「きらりの旅日記」

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ほしのきらり。

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2022.07.22
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カテゴリ: 美術館・博物館
エルミタージュ美術館の『ブノワの聖母』の容姿は、それまでと違ったイメージですよね

レオナルド・ダ・ヴィンチ
​​Leonardo da Vinci​​
Vinci,1452-Amboise,1519

Madonna Benois

『ブノワの聖母』 1478年頃​

板に油彩からカンヴァスへ移行

49.5cmx31cm

サンクトペレルブルク「エルミタージュ美術館』所蔵。


美術史の泰斗ベレンソは・・・

本作品のマリアについて、


「禿げ上がった額と腫れぽったい頬、

 歯抜けた微笑みとかすんだ眼、

 皺だらけの首をした若い女性

(a young woman with a bala forehead 

 and puffed cheek, a toothless smile,

 blear eyes,and furrowed throar)」

と・・・手厳しい。

無理もない。

たしかにこのマリアの容姿は、



つくりあげた伝統的な

「優美なる聖母」からは程遠い!


おまけに、

この絵の薄い画層はかつて荒治療によって

板からカンヴァスへと移され、

剥離していた箇所は容赦なく加筆された。


しかし、

​本作品の重要性は・・・

まさにこの 「醜さ」 にある!!​



なぜなら、

それまでの優美なるマリア像は、

完全なる理想像であり、

女性たちの現実的な姿に基づいているわけではなかった。




実際の人物をモデルに描かれたマリア像である可能性が高い。


とくに中世においては、

聖なる存在たる聖母を・・・

実在の人物を使って描くなど

不遜極まりない行為に




ウフィツィ美術館所有のレオナルド紙葉に、

「1478年12月、二点の聖母像にとりかかった

(d・・・bre 1478 Inchominciai le 2.Vergine Marie)」

との記述のある紙葉がある。

鏡文字で書かれた「bre」の直前で切れているが、

残っている部分に「d」の先端らしきものが見えているため、

同年末の12月のことだと考えてよい。


この年、

レオナルドは26歳に達しており、

どう記述からは、

徐々にヴェロッキオ工房への依存度が減り、

自らの攻防が直接うける制作依頼も

ちらほらあったことが想像できる。


当時の絵画制作の注文数が最も多かったのは、

現存数からみても疑いなく

聖母子像と

キリスト磔刑図の二主題である。


両主題とも教会の祭壇画などに

描かれるものとして高い需要をほこっていたが、

数としては個人注文による小サイズ作品が圧倒的に多い。


レオナルドのメモにある 「二点の聖母」 も、

おそらくはそうした

個人注文によるものだったに違いない。


まだ彼は、

フィレンツェを代表する画家というわけではなく、


そのため価格的にも巨匠よりは、

頼みやすいはずで・・・

それならば想定されるのは為政者や大商人よりも、

むしろ中規模商人層からの注文が主だったと考えられる。


どう記述にある 「二点の聖母子像」 として、

最も可能性が高いと考えられるのが、

『ブノワの聖母子像』 と、


通称 『猫の聖母』 と呼ばれるスケッチである。

後者をもとに最終的に彩色された作品は見当たらないが、


それまでの

『受胎告知』


『カーンーションの聖母』 などにみられた人体描写の硬さと異なり、

『ブノワの聖母』 『猫の聖母』 では、

人体の輪郭は曲線に富んで柔らかく、

その間、

レオナルドの個人様式に

大きな変化があったことを示している。


『猫の聖母』 が描かれた紙葉の裏面にも、

同じ構成でややポーズを変えて描かれたスケッチがある。


​レオナルドは、左利きのため、​

影を描く際、

右下から左上へかけての線を並べるが、

本作にもマリアの胸部のあたりに

そのタッチを認めることができる。


迷いのない最小限の数の線だけで描かれた頭部の、

丸みを帯びた優しげなマリアの表情が印象的である。


一方 『ブノワの聖母』 は、

板絵の顔料層を剥離させて

カンヴァスに移行させるという荒療治でダメージを受け、

その加筆もかなりされたようで、

表面の筆致の見極めは容易ではない。


ただ、

マリアの鼻 ​​梁​ (びりょう) の明確な​線などは、

後にレオナルド絵画の特徴のひとつとなる、

「輪郭線を描かないためのスフマート技法」

全面的には適用されていないことを示している。


その一方で、

マリアの表情の柔らかさなどは、

グラデージョンの微妙な変化によるものであり、

これは後のスフマート技法で多用される

「筆のかわりに指の腹などで、こまかく画面を叩いて色を置く」

という技法のはしりだとも考えられる。


本作品には、

過去にX線と赤外線による撮影がなされており、

その時点では、

スフマート技法の証拠となる指紋や掌紋は出ていない。


ここ数年用いられ始めた高精細カメラによる

表面近接撮影はまだ適用されていないので、

今後出る可能性は否定できないが、


「移行期」ともいえる

スフマートの未完成さからみても、

指紋は出ずとも不思議ではない。


いずれにせよ、

ここで確認しておくべきは、

『ブノワの聖母』 『猫の聖母』 にみられる

個人様式の発展段階が、

紙葉に記された

1478年頃のものとして矛盾がないという点である。


(写真撮影:ほしのきらり)
(参考文献:筑摩書房/池上英洋、レオナルド・ダ・ヴィンチ生涯と芸術のすべてより)


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最終更新日  2022.07.22 00:10:12
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