【粗筋】
「大変よ」
「お前、何でも大変だと言うが、大変というのは大きく変わることを言うんだ。何でも大変と言っていると、本落語「し」の当に大変な時に困るぞ」
「それが、大きく変わるから大変なんだよ。12月3日が1月1日になるんだって」
「何だいそりゃあ」「さっき大家さんが知らせに来たんだよ。大家も聞きに行ったけれど何だか分からない。それで、しょうがないから、明日が大晦日だぞって……みんな慌てちゃってさあ……お咲ちゃん、12月20日頃に赤ん坊が生まれるって言われたのに、その日が無くなっちゃうのよ……生まれなくなっちゃうわけでしょう」
「そうなのか」
「本当に男って、分からないのねえ。神社でも賽銭箱を今から作るのに大騒ぎよ」
「まあ、みんな慌てているのは分かったが……うちとは関係ねえだろう」
「質屋に入れた道具箱、1月3日に出さないと流れちゃうのよ」
「ええっ」
「それで大家さんが計算したら、利息とも6円50銭のところ、日付が少ないから5円になるって……お金貸してもらったの」
金を持って亭主だけで質屋に行くと、12月1日になったんだから12月分は全部もらう。だから6円50銭は1銭も負けないという。
「自分の言うことに責任を持て、男なら女房を質に入れてでも持って来い」
と言われて5円も取られ、すごすごと帰る。話を聞いて怒った女房、それなら質に入れてもらおうと言いに行けば、伊勢屋も驚くだろうってんで脅しに出掛ける。
因業な伊勢屋、じゃあ質に入れてやるが、品物だから蔵に入れて水も食い物も与えないぞと言われてギブアップ、大家にあと1円50銭を借りに行く。大家は、
「お宅では、預かった壺にひびが入ったら、返す時にしょうがないと言いますかって言ってやれ。預かった物は預かったままお返ししますと言うに違いないから、ほら、そこで言うんだ。『やはり女房を質に入れて下さい。飲まず食わずでも構いませんが、預けたままでお返し願います。太ってもいけない、痩せてもいけない。爪も髪も同じ長さで、返すことが出来るのか。自分の言ったことに責任を持て』と言ってやれ」
伊勢屋、言い返そうにも何も浮かばない。とうとう怒って道具箱を返してくれる。
調子に乗った夫婦、今度は大黒屋に櫛を入れていることを思い出して押し掛ける。ところがこちらは、
「日付が変わったからって、すぐに催促はしないからいいよ」
と言うから、拍子抜け。亭主は相手に無理に「女房を質に入れてでも」と言ってもらおうとすると、
「そうかい、それは助かるねえ。殺風景な店だから、明るいかみさんがいてくれるだけで雰囲気が変わるからねえ」
「そうじゃねえ。質に入れたら品物だから飲まず食わずでいいのかって言うんだろう」
「言わないよ。そんなことをしたら可哀そうだよ。まあ、年寄りの一人暮らしで、楽しみは食うことくらいだから、夜の食事は天ぷら、寿司、ちょっと贅沢はしてえるが……」
「お前さん、私、質に入る」
「お前何言い出すんだ」
「それに着物も、質流れ品で、いい物が沢山ある。好きなように着て構わないよ」
「お前さん、やっぱり入る」
「待てよ。質に入れたら大事なお客様の物だから、太っても行けず、痩せても行けず、元のまま返すんだぞ」
「お前さん、そりゃあ無理だよ。そんないい物を食べたら間違いなく太るよ」
「何を言ってやがる。お前が太ったら、どうするんだ」
「その時は遠慮なく流して下さい」
【成立】
立川志の輔の創作落語。
【蘊蓄】
太陰暦は月の動きをもとにして計算する。月は29日半で一月なので、大の月は30日、小の月は29日、そこでまたややこしい計算があるのだが、概ね半分とすると、毎月354日。一年は365日となるが、10日ほど余ってしまう。これで3年毎にまとめて一月、閏月を置く。『紫式部日記』にも、閏の9月が描かれている。
明治5年11月9日、太陽暦に移行を発布、翌月12月5日を翌年の1月1日とした。
大隈重信が福沢諭吉に依頼して、太陽暦がいいんだという冊子を作って成功した。
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