私の住む愛媛県にあって稼働中の四国電力伊方原発 3 号機は、大地震で事故を起こす恐れがあるとして住民 11 人が運転差し止めを求めた仮処分申請で、松山地裁は住民側の申し立てを却下したというのだ。東京電力福島第1原発事故以降で伊方原発の再稼働の是非を問う司法判断は、今年の3月に同様の仮処分申請を却下した広島地裁に続き2例目なのだが、広島・大分・山口の3県の地裁や高裁で同様の仮処分申請や訴訟が審理されており、松山地裁の決定が注目されていたのだ。この裁判を行った久保井恵子裁判長は「原発の新規制基準に不合理な点はない」と判断したというが、仮処分は松山地裁だけでなく広島地裁のほかに大分地裁や山口地裁岩国支部でも争われているのだ。
全国にある原発の再稼働を巡っては大阪高裁が今年の3月に関西電力福井県高浜町にある高浜原発3・4号機について、昨年3月に大津地裁が出した運転差し止めの仮処分を取り消したことから4号機は5月に3号機は6月に再稼働している。佐賀地裁も今年の6月に佐賀県玄海町にある九州電力玄海原発3・4号機の再稼働を認めるなど、安倍政権への忖度か原発の運転を容認する司法判断が続いているのだ。松山地裁の審尋で住民側は「伊方原発は南海トラフ地震の震源域にあり、中央構造線断層帯も近い。四国電の地震や津波の想定は不十分だ」と主張し、「重大事故が発生した場合、住民も甚大な健康被害を受ける」と訴えているが、伊方 3 号機は新規制基準に基づく原子力規制委員会の審査に合格し昨年 8 月に再稼働しているのだ。
松山地裁が住民側と四国電側の双方から意見を聞く審尋は非公開で行われ、住民側は伊方原発が南海トラフ巨大地震の震源域にあり、近くには長大な中央構造線断層帯があると指摘して、四国電が耐震設計の基になる基準地震動を過小評価していると主張していた。住民側弁護団によると松山地裁は耐震設計の目安となる揺れの強さとなる基準地震動など地震の問題について関心を持っているようだったというが、久保井裁判長は決定で四国電が周辺海域などの詳細な調査を行い複数のケースを想定して評価したと認定し、「不合理な点は認められない」と伊方原発 3 号機の安全性を認めた原子力規制委員会の審査に「看過し難い誤りはない」と判断したというのだ。
住民側は決定を不服として高松高裁に即時抗告する方針だというが、「裁判官には人の命を守る判断をしてもらいたかった」と伊方原発から西に約20キロの伊予灘を望む愛媛県伊方町松に住む山下長松さんとトメ子さん夫妻は、原発運転差し止めの申し立てを却下した松山地裁の決定に静かに語ったそうなのだ。愛媛県が作成している避難計画では伊方原発で重大事故が起きた際に、伊方原発以西の住人は状況に応じて船で愛媛県内外に避難すると想定しているが、山下夫妻の自宅から港までは峠を越えて車で約20分かかるのに自家用車はなく「事故が起きればここで死を待つしかない」状態なのだ。避難計画に関連し久保井恵子裁判長は決定の中で、継続した訓練の必要性や課題が見つかった際の見直しを求めている。
伊方町の高門清彦町長は「司法判断を厳粛に受け止める」とした上で、避難行動計画は「訓練によって検証、反省し、より良いものに改善する努力を続けたい」としている。中村時広愛媛県知事は「司法の判断にコメントはしない」と答えている。大分地裁に仮処分申請中の原告の一人は地裁前で「不当決定」の垂れ幕を見て、「本当に残念。司法は『福島』を忘れたのか。事故をなぜ教訓にしないのか」と肩を落としたという。各地の原発訴訟に関わってきた河合弘之弁護士は「新規制基準は世界最高水準という論理で、四電の主張をそのまま認めた」と批判しているが、伊方町内で食堂を経営する高齢男性は「原発の運転が停止すれば、町の経済も止まるので、停止せずに良かった」と話しているそうなのだ。
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