【粗筋】
不況で退職を勧められた女に、同僚の沼雀が一緒に仕事しようと言う。沼雀は夫が風俗店の火事で亡くなり、週刊誌に出た写真が、セーラー服着て踊っているもの。目に線が入っても、珍しい名前だからみんな気付く。女好きだが、特定の相手はいなかったというだけが救い。同僚に気付かれて、仕事を辞めることになったという。昔運送業をやっていてトラックなどがあるので、引越業者をやろうと言う。女性専門の引越業者で、男や仕事で苦労した人から人生相談にも乗ってやり、その内容で不幸割引をするというのだ。
「ほなら、夫が風俗の火事で死に、恥ずかしい写真が出て、回りから白い目で見られている女性はいくらになる」
「それはもう基本料はタダ……って、うちやないの」
自分は相手に同情して甘くなる。だから、こういう突っ込みを入れるような、血も涙もない、性格の悪い、冷酷な人と一緒にやりたいのだ。こうして、心まで癒すハートヒーリング引越社を始める。
最初の女は、ふられた男の思い出にしがみついているのを吹っ切ってやる、そうなると男に関わる品物は全部捨てて……さあ、引越するのに荷物がない。相談料だけでおしまい。
次の部屋には悪霊が取り付いていた。冷血女は悪霊退治の特技を持っていて、無事追い払う。さて、平和になると、部屋は気に入っているから引越す意味がない。相談料だけもらう。
3人目の客、幼くして両親に死に別れ、たった一人の兄は暴力団の抗争で死に、その兄の残した借金のために風俗で働いた……沼雀は同情して基本料金タダ……そんな甘いことではあかんと冷酷女が交代、一等地にいいマンション、パトロンがいるのを見抜くが、そのパトロンが死んで、自立する決意をしたのだ。自分で会社をやるようなあなたたちが憧れ……そう言われると、冷酷女も同情心を動かす。
「パパさんもええ人やったんでしょうね」
「はい、沼雀さんはいい人でした」
まさか……でも沼雀なんて、どこにでもあるありふれた名前だから……と、見積もりを口実に奥の部屋を見ると、旦那の写真が……ここは我慢して見積もりを……
「倉庫を借りるから金がいると言って、このマンションを買うたんや」
「うんと吹っ掛けてやりましょう」
「あかん、うちの金や、負けといて」
「何言うてんの」
「どうかなさいましたか」
「いや、パパさんには、奥さんとかいたんでしょうねえ」
「はい、とてもいい奥さんで、自分も働きながら家事もしっかりやっていたそうです」
「それなのにどうしてあなたと……」
「その奥さんがお荷物だと言うてました」
【成立】
桂あやめの創作落語。
【蘊蓄】
引越業者が登場するのは昭和50年頃。それまでは依頼者の準備した物を運ぶだけだったが、オイルショックでガソリンが値上がりして運送業者が大打撃、集まって研究し、引越の協同組合を発足、次第に今のような業者が生まれて行くようになった。
私も急な引越が決まり、困って電話しまくった。3月に入るのでどこも取り合ってくれなかったのだ。盛んにテレビCMやってる「引越のS」、ネット相談に、「すぐに対応出来ます。お電話下さい」と返信が来たので電話をしたら、「あ、無理です」「でもネットで返事が……」「あなた、今の時期込み合っているんだから、余裕がある訳ないでしょう」と、そんなことも分からないんですかと言う調子。メールは自動返信なのね。この電話代返せって言いたくなったが我慢。一方、これもテレビで見かけるAマークの引越社からは、うちではできませんがと他社を当たってくれ、何度も向こうから電話を入れてくれた。結局他からのつてで引っ越しが出来たが、この会社にはお礼の電話を入れた。そんな経験、話のネタにはなる。因みに実際に利用した引越業者は、東京まで運んでくれ、そこから別の業者に依頼、自宅に届くまで1週間くらいかかる。高くなるかと思ったら、他の各社の見積もりの半額程度で驚いた。
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