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May 14, 2024
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カテゴリ: 書評

口伝の民話から現代文芸を創作

作家 村上 政彦

ボウルズ編「モロッコ幻想物語」

本を手にして想像の旅に出よう。用意するのは一枚の世界地図。そして今日は、ポ-ル・ボウルズの『モロッコ幻想物語』です。

ポール・ボウルズと言えば、知る人ぞ知る実力派の小説ですが、彼の名前が広く知られるようになったのは、ベルナルド・ベルトリッチ監督の映画『シェルタリング・スカイ』の原作者としてでしょう。音楽を担当して坂本龍一はこの映画で 2 度のゴールデングローブ賞を手にしました。

『モロッコ幻想物語』はモロッコを舞台にして語られる、かなり不思議で、少し怖いアンソロジーです。ボウルズは、ニューヨーク出身の小説家。旅好きで世界各地を巡り、モロッコに魅せられました。そして、半世紀にわたって彼の地で暮らし、生涯を終えたのです。

本作は、複雑な成立の仕方をしています。まず語り手は、モロッコの識字能力のない若者たち。彼らが語るマグレブ語(モロッコ訛りのアラビア語)の物語をテープレコーダーで録音し、ボウルズが英語に翻訳する。翻訳は、言葉の単純な移し替えでなく、文体=「コエ(ヴォイス)」をつくる営みです。この作品は、ボウルズとモロッコの若者たちとの共同制作と言っていいでしょう。

満足な識字教育を受けていない彼らが選ばれたのは、あまりヨーロッパ文明に馴染んでいたからだと思います。ボウルズは「モロッコの民衆的想像力が作り出してきた世界」(解説・四方田犬彦)に新しい文学の価値力を求めた。本作に収録されている、代表的な短編を読んでみましょう。

「異父兄弟」。 10 歳の僕は弟ムハンマドを可愛がっているが、義父はそれをよく思わず、妻(僕の実母)に、堕落するからあれをムハンマドに近づけるなと注意する。兄妹は仲がいい。僕が漁師の親方のもとで網引きをしていると弟も加わる。それが義父に知られ、殴られ、家から追い出された。やがて「僕は浜で生きることになった」。作者のラルビー・ライやシーはカフェでの夜警でした。モロッコ社会の最も底辺で生きる一人。ボウルズは、そこに引かれたようです。

「竪琴」。青年マウルは怪しい者が近づくと、竪琴を鳴らしていた。ある日、その音が突然聞こえた時、人語を操るラクダがやって来て「コンニチハ」と挨拶された。それは嫉妬深い姉の魔法でラクダにされた少女だった。ウマルは一計を案じて魔法を解き、美しい少女と暮らし始めた。姉は妹夫婦の邪魔をしようとするが、魔法を封じられ、絶命する。作者のムハンマド・ムラーベトはライヤーシーを知っていて、俺ならもっと面白い物語が語れると自慢した。そこでボウルズは、彼の物語を録音する作業に取り組みました。

モロッコの土着の民話から現代文学へと昇華された物語は、とても刺激的です。

[ 参考文献 ]

『モロッコ幻想物語」越川芳明訳 岩波書店

【ぶら~り 文学 の旅⓴海外編】聖教新聞 2023.2.22






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Last updated  May 14, 2024 07:18:01 PMコメント(0) | コメントを書く
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