つきあたりの陳列室

『おせっかいな神々』星新一

カテゴリ： Book

表紙は，真鍋博としてはめずらしく壁紙のようなパステル調の花柄をつかっています．シックな背景とあいまって上品な仕上がりです．文中のカットも，好みの画風が多いです．内容がぱっとしないわりに愛着があるのはそのせいもあります．

今回この作品集を読んで最も面白かったのは「死の舞台」です．自殺を図る女と，それを説得する人々とのコミカルやりとりが，普通に可笑しかったです．「マスコット」「愛の指輪」など，なぜか開運招来グッズの話が多いですが「夜の声」のようなホラーもあって，メリハリが利いています．非常に短い作品が多く，話のバリエーションが豊富ですから，旅の友にはよろしいかと．（新潮文庫）

「箱」

この話は「鍵」（『妄想銀行』所収）とあまりに良く似ています．前半の描写には感情が揺さぶられましたが，終わり方がずいぶんとあっけなかった気がします．しかしこれは，幸運の箱という仕掛け上，いたしかたないことかもしれません．「箱」の男は，いつでも手にできたはずの幸福を我慢し，我慢した時間が長かったぶん，もらえたご褒美の味は格別だった，そういう話です．彼の価値観はしばしば揺さぶられはしましたが，別方向への転換はありませんでした．なぜなら「箱」の効用は余所から与えられた物で，彼の自由は，箱を開けるか，我慢するかのふたつにひとつしかあり得なかったからです．

一方「鍵」の効用とは，主人公が自分で思い描いた，オリジナルな夢想なんです！なんて素敵な．彼は，いつでも捨てられたはずのバーチャルな夢を，いつまでも持ち続けた．死を前にしてそれを捨てず，小さな幸福をふたたび発明した．そして，あの最後の決断をした．．つまり，さいしょからさいごまで，彼は自分でつくったものの方を選びつづけ，しかも心から満足していた．彼は，鍵以外には何ひとつ与えられなかったのに，ちゃんと幸福をてにしたのだ．そっか！そういう話だったのか．ふかい．いま気づいたよ．

「鍵」の男の価値観は，死を前にして二転三転しました．自分の幸福について，あれとこれとを天秤にかけたうえで妥協し，断念し，おもいがけない発見にも至りました．そのきっかけは老いという強制力でしたが，彼はみずからの想像力と決断によって幸福を再定義したのです．彼の意志という光に，老いの痛みという陰が落ち，その陰影のコントラストによって，読者の心はあちこち引っ張られて，切なくなるのです（たぶん）．

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きになるニュース

◆チスイコウモリのはなし

チスイコウモリが人を襲った報告はこれまでなかったはず．これまで「ヒトは襲わない」といわれてきた証拠，根拠はなにか？過去にもヒトを咬んだことはあったけれど単に報告されていなかったという可能性はあるか？今回，数千人が襲われたと推定される根拠，咬まれたことと発症との因果関係を示す証拠はなにか？もし被害の増加が事実ならば，変化したのはチスイコウモリの行動か，それとも他の要因か？

◆変異型ヤコブ病のはなし

＞国内で初めて，若年発症性の新型ヤコブ病の疑いがある患者が見つかった．新型ヤコブ病のほとんどはBSE感染によると考えられ，英国で最も多数発生した．この患者は英国渡航歴がある．

診断方法は？症状は？他の類似症状との区別点は？国内で見過ごされている可能性はどれくらいあるか？高リスク渡航歴を発表して，該当者の無料診断や通院勧告などの措置をとるべきでは？

新型ヤコブ病は（旧型も？）プリオンという自己複製するタンパクが病原といわれている．いまだにプリオンがどういう仕組みで複製するなのか，どうして生体内のタンパクまでプリオン化させられるのかを知らない．どこまでわかっているのかもわからん．分野外だし，あえて勉強する気もおきない．もうすこし深刻な事態になったら調べるかも．あるいはこれをきっかけに報道が増えて，疑問がもちっと具体的になったら調べよう．

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