つきあたりの陳列室

つきあたりの陳列室

2008.02.07
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カテゴリ: Book


厳寒期の千歳川は氷で覆われたり,覆われなかったりしています.
水の色は鈍色で,曲線で区切られた不定形をしていて,
氷が薄い所は水の色が透けているし,
厚い所は白っぽくて雪が積もっていたり,
吹きっさらしの風に磨かれて平面だったりします.

橋に至る坂道は両側をコンクリと建物で挟まれて,
登りきると急に視界が開けます.
そのとき自然とある一節が思い浮かびました.



 仮定された有機交流電燈の,
 ひとつの青い照明です」

flow_freeze

宮澤賢治「春と修羅」の「序」の冒頭です.

そういえば前日読んだ本に,戦前の岩手県の農家と,
宮澤賢治が「サムサノナツ」と言った
冷夏について書かれていました.

しかしその先が思い出せない.
括弧書きで,幽霊という単語が入るはずなのだけれど.
しかたないので,思い出せたくだりだけ,
何度か繰り返して呟くと,
不意に次の言葉が出てきました.




live_between


そうだったそうだった.
でもその先は,また思い出せない.
仕方ないので,そこまでをまた何度か,繰り返し口ずさみます.
すると,少し飛ばした先の部分を断片的に思い出しました.


「これらは二十二か月の
 過去と感ずる方角から
 紙と鉱質インクを連ね」

「いかにもたしかにともりつづける
 因果交流電燈の
 ひとつの青い照明です」

「風景はなみだに揺すれ」

後で確かめたら,途中が抜けているし,
順番は逆だったりしたし,
「序」ではない部分も混じっていました.
けれど,知ってる部分をただ口ずさむだけで,
忘れかけていた言葉が呼び水のようにこぼれてくる感覚は面白かった.

erigeron.frozen



さむい.さむい.
今年の冬はなにしろさむい.
鼻毛についた水分も,
凍ったそばから体温を含んだ呼気で溶けるので,
鼻腔に張り付き,そして剥がれる.



twins



「序」をあらためて読み直してみると
彼は悠久の時間軸を心の中に持ち,
自分よりもずっと過去,ずっと未来について
鮮やかで深くて重くて鋭い風景を
思い描いていたような気がします.

彩度が低くて平らな風景のなかを
まいにちまいにち行きつ戻りつしている私は,
何を思い描き,何を伝えたくて,何をすればいいのか
いまでも曖昧なままです.

とりあえず今は,奥底に沈みかけた言葉を掬い上げ,
ふたたび織り直しながら,
未来とかんずる方角に,
何も考えず一歩一歩,足を出しているだけです.


crow_come
(写真はすべて既出で,昨シーズン以前に撮影したものです)





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Last updated  2008.02.07 14:20:18 コメントを書く


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フィンち@ Re:「記憶の中の源氏物語」 三田村雅子 「人生のままならなさ」への強烈な疑問と,…
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