae)らしい格好をしている。タバコガの成虫とよく似ているが、後翅外側(写真では下側)にある黒色帯が幅広く外縁にまで達しているのがオオタバコガで、タバコガではこれが外縁に完全には届かないのが普通であり、更にこの黒色帯の内側に細い筋がある。また、オオタバコガでは、前翅外縁の内側にある暗色帯(亜外縁線)の輪郭がハッキリしないことが多いが、タバコガでは明確でギザギザしている。上の成虫の蛹殻.小さな空間を作ってその中で蛹化している(写真クリックで拡大表示)(2010/11/24) 土中に潜った幼虫が何処でどの様にして蛹になったかは確認しなかった。羽化してから分かったことだが、プラスティックのコップの底に小さな空間を作り、その中で蛹になっていた。上の写真は、羽化後にその部分を剥がして撮影したものである。 コップにはさらさらした粒状の軽い土を入れてあり、その中でこの様な空間を作るのは土が崩れて少し難しいのではないかと云う気がする。終齢幼虫の記事で、食べるのを止めてから「ビチ」もしないで直ぐに土に潜ってしまったと書いたが、或いは、土中でビチをし、その水分を使って、この様な空所を作るのかも知れない。最初に示した蛹が羽化した成虫.模様が余りハッキリしないこの個体も胸部の色など記憶と違う色になっている(写真クリックで拡大表示)(2010/11/26) 上の写真は、最初に示した蛹が羽化したものである。前翅の模様が余り明確でない。オオタバコガの成虫は、幼虫に劣らず色彩の変異が大きく、斑紋が良く分からない個体も多いが、タバコガでは変異は比較的少ないとのこと。同一個体を正面から見た図.鼻面に見える一対の小さな穴のある構造は下唇鬚であろう(写真クリックで拡大表示)(2010/11/26) オオタバコガは蛹越冬であるが、かなり遅い時期まで活動し、耐寒性が強い。成虫写真の最初の個体は表に出したら直ぐに飛んで行ってしまったし、2番目の個体は、余り動かない様に冷蔵庫に入れて充分「冷やして」から写真を撮ったのだが、外気に出して数分も経たない内に翅を震わせ始め、その1分後には飛んで行ってしまった。そう云う訳で、成虫の写真は充分に撮ることが出来なかった。オオタバコガの横顔.下唇鬚は飛び出しているので焦点外(写真クリックで拡大表示)(2010/11/26) 成虫写真の最初の個体は10月23日に土に潜り、11月24日の朝には羽化していた。もう既に飛べる状態になっていたところを見ると、23日の晩に羽化したものと思われる。幼虫期は僅かに13日であったが、土中に潜ってから羽化するまでは丁度1ヶ月、31日を要したことになる。もう一方の個体も1日遅れて10月24日に土中に入り、11月25日の朝には羽化してバタ付いていたから、これも土中で同じ時間を過ごしたことになる。尚、土に潜ってから蛹になるまでの日数は不明である。 以下に、これまでのオオタバコガ成長記録の一覧を示しておく。 幼虫の齢 掲載日 撮影日 備考 2齢 2010/11/26 2010/10/12 3齢 2010/12/01 2010/10/14 他とは別個体 4齢 2010/12/11 2010/10/14 5齢 2010/12/15 2010/10/17 6齢 2011/01/17 2010/10/21
2011.01.31
コメント(6)
昨年の秋、余りに虫がやって来ないので、虫集め用に花を何種類か買った。その中に「ブラキカム・マウブディライト」と称するオーストラリア原産のキク科の花がある(学名はBrachyscome angustifolia)。花径は15mm前後で、小さく華奢な花である。虫が沢山集まるシオン類に少し似ているので買ってみたのだが、これが全然ダメ、まるで「集虫力」が無い。これまでに、ヒラタアブ類が2回ばかり留まったのを見かけただけである。 まァ、それでも捨てるのも勿体ないので、そのまま放置しておいたところ、ある日、その花に妙な「修飾」が付いているのを見つけた。マクロレンズで覗いてみると、何てことは無い、成長不良の舌状花の花弁であったのだが、その横に極く小さなカスミカメムシの幼虫がいるのに気が付いた。体長1.5mm、殆どゴミの様なものである。Brachyscome angustifoliaの花の上に居たカスミカメムシの若齢幼虫(写真クリックで拡大表示)(2010/12/20) この辺り(東京都世田谷区西部)でキク科の花にこう云う感じで留まっているカスミカメは、菊の害虫としてよく知られているウスモンミドリカスミカメ(Taylorilygus apicalis)である。かつて町内の別の場所で、同じ様に菊の花に集っている同種の終齢幼虫を撮影したことがあるのだが(未掲載)、その雰囲気にソックリである。ウスモンミドリの若齢幼虫としてほぼ間違いないと思うが、証拠は全く無いので「?」を付けておくことにした。カスミカメムシの幼虫.ウスモンミドリカスミカメと思うが確証はない体長1.5mm.2倍のテレプラスを付けての超接写(以下同じ)(写真クリックで拡大表示)(2010/12/20) ウスモンミドリカスミカメの詳細については、写真の虫がウスモンミドリであると云う確証がないので、此処では控えることにする。 その成虫の方はずっと以前に紹介済み、・・・と思ったらまだ未掲載であった。もう一つのWeblogでは紹介しているので、成虫に興味のある読者諸氏はこちらを参照されたい。ストロボの光に驚いてウロウロするカスミカメの幼虫(写真クリックで拡大表示)(2010/12/20) この写真の幼虫、体長は僅かに1.5mm。小楯板はまだ認められないし、ウスモンミドリとすると、成虫の体長は5mm前後なので、まだ初齢か2齢位なものであろう。 そもそも、カスミカメムシ科(Miridae)の幼虫が何齢の幼虫期を経て成虫になるのか、色々調べてみたが良く分からない。多くのカメムシでは終齢は5齢だが、ノコギリカメムシでは4齢である(養賢堂:「図説 カメムシの卵と幼虫」に拠る)。 しかし、全農教の「日本原色カメムシ図鑑第2巻」に、クロツヤトビカスミカメの4齢幼虫と終齢幼虫が一緒に写っている写真があり、これを見ると、4齢と終齢との大きさの違いは余り大きくない。どうやらカスミカメも5齢で終齢になるらしい。花柄を伝って逃げ回るカスミカメの幼虫(写真クリックで拡大表示)(2010/12/20) こう云う小さいカスミカメの幼虫を目にすることは滅多にない、と云うか居ても気が付かない。特に黄緑色系の幼虫が草や一番上の写真の様な花の黄緑色をした部分に居ると保護色になってしまい、虫眼鏡で調べでもしない限り気が付くことは先ずない。 この幼虫、その後一度も見ていない。まだ同じ「ブラキカム・マウブディライト」に付いているのか、或いは、何処か別の所に行ったのか・・・。小さ過ぎて、探すのは実際上全くの不可能事である。
2011.01.22
コメント(10)
今日は、昨年の続きで、オオタガコガ(Helicoverpa armigera)の終齢(6齢)幼虫を紹介する。 5齢幼虫から体長も急激に増加し、6齢では体を伸ばすと4cm位になる。食べる量も尋常ではない。菊の花の上を歩くオオタバコガの終齢(6齢)幼虫背中が凸凹しており全身を深度に入れるのに一苦労(写真クリックで拡大表示)(2010/10/21) 5齢の初め頃まではコスモスの花を食べさせていたのだが、この頃から食べる量が著しく増加し、1株しかないコスモスの花は直ぐに無くなってしまった。仕方なく、新たに菊の花(1鉢100円を2鉢)を買ってきてそれを食べさせることにした。 この幼虫を飼育し始めた当初は、食べる量が少ないので飼育箱に小さな花瓶を入れそれに花を挿して食べさせていたが、暫くしてからは、シャーレに移した。食べるのが速くなり、花だけを切って与えても、花が萎れる前に食べ尽くしてしまうからである。また、排泄物の量も食べる量に比例してスザマジイので、シャーレの方が清掃が楽である。横から見た図.腹部第1節と第8節が盛り上がっている(写真クリックで拡大表示)(2010/10/21) 今日の写真は、その餌にしている菊の花の上に芋虫を移して撮影している。下の写真の様に、直ぐに花に頭を突っ込んで食べ始めるので、頭部がチャンと見える写真を撮るのには結構苦労した。兎に角、食いしん坊なのである。放って置くと直ぐに筒状花の部分に頭を突っ込んで食べ始める右上はこの幼虫の「落とし物」.食べる量に比例するのでその量(出す頻度)もスザマジイ(写真クリックで拡大表示)(2010/10/21) どれ位食べるかというと、終齢(6齢)では、この写真に写っている菊の花を1日で5個くらい食べてしまう。最も好んで食べる部分は筒状花で、花弁が短いせいか花全体を食べてしまう。周辺の舌状花は、もし花が他にあれば、子房の辺りだけを食べて、花弁は食べない。要するに、蛋白質や脂質の多い子房や花粉などを真っ先に食べるのである。 飼育に際しては、花の量が限られているので、出来るだけ花弁も食べさせる様に餌の量を少な目にしたが、これが自然条件下であれば、一番良いところだけ食べて次の花に移ってしまうであろうから、その被害は相当なものであろう。流石?大害虫だけある。食事中のオオタバコガの終齢幼虫.頭部は隠れて見えない(写真クリックで拡大表示)(2010/10/21) 前回書いた様に、最初に掲載した2齢幼虫は10月12日撮影、14日には既に4齢幼虫になっているのが認められ、3日後の17日には5齢(何時5齢に脱皮したかは不明)で、19日には6齢に脱皮するところを観察、21日に撮影(今日の写真)した後、23日には早々に土に潜ってしまった。2齢から前蛹化まで僅か11日(土に潜ってその日の内に前蛹化すると仮定)、6齢期が長く、2齢から6齢に脱皮するまではたったの7日である。2齢、3齢の各齢期はほぼ1日と推定されるので、初齢も1日とすると、幼虫期は僅か13日でしかない。 一方、福井県農業試験場のHPの中にある「県内産オオタバコガの積算温度と農薬感受性」に拠ると、25度で飼育した場合、幼虫期はほぼ17~22日となっている(上記資料のデータを簡略化した日数)。この資料には餌として何を与えたのか書かれていないが、これと較べると、13日と云うのは著しく短期間である。これは、今回の飼育では花を餌として与え、幼虫はその蛋白質や脂質の含量が多い部分を主に食べていたからだと思われる。オオタバコガ終齢幼虫の頭部.頭幅は2.6mm(写真クリックで拡大表示)(2010/10/21) 今回も一応頭幅を測定してみた。上の写真をスケールと比較すると頭幅は2.6mm。これまで何回も引用した「大豆を加害するハスモンヨトウ及びオオタバコガ各幼虫の齢期を判定するための頭幅測定ゲージ」に掲載されているオオタバコガ幼虫の齢と頭幅との関係を示す一覧表に拠れば、2.6mmは6齢の頭幅最頻値であった(文字数制限の為、表の引用は省略した)。斜め横から見たオオタバコガ終齢幼虫の頭部口器は非常に複雑.単眼が6個見えるが1個は少し離れて触角の下にある(写真クリックで拡大表示)(2010/10/21) 食いしん坊の横顔を上に示した。ついでに頭部の構造に付いて説明しておこう。北隆館の古い「日本幼虫圖鑑」に拠れば、頭部の大半を占める一見複眼の様に見える部分が頭頂(Parietales)で、中には脳ではなく上顎(後述)を動かす筋肉が詰まっている。頭部下部やや左にある3節からなる先端が黒い突起が触角で、成虫とは異なりやや下を向いている。左右の頭頂に挟まれた三角形の部分が前頭、その下の幅広い一寸固そうな部分が頭楯、更にその下の白い丸まった板の様な構造が上唇である。その下に見える黒い部分が左右の上顎(大腮)でこれを使って食物を食い千切る。更にその下に触角を小さくした様な3節からなる1対の構造が見えるが、これは口器の一部で下顋鬚(保育社の「原色日本蛾類幼虫図鑑」では小腮鬚)であろう。その間(頭部中央下)に吐糸管や下唇鬚があるのだが、この写真では良く分からない。 触角の右側に単眼が見える。右から1~4番目までは明瞭だが、5番目は少し左にずれて触角の下、6番目は4番目の下やや右側にあり色薄く少し不明瞭である(5番目と6番目は、研究者によっては、逆に6番目と5番目とされることもある)。胸部と腹部第1節.細かい棘状の構造(顆粒)に被われている(写真クリックで拡大表示)(2010/10/21) ヤガ科(Noctuidae)タバコガ亜科(Heliothinae)の特徴とされる胴部表面の棘状構造(顆粒)は4齢から認められたが、終齢では実に見事に発達している。下の写真は上の写真の部分拡大である。是非、最大まで拡大して御覧頂きたい。前の写真の部分拡大.右から胸部第2、3節と腹部第1節細かい棘状の突起と微妙な色合いが印象的(写真クリックで拡大表示)(2010/10/21) この幼虫は写真を撮った2日後の10月23日には土に潜ってしまった。アゲハの幼虫では、蛹化する前の2日位は食事をせず、最後に「ビチ」をしてから蛹化する場所を探して半日くらいウロウロするものだが、オオタバコガの幼虫では全然違った。 23日に余り食べなくなったのでどうしたのかと思っていたが、ビチもせず、動きもしない。蛹化が近いのだろうと思い、乾いた土と湿った土を半々にしてプラスティックの透明なコップ(百円ショップの品)に3~4cm程入れ、その上に虫体を置いてみた。 驚いたことに、一歩も歩まず?、置かれたその儘の位置から直ぐに頭を下に向けて潜り始めた。30秒後には完全に土の中、何と言う早業!! 異常な程の成長の速さに加えて蛹化する時もグズグズせずに食べるのを止めてから殆ど待たずに土中に潜ってしまう。ほぼ1ヶ月で1世代を終えることが出来るのも、この様な早業の連続に因ると云うことが実感として良く分かった。[追記]以前及び以降のオオタバコガ成長記録の一覧は、文字数制限の為此処には載せられないので、「蛹と成虫」の末尾を参照されたい。
2011.01.17
コメント(6)
1月も既に8日、しめ飾りも外して、もう正月気分は終わった。元旦か今日まで毎日殆ど晴天であったが、我が家の庭は虫の気配極めて乏しく、新年に撮った虫の写真を新年の第1回目に掲載することは出来そうにない。・・・と云うことで、今年の第1回目は、仕方なく、旧年中に撮った小甲虫を紹介することにした。 ベランダに置いてある椅子の直ぐ近くに、水遣りとタバコの火消し用を兼ねて、満々と水を湛えたバケツが置いてある。その水面に体長1cm程のゴミムシの様な虫が浮いていた。まだ、落ちたばかりらしく盛んに蠢いている。ゴミムシの仲間は矢鱈に種類が多く、しかも、写真からは判別の困難な種類が多い。実は、その前にもあるゴミムシをシッカリ撮ったのだが、未だに名前が分からずお蔵入りになっている。そんな訳で、撮る気はしないのだが、死んでは可哀想なので、一応、掬い上げてデュランタの鉢の上に移してやった。ヒゲブトハムシダマシ.かつてはヒゲブトゴミムシダマシと呼ばれていた(写真クリックで拡大表示)(2010/12/28) 土の上をヨタヨタ歩く虫を良く見てみると、ゴミムシの類ではなく、ヒゲブトハムシダマシ(Luprops orientalis)であった。 此の虫は、以前、もう一つのWeblogの方に掲載したことがあるので、直ぐにそれと分かったのである。ゴミムシの様に大顎が発達して居らず、また、小腮鬚はある種のテントウムシの様な斧型をしている。「ヒゲブト」と名前にある通り、触角が太い。 同じハムシダマシ科(Lagriidae)に属す何も形容の付かない只のハムシダマシは、ずっと以前に紹介済みだが、この種は全身毛むくじゃらで細長く、今日のヒゲブトとは大分趣が異なる。図鑑の写真と九州大学の目録を対照すると、ハムシダマシの様な細長いのはハムシダマシ亜科、ヒゲブトハムシダマシの様なズングリ型はチビヒサゴゴミムシダマシ亜科(Adeliinae)に属す様である。大顎は未発達で、小腮鬚はある種のテントウムシに似て斧型(写真クリックで拡大表示)(2010/12/28) ハムシダマシ科なのにチビヒサゴゴミムシダマシ亜科と云うのは奇妙な話である。これは、この亜科がかつてはゴミムシダマシ科に属していたことに因り、このヒゲブトハムシダマシも以前はヒゲブトゴミムシダマシと呼ばれていたのである。 今はハムシダマシ科になったのだから、亜科名もチビヒサゴハムシダマシ亜科と改名すべきなのであろう。しかし、九州大学の目録ではハムシダマシ科のチビヒサゴゴミムシダマシ亜科とされているせいか、何処のサイトも「チビヒサゴゴミムシダマシ亜科」としており、「チビヒサゴハムシダマシ亜科」で検索しても有意なヒットは一つも無い。 九大目録では、同亜科に属す種の和名も全て○○○ゴミムシダマシ(このヒゲブトハムシダマシもヒゲブトゴミムシダマシ)となっている。科や亜科の変更に伴う和名の混乱は屡々見られることだが、一般の誤解を生じ易いので、速やかに和名を統一して頂きたいものである(研究者は日常的に学名を使用しているので、和名には余り興味がなく、それがこう云う事態を招く)。
2011.01.08
コメント(4)
先月の終わりの頃、コスモスの白い花の上に何か3mm位の小さな虫が居るのを見付けた。一寸見たところでは、ゾウムシの1種の様に見えた。しかし、マクロレンズで覗いてみると、何と、カメムシの幼虫であった。中々綺麗な縞模様で、これまで見たことのない種類である。 早速、カメラを持って来て撮影を始めた。虫が小さいので、テレプラス×2を挟んでの超接写である。コスモスの花に居たヒメナガカメムシの幼虫体長は3.2mmと相当に小さい(写真クリックで拡大表示)(2010/11/27) 写真から計測すると、体長は3.2mm。御覧の様に白っぽい地で、頭部には暗褐色の細い縦縞が3対あり、胸部にも暗褐色の複雑な模様がある。腹部も地は白っぽく、その上に茶褐色の不規則な網目状の模様がある。 全体として、中々洒落た色模様の幼虫と言える。真横から見たヒメナガカメムシの幼虫腹側にも同じ様な模様がある(写真クリックで拡大表示)(2010/11/27) 翅芽(翅の原基)が発達しているので終齢幼虫である。しかし、何カメムシの幼虫かは分からない。全農教の「日本原色カメムシ図鑑」を引っ張り出し、その写真を1枚ずつ2回調べたが、似た幼虫は見付からなかった。 養賢堂の「図説 カメムシの卵と幼虫」も2回調べたが、やはり該当種はない。正面上から見た図.吻にチョビ髭が生えている(写真クリックで拡大表示)(2010/11/27) カメムシと言っても、色々な科がある。一体何科に属すのか? 科の検索をしようとしても、検索表は成虫を対象としているので、幼虫の検索は難しい。触角や脚の節数は幼虫と成虫で同じとは限らないし、検索キー(key)の中には翅の形態もある。幼虫には翅はまだ無いのだから、こうなるともうお手上げである。 しかし、よ~く顔を眺めると、どうもナガカメムシ科(Lygaeidae)かその辺りらしい。しかし、それ以上は分からない。コスモスの種子を目当てに来たと思われるので、コスモスの萎みつつある花と一緒に飼育箱(100円ショップのパンのケース)に入れて成虫になるのを待つことにした。斜め横から.胸部側面の模様が良く見える(写真クリックで拡大表示)(2010/11/27) 待つこと2週間、成虫になっていないか否か虫を探すと(虫が小さいので探すのが大変)、チャンと生きており、至って元気。一安心だが、まだ幼虫の儘である。ヒョッとするとこれは幼虫越冬する種なのかも知れない。とすると、来年まで待たなくてはならないが、そんなに長く待つつもりはない。結局、カメムシBBSに御伺いを立てることと相成った。 早速、kameotaku氏から御回答を得た。「ヒメナガカメムシの仲間(この辺の種は分類を再検討中とのことです)の幼虫に見えますが、如何でしょう?」とのこと。ヒメナガカメムシ!!、これならば此処らで最も普通で、キク科の花の上なんぞに幾らでも留まっている、全く面白味のないカメムシである。この綺麗な縞模様の幼虫があの味気ないヒメナガカメムシに変態するとは!!、些か信じ難い。 ヒメナガカメムシの幼虫ならば、カメムシ図鑑に出ている可能性が大である。早速調べてみると・・・、やはりあった。写真が小さいのと色が黒っぽいので、見逃してしまったのである。天眼鏡で写真を拡大してみると、色は全体にかなり黒いが、基本的に同じ模様をしていた。どうも、コムピュータ用の老眼鏡では、図鑑を見るには度が少し低すぎる様である。同じ様な写真をもう1枚.付節は3節の様に見える(写真クリックで拡大表示)(2010/11/27) ヒメナガカメムシの幼虫ならば、Web上にも沢山あるだろう。「"ヒメナガカメムシ" 幼虫」で検索してみると、やはり沢山出て来た。特に、種類が分からない時に屡々お世話になる「カメムシも面白い!!」にもチャンと載っていたのには参った。完全に調べ方が足りなかった、と反省することしきり。口吻を掃除中のヒメナガカメムシの幼虫(写真クリックで拡大表示)(2010/11/27) ヒメナガカメムシは成虫越冬だと思っていたので、その点について更にお伺いを立ててみた。早速、鶉氏から御回答があり、「冬でも成虫と幼虫が混じって地表に見られたので、越冬態は成虫のみではないようです」とのこと。調べてみると、ヒメナガカメムシの仲間(Nysius属)は南方系の様で、越冬態と云うのが明確でないのかも知れない。とすると、今飼育中の幼虫、このまま越冬する可能性が大である。 中々綺麗だし動きも可愛い幼虫なのでどんな成虫になるか楽しみにしていたのだが、ヒメナガと聞いて飼育を続ける気持ちはすっかり無くなってしまった。丁度、一昨日、ベランダのキク科植物に同じヒメナガカメムシの幼虫を見つけたので、其処に逃がしてやった。掃除の合間.口吻が良く見える(写真クリックで拡大表示)(2010/11/27) 尚、kameotaku氏のコメントに「この辺りの種は分類を再検討中とのことです」とある。「検討中」と云う話は以前にも何回か聞いたことがあり、カメムシ図鑑にも「Nysius属には近似種が多く、その分類は本種を含めて全面的に再検討する必要がある」と書かれている。将来的に、ヒメナガカメムシ(Nysius plebeius、同図鑑に拠れば、種名をplebejusと綴るのは誤りとのこと)が数種に分かれる可能性もあるが、此処では単に「ヒメナガカメムシの幼虫」としておいた。
2010.12.18
コメント(6)
今日は、前々回に引き続き、オオタバコガ(Helicoverpa armigera)の5齢幼虫を紹介する。撮影したのは10月17日の朝で、先日掲載の4齢の方は14日の夕方撮影だから、3日弱経っていることになる。コスモスの花を食害するオオタバコガの5齢幼虫中心にある筒状花の直径より長くなった尚、この幼虫は6齢で終齢に達する(写真クリックで拡大表示)(2010/10/17) 先ず、コスモスの花を含めた全体の写真を上に示す。4齢の時には全体写真の良いのがなかったので掲載しなかったが、4齢では筒状花部分の径よりもかなり小さかった。しかし、5齢では明らかに体長が径を上回ることが分かる(勿論、同じ花ではないので、筒状花部分の直径にはバラ付きがある)。背面から見たオオタバコガの5齢幼虫.細かい皺の様な筋が増えて大分オオタバコガの幼虫らしくなった(写真クリックで拡大表示)(2010/10/17) 縦に走る細かい皺の様に見える筋が増えて、よりオオタガコガの幼虫らしくなった。体色が変化して緑色を強く帯びている(写真は強く圧縮してあり、また、写真の周囲が緑色なので、実際よりも赤味が濃くなる)。成長したオオタバコガ幼虫の色は、緑色の他、茶色、赤味の強いもの、全体に色が薄いもの、濃いもの等様々だが、緑系が一番多い様な気がする。筒状花から無理矢理離されたオオタバコガの5齢幼虫(写真クリックで拡大表示)(2010/10/17) この幼虫、随分細長く見えるが、頭幅が腹幅より僅かに狭い程度なので、脱皮後余り時間が経っていないと思われる。しかし、脱皮直後と思われる4齢の写真と比較するとやや腹部の方が太くなっているから、脱皮後の経過時間は5齢の方が長いのであろう。 この5齢は2日後の19日の朝に6齢に脱皮する。4齢と5齢は同じ個体である。・・・とすると、大きくなるにつれて齢期は長くなる様なので、4齢に2日、5齢に3日要したと考えるのが適切かと思われる。オオタバコガ5齢幼虫の頭部.花粉だらけである(写真クリックでピクセル等倍)(2010/10/17) 今回も頭幅を計って5齢幼虫であることを示しておく。上の写真は、頭部を等倍接写したものでる。写真だけ見ると4齢と大きさが余り変わらない様に見えるが、4齢と5齢の写真を撮った間の10月16日に、それまで使っていた100mmマクロが故障して、カメラ本体もレンズも変更した。新しいシステムの方がピクセル数が多く、ピクセル等倍にすれば横幅が1.2倍大きくなる。4齢の方はテレプラスで超接写、上の写真は通常の等倍接写で、何れもピクセル等倍である。 頭幅をスケールと比較すると1.7mm。前回も転載した「大豆を加害するハスモンヨトウ及びオオタバコガ各幼虫の齢期を判定するための頭幅測定ゲージ」に掲載されている、オオタバコガ幼虫の齢と頭幅の関係は以下の通りである。 幼虫の齢 頭幅最頻値(mm) 最小値-最大値 1齢 0.25 0.2 - 0.3 2齢 0.35 0.3 - 0.45 3齢 0.60 0.55-0.75 4齢 1.05 0.85-1.25 5齢 1.70 1.3 - 2.0 6齢 2.60 2.4 - 3.0 頭幅1.7mmは、丁度5齢の頭幅最頻値であった。オオタバコガ5齢幼虫の胸部.棘状の突起が無数にある(写真クリックで拡大表示)(2010/10/17) 前回、保育社の「原色日本蛾類幼虫図鑑」に拠ると、オオタバコガの属すヤガ科(Noctuidae)タバコガ亜科(Heliothinae)の幼虫は、胴部の表皮に微細な顆粒を密布する、と書いた。この粒々、或いは、棘状突起は4齢では大した事は無かったが、5齢では上の写真の様にかなりリッパに発達している。6齢(終齢)では、体ももっと大きくなるので、もっと見応えがある。どうぞお楽しみに。 ・・・しかし、我ながらもうオオタバコガの幼虫には少し飽きて来た。読者諸氏もウンザリされていると思われるが、この後更に「6齢(終齢)」、「蛹と成虫」の2回がある。しかし、6齢はかなり見映えがするし、少し違った観点からの話もあるので、どうか今暫く御辛抱の程、御願い申し上げる。[追記]以下に、以前及び以降のオオタバコガ成長記録の一覧を示しておく。 内容 掲載日 撮影日 備考 2齢幼虫 2010/11/26 2010/10/12 3齢幼虫 2010/12/01 2010/10/14 他とは別個体 4齢幼虫 2010/12/11 2010/10/14 6齢幼虫 2011/01/17 2010/10/21 蛹と成虫 2011/01/31 - 2個体
2010.12.15
コメント(2)
先週の日曜日、ベランダの椅子に座って朝のコーヒーを飲んでいると、目の前にあるデュランタの葉に妙な影が写っているのに気が付いた。葉裏から見た影である。 早速、葉表の方へ回ってみると、何と、サトクダマキモドキ(Holochlora japonica)の幼虫である。先の10月に「サトクダマキモドキの幼虫(初齢)」を掲載したが、今回の幼虫は一昨年の観察結果から判断すると3齢らしい。デュランタの葉上で休むサトクダマキモドキの3齢幼虫右の触角が2/3程切れて無くなっている晩秋で葉っぱが黄色くなっている(写真クリックで拡大表示)(2010/12/05) 10月に掲載した初齢幼虫は、左の触角の先端1/3位が折れていた。今日の3齢幼虫は、反対に右の触角2/3程が無くなっている。ゴキブリや直翅目の幼虫は、触角や脚が切れても、脱皮することによりある程度の再生が可能らしい。しかし、2齢を経るだけで左の触角が完全に再生出来るものだろうか。恐らく、今日の個体は10月のとは別個体であろう。もう少し近づいてみる.腹部にある1対の黒斑が目立つ(写真クリックで拡大表示)(2010/12/05) 10月の時にも書いたが、サトクダマキモドキは卵越冬で、初齢幼虫が出没するのは5月下旬、8月には成虫になる。今頃3齢幼虫がいるのは、5月に孵化すべき卵の一部が、この夏の猛暑でおかしな事になり、越冬する前に孵化してしまったのだろう。ストロボを嫌って、木の枝を伝って逃げるサトクダマキモドキの3齢幼虫(写真クリックで拡大表示)(2010/12/05) その結果として、孵化してしまった個体は冬を越せず、この3齢幼虫も、近い将来、あの世に行く運命にあると思われる。見ていても、動きに元気さが感じられない。葉の重なった部分に逃げ込んだ(写真クリックで拡大表示)(2010/12/05) ストロボの光を嫌って逃げるが、跳んで逃げることはせず、枝を伝ってカメラから離れようとする。尤も、サトクダマキモドキの幼虫は、木のテッペンにいることが多いので、枝を伝って歩くのは極く普通の行動なのであろう(幼虫は前方に跳ぶだけだから、木のテッペンへ飛び上がるのは無理)。 写真を撮り終わると、サトクダマキモドキは安心したらしく、その後は一日中同じ所に留まっていた。しかし、次の日にはもうその場所には見当たらなかった。夜行性らしいので、まァ、当然であろう。腹部の黒斑と胸部に見られるかすかな模様が3齢の特徴(写真クリックで拡大表示)(2010/12/05) この近々天に召される運命にあるサトクダマキモドキの幼虫を飼育して冬を越させる手もある。しかし、餌として何を与えれば良いのかがサッパリ分からない。 サトクダマキモドキが普段何を食べているのか不明である。「木の葉を食べる」としてあるサイトもあるが、何を根拠にしているのかが書かれていない。以前に書いた様に、サトクダマキモドキの幼虫は、カマキリの幼虫と同じく、木のテッペンの様な目立つ場所に、同じ様な下向きの格好で、ジッとして居る。こう云うのは、捕食者のすることである。 サトクダマキモドキは捕食性の強いキリギリス科(Tettigoniidae)に属す。キリギリスを飼育する話はWeb上に沢山あるから、それらを参考にすれば良いのかも知れない。しかし、飼育に失敗して死なせてしまうのは何としても避けたい。それよりは、自然の摂理に任せる方が良いと思うのである。
2010.12.13
コメント(6)
今日は、前々回の「オオタバコガの幼虫(3齢)」に引き続いて、その4齢幼虫を紹介する。 体長は約9.5mm、3齢の写真では約9mmであったから大差なく、脱皮後間もないものと思われる。尚、今日の4齢幼虫は、前々回掲載の3齢幼虫とは別個体で、3齢と同じ日に撮影したものである。オオタバコガの4齢幼虫.脱皮直後らしく頭と胴の幅がほぼ同じ3齢とは異なり、オオタガコガの幼虫らしくなった(写真クリックで拡大表示)(2010/10/14) 上の写真に示した姿を見た途端に、オオタバコガ(Helicoverpa armigera)の幼虫だと思った。理由は我ながら良く分からないが、多分、この横から見た形と、何となく表皮がザラザラした感じがしたからだと思う。3齢までは、表皮はすべすべして光沢があったが、この4齢にはそれがない。上から見たオオタバコガの4齢幼虫.花弁が邪魔して少し斜めになっている.花弁を避けるのが面倒だったらしい(写真クリックで拡大表示)(2010/10/14) この個体は、3齢幼虫のところで書いた様に、最初に掲載した2齢幼虫(10月12日撮影)が成長したものと思われる。僅か2日半で2齢が4齢になるとは信じがたいが、この個体は3日後の17日には5齢(何時5齢に脱皮したかは不明)で、19日には6齢に脱皮し、23日には土に潜ってしまった。2齢から前蛹化まで僅か11日、6齢期が長く、2齢から6齢に脱皮するまではたったの7日である。若齢ほど齢期が短い様なので、3齢位までは1齢を1日で終わるとしてもおかしくはない。上の状態を横から見た図.かなり体が伸びている(写真クリックで拡大表示)(2010/10/14) この4齢幼虫、3齢とは随分外見が異なる。3齢までは赤っぽい色をしていたのが、濃い焦げ茶色(もう少し緑がかっていた様な気がするが、白いコスモスの花を白になる様に現像するとこう云う色になる。赤味がかるか緑を帯びるかは非常に微妙で、極く僅かの調整で色が違ってしまう)になっているし、硬皮板や頭部の黒っぽい部分が殆どなくなり、頭部には褐色の斑がやや筋状に残っているだけである。 その他に、表皮の構造に大きな違いが生じている。オオタバコガ4齢幼虫の胴部.テレプラスで超接写したもの背中やその他の表皮に突起状の構造が認められる(写真クリックでピクセル等倍)(2010/10/14) 最初の方で、何となく表皮がザラザラした感じがすると書いた。保育社の「原色日本蛾類幼虫図鑑」に拠ると、オオタバコガの属すタバコガ亜科(Heliothinae)の幼虫は、胴部の表皮に微細な顆粒を密布する、とある。 胴部を超接写した写真を上に示した。露出不足を増感しているのとピクセル等倍なので酷い写真だが、背中に白い棘状の突起が認められ、他の部分にも、写真自体のザラツキで見難いが、突起状の構造があるのが分かる。これが故に、ザラザラした感じがするのである。 この細かい突起は3齢幼虫には見られないもので、終齢になると見事に発達する(大きくなるので撮り易いせいもある)。テレプラスで超接写したオオタバコガの頭部.頭幅は1.1mm(写真クリックでピクセル等倍)(2010/10/14) 尚、始めから4齢幼虫と書いているが、一応、その根拠を示しておく必要があろう。上の写真は、頭部をテレプラスで超接写したもので、スケールと比較すると頭幅は1.1mm。先日紹介した「大豆を加害するハスモンヨトウ及びオオタバコガ各幼虫の齢期を判定するための頭幅測定ゲージ」に掲載されている、齢と頭幅の一覧表を以下に転載する。 幼虫の齢 頭幅最頻値(mm) 最小値-最大値 1齢 0.25 0.2 - 0.3 2齢 0.35 0.3 - 0.45 3齢 0.60 0.55-0.75 4齢 1.05 0.85-1.25 5齢 1.70 1.3 - 2.0 6齢 2.60 2.4 - 3.0 頭幅1.1mmは4齢の範囲にあることが分かる。頭と胴体の幅に大きな違いがないのは、脱皮して間もないからであろう。3齢では体長9mm、この4齢では9.5mmと大差ないが、頭幅は3齢では0.72~0.73mmだったから、4齢は3齢よりかなり大きくなっていると言える。[追記]以下に、以前及び以降のオオタバコガ成長記録の一覧を示しておく。 内容 掲載日 撮影日 備考 2齢幼虫 2010/11/26 2010/10/12 3齢幼虫 2010/12/01 2010/10/14 他とは別個体 5齢幼虫 2010/12/15 2010/10/17 6齢幼虫 2011/01/17 2010/10/21 蛹と成虫 2011/01/31 - 2個体
2010.12.11
コメント(2)
此処暫く非常に忙しく、更新を1週間以上怠ってしまった。 今年は猛暑だったそうで、そのせいか、テントウムシ、特にダンダラテントウが少ない。御蔭で、我が家の外庭に植えられているコナラの葉裏にはアブラムシがビッシリと付いて甘露を排泄し、その下のスレートは毎日洗ってもベトベトの状態が続いている。 殆ど毎日、何か居ないかコナラの葉裏を調べていたのだが、漸く見つけたのが、今日紹介するクロツヤテントウ(Serangium japonicum)である。背側から見たクロツヤテントウ.テレプラスによる超接写(以下同じ)深度を深くする為に少し絞ったので、解像力が低い(写真クリックで拡大表示)(2010/11/27) 体長は2.1mmと小さい。体は、背側から見ると真っ黒で、胸部には長めの毛が疎らに生えており、上翅(鞘翅)にも胸部に近い側に僅かだが同様の毛が認められる(下の写真)。 しかし、後で見る様に、顔、脚は腿節から付節に至るまで、赤みを帯びた褐色である。横から見たクロツヤテントウ.胸部だけでなく上翅の前半にもかなり長い毛がまばらに生えている(写真クリックで拡大表示)(2010/11/27) このテントウムシ、背側に毛があるので、始めはヒメテントウの仲間かと思った。しかし、「背面被毛あり」として文教出版の「テントウムシの調べ方」に載っている検索表を辿って行くと、迷子になってしまう。 細かい話になるが、ヒメテントウ類では、前胸腹板(4番目の写真で矢印「A」で示した部分)が基本的にTの字形である。しかし、このテントウムシでは富士山の様な上部の平らな三角形をしている。正面から見ると、眼は黒いが顔は赤味を帯びた褐色(写真クリックで拡大表示)(2010/11/27) また、5番目の写真の矢印「B」で示した大きな凹みを後基節窩と呼ぶが、これが腹部第1腹板を越えて上翅(鞘翅)の側片まで達している。ヒメテントウらしくない。 更に、矢印「C」で示した基節窩の縁を腿節線と呼び、これが腹節の端まで連続している。検索表で行き当たった種では何れも途中で消えている。クロツヤテントウの腹側.矢印「A」は前胸腹板富士山の様な略三角形をしている(写真クリックで拡大表示)(2010/11/30) ・・・と云うことで、検索を最初からやり直し。「背面被毛なし」で検索表を辿ると、小腮鬚の形で少し迷ったが、最終的にクロツヤテントウ(Serangium japonicum)に行き当たった。 Web上で検索してみると、外見的にもクロツヤテントウで間違いない様である。保育社の甲虫図鑑の図や記載とも一致する。テントウムシ科(Coccinellidae)メツブテントウムシ亜科(Sticholotidinae)ツヤテントウ族(Serangiini)に属す。 なお、同図鑑に拠れば、このテントウムシは、アブラムシではなく、コナジラミ類を捕食するとのこと。コナラの葉裏にはアブラムシの他にかなりのコナジラミが寄生している。3年前に掲載した「ヨモギヒョウタンカスミカメ(捕食と幼虫)」の彼方此方に写っている中央の白い黒い楕円形のものはコナジラミの蛹殻である。矢印「B」は後基節窩、「C」は後腿節線を示す触角が何とも奇妙な形をしているが、これはツヤテントウ族(Serangiini)の特徴(写真クリックで拡大表示)(2010/11/30) ところで、上2枚の写真、どうやって撮影したのか? 勿論、生きた個体である。しかし、テントウムシ、亀の子の様にひっくり返されて大人しくしている虫ではない。 実は、入れ物(シャーレ)ごと冷蔵庫に入れ、暫く冷やして寒さで動けなくしてから撮影したのである。ところが、テントウムシは成虫越冬、寒さに強い。ものの30秒もすると動き出す。上(5番目)の写真では、その上の写真と違って脚が焦点を外れているが、これは脚をバタバタさせている最中に撮影したからである。翅を開いて起き上がるクロツヤテントウ付節が3節からなることが分かる(写真クリックで拡大表示)(2010/11/30) 脚をバタバタさせてもガラスのシャーレでは脚が滑って起き上がれない。すると、今度は翅を開き、その開く力で起き上がる。上の写真は丁度その起き上がった瞬間。お尻も前翅もボケているが、幸い後翅に焦点が合っているので掲載することにした。 一寸した「芸術作品」風を気取ったつもりである。
2010.12.09
コメント(2)
今日は、前々回に引き続いて、オオタバコガ(Helicoverpa armigera)の幼虫を紹介する。 先日の2齢幼虫は10月12日撮影、今日のは3齢幼虫で、僅か2日後の14日である。12日にはコスモスの花に1頭しか居なかった筈の幼虫が、14日には3頭に増えていた(何れも別々の花上)。しかも、その内の1頭は大きくて色も濃く、姿も少し異なって別種ではないかと思われた。 その色の濃い大きい個体を拡大してみると、これはどうもオオタバコガの幼虫らしい。12日に撮影した個体が成長してこの色の濃い個体となり、他の2頭は新たに後から孵化した様に見える。しかし、たった2日でそれ程急激に成長するものだろうか。しかも、その色の濃い幼虫は4齢らしい。 一寸考え難い成長速度である。しかし、コスモスの花弁(舌状花)の上に落ちている黒い糞は遠目にもハッキリ分かるほど明瞭で、糞の落ちていた花は12日には1個のみで、其処に居た幼虫は1頭だけであったのは確かである。コスモスの花とそれを食害するオオタバコガの3齢幼虫2齢幼虫との大きさの違いを示す為に原画全体を示す虫だけを撮る為に撮影したので、構図が宜しくない2齢よりもずっと大きいことが分かるであろう(写真クリックで拡大表示)(2010/10/14) 何れにせよ、先日紹介した2齢幼虫や、それとよく似た今日の3齢幼虫が、外見の著しく異なるオオタバコガの4齢幼虫(次回に掲載予定)に姿を変えるものか、それぞれ個体を分けて飼育してみることにした。上の写真と同一個体.体長約9mm2齢とよく似ているが硬皮板と頭の色がかなり薄くなっている(写真クリックで拡大表示)(2010/10/14) 今日の幼虫は2頭だが、何れも体長は約9mm、先日のは5mmで2齢であった。今日の個体が3齢であると判断したのは、先日紹介した、福岡県のHPの下にぶら下がっている「大豆を加害するハスモンヨトウ及びオオタバコガ各幼虫の齢期を判定するための頭幅測定ゲージ」に掲載されている齢と頭幅の一覧表による。以下に再度、転載する。 幼虫の齢 頭幅最頻値(mm) 最小値-最大値 1齢 0.25 0.2 - 0.3 2齢 0.35 0.3 - 0.45 3齢 0.60 0.55-0.75 4齢 1.05 0.85-1.25 5齢 1.70 1.3 - 2.0 6齢 2.60 2.4 - 3.0同一個体.横から見た図.腹節第6節の腹脚が見えないのは、歩いている最中を撮影した為(写真クリックで拡大表示)(2010/10/14) 頭幅の測定は、等倍で撮影した2番目の写真と、テレプラスでもっと拡大した5番目の写真をスケールと比較することで行った。何れも頭が少し斜めになっているが、頭幅は前者では約0.73mm、後者では0.72mmであった(有効数字は1桁半位)。 表と比較すると、少し大きめだが、3齢幼虫であることが分かる。 2齢幼虫と較べると、大きさの違いばかりでなく、2齢では真っ黒であった頭と前胸(胸部第1節)背面の硬皮板の部分が薄くなり、また、お尻の硬皮板(肛上板)の紋も薄くなって不明瞭になっている。オオタバコガの3齢幼虫.上とは別個体少し太っているが、体長はほぼ同じ(写真クリックで拡大表示)(2010/10/14) しかし、この3齢幼虫、何処かで見た記憶がある。よく考えてみると、2年前に新しく買って来た「北米原産シオンの1種」の花に付いていた幼虫である(最後の写真)。従って、これも恐らく「我が家の庭の生き物」ではなく、花と一緒にやって来た「お客様」だが、前にも書いた様にオオタバコガはこの辺りでは極く普通種なので、敢えてよしとして掲載することにした。 このシオンの1種を買って来た園芸店は、今回のコスモスの花を買ったのと同じ店だったと思う。余り農薬を使っていないのか、或いは、これらのオオタバコガが薬剤耐性を獲得しているのかは不明であるが、「お客様」を招くには良い店かも知れない。尤も、毎回オオタバコガでは困るが・・・。テレプラスで超接写したオオタバコガ3齢幼虫の頭部(写真クリックで拡大表示)(2010/10/14) 下の写真の個体、その前に示した今年のものと比較して、全体の姿や模様ばかりでなく、頭や前胸の硬皮板の形、硬皮板に生えている毛の位置まで全て一致する。オオタバコガの3齢幼虫だったのだ。撮影当時、「ノメイガの幼虫?」として掲載しようとも思ったが、全く別の若齢幼虫かも知れないと考えて掲載しなかったのは幸いであった。一昨年に購入した「北米原産シオンの1種」に居た蛾の幼虫今まで正体不明であったが、オオタバコガの3齢幼虫であることが判明した。(写真クリックで拡大表示)(2008/10/05) 次は4齢幼虫である。2齢と3齢では余り変化はなかったが、4齢になると劇的?に変容する。どう変化するかは、次に掲載する時のお楽しみ。[追記]以下に、以前及び以降のオオタバコガ成長記録の一覧を示しておく。 内容 掲載日 撮影日 備考 2齢幼虫 2010/11/26 2010/10/12 4齢幼虫 2010/12/11 2010/10/14 5齢幼虫 2010/12/15 2010/10/17 6齢幼虫 2011/01/17 2010/10/21 蛹と成虫 2011/01/31 - 2個体
2010.12.01
コメント(2)
先日、今まで使っていたマクロレンズが故障して、接写システムを変更した話をした。新しいシステムでもテレプラス×2を挟んで充分使い物になる(撮影倍率2倍弱)ことを、ワタアブラムシを撮影して示した訳だが、そうなると人間は卑しい。更に欲が湧いて、これにクローズアップ・レンズを付けてもっと高倍率にしてみよう等と考えてしまう。100mmマクロレンズで等倍接写したヤノイスフシアブラムシの幼虫背景の葉裏に生えている毛で、虫の毛は良く見えない(写真クリックでピクセル等倍)(2010/11/26) クローズアップ・レンズの5番と3番の2枚をレンズの先端にねじ込んで撮影すれば、撮影倍率は約2倍になる。だから、テレプラス×2とクローズアップ・レンズ2枚を併用すれば、倍率は凡そ4倍になる筈である。 実は、先日の写真を撮った時に、一寸これをやってみたのである。しかし、焦点深度が浅過ぎて焦点合わせは殆ど不可能、と云う感じで、余り真面目に考えずに「無理だ」と思ってしまった。テレプラス×2を挟み、F6.3で撮影.倍率は1.8倍解像度が高く毛が管状になっているのが分かる(写真クリックでピクセル等倍)(2010/11/26) だが、手持ちで焦点合わせが殆ど不可能でも、据え物撮りならば、テーブルに肘をついてカメラを安定させることが出来る(一眼レフは機動性が最大の特徴なので、三脚は使わない主義)。考えている内に段々とその気になって来て、遂にその実験をしてみることと相成った。 4倍もの撮影となると、被写体に何を選ぶかを考えなくてはならない。細微な構造を持つ被写体(当然生き物)である必要がある。手近にいる生き物で思いついたのは、写真家の糸崎公朗氏のWeblog「路上ネイチャー協会」に載っていたヤノイスフシアブラムシの幼虫(或いは無翅成虫)である。これならば、我が家の外庭のコナラにゴマン、どころか10万も20万も居る(今年は猛暑のせいか捕食者が非常に少ない。特に暑さに弱いテントウムシは殆ど居ない)。 拙Weblogでも、ヤノイスフシアブラムシ(Nipponaphis yanonis)の有翅虫と幼虫を3年前に掲載している。成虫も幼虫も普通のアブラムシとはかなり違う形をしているが、アブラムシ自体についての話は3年前の記事を参照して頂きたい。同じくテレプラスを使い、F8で撮影F6.3の写真より解像度が低い(写真クリックでピクセル等倍)(2010/11/26) さて、この幼虫の何処が面白いかと云うと、その刺毛(毛)である。これが、何と毛状ではなく管状をしているのである。このことは糸崎氏のWeblogで初めて知った(こんなアブラムシは他に知らないが、残念ながら全農教「日本原色アブラムシ図鑑」の解説には何も書かれていない)。今回の約4倍の接写装置を使って、この管状の毛を見てみよう、と云う訳である。 今回は、倍率の変化を実感して頂く為に、全て原画からの拡大率を同一にした。何れの写真も原画で横幅1000ピクセル、記事の写真は全て横幅500ピクセルに縮小してあるので、最大に拡大するとピクセル等倍、丁度記事の2倍(面積では4倍)となる。 尚、被写体の幼虫は少し小さめで、体長約0.97mmである。テレプラス×2とクローズアップ・レンズ5番+3番を併用撮影倍率は正確には4倍ではなく3.5倍.F8で撮影.毛がホースの様な管状をしているのが良く分かる虫体のかなりの部分に焦点が合っていて見易い(写真クリックでピクセル等倍)(2010/11/26) 各写真の解説に書いてあるが、最初の写真は100mmマクロレンズ単体の等倍接写写真。倍率は当然1.0倍である。周りがゴチャゴチャしているせいもあって、虫に生えている毛が良く見えない。変なアブラムシの幼虫なので分かり難いが、頭は左側である。 2番目はテレプラス×2をレンズとの間に挟み、最大倍率にして撮影したもので、倍率はスケールを撮影した別の写真から計算すると1.8倍、毛が管状になっているのが一応分かる。絞りをF6.3にしてあるせいか、解像度が高い。 3番目は、F8に絞って撮影した。解像度はF6.3に比してかなり落ちる。F11では、解像度の低下が著しく、高精度の写真としては使用に耐えないと判断した。同じ条件でF6.3で撮影.焦点深度が浅過ぎて虫体に焦点を合わせた写真は使えなかった.虫体より手前に焦点が合った毛が管状であることが良く分かる写真を選んだ(写真クリックでピクセル等倍)(2010/11/26) 最後の2枚が、クローズアップ・レンズの5番と3番を重ねて前に付け、テレプラス×2と併用した写真である。撮影倍率はスケールと比較すると4倍ではなく、3.5倍であった。4番目の写真はF8で撮影。毛が管状になっているのが良く分かる。頭部(左)は深度外になって良く見えないが、まァ、虫全体の雰囲気は分かる。 最後の写真はF6.3で撮影。虫体に焦点を合わせた写真は深度が浅過ぎて使い物にならなかった。其処で、少し手前の管状の毛の先端に焦点が合っている写真を載せることにした。断面が円形をしているのが良く分かるであろう。虫体は完全に焦点深度外で、ボヤボヤである。 F11でも撮影してみたが、明らかに解像度が低下しており、掲載する必要なしと判断して、省略した。 こうして実験してみると、このマクロレンズ+テレプラス×2+クローズアップ・レンズの組み合わせでは、F8辺りで撮るのが最適と言える(F8の1/3前のF7.1、1/3後のF9では実験していない)。 なお、クローズアップ・レンズを使用すると、絞り込みによる焦点移動が生じる。テレプラス×2と併用した場合は、F8に絞るとファインダーで焦点の合っていた面より約1mmほど後の面に実際(CCD上)の焦点が合う。撮影する際は、焦点が合ったと思った位置から1mm引くか、或いは、1mm手前に焦点を合わせてシャッターを切らなければならない。
2010.11.28
コメント(6)
十月中旬のことである。虫集め用に100円!で買ってきたコスモスの花弁(舌状花)の上に小さな黒い粒々が落ちているのを見つけた。芋虫か毛虫の落とし物に違いない。 早速、筒状花の周りや花の下側を調べてみた。しかし、何も居ない。其処で、今度は花弁が重なっている部分を調べたところ、その合間に小さな赤っぽい色をした芋虫が居るのを見つけた。 この芋虫(毛が少し生えているので芋虫と言うべきか、毛虫と言うべきか判断に苦しむ)、多分、買って来たコスモスの何処かに卵が付いていたと思われる。従って、「我が家の庭の生き物たち」ではなく「お客様」だが、後で分かる通り、此の成虫である蛾はこの辺りには普通なので、まァ、我が家の庭の生き物に準ずると云うところで掲載することにした。コスモスの花に居たオオタバコガの2齢幼虫.体長5mm小ささを御理解頂く為に原画全体(等倍接写)を示した(写真クリックで拡大表示)(2010/10/12) 体長は、見た時はもっと大きいと思ったのだが、写真から計測すると丁度5.0mm、拡大してみると、何やらノメイガの幼虫に似ている。しかし、全く別のグループの若齢幼虫の可能性もある。そこで、今後どうなるか分からないが、そのまま暫く様子を見ることにした。花弁の重なった部分に隠れていたオオタバコガの2齢幼虫とてもオオタバコガの幼虫には見えない胸背の黒い部分は前胸硬皮板であろう(写真クリックでピクセル等倍)(2010/10/12) その後、2齢を加えた後に姿が変わり、漸く正体が分かった。オオタバコガ(Helicoverpa armigera)の幼虫であった。しかし、まァ、成虫になるまで育て、正しくオオタバコガであることを確認してからWeblogに載せる方が無難であろう。 蛹化するまでは非常に成長が早かったのだが、その後は変化無し、中々羽化しない(年内に羽化させる為に長日条件で飼育した.オオタバコガは「悪者度」に非常に高い害虫なので保護する必要はない)。しかし、数日前、漸く1頭が羽化した。やはりオオタバコガであった。正背面から。上の位置から方向転換しているお尻の方の硬皮板(肛上板)は濃い茶褐色(写真クリックでピクセル等倍)(2010/10/12) さて、オオタバコガの幼虫であることは明らかになったが、今日の写真の幼虫は果たして何齢なのだろうか。オオタバコガはヤガ科(Noctuidae)タバコガ亜科(Heliothinae)に属すが、ヨトウガに近い。このヨトウガ類は、アゲハなどとは異なり、幼虫期が6齢の種類が多い(アゲハ類でも生育条件によっては6齢以上になることがあるとのこと)。調べてみると、オオタバコガは5齢乃至6齢と一定していないらしい。 卵は小さくて直径0.4mm程度と云うから、少なくとも初齢ではないだろう。其処で文献を探すことと相成る。 意外と簡単に、福岡県のHPの下にぶら下がっている「大豆を加害するハスモンヨトウ及びオオタバコガ各幼虫の齢期を判定するための頭幅測定ゲージ」と云うファイルが見付かった。横から見たオオタバコガ2齢幼虫.最初の写真の部分拡大後脚は4対(ヤガ科には4対以下の種がかなりある)(写真クリックでピクセル等倍)(2010/10/12) この文献のデータを使うと、頭幅を計ることによってオオタバコガ幼虫の齢が推定出来る。出典は、「Van den Berg,H. and Cock,M.J.W.(1993)」となっており、文献名は記されていない。この両者によって1993年に出版された論文は数報あり、その何れに載っていたデータかは不詳である。 それは兎も角、オオタバコガの頭幅と齢の関係は以下の様になっている。 幼虫の齢 頭幅最頻値(mm) 最小値-最大値 1齢 0.25 0.2 - 0.3 2齢 0.35 0.3 - 0.45 3齢 0.60 0.55-0.75 4齢 1.05 0.85-1.25 5齢 1.70 1.3 - 2.0 6齢 2.60 2.4 - 3.0正面から見ても小さ過ぎて頭部の詳細は不詳(写真クリックでピクセル等倍)(2010/10/12) 上の写真から頭幅を測定すると、0.43mm。上の表に拠れば、少し大きめだが、2齢と云うことになる。 これから暫くは、このオオタバコガの幼虫の各齢を紹介することになろう。オオタバコガは「大害虫」として名高いから、各齢の詳細を掲載することは農業関係の人にも多少は役立つかも知れない。[追記]この幼虫は無事成虫にまで成長した。以下に、以降の記録の一覧を示しておく。 内容 掲載日 撮影日 備考 3齢幼虫 2010/12/01 2010/10/14 他とは別個体 4齢幼虫 2010/12/11 2010/10/14 5齢幼虫 2010/12/15 2010/10/17 6齢幼虫 2011/01/17 2010/10/21 蛹と成虫 2011/01/31 - 2個体
2010.11.26
コメント(4)
昨日紹介した超接写システムで、同じコスモスに来ていた微小なアリを撮ってみた。 「日本産アリ類全種図鑑」(現在では「日本産アリ類画像データベース」としてWeb上で参照可能)で調べてみると、どうやらヤマアリ亜科(Formicinae)のサクラアリ(Paratrechina sakurae)らしい。図鑑では体長1~1.5mmとなっているが、写真のアリは1.8mmとやや大きい。 しかし、他に類似種が居ないし、形態的特徴が記述と一致するので、サクラアリとして問題無いと思う。サクラアリ.頭部に続く膨らんだ部分が前胸、それに続く凸凹した部分があるのが中胸、その後に続く黒っぽく細いのが後胸溝、その後の腹部の前にある部分は、実際は胸部ではなく腹部で、前伸腹節と呼ばれる触角は全部で12節だが、右の先端節は無くなっている(写真クリックでピクセル等倍)(2010/11/20) この図鑑には属までの図解検索表が付いている。しかし、亜科への検索で腹側から見た腹部末端の詳細や付節末端の爪の突起など、微小な構造が問題となるので、小型のアリを写真に撮った場合は亜科まで落とすのは先ず無理である。しかし、図解検索の2段目までは進めたので、ヤマアリ亜科かカタアリ亜科の何れかに属すことが分かった。 その後は、どうしても絵合わせとなる。図鑑に載っているこの2亜科のアリは僅か82種である。だから、図鑑のページを1枚ずつめくって行けば容易に目的の種に辿り着くことが出来る(何しろ、「日本産アリ全種図鑑」なのだから)。全く所属の分からない奇妙奇天烈な小甲虫を撮って、甲虫図鑑の2~4巻の全部を調べるよりは遥かに楽である。 図鑑の解説には、「体色は褐色で,触角と脚は黄褐色.触角べん節の第2~4節の幅は長さよりも長い」、「胸部は短く,頭部と同じくらいの長さ.側方から見て,前胸は急に立ち上がり,中胸は弱く曲がり,両者で1つの大きく曲がる弧をえがく.前伸腹節背面は短い.後胸溝背面での凹みはわずかで短い.中胸背板に1対,前伸腹節に1対の剛毛がある」とあり、写真のアリの特徴と一致する。なお、アリの触角はスズメバチ等とは異なり、梗節が無く、梗節に見えるのは鞭節第1節となる。横から見ると、中胸背板に1対,前伸腹節に1対の剛毛があるのが分かる。前胸背板にも剛毛が認められる(写真クリックでピクセル等倍)(2010/11/20) 殆どの読者は御存知と思うが、アリはハチと同類で、膜翅目細腰亜目アリ上科アリ科(Formicidae)に属す。アリは翅のないハチとも言えるが、アリの他にも無翅のハチ(特に雌)が色々な分類群に存在する。 翅がないのでアリと思ったら、○○バチであったと言うことも屡々起こり得る訳で、実際、昆虫の掲示板などに「この変なアリはなんでしょう」と云う様な質問でアリガタバチやカマバチ等が登場する。触角の折れ曲がったところから鞭節で第1節は長いが黒い輪の付いた第2節以降は第4節位までは短い(写真クリックでピクセル等倍)(2010/11/20) これまで、このWeblogでアリを紹介したのは、ハリブトシリアゲアリ1種だけだと思う。しかし、我が家には他にも色々なアリが居る。ところが、普段、地面を歩いているアリは彼方此方歩き回って留まることを知らず、撮影は殆ど不可能である。 だが、何か餌などに在り付いている時は余り動かないので被写体になり得る。ハリブトシリアゲアリもアブラムシに集っていたから撮影出来たのである。 今日のサクラアリは、コスモスの花の上で何かに御執心であった。多分、昨日掲載したワタアブラムシが排泄した甘露を食べていたのであろう。前回掲載したコスモスに寄生していたワタアブラムシが排泄した甘露を求めてやって来たらしい(写真クリックでピクセル等倍)(2010/11/20) このWeblogは、最初に「こういう都会でも実はイロイロ[虫が]居ますよ、と言うことを知って貰う」と云う意図で開設したのだが、やはり都会の駅から僅か250mの住宅地ではかなりキツイ。最近はネタ切れ状態が慢性化している。これからは、砂糖水で誘き寄せるなどして、アリも撮ることになるであろう(但し、今アリは冬眠中、来春以降となる)。
2010.11.22
コメント(6)
実は、此処数年間使っていたマクロレンズが、先月の中程に故障してしまった。マクロレンズは、別に仕事に使っているのがある(カメラもレンズも別メーカー)ので、カメラ本体と一緒に其方に切り換えていたのだが、お気づきになった読者は居られるだろうか。 先日、その修理に出していたメーカーから電話があった。修理に、私にとっては予想外の費用が掛かるとのこと。暫くどうするか悩んだが、もうその故障したレンズを付けていたカメラ本体やそのカメラ用の他のレンズも一切合切全部処分して、仕事用のカメラ1系列のみにすることにした。 そうすると、問題が1つ生じる。この仕事用のカメラのマクロレンズは、以前の実験では、テレプラスを使って超接写をすると著しく解像度が落ちるのである。しかし、暫く経ってから、これはレンズの絞値表示の違いに拠るらしいことに気が付いた。 今までこのWeblog用に使っていたマクロレンズは開放時の焦点比(F値)が2.8であるが、等倍接写状態にすると5.6になってしまう(絞り開放で等倍接写をすることなど有り得ないので、暫く気が付かなかった)。もう一方のレンズでは、等倍にしてもF値は変わらない。これが誤解の基であった。 少しややこしい話になるが、普通に撮影する時の露出は、被写体が無限遠点(撮影倍率0倍)にあると仮定してあり、被写体が近づくと露出を増やさなければならない。露出倍数は(撮影倍率+1)の2乗に比例する。通常のレンズでは最接近しても撮影倍率は精々0.2程度だから(0.2+1)の2乗=1.44で、補正をしなくても大した問題にならない。しかし、等倍接写では(1+1)の2乗=4、即ち露出倍数は4倍となる。これはF値では2段分だから、無限遠点で開放時にF2.8であれば、等倍接写時にはF5.6になったのと同じである。 どうも、故障したマクロレンズは、この露出補正をした絞値を表示していたらしいのである。だから、少し絞り込んだ状態(例えばF22)で撮影した場合、実際の絞りの状態はF11だと考えられる。 其処で、最近使用している仕事用のマクロレンズの絞を大いに開け、テレプラス×2を挟んで撮影してみた。下の写真は絞値8(F8)で撮影したものである。最大に拡大表示すると、ピクセル等倍(横幅1000ピクセル)になる。ワタアブラムシの無翅雌.テレプラス×2を使って約2倍で撮影体長1.4mm.右上に見えるのは若齢幼虫であろう(写真クリックでピクセル等倍)(2010/11/20) 被写体は、コスモスの花にいたワタアブラムシ(Aphis gossypii)で、体長1.4mm、先日「サトクダマキモドキ(初齢幼虫:10月19日出現)」の脇に写っていたのと同じ種である。その記事の2枚目の写真を見ると、背中が縞模様に見えるからまだ幼虫らしい。今日の写真はその成虫である。 ワタアブラムシは以前掲載したことがあるので、虫自体については其方を参照されたいが、誤解を避ける為に、丁度今頃話題になる所謂「ワタムシ」とは全く無関係で、アオイ科のワタ(綿)に付くのでその名が付いた(実際は非常な広食性)ことだけは書いておこう(ワタアブラムシはアブラムシ科:Aphididae、アブラムシ亜科:Aphidinaeに属し、所謂ワタムシは主にタマワタムシ科:Pemphigidae)。 さて、上の写真の出来映えだが、ピクセル等倍でこの程度なら充分使える。図鑑に拠れば、尾片には5本程度の毛があるそうだが、残念ながら見えない。しかし、これは背景が真っ白なせいであろう。 これで超接写に関しても問題なしと相成り、安心してカメラを1系列にすることが出来た。万歳万歳(板垣征四郎大将は、最後に「まんざい」と言ったそうだ)。
2010.11.21
コメント(6)
毎年、秋になるとセイタカアワダチソウや「北米産原産シオンの1種(紫花)」にやって来る、やや小型のガガンボが居る。ガガンボという虫はややこしい双翅目の中でも特にややこしい連中で、撮っても種類が分かる可能性は殆ど無く、普段は撮影しないことにしている。 しかし、この写真のガガンボ、口吻がある種のシギ類(ダイシャクシギ等のNumenius属)の様な形をしており、かなり特徴的である。しかもこの辺り(東京都世田谷区西部)では極く普通な種と言える。ヒョッとして分かるのではないかと思い、写真を撮ってみた。体長は約8mm、翅長は約7mmである。「北米原産シオンの1種(紫花)」に来たヒメガガンボ科のGeranomyia gifuensis.和名はまだ無い右後肢が取れて無くなっている(写真クリックで拡大表示)(2010/11/02) ガガンボの様な、体が細く脚が異様に長い双翅目昆虫は色々な科に存在する。ガガンボ科の他に、近縁の科としてはシリブトガガンボ科、ヒメガガンボ科、オビヒメガガンボ科等があるが(これらを全てガガンボ科に含める研究者も居る)、一見非常に良く似ているにも拘わらず、それぞれ下目のレベルで異なる全く遠縁のガガンボダマシ科、コシボソガガンボ科、アミカ科等と云うグループもある。全く困った連中としか言い様がない。羽ばたきながら吸蜜することも多い.偶然に翅を拡げたところが撮れた吸蜜中も常に体を上下に揺すっている(写真クリックで拡大表示)(2010/11/02) これらの科の違いは、主に翅脈をみれば大体の見当が付く。しかし、1つの科の中でも翅脈にかなりの変化があるので注意が必要。写真のガガンボの翅脈(写真の解説を参照)を見ると、どうやらヒメガガンボ科の様である。 ヒメガガンボ科には、口吻が体長よりも長く、しかも真っ直ぐなクチナガガガンボと云う種がある。しかし、口吻の細部を見ると、これとはかなり違う。翅脈を拡大.前縁脈とR脈基幹の間にあるSc脈が無い様に見えるが他のぼけた写真を見ると、Sc脈は前縁脈とR脈の間に存在しており矢印Aの所で、Sc1とSc2(Sc-R)の2本に別れ直後にSc1は前縁脈に、Sc2はR1に終わっている矢印Bの所はどうなっているのか良く分からないヒメガガンボ科では、普通R1は前縁脈に合すがここではR2+3に繋がっている様に見える(写真クリックで拡大表示)(2010/11/02) 北隆館の新訂圖鑑の解説を読むと、口吻の長いヒメガガンボ科のグループは他にも幾つか存在する。しかし、図版を見ても殆ど何も分からない。お手上げである。 其処で、例によって双翅目の掲示板「一寸のハエにも五分の大和魂・改」のお世話になることと相成る。此処には、達磨大師様と云うガガンボの権威が居られるのである。横から見ると後肢の取れた跡が生々しい常に体を上下に揺すりながら吸蜜する(写真クリックで拡大表示)(2010/11/02) 達磨大師様は、一年程まえ白神山地の研究室に転勤され、研究棟の建設とか今かなりお忙しい筈なので、気長に御返事を待つつもりで居た。ところが、何と一時間も経たない内に御返答を賜った。 「交尾器の詳細がわからないので「絶対に」とはいえませんが、ヒメガガンボ科ヒメガガンボ亜科のGeranomyia gifuensis Alexander, 1921 に一票.本州で記録されているGeranomyia属既知種で翅に斑点模様がないのは本種のみです」との御答えであった。 北隆館の圖鑑に拠れば、このGeranomyia属に属すヒメガガンボは「口吻が鳥のクチバシ状に突出している」そうである。横から見たGeranomyia gifuensisの顔「宇宙人的」と表現する人もいる(写真クリックで拡大表示)(2010/11/02) 御話に拠れば「本州で記録されているGeranomyia属既知種で翅に斑点模様がないのは本種のみです」なのだから、殆ど決まったも同然の様な気がするが、大師様は「・・・に一票」としか書かれていない。 これは、ガガンボ類(ガガンボ科とその近縁科)の研究が圧倒的に不足している(研究者が少ない)ことに起因している思われる。「一寸のハエにも五分の大和魂・改」での情報に拠ると、ガガンボ科の代表的な属の一つであるTipula属では、日本で記録されている種は約100種だが、実際には400種以上が生息するとのこと。この様な事情はTipula属に限らず、ガガンボ類全体に通じると思われる。既知種よりも、未記載種や日本未記録種の方がずっと多いのである口吻は形や太さが部分により異なり、かなり複雑な構造をしている途中左側に飛び出しているのは小腮鬚と思われる(写真クリックで拡大表示)(2010/11/02) ヒメガガンボ科(Limoniidae)は九大目録ではヒメガガンボ亜科(Limoniinae)に入っているが(ガガンボ類の上位分類には議論が絶えない様である.近縁の科として上に挙げた数科を全てガガンボ科に含める研究者もおり、九大ではそれを採用している)、亜種も含めて488もの記録が出て来る。 また、Geranomyia属(九大目録ではLimonia属の亜属として扱われている)には、7種8亜種が記録されている。この属(亜属)がどの程度研究されているのかは分からないが、Tipula属と同じ程度とすれば、他に20種位は未記載種や日本未記録種が居る可能性がある。単純に、Geranomyia gifuensisと決めつける訳には行かないのである。オマケの1枚.右後肢が無いのが目立つ(写真クリックで拡大表示)(2010/11/02) ・・・と云う訳で、今日の虫はヒメガガンボ科(Limoniidae)ヒメガガンボ亜科(Limoniinae)の「Geranomyia gifuensis?」と、「?」を付けて置くことにした。尚、Geranomyiaを亜属とした場合の学名は、Limonia (Geranomyia) gifuensisとなる。
2010.11.15
コメント(6)
今年の秋は、草木の開花が遅れている。御近所のサザンカは20日近く遅れて今漸く七分咲き程度だし、我が家の「北米原産シオンの1種(紫花)」も例年よりも2週間程遅い今時になってほぼ満開となった。 この花も虫集め用に植えてあるだけあって、セイタカアワダチソウに劣らず「集虫力」が強い。しかし、今年は時期が遅れたせいで日当たりが悪くなってしまい、今一つ虫の集まりが宜しくない。それでも、何かと虫がやって来る。「北米原産シオンの1種(紫花)」で吸蜜するイヌビワハマキモドキの雄(写真クリックで拡大表示)(2010/11/10) 先日、そのシオンの花の上に枯葉のカケラの様なものが「付着」しているのに気が付いた。1辺5mm位の三角形をした焦げ茶色の平らなものである。肉眼では何だか良く分からないので、マクロレンズで覗いてみた。・・・すると、何と小さな蛾で、以前、町の奥にある家庭菜園で撮影したことのあるイヌビワハマキモドキ(Choreutis japonica)であった。ハマキモドキガ科(Choreutidae)ハマキモドキガ亜科(Choreutinae)に属す。大きさは、形を頭を頂点とする2等辺3角形と見なしたとき、頂点から底辺までが約6.5mm、翅長は約5.5mm。触角には毛が生えているので雄であろう.動くときは瞬間的に移動する(写真クリックで拡大表示)(2010/11/10) 上の写真で明らかな様に、触角には沢山の毛が生えている。以前撮影したイヌビワハマキモドキの触角にはこの様な毛は認められなかった。触角が発達するのは雄と決まっているから、此の個体は雄で、以前撮影したのは雌であろう。 昨年の秋、同じハマキモドキ亜科だが属の異なるゴボウハマキモドキを紹介した。属は違うが動き方は実によく似ている。ゆっくりと歩いたり体を傾けたりすることはなく、瞬間的にツッ、ツツッと移動する。体を傾けたり、何かに驚いて頭を持ち上げたりする時も同様である。前から見たイヌビワハマキモドキ(写真クリックで拡大表示)(2010/11/10) この個体を撮影する2週間程前、やはりイヌビワハマキモドキを我が家で見かけた。この時は、1枚も撮る閑無く逃げられてしまったが、ヒョッとすると、同一個体かも知れない。と云うのは、今日の写真の個体はかなり色が褪せているからである。胸部は剥げていないから、スレ(擦れ)ているのではない。色が褪せているのは、羽化後時間が経っているからではないだろうか。 勿論、同じ頃に発生した個体が来たのなら、別個体でも色は同様に褪せているだろうから、これは、まァ、非常に乱暴な憶測ではある。イヌビワハマキモドキ(雄)の触角.毛の生え方は非常に複雑(写真クリックで拡大表示)(2010/11/10) ゴボウハマキモドキの時もそうであったが、吸蜜する時に逆立ちに近い格好をする。小型の蛾で口吻が余り長くない場合は、そうしないと口が蜜線に届かないのかも知れない。 マクロ撮影する場合は、殆どストロボ同期で撮影する。ストロボの光はカメラの上の方から来るから、頭が下だと顔が影に隠れてしまい、写真としては使い物にならなくなってしまうことが多い。逆立ちをする虫は結構多いが、撮る方にとっては何とも困った習性である。イヌビワハマキモドキの横顔.口の下から前上方に伸びているのは下唇鬚(写真クリックで拡大表示)(2010/11/10) 保育社の「原色日本蛾類図鑑」に拠れば、イヌビワハマキモドキの「幼虫はイヌビワやホソバイヌビワの葉面にいる」と書かれている。これらの植物は「ビワ」と名が付いても、所属はバラ科ビワ属ではなく、クワ科イチジク属である。同図鑑には「イチジクには未だ見ない」とあるから、食性はかなり狭いらしい。 イヌビワやその変種であるホソバイヌビワは何れも南方系の植物で、分布は関東以西とされているが、この辺り(東京都世田谷区西部)では余り見ない。しかし、我が町には戦前から庭をその儘にしていると思われる御宅が所々にあり、その様な御宅などに自然発生的に生えていることがある。そう云う場所のイヌビワからこのイヌビワハマキモドキが発生しているのであろう。逆立ちに近い格好で吸蜜することが多い(写真クリックで拡大表示)(2010/11/10) 最初の方で、「以前、町の奥にある家庭菜園で撮影したこと」があると書いた。この時の個体は非常に新鮮で色鮮やかであった。直ぐに逃げられてしまい、写真は同じ様なのが2枚しかないが、興味のある読者諸氏は此方をどうぞ。
2010.11.12
コメント(6)
今年の秋は、例年に比して、我が家の庭を訪れるハナアブの種類が多い。先日紹介したキスネクロハナアブやシママメヒラタアブは初めて見るハナアブだったし、2年に1度位しか姿を見られないキゴシハナアブも今年は既に何回かやって来た。 今日、紹介するオオフタホシヒラタアブ(Syrphus ribesii)も普段は滅多に現れない、この辺りではかなり稀なハナアブである。しかし、今年はその姿を3~4回も見ている。やはり、これもこの夏が異常に暑かったことと関係しているのであろうか。オオフタホシヒラタアブの雌.体長15mmと大きい背景がセイタカアワダチソウなので色が映えない(写真クリックで拡大表示)(2010/10/22) 実は、このオオフタホシヒラタアブは、既に4年前に紹介済みである。しかし、この時は遠くから産卵している所を背面から撮った同じ様な写真2枚しか掲載出来なかった。産卵中だから体を丸めており、頭やお尻は良く写っていない。 今回の写真も枚数は多くはないが、ずっと近寄って撮影しているし、また、色々な角度からも撮影してある。種の特徴がかなり良く出ていると思うので、再掲載することにしたのである。
2010.11.10
コメント(4)
今日は、またハナアブの1種を掲載しようと思って原稿を書いていた。しかし、よく考えてみると、それではハナアブ科が3回も続いてしまうことになる。其処で、急遽主人公をハエトリグモに変更することにした。 当Weblogの表題は「我が家の庭の生き物たち」である。従って、家の中に居る生き物はその対象にならない。しかし、こうネタが少なくなってくると、(私自身を除いた)家の中の生き物も紹介しないと間が持たなくなって来る。ブルーベリーの葉上で大人しくしているアダンソンハエトリの雌最初は台所の流しのゴミ受け付近で溺れかけていた(写真クリックで拡大表示)(2010/11/02) このハエトリグモ、台所の流しにあるゴミ受け網の辺りでウロウロしていたのを見つけた。幸い、洗剤を使っていなかったので窒息死することはなかったが(洗剤=界面活性剤の入った水が体に付くと、水が気管や書肺の中に入り込んで虫やクモは窒息死する)、かなり弱っていた。 屋内で生活するアダンソンハエトリだと思って手で掬って良く見ると、頭胸部や腹部にあるはずの白い半月形の紋が無い。全体の色も黒ではなく茶色である。一体、何ハエトリ? 庭に居るクモや虫が服に付いて部屋の中に入ってくることは良くあることである。取り敢えず、陽の当たる、ベランダからの入り口に置いてある足拭きマットの上に逃がしてやった。真横から撮ったアダンソンハエトリの雌一番良く見えるのは後側眼(写真クリックで拡大表示)(2010/11/02) 良く見てみると、腹背に2本の筋がある。これは、本来屋内に生息していたが、最近はアダンソンに負けて屋外生活を強いられているミスジハエトリではないのか? 暫くすると、大分元気になってきた。其処で、ブルーベリーの葉に載せて写真を撮った。ハエトリグモの魅力は何と言っても双眼鏡の様な前中眼屋内に生息するせいか、他のハエトリグモよりも大きい(写真クリックで拡大表示)(2010/11/02) しかし、写真をコムピュータで拡大してみると、ミスジハエトリではない。ミスジハエトリの腹部の紋は一直線で他に紋はないが、このハエトリの紋はかなり曲がっているし、腹部にかなり細い縦筋が沢山ある。これ一体何者?? 調べてみると、直ぐに分かった。何てことはない、アダンソンハエトリ(Hasarius adansoni)の雌であった。アダンソンハエトリは屋内生活者、即ち、「家の中」の生き物である。同じ様な写真をもう1枚(写真クリックで拡大表示)(2010/11/02) しかし、我が家の屋内で見るアダンソンは黒地に白い筋のある個体(雄)ばかりである。かなり小さい個体でも模様は同じ。ヒョッとして幼体は雄に似ているのかと思って調べてみたが、そんなことはない。幼体は雌に近い配色をしている(かつて掲載していた)。 かなり以前から眼が悪くなっている(比較の問題で老眼ではあるが視力1.5はある.昔は2.0をかなり上回る時もあった)ので、今まで気が付かなかったとしか思えない。ヤレヤレと落ち込むこと暫し。斜め前方から撮るのを忘れてしまった.斜め上からで御勘弁を(写真クリックで拡大表示)(2010/11/02) ・・・と云う訳で、今回は「家の中」に居たアダンソンを無理矢理庭に出して撮影したことになってしまった。1種の「ヤラセ」だが、アダンソンは暖かい時期には屋外でも普通に見られるので、そう気にする必要もないかも知れない。 家の中には、庭に居るのとは別の虫達が居る。我が家の中は常に乾燥させているので虫は多くないが、多少は居る。その多くは「害虫」である。このアダンソンハエトリの雌を機会に、今後は家の中の「害虫」も紹介して行こうと思う(「ゴキ」は居ないので御安心を!!)。
2010.11.08
コメント(8)
かなり以前から、写真を拡大表示出来る様にしたが、その為には平均的に解像力を少し上げる必要があり、結果として絞りを以前よりも少し拡げなければならない。絞りを拡げれば焦点深度が浅くなり、当然の結果として焦点合わせが微妙になり、撮影枚数が増えてしまう。 枚数が増えれば、撮った写真の選別(ピクセル等倍にして必要な部分の端から端まで調べる)に相当な時間を要すことになり、また、安全を見越して撮影するので使える写真の枚数も以前よりは多くなってしまい、掲載用に調整しなければならない写真も増える。 ・・・と云う訳で、最近は原稿を書く閑がない、と言うか、写真の調整だけで疲れてしまい、原稿を書く気力が出ない。こう云う時は、写真1枚だけの日を間に挟んで、間を持たせることにする。 幸い、昨日の朝、変なハナアブを撮った。直ぐに逃げられてしまったので、この写真1枚しかない。アシブトハナアブと思ったのだが、腹部には細い黄色横帯があるだけで、この種に見られる筈の第2腹節背板の幅広い黄帯に囲まれた「エ」の字形(「二」の場合もある)の黒斑がない。これ、本当にアシブトハナアブ??アシブトハナアブ(雌:黒化型).前回と同じくハナアブ科(Syrphidae)ナミハナアブ亜科(Milesiinae)だが、ナミハナアブ族(Eristalini)腹部第2節背板の黄色帯が極めて細い(写真クリックで拡大表示)(2010/11/03) しかし、市毛氏の「ハナアブ写真集」を見ると、アシブトハナアブ(Helophilus virgatus)以外には考えられない。其処で、Web上でアシブトハナアブの画像を片っ端から見てみた。しかし、これ程第2腹節の黄色帯が薄くなっている個体は見付からなかった。挙げ句の果ては、例によって「一寸のハエにも五分の大和魂・改」にお伺いを立てる次第と相成る。 早速、pakenya氏から「アシブトハナアブのメスですね」との御回答を得た。これで一安心、Weblogのネタとして使える。pakenya氏に感謝!! 氏に拠れば、「あまり注意してみていませんが、暗色傾向の強いものもしばしば見られます.たまに、横縞がほとんど見えないものもあり、さすがにこのようなやつに出会うと何者?!ってな感じにどきっとします」とのこと。此処に載せた程度の黒化は、ハナアブを見慣れた人にとっては、驚くに足らない程度の変異らしい。 ハナアブ類の腹部背板の模様は、安定して変化の少ない種類もあるが、このアシブトハナアブの様に非常に変化に富む種類も多い。ハナアブ類の種類を見極める時は、余り腹部の模様を頼りにしない方が無難な様である。
2010.11.04
コメント(4)
今年は、9から10月上旬にかけて余りにも虫が少ないので、園芸店に何度か出掛け、虫集めの為に10種程度の花を買ってきた。勿論、店の展示場(青空天井)で沢山虫が来ているのを選んだのだが、家に置いてみると、我が家の周辺には基本的に虫が少ないらしく、多少の効果が認められたのはコスモスとカラミンサ位のものであった。 やがて、鉢植えにしてあるセイタカアワダチソウが咲き始めた。やはり虫集め専用に植えているだけあって、凄い「集虫力」である。ハエ、アブ、ハチ、蝶、蛾、更にはヒトスジシマカまでがやって来る。残念ながら、その多くは既に紹介済みの種類だが、先日のニホンミツバチも含めて、何種類かの未掲載や新顔の虫がやって来た。セイタカアワダチソウにやって来たキスネクロハナアブ(雄)(写真クリックで拡大表示)(2010/10/19) 今日は、その中から我が家としては「珍種」であるキスネクロハナアブ(Cheilosia ochripes)を紹介する。最初はセイタカアワダチソウに来たのだが、虫の重みで花穂が枝垂れて虫は花の下側になってしまい、旨く写真が撮れない。その内、既に黄色くなり始めたブルーベリーの葉に留まったので、セイタカアワダチソウに留まっている写真は最初の1枚だけである。ブルーベリーの葉に留まるキスネクロハナアブ(雄)(写真クリックで拡大表示)(2010/10/19) キスネクロハナアブはハナアブ科(Syrphidae)ナミハナアブ亜科(Milesiinae)クロハナアブ族(Cheilosiini)に属す。写真の個体は、体長約13mm、翅長約10.5mm、翅端まで約16mmとかなり大型で、遠くから見るとアメリカミズアブによく似ていた。双翅目をよく知らない人ならば、ミズアブ類と間違える可能性がある。斜めから見た図.かなり這いつくばっている感じ(写真クリックで拡大表示)(2010/10/19) このクロハナアブ類を我が家で見るのは初めてである。似た様な種類が多く、ハナアブ類の中でも最も厄介な連中として名高い。特にこのキスネクロハナアブの属すクロハナアブ属(Cheilosia)は種類数も多く(九大目録で58種、「みんなで作る双翅目図鑑」では65種)、更に、酷く類似していて、素人には禁断のグループとされている。頭部を斜めから見ると、複眼に毛のあること触角第3節が殆ど円形であることが分かる(写真クリックで拡大表示)(2010/10/19) 私はよく知らないのだが、市毛氏の「ハナアブ写真集」を見ると、複眼無毛のAグループ、複眼有毛で顔有毛のBグループ、複眼有毛で顔無毛のC・Dグループと、全部で4つのグループに分けられるらしい。 写真を見れば明らかな様に、複眼には毛がある(上の写真)。顔は正面から見ると周辺には若干の毛がある様に見えるが、全体としては無毛である(下の写真)。どうやらC・Dグループに属すらしい。正面から見たキスネクロハナアブの顔周辺部を除いて、顔は無毛である(写真クリックで拡大表示)(2010/10/19) ハナアブ類の識別には脚の色が問題になることが多い。写真でお分かりの通りセイタカアワダチソウの花粉だらけで脚の色は良く分からないが、各腿節は黒く先端のみが茶褐色、脛節はほぼ茶褐色の様だが、その後半はやや色が濃い様に見え、各付節は暗色である。また、触角第3節は殆ど円形をしている(上の上の写真)。 これらの特徴を基に、市毛氏の「ハナアブ写真集」で調べてみたところ、オオクニクロハナアブが一番近い様に思えた。しかし、頭の形が一寸違う。それに「ハナアブ写真集」に載っていない種類もかなりある。専門家によってキスネクロハナアブと認められた写真は少ないと思うので、沢山写真を出しておく本来は最初に出すべき正立背面像(写真クリックで拡大表示)(2010/10/19) 其処で、例によって「一寸のハエにも五分の大和魂・改」のお世話になる次第と相成る。 早速、ハナアブの研究をされているpakenya氏から御回答を頂いた。オオクニではなくキスネクロハナアブであった。「ハナアブ写真集」でオオクニの上に出ていた種である。御話に拠れば、「夏から秋に見られる種で、特に秋に見る機会が多いです.この仲間の同定は困難なものがほとんどですが、この種は比較的わかりやすいです.複眼有毛、顔面は長毛を欠き、小楯板には長毛はあれど剛毛を欠くいわゆるC種群の大型種で、顔の中隆起の上辺がなだらかなので横顔に特徴があります.春に出現するC. japonicaニッポンクロハナアブと酷似していて、同じ種の季節型ではないかと推定する人も居ますが、中隆起の形と眼縁帯下部の幅がキスネの方が狭い傾向があり、形態が違うのであれば別種であろうと考えています(私は)」とのこと。 更に、「キク科の花によく来るため、花粉まみれになっている個体をよく見ます。アーチャーンさんの画像の個体も黄色の花粉が大量に付着していますね.セイタカアワダチソウにでも寄ってきたのでしょう」と、正に御賢察の通りであった。オマケのその1(写真クリックで拡大表示)(2010/10/19) 最近は「東京都本土部昆虫目録」に載っていない(東京都未記録)種を撮影することが屡々ある。其処で、このクロハナアブも「もしや?」と思い、一応確保(ネットで採集して大きなプラスティックの筒に入れた)して置いた。だが、残念ながら(ハナアブ君にとっては幸いにも)目録にチャンと載っていた。 しかし、その記録は狭山丘陵(東京都北部、埼玉県との境)にただ一つあるのみで、皇居や赤坂御所、常盤松御用邸、井の頭公園付近での報告には載っていない。少なくとも、この辺り(東京都世田谷区西部)の住宅地では相当の「珍種」と考えて良い様である。オマケのその2(写真クリックで拡大表示)(2010/10/19) pakenya氏からの御回答にも「この種は都内にも記録がありますね」とあった。其処で早速、囚われの身となっているキスネクロハナアブを逃がしてやった。 採集してからほぼ丸一日(暴れるといけないので暗い所に置いておいた)だが、まだ元気一杯、蓋を開けた途端に何処かに消えて見えなくなってしまった。
2010.11.01
コメント(6)
暫く昆虫ばかりが続いているので、今日はクモを紹介することにした。 ワカバグモ(Oxytate striatipes)、カニグモ科(Thomisidae)に属す極くフツーのクモである。林のある方へ行けば特に沢山居て、もう一つのWeblogでは既に2回(「ワカバグモ」、「ワカバグモ(その2:捕食)」)も紹介しているし、更に、共食いと思われる奇妙な絡み合いも撮影しているのだが、些か食傷気味で、未だに掲載していない程である。 しかし、何故か我が家の庭では殆ど見た記憶がない。住宅地の中には少ないのだろうか?クチナシの葉裏に居たワカバグモの幼体or亜成体(写真クリックで拡大表示)(2010/10/12) 我が家に何時も居る似た様な習性のクモはササグモである。何となく、ワカバグモに近い様な感じもするが、ササグモはコモリグモ上科のササグモ科(Oxyopidae)に属し、ワカバグモはカニグモ上科のカニグモ科(Thomisidae)なので、かなりの遠縁である。 ササグモの写真と比べると、ワカバグモとは、4対の眼の配置が相当異なっていることがお解り頂けるであろう。斜め横から見たワカバグモ(写真クリックで拡大表示)(2010/10/12) 写真の個体は、まだ幼体か亜成体である。眼の下にあるのが上顎で、それと第1歩脚との間にある小さい細長い脚の様なものを触肢と言うが、成体雌ではこれがずっと太くなり丸みを帯びる。また、成体雄の場合は、特殊な形をした移精器官に変わる。 その何方でもないから、この個体は幼体か亜成体なのである。正面から見たワカバグモ.中々カッコいい(写真クリックで拡大表示)(2010/10/12) クチナシのほぼ垂直に立った若い葉の裏にジッとしていた。3日位同じ所に居たが、その後どうなったかは知る術もない。 写真には写っていないが、直ぐ隣にオオスカシバの4齢位の幼虫が居た。しかし、これを襲うことはなかった。カマキリは芋虫毛虫を食べるが、クモが食べているのは見たことがない。屹度、習性として食べないのだろう。ワカバグモの顔.触肢は幼体か亜成体であることを示している(写真クリックで拡大表示)(2010/10/12) 別に大した問題ではないが、最近、アクセス記録がおかしい。このサイトは、楽天ブログ内の定期的読者諸氏の数が少なく、大半の訪問者はRSSか、Googleその他の検索結果を見て来られる様である。だから、3日も書き込みをしないと「最近のアクセス一覧(最新50件)」の利用者名欄には殆どURLだけが並ぶことになる。 ところが昨日から突然、広告目当て?の訪問者の数が増え、酷い時には3/5(最新50件の内の約30件)がその様な訪問者である。数日前に、楽天が投稿記事の紹介の仕方(新着記事の表示、アクセス数ランキング等)を変えたせいなのだろうか。私以外の楽天ブログの読者諸氏のサイトでは如何であろうか。
2010.10.30
コメント(6)
全554件 (554件中 1-50件目)