製作当時、ダルトンはまだ四十代前半だった。そんな訳で、身のこなしの良さはロジャー・ムーア007に慣れていた者からすると新鮮に見えた(ロジャー・ムーアはアクションシーンが苦手で、ちょっとしたアクションシーンでもスタントマンを使っていたらしい)。顔付きもシリアスで、「アクションコメディに成り下がっていた007から脱したかった」というプロデューサーの意向に沿っていたといえる。 自身の性格に合わせて007を演じていたムーアとは一転して、ダルトンは「フレミングの原作で描かれている通りに007を演じるべき」と信じていたこともあり、007は「女が好きではあるが、いざという時は非情なスパイに」という風に描かれている。 脚本は前述した通りムーアを想定しているので、「ムーア007の軽さ」と「ダルトンが出したかった真剣さ」が絶妙なバランスの上に立っていて、ユーモアがありながらも緊張感あるタイトな作品に仕上がっている(この後に続いた「Licence to Kill」は、当然ながらムーア色が完全に排除されており、シリアスであるものの暴力的で、全体的に地味な印象の作品になってしまっている)。