山口小夜の不思議遊戯

山口小夜の不思議遊戯

PR

バックナンバー

2025年11月
2025年10月
2025年09月

キーワードサーチ

▼キーワード検索

2005年11月04日
XML
カテゴリ: カテゴリ未分類



 ──小角さまはどこにおんさるだ。

 豊はその問いかけに微妙なニュアンスを感じ取った。
 件の出来事に対応する、呪師の数が足りないのだ。そこで、それに答えるとき、彼はなにげない声音をよそおって、なんとか自分の感情をかくそうとした。

 ──ああ・・・・・あの人な。いや、知らんわ。

 それから外へ出て、父の居所を訊ねまわるふりをした。彼が朝餉の後に村を出て、南に向かったのを見た者がおり、たぶん岩の出現地へ行ったのだろうと見当をつけた。

 父宮が出かけていった理由を知りたくなくて、豊は自分の気配を消すことだけに没頭することにした。それから村に起きた重大事のことを早く頭のなかから消し去って、今日いちにち何の要員になることもなく、ひとりで過ごせるにはどうしたらよいのかというのだけを考えられるようにつとめた。

 彼は可能なかぎり自分の逃亡のあとを隠す呪を施しながら、屋敷のすぐ裏を流れる渓流をたどっていった。

 うれしいことに、水辺には誰も来ていなかった。


 そして、そこからひょいと向こう岸の雑木林に踏み込むと、昼寝におあつらえむきの木を見つけてするすると身軽によじのぼった。

 彼が梢から身を乗り出すと、冷たい浅瀬に自分の姿が映っていた。
 風はごくかすかに吹いているだけだったが、充分に初夏の暑さを和らげてくれた。
 彼は腿の上に両手のひらを上にしておき、肩から力をぬいて、ゆったりと流れる水をなかば瞑った目で眺めていた。

 そうやって、半時ほど楢の木の梢に腰掛けてのんびりと風に吹かれていた少年は、ある時ふと気配がしたのに目を開けた。
 そして、ぎくぅっと身をすくめた。

 ──えへ。

 ぎょっとするくらい近くで手をふっている小夜がいた。

 紺色のチェックのブラウスに、えんじ色のジャンパースカートをはき、いつもはきっちり三つ組にしている髪を、今日はほどいたままの姿で。

 いつどうやってよじのぼったのか、根元を見れば三尺も離れていない隣の木の枝から、彼女は危なっかしいほどにこちらに身を乗り出していた。語る目をして。



 腑に落ちないような顔をしたままでいる豊を見ると、小夜はもっと身近く、言葉を直接その耳に吹き込んでやろうとするかのように、いきなり空中に体重をあずけかかった。

 うわ。あぶな。

 まったく反射的に腕を伸ばした豊の手を、小夜はためらいもなくつかまえた。
 その刹那、ふたりは共鳴し合うかのような白い光の波に包み込まれて見えた──少なくとも豊の目からは。



 せせらぎ、吊り橋、渓流のぬしが棲む淵、五百年もそこに建っている屋敷、霧に包まれた聖域の鳥居。そこここにはり巡らされた結界をいともたやすくくぐり抜け・・・・・精霊の首都の若君に会いにきた。

 めまいのするような感覚に翻弄されながら、腕の力が限界を超える直前、彼はただひとつのことを思っていた。

 なんだか命がけだな──。




 本日の日記---------------------------------------------------------


 【北京のもののけ姫】←私のことではない。

 昨日、映画‘もののけ姫’の話を書いていたときにはすっかり頭になかったのですが、そういえば、私はもののけ姫の背景の舞台、屋久島に行ったことがありましたよ。
 縄文杉にも会っただよ。

 もののけ姫といえば──日本語で「もの」といえば、「人間の感覚または思惟によって知ることのできる、すべての有形・無形の物体をさす」(新潮国語辞典)ことばだそうです。

 このことからも、英語のマテリアル(物質)とはたいぶ語感が違うことがわかります。

 食べ物、飲み物、鳴り物(楽器)、物置、物の具(武器)、生き物、けもの(毛物が語源)、曲者(くせもの)、余所者(よそもの)、もののけ(物の怪)、化け物等々、目に見えるさまざまな物とともに、人をも意味するまでは納得できても、目に見えない霊的な存在を「もの」と呼称することには、不思議な感じがします。

 しかし、そうした「もの」の世界に、私たち日本人はなにげなく生きています。「もの心がつく」とは幼児から子供への成長過程で物事の道理や人の情を理解するようになることをいいます。やがて大人になり、「ものになる」といえば、ひとかどの人物になることをさすようになります。

 大物主神(おおものぬしのかみ)は、出雲の大国主神(おおくにぬし)の別名ですが、偉大な霊力を持つ神という意味です。「おおもの(大物)」といえば現代語でも充分に意味が通じますが、元来は霊力に関係する言葉であることがわかります。

 人生の機微をわきまえた人物については、「もののあはれをしる」ともいい、これを略して「ものしり」ともいいます。

 こうしてみると、「もの」は単なる物質ではなく、目に見えない霊をも意味する言葉なのです。ここに森羅万象に対する日本人の基本的な考え方が見てとれます。山川草木、自然界のあらゆるものに霊性があると、古の人は考えてきたのです。

「いのち」の語源 は前に語らせていただきました。
 私たち人(ヒト)も「もの」であり、自然界の一部であるということです。すべてのものに「いのち(生命)」があり、霊性があると考え、出会いと別れ、その延長に生死があって、その道理を知ることが「ものの哀れ」を知るということなのでしょう。

 ちなみに、中国で見た映画「もののけ姫」の主人公の名前は「桑(サン)」だったけど──どうよ桑って・・・。


 明日は●消してしまえ●です。
 突然の岩の出現に騒然とする相生の里。
 小夜の出現に煩悶する豊。
 そして、彼の頭にひらめいたこととは──?
 タイムスリップして、風雲急を告げる展開を、目の前にしにきなしゃんせ。


 クリックを簡単にして欲しいとのご意見をいただき、本日よりブログランキングの投票のみ、こちらに貼り付けてみました。
 お読みいただけたら 人気blogランキングへ
 一日一クリック有効となります。ありがとうございます。励みになります!

 こういった方法にはさまざまなご意見があるかと思いますが、もしお気づきの点があればメールにてお知らせくださいませ。







お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

最終更新日  2005年11月05日 06時02分40秒
コメント(8) | コメントを書く


■コメント

お名前
タイトル
メッセージ
画像認証
上の画像で表示されている数字を入力して下さい。


利用規約 に同意してコメントを
※コメントに関するよくある質問は、 こちら をご確認ください。


島根の文化  
みき2929  さん
「もののけ姫」の舞台は島根県だと思ってみていました。大蛇(おろち)の伝説はいろいろありますが、大蛇からくさなぎの劒が出てくる話は大和人が土着民族であるおろち族を滅ぼして、鉄器を手に入れる話であると思います。島根県はもともとアイヌの人たちの土地で今もその名残が地名に残っています。十六島(うっぷるい)恵雲(えとも)などがそうだといわれています。それを朝鮮半島や南方からやってきた人々が追い出し、最後に大和人が征服したと思います。大和人がもともともっていたのは青銅器文化で、島根県では銅剣、銅矛、銅鐸がざくざくでてきたのがその証ではないでしょうか。 (2005年11月05日 07時17分21秒)

Re:島根の文化(11/04)  
小夜子姉貴  さん
みき2929さん

あ、ごめんなさい。
背景って‘背景画’っていう意味です。

アシタカの故郷の村のモデルは白神山地。
サンが駆け巡る深山は屋久島がモデルです。
白谷雲水境とか・・・。

いや~、立ち木の枯れかたとか、ジブリってすっごく細かいんですよね。青々とした山に、ところどころ白い骨のように枯れた木をきちんと描いているんです。もののけ姫の風景って、ほんとにあったものなんだとすごく驚きました。

人間、紙とえんぴつさえあれば、あらゆる面白いものを構築できるんだって、ジブリを見るたびに考えさせられます。



(2005年11月05日 10時21分24秒)

もののけ姫  
豊と小夜の手が触れ合って心が通う・・・
実際に経験したことですか?

「もののけ姫」は、まだ見ていないです。
多くの人に共感を呼んだのも日本人の心の奥にそのような
「もの」があるからでしょうか?
白人世界は、物は物質と捕らえ、
東洋では魂まで含める波動と捕らえるのですか?
やはりムー大陸の住民は程度が高い?

人気blogでNo1になるよう期待しています。
才能は、十分あります。



(2005年11月05日 18時26分36秒)

Re[1]:島根の文化(11/04)  
みき2929  さん
小夜子さん
そうですか。映画を見て、とても印象的な風景でした。荒ぶる神、島根県の簸川郡に荒神谷があります。ここからたくさんの銅剣と銅鐸、銅矛が発見されました。荒ぶる神を静めるために銅剣や銅矛、銅鐸を祀ったのでしょうか。 (2005年11月05日 18時44分00秒)

Re:もののけ姫(11/04)  
小夜子姉貴  さん
ゆうじろう15さん

たらいま~。
渋谷やら青山やらという大都会の美容院でも行こうかな~なんて思って行った後、なぜかステーキまで食べてきましたステーキ!

明日、スペイン留学・ステーキ編書いたら皆さまに怒られるかな。

手が触れ合って心が通う──ゆうじろうさんも体験したことがあるのではないですか。
きっと、誰もが知っている経験なのでしょう・・・。

もののけ姫は・・・個人的にはう~んという感じ。でも、二三年見ないとまた見たくなります。ジブリではやはり「風の谷のナウシカ」が別格本尊ですね。それから「ラピュタ」かな。

ぜひ、一見のほどを──。



(2005年11月05日 21時39分45秒)

Re[2]:島根の文化(11/04)  
小夜子姉貴  さん
みき2929さん

まつろわぬ神というか──。

日本の神さまって、けっこう心が狭かったりするのですよね(笑)。

和魂と荒魂というか。

まつろわぬ神をまつろわすための祭祀。
まつろわぬ神と人間との意地の張り合いなどの痕跡を見ることは、とても興味深いです。

屋久島ではコダマちゃんの写真、撮りたかったなぁ! (2005年11月05日 21時43分55秒)

もの・・・・。  
solya  さん
なるほど不思議な言葉だぁね。
考えてみると日本語には、こういう感覚の言葉、いくつかあるねぇ。。

例えば「気」。
空気とか天気とか地球規模で使うかと思えば、
元気、病気なんて、人のカラダやココロの状態を表わしたり・・。殺気!!なてね・・目に見えないけはいみたいなもんに使ったり・・・。

間。。なんて言葉も好きです。時のうつろい、空間の広さ、感情の隔たりなどを表わすのでしょうか?。

遊びなども、そーかなぁ。
ちゅいと遊びがあるなんいうと、余裕だったり。
遊び心ってぇと、センスかなぁ???

うーん。
日本語は深い。 (2005年11月05日 22時27分09秒)

Re:もの・・・・。(11/04)  
小夜子姉貴  さん
solyaさん

きゃー!
そうなんだよね。
「遊び」っちゃなんが、すごくええ言葉だっちゃ!

唐王朝の張彦遠著『歴代名画記』には「画の六法」という段があって、そこで士大夫が画をたしなむときの覚えとして、
気韻生動:きいんせいどう(すぐれた精神が生き生きと脈動していること)
骨法用筆:こっぽうようひつ(力強い骨格を形づくる用筆の法)
応物象形:おうぶつしょうけい(対象に応じて形をうつすこと)
随類賦彩:ずいるいふさい(対象にしたがって色彩をほどこすこと)
経営位置:けいえいいち(画面を構成すること)
伝模移写:でんもいしゃ(自然をそのまま写しとること)
などのうんちくが長々と語られるわけですな。
でも、そんなことよりも一番大切なのはズバリ、
「遊戯三昧」(遊び心)なのじゃああ!!!
と張彦遠は最後に自説をくつがえしているのです。

そこまで読んだとき、「このおっさんええこと言うのぉ」と思ったのでした。

solya兄もこの考え方に通じてる人だよね。

今日って、土曜だったんだよね。
てっきり、今日は日曜日だと今の今まで思ってました。
ということは、明日もお休み?!

なら、みんな遊ぼ!
明日も遊戯三昧じゃ!!!


(2005年11月05日 22時52分11秒)

【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
X

© Rakuten Group, Inc.
Design a Mobile Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: