文豪のつぶやき

2008.07.30
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カテゴリ: 時代小説
 白井が三島谷にさしかかった時、畦道に倒れている一人の少年を見つけた。
 白井は思わず駆け寄った。
 長岡藩の家中か、袖印には五間梯子の家紋が付いている。
 少年は砲弾を浴びたのであろう左肩から先はちぎれてなかった。
 白井は少年を抱き起こすと、
「しっかりしろ」
 と声をかけた。
 少年は虫の息で、かすかに眼を開けたが焦点がさだまらない。
 すでに眼は見えなくなっている。

 白井は思った。
「私は死ぬのでしょうか」
 息絶え絶えに呟いた。
「大丈夫だ」
 と白井は励ました。
 突然少年は泣きはじめた。
「死にたくないよう。死にたくないよう。死ぬのはこわいよう」
「大丈夫だ。しっかりしろ」
「痛い、痛い、肩が痛い。死にたくないよう」
 少年はなおも泣きつづけた。
 やがて、その声も小さく途切れ、少年は息絶えた。

(これが戦さか)
 涙声で呟いた。
 そして立ち上がると静かに少年を寝かせ、近くの農家に行き、有り金を全て渡し、少年を。手厚く葬るよう頼んだ。





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最終更新日  2008.07.30 20:09:41
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