名作落語大全集

名作落語大全集

2024.04.05
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カテゴリ: 落語

【粗筋】
 本所林町の小間物屋重兵衛、いい男で気が利くので旗本のお屋敷にも出入りをしてお女中が買い求める。杉浦家の奥に勤めるお杉が思いを寄せて文を寄越す。これが不器量ではあるが、行儀作法も身に付けており、文の文句の見事さに返事を送った。用人が間に入って夫婦にしてやる。
 夫婦仲もよく、子供が出来る。お腹の子が六月になる頃、小間物屋の寄合で吉原へ由岐、稲本の勝本という遊女が相手に出る。すっかりこれに夢中になってしまう。家財道具も売り払って、博打に出を出し、家にも寄り付かない。
 子供が生まれて、母親似の女の子なのでがっかり……ほったらかしになって、栄養も足りずに体が動かなくなって、子供と一緒に掻巻一つで寝ている。そこへ博打に負けて帰って来ると、無理に奪って行く。抑えようとしたので爪が引っ掛かって剥がれてしまう。質屋に持ち込むと、血が付いていると言われて犬を蹴飛ばしたとごまかす。爪が二枚付いているというので、「合わせて三分にしてくれ」
 嫌がるのを無理やり一分借りたが、博打ですってしまう。また家に戻ると、お杉は屋敷を出る時に奥方が一両をくれたと言う。それで乳をもらう里扶持にしてくれと言う。重兵衛はすまなかったと誤って、すぐに位牌の裏に貼ってあった金を手にして吉原へ……しかし、博打で増やせば倍にも使える……迷いに迷って、乳をもらっている屑屋の陣兵衛に行き会ってしまった。仕方なくその家に行って一両を渡す。すると、女房が、
「一両なんて釣りがありません。そうご心配なく……お杉さんも心配して奥に来ていますよ」
 と言う。とても動けぬ体だから来る訳がないと思うが、人に背負われて来たのでもなく、まして駕籠賃などあるはずもない。奥へ行くと本当にいたので、
「お前が来るなら、俺に金を預けねえでもいいじゃねえか」
 と甚兵衛のかみさんに乳の礼を言う。赤ん坊を抱くと父親と分かるのかにこにこ笑っている。
 表が騒がしいので甚兵衛が出て見ると、重兵衛の長屋の連中で、今お杉さんが亡くなったから重兵衛を探しに来たのだと言う。今この奥にいると言うと、みんなで恐る恐るのぞきに行く。すると、蒼い顔のお杉、髪の毛は蜘蛛の巣のように広がり、行燈の光で、
「お長屋の衆、のぞいちゃいやだよ」
 ここから道具噺になるのですが、本日はこれぎり。この後重兵衛は改心して娘のお仙を立派に育て上げます。

【成立】
 明治の末、林家正蔵(5)が演った。『累ヶ淵』から取ったものだろうが、「お累の自害」と「豊志賀」をくっ付けたんだろう。でも、最後の長屋の衆はお粗末。家にあった仏壇が置いてあったくらいにしれおけばいいのにねえ……主人公も改心しちゃったんじゃあ面白くないなあ。

【蘊蓄】
 『恋女房染分手綱(こいにょうぼうそめわけたづな)』は歌舞伎の演目。近松門左衛門の『丹波与作待夜小室節(たんばよさくまつよのこむろぶし)』をお家騒動ものに改作したもの。
 東海道鈴鹿あたりの宿で、丹波の調姫(しらべひめ)がお泊りになるが、江戸の大名との婚礼が決まった。それが嫌だといので台詞が「いやじゃ」しかないので通称「いやじゃ姫」。乳母の重の井(しげのい)と爺やが困っている。大勢の家来も引き連れており、馬を操る馬子も多くいる中に、小汚い子供がいるが、これがなかなか目箸が利く利口者。「自然薯の三吉」と呼ばれている。この子が道中双六を持っているので姫の前に出て、みんなで遊ぶ。今日から江戸まで行くのに東海道の宿場の名所名産が書かれているのを読み上げる。みごとに一番で上がった姫君、本当の旅も楽しいと思うようになり、出発の声が上がる。残った三吉と重の井、重の井が例に菓子を与えるが、なぜ馬子をしているのかを訪ねると、生い立ちを語る。これを聞いてびっくり、何と腰元時代に小姓と関係して産んだ我が子だったのだ。城内では不義と同じで城から追放になるが、殿様が温情を持って子供を産むと乳母としてお城に上がったのである。乳離れすると二人は生き別れにされていたのだ。母と知るが、恩ある殿様に申し訳ないと突き放し、すがり、なじる子供を突き放す……いつも元気に歌う馬子唄を泣きながら歌う。
 この「重の井子別れ」だけが演じらえる。
 重の井の相手の小姓も馬子に落ちぶれ、丹波の与作と呼ばれている。これが関の小万という遊女と恋仲になって金のためにトラブルを起こす。近松の原作はこちらが主人公であった。重の井の父である能役者・武村定之進が主君に『道成寺』を伝授し、鐘の中で自害して娘の罪を償うなどの場面があるが「子別れ」以外が演じらえっることはほとんどない。子供が主役で、長台詞あり、歌あり……相当の腕の子供がいないと演じようがない。見事な台詞回しだが、実際には改作とされているが近松の原作ほとんどそのまま。









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Last updated  2024.04.05 06:07:34
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名無し@ Re:落語「と」の86:とろろん(05/12) 「デロレン左衛門」は「デロデン祭文」では…
モルモタマ@ Re:65:油屋猫(あぶらやねこ)(10/21) これは小咄で、桂米朝が小咄ばかりを演じ…
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