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昨年6月、ブルゴーニュの地質のスペシャリスト、フランソワーズ・ヴァニエさん(写真右)と、ドメーヌ/メゾン・ド・モンティーユとシャトー・ド・ピュリニー・モンラッシェの当主、エティエンヌ・ド・モンティーユさん(写真左)による地質セミナーが開催された。MCは酒販ニュース編集長(当時)の佐藤さんで、主催は山本 博さんを委員長とするシンポジウム実行委員会。運営はソペクサ・ジャポン。会場は代官山ヒルサイドフォーラム。 フランソワーズさんは、元は天然資源探索の地質学者だったが、各村の生産者組合の依頼を受けて2011年にマルサネ、2012年にジュヴレ・シャンベルタン、2016年にシャンボール・ミュジニーの詳細な地質図を作成。セミナーの前半は彼女がブルゴーニュの地質の概要を解説。2億3000万年前から1億3500万年前のジュラ紀の石灰岩の層が、3400~2300万年前の漸新世の断層活動で複雑に構成され、さらに2万2000年前から1万年前にかけて形成された河川と谷がブルゴーニュの地質を構成する主要な三要素だとする。 例えばジュヴレ・シャンベルタンの地質分布では、地下54mまで掘削した調査結果から、ジュラ紀の様々な石灰岩の堆積が明らかになっており、ウミユリ石灰岩、カキ殻泥灰岩、頁岩質石灰岩、プレモー石灰岩、ウーライト石灰岩、コンブラシアン石灰岩、ディジョン・コルトン石灰岩、ラドワ石灰岩などがある。 これらの母岩(サブソイル)とワインの個性の関連性については、今回のセミナーでは具体的には説明されなかった。というのも、モンティーユ氏によればテロワールとは非常に複雑なもので、栽培や醸造手法の違いなど人為的な行為と深くかかわっているからだ。そして母岩とはインフラであって、その他にも斜面の向き、傾斜、地形、気候などもかかわってくる。経験的には区画ごとに個性が違うことは間違いないが、それを土壌の構成と一対一で結びつけることは出来ない。地質と味わいの関係はミステリーであって、ミステリーはロマンであり、無理に答えを探すよりもそのままにしておくべきだ、という意見だった。 試飲には以下の二つのワインが供出された。どちらもDomaine de Montille。 1. Pommard 1er Cru, Les Pézerolles 2009 2. Les Rugiens-Bas, 1er Cru de Pommard 2009 どちらも標高は260~270m、斜度4~7%と共通している。ペズロルは村の北側にあり、南東向きで、粘土は茶色がかっている。リュジアンの母岩ははラドワ石灰岩で、湿地にウーライトが分布してできた石灰岩に赤~茶を帯びた粘土が混じる。リュジアンのラドワ石灰岩は亀裂が入りやすく、したがって根が伸びやすく、保水性に優れる。ペズロルの母岩の石灰岩はウーライトと貝片を含む石灰岩で、リュジアンのラドワ石灰岩よりも固く根が張りにくい。また、リュジアンの斜面は丸みを帯びているのに対し、ペズロルの斜面は平板といった違いがある。 私見ではペズロルはニュアンスに富み繊細で軽く熟成感があり、余韻でツブツブしたタンニンが分離する感じ。リュジアンは濃厚で奥行きと一体感があり余韻が長く、果実味にもまだ若さが感じられる。 醸造でもペズロルは除梗して発酵、新樽率30%。リュジアンは三分の二が全房で新樽率50%。どちらも栽培はビオディナミ、野生酵母で発酵。母岩の違いだけが個性の違いとは言い切れないが、リュジアンの方が熟成のポテンシャルはありそう。 ポマールの畑違いの比較は確かに興味深く、詳細な地質の具体例を第一人者の説明で知るのは素晴らしい体験だった。ただ、ブルゴーニュの様々な地質とワインの個性の関連性についてはあえて深入りを避けようとしているのか、若干物足りなさが残ったことが惜しまれる。 ブルゴーニュの詳細な地質構成は次第に明らかになりつつあり、地質の切れ目がクリマやリューディの境界と必ずしも一致しないことがあることや、グラン・クリュの中にも複数の種類の石灰岩が含まれるところと、単一の石灰岩であるところがあることなど、ワインの個性と地質の関連性を明らかにする手がかりは増えている。今後の展開を期待したい。 試飲に出たワインと岩石のサンプル。
2019/01/06
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セミナーの様子。昨年2月に来日したシャンパーニュのブノワ・マルゲ氏は、アカデミー・デュ・ヴァン青山校に集まった約40名の熱心な聴衆を前にリラックスした様子でワインを語った。1870年創業のシャンパーニュの生産者の5代目で1974年生まれ。1990年代前半に実家の醸造所で働き始めたが、伝統をそのまま受け継ぐのではなく自分の理想とするやり方でやろうとしたら、父から醸造所を追い出された。それからあちこちの醸造所で働いて経験を積み、本を読んだりして、自分の目指す方向が正しいことを確信したのだという。 なぜビオやビオディナミを目指すことになったのか。その契機の一つはルドルフ・シュタイナーとの出会いだが、彼は1920年代に活躍した人物であって、彼の功績にとどまるべきではない、という。シュタイナーは農業にとどまらず、全ての存在がお互いに影響しあって共存することを説いた。動植物はメッセージをやりとりしていて、たとえば花はメッセージを送って蜂を呼び寄せ、地中の動物は鳥たちの春を告げる声にひきよせられる。ワインもまた、それをとりまく環境のすべて――土壌や天候、生産者――からのメッセージを飲み手に伝える存在であり、天と地と人のエネルギーが込められている。かつて修道士達は神の恩寵を伝えるためにワインをつくっていたように、ワインは神聖なものでもある。単に味わいを楽しむ飲み物というだけではない。 ワイン造りを始めたころは、分析値をもとに醸造していたが、今はフィーリングを大事にしている。森、畑、土壌など、自分をとりまくすべてのものからの波動を感じながら栽培し醸造する。見た目ではない。魂でふれあうことが大事。そしてポジティヴに、愛をこめて作業する。意図しようとしまいと、ワインには造った人の心が反映さ、造った人に似る。犬がその飼い主に似ていることが多いように。 試飲したのは4種類。いずれもピュアで繊細で澄んで非常に余韻が長い。2011年産は今日のマルゲのようにリラックスしてしなやかで味わい深い(Ambonnay Rosé Grand Cru 2011/ La Grande Ruelle Grand Cru 2011)。Shaman 13は今日の中では一番緻密でミネラル感に富んでやや硬質で繊細に感じた。Sapience 2008はスケール感とすがすがしさと複雑さと緻密さと余韻が印象的。醸造にはホメオパシー的手法を用いたという。たとえばブレンドする前のピノ・ノワール、シャルドネ、ピノ・ムニエに対して、これからブレンドすることを考えるだけで、メッセージは伝わるのだそうだ。 「人生は人との出会いで困難を乗りこえることが出来る」とも語っていたから、様々な苦労を乗り越えた末に、現在の境地にあるのだろう。彼の人生をもうすこし丁寧に追っていくと、学ぶところもありそうな気がした。試飲に出たシャンパーニュ。
2019/01/06
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ドイツのアールの生産者ジャン・シュトッデンの当主アレキサンダー・シュトッデンが昨年2月に来日し、アカデミー・デュ・ヴァン青山校でセミナーを行った。ドイツに住んでいたころ、新酒の試飲会に何回か行ったことがある。今回来日したアレキサンダー・シュトッデンと、今は亡き父ゲアハルトのワインは良い意味でドイツらしくなかった。色も黒っぽい赤で、樽香が強く果実味もパワフルで、他の生産者のシュペートブルグンダーがフルーティでエレガントに仕上げているのに対して、ものすごく男っぽくて個性的で、それでも果実味には透明感と味わい深さがあって、熟成すると品よく華やかな印象的なワインだった。講演中のアレキサンダー・シュトッデン氏。アレキサンダーは2006年から醸造を任されていたが、2013年に父ゲアハルトが突然亡くなって-フィットネスクラブで心臓発作を起こして、そのまま帰らぬ人となったそうだ-、7.5haの急斜面の葡萄畑の世話から醸造まで、全部を担うことになった。「祖父は大樽で赤ワインを造っていたが、父はバリックを導入した。そして私は収穫をドライアイスで冷却して、なるべくマストを空気にふれさせるよう酸化的に醸造することで、かつて批判のあった強すぎる樽香を抑え、コルセットのような役割を担わせている」という。伝統とは同じことを繰り返すことではなく、時代にあわせて変化させていくものだ、とも。2014年と2013年のレッヒャー・ヘレンベルクのシュペートブルグンダーは生産年の個性がよく出ていて、前者がエレガントでしなやか、後者が深みとミネラル感。2014シュペートブルグンダー・アルテ・レーベンは樹齢95年の古木から、毎年バリック樽二樽のみで約600本製造。ミディアムトーストの新樽100%というけれど、樽香は目立たず、ピュアで緻密な赤いベリーの果実味の深みと広がりがとても印象的。「私のシュペートブルグンダーは、90%のブルゴーニュのピノ・ノワールより出来が良い」と大胆に言い切った。その背景には、デカンターやファルスタッフなどのメディアでの高評価や、世界のピノ・ノワールを集めたブラインドテイスティングでトップをとった実績がある。醸造所は昨年新築されて、スタイリッシュな内装の試飲室もできたという。私が訪問した当時は、まだ家族経営らしいほのぼのとした民宿のような趣があったが、これも時代の流れなのだろう。
2019/01/06
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昨年10月、”Amber Revolution- How the world learned to love orange wine”を出版したシモン・J・ウールフ氏とロオジェの井黒氏によるオレンジワインセミナーが、アカデミー・デュ・ヴァン青山校で開催された。ウールフ氏からの一方通行ではなく、井黒氏の問題提起と出席者からの的を射た質問、それに12種類の試飲で充実したセミナーでした。オレンジワインとは何か?果皮とともに発酵した白葡萄によるワインである。白ワインとオレンジワインの関係は、果皮の使用の有無ではロゼと赤ワインの関係に通じる。前者は果皮を使わず、後者は果皮とともに発酵する。多くの場合、オレンジワインの発酵は温度調整を行わず野生酵母で自然に行われるため、果皮に本来含まれている要素が最大限生かされる。そして歴史的な醸造手法でもある。フリウリやスロヴェニアでは文献に登場するのは180年前だが、それ以前から醸造されていたことは間違いない。ジョージアでもその起源は8000年前にさかのぼることが、首都トビリシ近郊の遺跡で発見されたクヴェヴリから採取された成分が示している。近年のスロヴェニアのオレンジワインブームの一端を担うのは、1844年に刊行されたMatija Vertovec神父の著書”Vinoreja za slovence”の復刻版である。スロヴェニアのためのワイン造り指南書だが、20時間から30日間スキンコンタクトを行うことで、ワインはその味わいと熟成能力が向上するとある。この手法では葡萄のすべてを使って一切を無駄にしないだけでなく、タンニンなどの抗酸化作用で亜硫酸をはじめとする添加物なしでも熟成するワインができる。ところが第二次大戦後の醸造技術の発達と量産化で伝統的製法は次第に隅に追いやられ、1990年代のクリーンでフルーティなワインの流行で人々から忘れ去られようとしていた。しかしグラヴナーやラディコンなど、近代的醸造に疑問を持った生産者達によりその価値が再発見された。だが、彼らが白ワイン用品種で醸し発酵を採用した当初は世間の風当たりは冷たく、認められるまで何年もかかった。オレンジワインについては主に三つの誤解がある。ひとつにはオレンジワインはヴァン・ナチュールであるという誤解。ヴァン・ナチュールには白ワインもロゼも赤ワインもあり、醸造技術ではなく哲学の問題だ。二つ目は、オレンジワインは酸化したワインだという意見で間違っている。意図的に酸化させたのではなく果皮から抽出された色だ。また、フォラドリがノジオラをティナハで醸造したオレンジワインのように、通常の白ワインのように見えるオレンジワインもある。第三に、アンフォラで醸造したのがオレンジワインというのも完全に正しいとはいえない。確かにジョージアではそうだが、コンクリートタンクやステンレスタンクなどで醸造したオレンジワインもある。オレンジワインの醸造手法には大きくわけてコッリオ・メソッドとジョージアン・メソッドの二つがある。前者は開放桶で90日前後発酵するもの。後者は500~2000ℓのアンフォラ(クヴェヴリ)で90~240日間定期的にピジャージュをしながら発酵したもの。いずれもサーブ温度は10~16℃で白よりも少し高めの温度で供出するが、ストラクチャーのしっかりしたものはやや高めの赤ワインに近い温度で提供する。つまるところ、オレンジワインの品質は何をもって良しとすればよいのか?という井黒氏の問いに対して、ウールフ氏は他のワインと同様にバランスやエレガンスが大切だと答えた。醸しによる香味が土地や品種の個性を埋没させないことが肝要で、その点リボッラ・ジャッラは醸し発酵で個性が強められるので向いている、と指摘した。さらに井黒氏はオレンジワインでは醸し期間の長さや醸造容器-アンフォラ、コンクリートタンク、卵型、ステンレスタンク、木樽など-に目を向けて語られるが、普通ワインでは産地や生産年の状況による個性-冷涼な生産年や暑い産地独特の個性-がまず語られるものだ。オレンジワインでも産地や生産年の個性は反映されるものなのか、と問うた。これに対してウールフ氏は、それは赤ワインと同様に考えることができる、と答えた。オレンジワインであってもたとえば2007年のラディコンの軽やかさように、冷涼な生産年の個性をオレンジワインは表現している。それでは葡萄畑の優劣も反映されるのか、という参加者の質問に対して、ウールフ氏は然り、と答えた。ラディコンやグラヴナーが活躍するオスラヴィアのテロワールはリボッラ・ジャッラが栽培されるグラン・クリュに相当するだろうし、ジョージアのカヘティにはキシという品種で知られるグラン・クリュがある。オレンジワインが登場してまだ20年あまりと日が浅いので優れた葡萄畑の評価は確立されていない。そしてオレンジワインの産地は経済的に豊かではない地域であり、ファイン・ワインの伝統がなく、グラン・クリュ、プルミエ・クリュといった評価が生まれにくかった事情も指摘しておく価値があるだろう、と語った。また、オレンジワインに向く品種とそうでない品種の区別はあるのか、という質問に対して、向いているのは果皮が厚く、果皮からフレイヴァ―やタンニンがスキンコンタクトで抽出でき、十分な酸味がそのほかの要素とバランスする品種が向いていると答えた。果皮が薄くてもアロマティックな、たとえばピノ・グリやゲヴルツトラミーナー、ムスカート系の品種も、酸味がバランスすることが前提だが、オレンジワインに向いている。フリウラーノも果皮は薄いがアロマも酸もあり、ラディコンのヤーコットのように優れたオレンジワインとなる。試飲に供されたのは以下の12品目。 1. Mainklang, Graupert PG 2017 (Austria) 2. Foradori, Nosiola “Fontanasana” 2015 (Italy) 3. Piquentum, SV Vital 2014 (Croatia) 4. Guerila, Retro 2016 (Slovenia) 5. Kemtija Stekar, Indi 2011 (Slovenia) 6. Matassa, Cuvee Marguerite 2016 (France)7. Roxanich, Ines u Bijelom 2010 (Croatia) 8. Tetramythos, Agrippiotios Orange Nature 2016 (Greece) 9. Radikon, Ribolla Gialla 2007 (Italy) 10. Sepp Muster, Erde 2015 (Austria) 11. Papari Valley, 3 Qvevri Terraces Rkatsiteli (Georgia) 12. Satrapezo, Mtsvane 2013 (Georgia)以上、ご参考までに。著書を持つシモン・J・ウールフ氏。
2019/01/06
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