「土用の丑の日」といえば専門店だけでなくスーパーやコンビニでも「うなぎ」を大々的に販売しているが、水産資源としてのうなぎは危機に瀕しているそうで、うなぎを名物にする静岡県三島市の専門店ではうな丼を今年から 4000 円に値上げしたという。これは 10 年前のほぼ倍の価格だが利益はほとんどないそうなのだ。近年はニホンウナギの稚魚であるシラスウナギの価格高騰で小売価格の値上げが続き気軽に食べられなくなったが、今年の日本はかつてないほどのシラスウナギの不漁に見舞われ、完全養殖技術が確立されていない現在では商業用のウナギを育てるには天然のシラスウナギを採り、養殖池に入れて育てるしか手段はなくこのシラスウナギの漁獲量が激減しているのは周知の通りだという。
シラスウナギは毎年 11 月~翌年 4 月ごろを中心に日本や台湾・中国などの海岸を回遊するのだが、ウナギの産地の鹿児島では昨年は 578 キロだった漁獲量が、今年は 192 キロと約 70 %も減ったという。宮崎では昨年が 412 キロだったところ今年は約 75 %減の 99 キロに終わったそうなのだ。春先になって東日本での漁獲量が伸びたことから少しは持ち直したものの今年の全国のシラスウナギの採捕量は前年比約 4 割減の 5282 キロにとどまっているが、そもそもニホンウナギは国際自然保護連合により絶滅危惧種に指定されており、生息域である日本・ 韓国・中国・台湾は 4 カ国で協議をし、資源保護対策としてシラスウナギの養殖池への池入れ量を 20 %減らすことで合意しているという。
ところが資源保護対策としてシラスウナギの養殖池への池入れ量は 4 カ国協議で取り決めた制限を常に下回っている。またこの「 20 %減らす」という数字にも科学的な背景はなく規制の意味に乏しい数字となっているというのだ。天然ウナギの漁獲量やシラスウナギ池入れ量の推移はいずれも明白な減少を示しているにもかかわらず当事者である日本政府の腰は重く、今年 6 月に開催された日中韓台湾関係国・地域非公式協議では「枠を減らす科学的根拠がない」との主張から規制強化はまたしても見送られているという。この非公式協議には中国は数年前から出席すらしておらず地域レベルでの多国間協議は、有効な資源管理の場としては全く機能していないのが実情で資源保護になっていないというのだ。
私たちが食べるうなぎは今やほとんどが養殖だがうなぎの完全養殖はむずかしく、実際には稚魚として天然のシラスウナギを捕獲し養鰻場と呼ぶ養殖池で育ててから出荷するシステムで、つまり稚魚の生産は天然資源に頼っているのだ。それでも完全養殖の研究は長年行われ、「うなぎに卵を産ませる」研究は 1960 年代から始まり 1973 年には北海道大学で世界初の人工ふ化に成功している。 2010 年には独立行政法人「水産総合研究センター」がうなぎの完全養殖の実験に成功しているが、この手法は親うなぎから受精卵を採取して人工的にふ化させ、シラスウナギを経て成魚に育て、成魚のオスとメスから人工授精をさせ、受精卵の人工的にふ化を繰り返すことで天然資源に影響を与えずにすむサイクルだという。
それでも研究者は「実際の養殖に役立てるには、シラスウナギを大量生産する技術の確立が必要です。これが実現して量産化となれば、養殖用のシラスウナギの一部を完全養殖うなぎでまかなえる。この数字が増えるほど、天然資源への影響を減らすことができるのです」という。つまり完全養殖は、実験レベルでは成功したが大量生産が実現していないのが現実なのだということのようなのだ。それでも今年に 7 月に「水産研究・教育機構」は、機構内の施設で育てたシラスウナギ約 300 匹を民間の養鰻業者に提供することを発表しているが、これは完全養殖の実用化を念頭に置いて養鰻業者が 1 年間養殖し、体長や体重の変化といったデータを提供してもらうと試みだが、放流後の生存率などのモニタリング調査等も実施しているという。
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