つきあたりの陳列室

つきあたりの陳列室

2007.12.24
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カテゴリ: Other topics
昨夜ビデオテープの整理をしてて,2004年に見たNHKスペシャルに見入ってしまいました。チベットの標高五千mを超える高地で,羊を飼って生活を営む小さな村と,湖の周りの生物たちを撮った番組でした。

*

後半,テンジンという羊飼いの男性を中心に,二千頭の羊をめぐる村の一年の営みが映されます。村の産業は羊毛生産で,これを卸して得た金を,主に主食の小麦粉の購入に充てているものと想像されます。

テンジンは三十代前半,一児の父ですが,高地の強烈な紫外線のせいで痛々しいほどに黒く陽に灼けています(もちろん他の村人もみんなそうだけど)。数年前に麓の村から妻を迎え,一人目の子は一歳で亡くしました。

それぞれの季節ごとに羊の餌場となる草地を移動し,冬になると村に帰ります。雌羊は冬に孕み,春に子を産みます。ですから厳冬期もある程度の草を食べさせないと,仔羊が産まれなくなるそうですが,その頃には村の周りに豊かな草地は残っていません。

唯一,湖の中島に草地が残っています。そこまでの約3kmの道のりを,二千頭の羊を移動させるわけです。これがすごい。見ていてハラハラしどおしで身が持ちません。

ひづめを持つ羊は,氷の上ではすべってまともに歩けません。いったん怖じ気づくと,群れはてこでも動かなくなります。

まず,テンジンが仔羊を無造作につかんで両手にぶら下げて,心配した母親たちに追って来させます。群れは,それにつられて動き始めるのです。

村人たちは夜明け前から,氷の上を羊たちが歩けるように,灰を撒いて道を造ります。氷点下20度の中,3kmの道のりを。チベットでは,森林が無いので主な燃料は薪ではなくヤクの糞です。粒子が細かいので,すべり止めには丁度良いそうです。



灰が途切れたところで,とうとう群れは止まってしまいます。島から砂を運んで,灰の代わりに撒いてあげると,ようやく動き出しますが,砂では粒子が粗すぎて酷く滑るので,群れは混乱します。脚をくじく羊も出てきます。転んで往生している羊を,村人が一頭一頭背中を引っ掴んで助け起こします。

正午になるころ,ようやく群れは島にたどりつき,事無きを得ました。草と言っても,半ば枯れて茶色くなった枯れ草ですが,飢えかかっていた身重の雌羊たちは,小走りに草の中へ飛び込んでむさぼりはじめます。そうして,三週間経ったら,特別寒い日を選び,また,灰を撒いて,村へ戻るのです。

*

テンジンやナレーションの言葉から察するに,羊が飢えて死ぬことは珍しくないようです。長過ぎる冬や,冷夏の年は,かなり多くの羊が犠牲になったのかもしれません。それでもテンジンは「自分たちは豊かではないが,貧しいとも思ってない」と言い,隣の男も黙って頷いてました。

湖の氷がこれ以上薄くなって渡れなくなったら,羊の数を減らしたり,冬でも多少無理して,いつもなら行かない遠い草地や,状態の悪い草地にでも移動させるのかもしれません。バックアップシステムはあるのでしょう。規模を減らしたり,村を離れる若者が増えたりしながらも,あと数世代は確実に続くでしょう。

羊という家畜を得たユーラシアの牧畜民は,貧弱な草地がある程度あれば,必要なタンパクやビタミンを持続的に生産することは可能でしょう。毛を売って,麦を買えば,デンプンを確保できるのでしょう。

でも毛の価格は,市場経済に直結してるので,今売ってる値段で売れなくなってきたら,若者は羊飼いになりたいと思わなくなっていくでしょうか。

sheep

今年のNHKスペシャルで,首都ラサに来て賃労働者として働きはじめた地方出身のチベットの若者の暮らしが放映されました。ちょっと哀しくなるかもしれないけれど,これだって生きることには変わりない。

羊を飼っていた人々も,それを選択して産まれてきたわけでなく,親がそうしていたからそうしたのでしょうから,都市で現金を得て暮らすチベタンも,チベタンには変わりない。私が農耕民族とはもう言えないけど一応胸張って生きているように。

ただ,高地の牧畜生活には,目をみはるような知恵が張り巡らされていることを,強く意識したのです。限られた場所と資源と時間の中で,どういうふうにそれらをやりくりして,持続的に物事を維持していくのかという,実用上の無数の小さな知恵のネットワークに胸打たれたのです。

都市に住む私でも,何かを学び取れそうな気がしてしまいます。知恵ってなんなのかを,考え直さなくてはいけないと思ったのです。もちろん自国の,自分の父母たちが実際やってきたことについても,糠漬けぽりぽりやりながら考えてみることもやぶさかではありません。



CHEESES


NHKスペシャル 「チベット 天空の湖 ~標高5000メートルに生きる~」
http://www.nhk-jn.co.jp/002bangumi/topics/2004/011/011.htm





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Last updated  2007.12.24 15:13:39
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inalennon @ Re[1]:「記憶の中の源氏物語」 三田村雅子(09/19) フィンちさん >この世は なんてままなら…
フィンち@ Re:「記憶の中の源氏物語」 三田村雅子 「人生のままならなさ」への強烈な疑問と,…
inalennon @ Re:4年はあっという間(03/04) ハオさん >バーチュー&モイヤー組見…
ハオ@ 4年はあっという間 バーチュー&モイヤー組見ました。 優雅…

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