銀行の資金運用状況を示す「預証率」が今年の 3 月期は 26.9 %に低下しており、5年連続で前年同期を下回、調査を開始した12年前から最低を記録したという。銀行の「預金残高」に対する「有価証券残高」の比率を「預証率」というのだが、銀行の重要な経営指標の一つとされている。銀行の本業は個人や企業から預金として集めた資金を貸出や有価証券で運用し、利鞘を確保して一般企業の営業利益に相当する業務純益を積み上げることである。これは各行がマイナス金利で金利リスクの抑制策として国債売却を進め、保有する有価証券額が大幅に減少したことだけでなく、業績回復で手元資金が厚くなった企業や将来に備えた高齢者などの個人資金が貸出金の増加を上回るペースで預金として流入したことが背景にあるという。
日本銀行はリーマンショック後の景気低迷から脱するために金融緩和を継続してきており、政府は金融緩和の効果を高めるために銀行が個人や企業への貸出を増やし消費や設備投資など民間需要を刺激することを求めてきたのだ。預証率の大幅な低下は国策に沿っているように見えるが実情はかなり違っており、邦銀の預証率の低下は貸出残高が増加したという前向きな要因によるものでなく、国債売却による有価証券残高の大幅減少というやや後ろ向きが要因であることが明らかだという。邦銀の有価証券残高は約 212 兆円と前年度比 10 %減少しており、貸出や証券投資に運用されない余剰資金である「現金預け金」は、前年より 2 割増に積み上がり資金運用難の苦境に陥った銀行の姿を映し出しているそうなのだ。
銀行としても預証率を下がることは決して悪いことではなく、世界中の多くの銀行がリーマンショックで有価証券の暴落で巨大な損失を計上しており、こうした数年に一度起きるような突然の市場の暴落から顧客から預かった預金である資産を守るためには、バランスシートの強化とされるリスクの高い資産を圧縮し、貸出やリスクウェイトの低い有価証券などの安全資産を増やすことが必要となってくる。アベノミクスの「 3 本の矢」の一環で「黒田バズーカ」と言われる異次元金融緩和を始め、長期国債の買い入れ拡大などの追加金融緩和を決定し、現在も年間約 80 兆円の国債買い入れを継続している。そして史上初のマイナス金利を導入した日本銀行の異次元金融緩和で日本国債の利回りが急低下している。
国債を売却した分を貸出に回せれば一番健全だが企業の資金需要もなかなか盛り上がらないこともあって、安全資産といわれる国債売却の穴を埋めるのは難しいのが実情だという。 3 月期決算の預証率は歴史的な円高水準で大手企業の設備投資意欲が減退し、急速な市場悪化で株式や社債の比率も低下している。また銀行の中小企業向け貸出も慎重になり資金が国債へ流入したため、証率は 42.4 %にまで上昇し、日本銀行が「異次元金融緩和」を発表してから銀行等から積極的に国債を買い入れ、その代金を金融機関の日銀当座預金に振り込む形で実施している。さらに長期国債の買い入れ拡大などの追加金融緩和を決定し、大手銀行を中心に国債売却が進み有価証券残高が減少しているという。
これまで貸出に回らない銀行の余剰資金は主に国債で運用されてきたが、日本銀行の異次元金融緩和やマイナス金利導入で様相が変わったそうで、銀行は運用できない余剰資金を抱え込み日銀当座預金などの「現金預け金」の積み上げが加速しているというのだ。預証率が調査開始以来最低を記録したのは銀行資金が設備投資や個人消費に活用されず、滞留している実態を示すもので銀行の資金運用難が深刻化していることを浮き彫りにしているのだ。預貸率低下に寄与したのは国債売却だけではなく、分母である預金も貸出を上回るペースで増加していることも挙げられ、高齢者層からの預金も増加しているし、市中金利が反転しない限り当面は運用難から預証率の低下が続きそうだといわれている。
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