名無し人の観察日記

名無し人の観察日記

2006.04.20
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カテゴリ: 戦争と平和
 竹島を巡って日韓の間にきな臭い空気が漂い始めています……というか、韓国側が勝手に火をつけているだけにも見えますが。自分の家に燃え移らなきゃ良いですね(笑)。

 さて、今回の騒動をきっかけに、日韓関係についてちょっと考えてみましょう。

 竹島問題に関しては有名ですので、今更細かいところまで解説する必要はないでしょうが、1952年に当時の韓国大統領だった李承晩がいわゆる「李承晩ライン」を宣言し、その内側にあった竹島を占領したのが事の発端です。
 以来半世紀に渡って韓国の不法占拠は続いています。日本側はもちろん毎年抗議を続け、さらに問題の決着を国際司法裁判所に預ける事を提案していますが、韓国側は「独島(竹島)が韓国の領土なのは事実だから、国際司法際で争う必要はない」と突っぱねています。まぁ、実際に争ったら ほぼ確実に敗訴するので 、出るわけにはいかないのが実情だったりしますが。
 日本には実はまだ取れる手段があって、それは国連総会で竹島問題を領土問題として訴える、というものです。これは実は 領土問題解決のための常套手段 なのですが、日本はまだこの「伝家の宝刀」を抜いていません。
 さらに最終手段として、軍事力による奪還という手もありますが、これも行っていません。自衛隊は海空戦力では韓国軍を圧倒していますので、その気になればほとんど犠牲を出す事無く、竹島を奪還する事ができるでしょう。

 では、日本政府が取り得る手段がまだある(しかも成功率はきわめて高い)のに、それを行わずあくまでも二国間問題として竹島を解決しようとしているのは何故でしょうか?
 もちろん、国際紛争に及び腰にならざるを得ない国内事情(特に憲法問題)はあるでしょうが、最大の理由はそこにはありません。

 かつて、日本が竹島問題で恐れていた最悪のシナリオとは、これによって完全に韓国を敵対勢力側に追いやる事でした。つまり、共産圏側に。

 もともと、朝鮮半島に敵対的な勢力が進出してくるという事態は、日本にとって安全保障上一番回避したい事でした。日清・日露の両戦争も、元はといえば朝鮮半島に清やロシアの勢力が進出した場合、日本の独立が脅かされる事態になることが最大の理由です。賠償金やら領土やらを取ってはいますが、それは当時戦勝国が得る当然の利益だったからであって、それを目的に戦争をやったわけではありません。
 日本にとって本来朝鮮半島の国家にこうあって欲しいという姿とは、日本とは友好的で、かつ危機に際しては共に手を携えて戦うことのできる、それなりに発展した国であることでした。言って見れば 「白村江の戦い以前の百済との関係」 が理想でした。
 ところが、韓国は日本の期待に応えられる国ではなく、清やロシアの顔色を窺い、場合によっては日本に敵対しそうな有様でした。小国が生き延びるための知恵と言えばそれまでですが、そのやり方があまりにも拙劣だったため、日本も諦めて「こりゃ自分たちで統治した方がマシだ」という事になり、併合へ繋がっていきます。

 話がだいぶずれましたが、ともかく日本は韓国を敵対勢力側に追いやる事はできませんでした。いや、韓国単独なら別に恐くも何ともないのですが、そこにソ連やら中国やらが基地を作った日には一大事です。

 また、アメリカとの関係もあります。冷戦時代ではアメリカから見れば、日韓は共に同盟国です。仮に東アジアで戦争がはじまれば、韓国は最前線、日本は後方基地であり、その両国が対立していると言うのは、非常に都合が悪い事になります。

 おそらく、竹島問題で日韓関係が著しく悪化し、それがアメリカの極東戦略に重大な影響を及ぼすのであれば、アメリカは何らかの制裁を匂わせて、それを仲裁にもって行く方向で動いたでしょう。しかし、それが実現した日には、残るのは日韓両国のアメリカに対するしこりだけであり、それを喜ぶのは共産圏諸国だけです。

 幸いといっていいのかどうか、外交下手と言われる日本政府(正確に言うと外交下手なのは外務省だけです)にも、こうした情勢を理解する能力はありました。そこで日本が選択したのは、竹島問題に関しては徹底的に事を荒立てない事でした。
 一応の抗議はしますが、広く国民に知らせる事はせず、問題が大きく炎上することを避けたのです。
 仮に竹島問題が広く国民の間に知られていたら、おそらく政府にとって極めて制御困難な政治的混乱が生じた可能性が高いでしょう。多くの人々は竹島奪還を求めるでしょうし、一方でいわゆる「進歩的」な人たち(今で言うプロ市民な方々)が 「心の祖国」からの指令を受けて 、世論(と日米韓三極同盟)の分断に暗躍するのは目に見えています。

 とりあえず自由主義圏内での安定を志向し、日韓対立を煽らない。これが日本の取れる手段の中ではベターなものでした。

 一方の韓国ですが、そこまで考えて行動している人はほとんどいませんでした。貴重な例外は、クーデターで李承晩を叩き出した朴正熙でしょうか。彼は 「独島なんかはダイナマイトで爆破してしまいたい」 と語っています。
 国民感情を考えれば、竹島返還には応じられない。かと言ってそのままにしておけば、いずれ日本は韓国の敵に回り、そのとき韓国に勝ち目はない。そう考えれば、竹島なんかこの世から消えてしまえばいいのだというのは、彼の偽らざる心境だったことでしょう。
 そして、朴正熙が暗殺されると、韓国は竹島の実効支配を続け、しかもその行為に対する自己評価は年々エスカレートの一途をたどりました。いまや竹島は韓国にとっては独立と言う輝かしい勝利の象徴であり、同時に日本が現在も韓国支配を狙っていると言う被害妄想を補強する材料になっています。

しかし、時代は大きく変化しました。

 強大なソ連は既に滅び、神秘のベールに包まれた「謎の軍事大国」北朝鮮の実態は、肥大化した張子の軍隊を抱えた世界最貧国に過ぎないことが明らかになりました。
 しかも、歴史的に北朝鮮の庇護者だった中国やソ連の後継者ロシアは、既に北朝鮮を見捨てています。今の両国は、今後来るべき北朝鮮崩壊に伴う被害をできるだけ少なくして、自分たちが巻き添えを食わないようにすることしか考えていません。
 この事は、朝鮮半島においては既に冷戦構造が消滅している事を意味しています。中露には北を支えて、半島で日米と対決する意志などないのですから。そして、それは同時に最前線だった韓国の重要性の消滅をも意味しています。例えば、ダグ・ベンド米カント研究所研究員は

「米国において韓国は莫大な費用と犠牲を注ぐほどの死活的な利益の対象ではない」

とコメントしています。

 その事を理解していないのが 韓国だけである と言うところが大問題です。韓国は相変わらず自分たちが東アジアの中で極めて重要な存在であると言う、誤った認識を抱きつづけていますが、現在東アジアで真のホットスポットとなっているのは、中国の海洋進出志向により最前線になりつつある東シナ海です。そこで重要なシーンプレイヤーは日米台中であり、韓国の出番はありません。
 ですが、韓国はその事を全く理解せず、「自分たちは重要な国だ」という思い込みのままに行動し続けています。その典型例が 「北東アジアバランサー論」 でしょう。あれは韓国からしてみれば、全方位外交のつもりなのでしょうが、傍目には明らかに韓国の対日・対米離反志向を示したものです。米国議会調査局朝鮮情勢専門官のラリー・ニクシュ氏は

「こうした新目標(注:バランサー論のこと)がもし実行されれば米韓同盟は破綻する」

と述べています。
 冷戦期なら、中ソにとっては「韓国をこちら側に引き込み、日本を脅かす機会」になるのでしょうが、現在の日米中から見れば

「東シナ海以外に半島に“第二戦線”を作らせる気か? ふざけるな何様のつもりだ。いい迷惑だ」

 という事になります。

 この韓国の重要性低下が、日本の外交政策にも現れています。昨今竹島問題で日本が従来になく強硬な姿勢を示しはじめたのは、既に

「韓国は敵に回しても大勢に影響を与える存在ではない」

 という認識を日本政府が持っている事の表れです。
 つまり、韓国が敵に回るとしても、それは韓国単独の事で、中国とは連携してこない(と言うか中国が連携しようとしない/できない)と言う事です。中国は日米台に海空戦力で圧倒的劣勢にあり、半島に関わる余裕はありません。韓国単独であれば日本から見ればちょっとはウザイかもしれませんが、十分片手間であしらえます。
 しかも、韓国はいずれ北朝鮮と言う巨大な爆弾を抱え込む運命にあります。そのとき彼らを支えられるのは日米しかいないのに、それと対立しようと言うのですから、 放って置いても自滅するのがオチ です。それが読めているから、日本は対韓強硬姿勢を心置きなく(?)取れるようになったのです。

 日本がまだ国連総会での提訴などに訴えないのは、韓国にたいして「今なら大事にならずに済むんだから、情勢を読んでおとなしくしてくれ」とメッセージを送っているようなものです。そのサインを韓国が読めれば、竹島問題は解決の方向へ向かうでしょう。しかし読めなければ……?

 現在の韓国にとって最善の道は、自分たちが北東アジアや世界の中で重要な位置を占められる、という思い込みを捨て、日米とは協調の道を選び、大人しくしている事です。仮に中国と協調するにしても、積極的に日米に敵対しない事です。
 それを理解できずに無駄に目立とうとすれば、 いずれ首に縄をかけた状態で足元の台を蹴っ飛ばす羽目に陥る でしょう。そのとき助けてくれる相手は誰もいませんよ。

「我侭勝手に振る舞っている者は、自ら懲りて学ぶより他はない」





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Last updated  2006.04.21 00:11:46
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