来年度予算案の採決を控えた衆院予算委員会ではじめの 5 時間は安倍首相が出席しての集中審議で全国にテレビ中継されたが、中継が終わった後の一般質疑で与党議員による激しい野党議員批判とそれに対する猛反論というあまり見ない強烈な場面があったという。安倍首相が講演で憲法 9 条に自衛隊を明記する憲法改正の必要性を説く際に使う「ある自衛官が、息子から涙ながらに「お父さん憲法違反なのと尋ねられた」というエピソードについて、実話なのか確認した。安倍首相が「実話だ。防衛省から聞いた話だ」と答えたのに対し、「私の実感と違う。私は小学校中学校とずっと自衛隊の駐屯地のそばで育ち、自衛官の息子さんがいたが、こんな話出たことがない」と指摘し自衛隊は合憲なのだから改憲は不要と主張したという。
現在使われている中学の教科書でも「自衛隊は憲法に違反するという主張もある」と書いていると指摘し次のようにボルテージを上げた自衛官を父親に持つ議員は、「今でも毎年毎年何万人の子供たちが嫌な思いをしながら座っているんです。私は父に憲法違反なのと聞かずにすみましたが、もし聞くことがあったら私も泣くと思います。自衛隊が憲法違反という大人の声はテレビをつければ耳に入ってきます。一家だんらんの時そんな話題が流れてきたらどんな雰囲気になるか皆さん想像できるでしょう」とし、「憲法の記述が変わらなければ教科書は変わらない。教科書が変わらなければこれからも毎年自衛官の子は黙って授業に耐えていく。その結果自衛官の子は心で泣く。これを放っておく国でいいのか」と訴え質問に移ったという。
そもそも大前提として「お前のお父さん憲法違反」といじめられた子どもがいるのだとしたら、おこなうべきはいじめの解消・解決であって、子どもが違憲と言われたから改憲するということ自体がむちゃくちゃだが国会ではそのエピソードの真贋が論議になっているのだ。安倍首相や秘書官に直接話したわけでもなく「あるところに書いたら、安倍さんが使うようになった」と言っているのだが、自衛隊への批判が強かった 70 年代や 80 年代までならいざ知らず、世論調査で 90 %近い支持のある現在そんないじめがあるとは思えないというのだ。さすがに今は「自衛官の子弟」というだけで、学校で先生たちから虐められることはないだろうし、自衛隊は国民に既に定着したから「加憲」しなくてもよいではないかという護憲派もいるというのだ。
安倍首相は衆院予算委員会で自衛隊の新規隊員募集に地方自治体の6割以上が非協力的だとする自身の主張に絡み、自衛隊の憲法明記により「空気は変わる」とした発言について、「反対を許さないという考えは毛頭ない」と説明しているが、安倍首相は2月の予算委で憲法に自衛隊根拠規定を書き込む理由として「自衛隊は違憲ではないと言い切る憲法学者は2割にしか満たない中で空気が醸成されてきた。明記することでそういう空気は大きく変わっていく」と語っっているのだ。安倍首相は先月の自民党大会の演説で都道府県が 自衛隊の採用に協力していないとのエピソードを紹介しているが、その上で「憲法にしっかり自衛隊を明記し、違憲論争に終止符を打とう」と訴えているというのだ。
その後の防衛相の調査によると結果として実際には全体の約9割が何らかの自衛隊の採用の協力を行っていることになると報告されているが、それでも安倍首相は「膨大な情報を自衛隊員が手書きで書き写している」などと指摘したというのだ。「都道府県」との表現は避け「6割以上の自治体で協力を得られていないというのが真実だ」と主張したわけなのだ。安倍首相が主張する「自衛隊を憲法 9 条に明記」することで、自衛隊に関する何が変わって何が変わらないのかだけでなく、変化が生じるならいい変化なのか悪い変化なのかを調査し、日本国憲法の最初に改正にふさわしい価値や意義があるのかないのかといった、こうした論点は今後も冷静な場での突き詰めた議論が求められることが需要なのだというのだ。
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