クリフォード・ブラウンは1930年生まれで、ハードバップ初期の名トランペット奏者。"ブラウニー"の愛称で親しまれる。1950年代前半から半ばにかけて活躍したが、1956年、交通事故で25歳で他界した(事故の車には本作のメンバーであるリッチー・パウエルとその妻も同乗しており、3人とも亡くなった)。1955年に吹き込まれた『スタディ・イン・ブラウン(Study in Brown)』は、そんな彼の代表作の一つで、名盤ガイド類などでも常連の有名盤である。 本盤が優れた作品であると言われる理由として、二つの要素があると思う。一つはブラウニー自身のトランペット演奏である。そして、もう一つはマックス・ローチをはじめとするバンド・メンバーの演奏である。 一つめの点については、濃度もしくは密度の高さである。トランペットという楽器がジャズにおいて表現しうるエッセンスが、このアルバムの40分の演奏の中には、凝縮されぎっちりと詰め込まれている。柔らかく流れるようなメロディアスな演奏から、メリハリのついた音色の緊迫したプレイまで、あまりに完璧だと思う。それだけに聴き手はリラックスはできないかというと、そうでもなく、緊張して聴かねばならない瞬間と少し落ち着いて聴いていられる瞬間が代わる代わる訪れる。 いま述べた緊張感とリラックス感の交錯は、二つめの要素に結びついていると言える。本盤は、"クリフォード・ブラウン=マックス・ローチ五重奏団(Clifford Brown and Max Roach Quintet)"名義であり、ブラウニー一人がリーダーでもなければ、彼が唯一の主役という訳でもない。マックス・ローチは全体のリズムをコントロールしているのみならず、随所で盛り上げる場面を作り出す。クインテット形式で、テナーサックスやピアノに与えられるパートも充実し、それは時にリラックス感を生むと同時に、いつ次の展開が始まるかという緊張感も聴き手に与える。 クリフォード・ブラウン=マックス・ローチ五重奏団が結成されたのは1954年であった。つまりはブラウニーが事故でこの世を去るまでわずか2年という短い活動期間だったわけである。さらに、ブラウニー自身がレコーディングを開始したのは、そのわずか2年前。つまり、レコーディングに携わった期間はたった4年しかなかった。もう少しでも長く生きていれば、本盤と並ぶ名演はもっと生まれていたであろう。しかし、逆説的ながら、彼の死は新たな名曲を生みおとすことになる。彼の死にショックを受けたベニー・ゴルソンが追悼曲として作った「クリフォードの想い出(I Remember Clifford)」である。この名バラードは、ジャズ界のスタンダードとして定着していった。さらにずっと後(40年後)には、同じくブラウニーに捧げた「永遠のブラウニー(Brown Inmortal)」という、これまた美しい曲をゴルソンは作曲している。
[収録曲] 1. Cherokee 2. Jacqui
4. Lands End 5. George's Dilemma 6. Sandu 7. Gerkin For Perkin 8. If I Love Again 9. Take The A Train
Clifford Brown (tp), Max Roach (ds), Harold Land (ts), George Morrow (b), Richie Powell (p)