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2026.01.12
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カテゴリ: エッセイ

 あれはもうバッグではない。
 人生の希望を詰めたポータブル宝箱であり、
 「今日こそは私を褒めてくれ」という無言の圧力装置であり、
 時には「この値段を払ったんだから幸せにならなきゃ困る」という呪符でもある。

もちろんバッグだけではない。
 服もまた、彼女たちの心の天気図だ。
 晴れの日は軽やかなワンピース、曇りの日は落ち着いたニット。
 そして「今日は誰にも会いたくない」日は、なぜか全身黒である。
 ブランド服は、ただの布ではなく、その日の気分を代弁する外交官なのだ。

 「今日は自分を甘やかしたいの」と言って、
 予約困難なフレンチレストランへ向かう女性の背中には、
 「人生は美味しいほうがいいに決まっている」という真理が漂っている。
 ブランドの食事とは、胃袋ではなく、心の奥に栄養を与える儀式なのだ。

旅行もまた、ブランドの延長線上にある。
 北欧のホテルで静けさを吸い込み、ハワイの海で光を浴び、京都の町家で時間の流れを味わう。
 女性にとって旅とは、自分の人生を一度洗濯して、柔軟剤の香りを変える行為なのだ。
 しかもその柔軟剤は、ほとんどが高価なものばかり。

さて、おじさんたちはどうだろう。

彼らはブランドバッグも、ブランド食も、ブランド旅も持たない。
 持つのは缶ビールだけである。
 しかも、それはただの缶ビールではない。
 「今日もなんとか生き延びた証明書」であり、
 「明日もまあ頑張ってみるか」という小さな祈りであり、
 時には「もう誰も俺に話しかけないでくれ」という沈黙の盾でもある。

そしてテレビの前に座るおじさんは、まるで古代の賢者のようだ。
 野球中継を見つめながら、
 「ふむ……今年の打率は……」と呟くが、実際には何も考えていない。
 考えていないという才能を、彼らは長い年月をかけて磨き上げてきたのだ。

女性がブランドを抱くとき、そこには未来への期待がある。
おじさんが缶ビールを抱くとき、そこには今日への感謝がある。
どちらも、人生のささやかな儀式であることに変わりはない。

人はみな、自分の欲望を自分で選んでいるようでいて、実は時代に選ばれている。
ブランドを求める人も、テレビの前でビールを飲む人も、どちらもその人が歩いてきた道程の形をしているのだ。
だから私は、ブランドバッグを抱く女性を見ても、缶ビールを抱くおじさんを見ても、どちらも少し愛おしく感じてしまう。

人はみな、自分なりの“ささやかな王国”を持って生きているのだから——。
それが革製であれ、アルミ缶であれ、人生は案外、どちらも悪くはないのだろう。

作:河村 道玄


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最終更新日  2026.01.12 13:22:03
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