東京電力が福島第1原発事故後に約2カ月にわたって「炉心溶融」を隠蔽していた問題で、当時の東京電力原子力関係社員の約半数が溶融は「あると思っていた」と社内調査に答えていたことが隠蔽問題に関する新潟県と東京電力の合同検証委員会で明らかになったという。東京電力社内の「言い出せない」体質が改めて浮き彫りになり「社会がどんな情報を求めているか考える視点が欠けていた」と述べた。東京電力福島第1原発事故で当時の東電幹部3人が強制起訴された裁判の最大の争点は、大津波の襲来による原発事故を予見できたかどうかなのだが、福島第1原発事故前の国が定めた原発の耐震指針は、地震の揺れへの対策が柱で津波は「地震の随伴事象」として重要視されていなかったのだ。
再稼働には新規制基準に基づく原子力規制委員会の安全審査に合格する必要があるのだが、16原発26基が申請しこれまでに6原発12基が合格しており、地元の同意などを経て再稼働に至ったのは九州電力川内原発や私の住む愛媛県の伊方原発など3原発5基にとどまっているのだ。安倍総理は「安全が確認された原発から再稼働させる」と語っているが、安倍総理が「電力会社を破綻させて日本経済を混乱させるよりは、本当は世界一安全とは言えないけれども、福島第一での事故前よりはそこそこ安全性を高めた原発を事故が起こらないように祈りながら騙し騙し使って行くのが日本経済にとって一番良い」なんて正直なことを言ったらみんなが再稼働に猛反対からだというのだ。
政府の地震調査研究推進本部が発表した長期評価では福島県沖を含む日本海溝沿いでマグニチュード8級の地震が「30年以内に20%程度の確率」で発生すると予測しており、これを基に東京電力は福島第1原発に最大15.7メートルの津波が来ると試算したが、対策を取らないまま東日本大災害で最大15.5メートルの津波に襲われた。長期評価の検討メンバーだった都司嘉宣深田地質研究所客員研究員は「大津波は予見できた」という立場なのだが、日本海溝付近では明治三陸地震や慶長三陸地震など、過去に何度も大津波を伴う地震が起きていたことを挙げ、「将来また起こる可能性は低くはなかった。まして事故が起これば甚大な被害をもたらす原発では、対策を取る必要があった」と東京電力の対応の甘さを批判している。
原発の耐震性を議論した経済産業省の審議会でも東北地方の太平洋岸では、平安時代に東北沖で起きたM8以上とみられる「貞観地震」による大津波を想定した対応を求めた専門家もいたそうなのだが、首藤伸夫東北大名誉教授は「津波が起きた後で、予見できたと言うのは簡単」と確証を持って予見するのは難しかったとの見方を示している。「震災当時、津波による事故を予見するのは不可能でした」と述べるなど3人とも無罪を主張している。東日本大震災前に政府の中央防災会議が福島沖の津波地震を「十分な知見がない」として防災対策の検討対象から外したことを引き合いに、「発生確率が低い津波に対し、国が対策を取らないのに東京電力が対策に投資すると言っても、株主の説得は難しいのでは」と話している。
奈良林直北海道大特任教授は「自然災害はいつ起こるか分からない不確実なもので、個人に刑事責任を負わせるのは難しいのではないか。もしこれで有罪となるなら、大きな自然災害が起これば自治体の首長も刑事責任を問われかねず、行政が成り立たなくなるかもしれない」と指摘している。電源や原子炉の冷却手段がなくなるといった過酷事故への備えも不十分で深刻な炉心溶融につながったてんでも、事故の教訓を踏まえて原発の新規制基準が策定され原発ごとに最大の津波を想定した安全対策が義務化されるなど地震・津波対策が強化されている。移動式の発電機を配備し原発の冷却手段も複数確保するなど、過酷事故対策も義務づけられたがそれでも原発の安全が確保されたとは言えないのだ。
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