職場のパワーハラスメントの防止を企業に義務づける 改正労働施策総合推進法が参院本会議で可決・成立したが、初めてパワハラを定義し上下関係を背景としたパワハラは許されないと明記する一方で罰則規定は見送られている。企業に相談窓口の設置や発生後の再発防止策を求め悪質な場合は企業名を公表し、具体的なパワハラ行為も明示するという。働きやすい環境を整え社員の退職や意欲低下などを防ぐとされており、具体的にどのような行為がパワハラに当たるかについて厚生労働省が来年 4 月の施行までに指針を策定するという。厚生労働省によると全国の労働局に寄せられる職場のいじめ・嫌がらせの相談は年 7 万件以上だが、予防や解決に向けて取り組んでいる企業は 52.2 %で対応が遅れているという。
既に義務化されているセクハラ対策が機能しているとは言い難く実効性には疑問が残る内容となっているが、セクハラ対策は男女雇用機会均等法で義務づけられており、労働政策研究・研修機構の調査によると相談窓口を設けた企業は導入から約 10 年で 36.5 %にとどまり、対策を講じていない企業は 40.8 %に上るという。罰則規定がないこともあって働く人の 28.7 %が依然として被害に遭っているのが現状となっている。今回の法改正は職場内での取り組みに主眼が置かれ、取引先との間で起こるハラスメントや就職活動中の学生らへの対応は明確ではないという。国際労働機関は職場のあらゆるハラスメントを禁止する条約を検討中で、このままでは世界的な規制強化の動きに後れを取りかねないとさえ言われている。
「あらゆるハラスメントを許さない」という社会的な機運を背景に成立した改正労働施策総合推進法はパワハラ防止措置を企業に義務づけるものだが、今回は労働施策総合推進法や女性活躍推進法など計 5 本の法律を改正するという。パワハラを「職場において行われる優越的な関係を背景とした言動」などと定義し、社員がパワハラをした場合の処分内容を就業規則に盛り込むほか相談者のプライバシー保護の徹底も求めている。パワハラが常態化して勧告しても改善が見られない場合には企業名を公表するとされ、大企業は来年に中小企業は3年後にも対応を義務づけられる見通しだとなっている。厚生労働省は「身体的な攻撃」や一人だけ別室に席を移すなど「人間関係からの切り離し」といった 6 種類の行為をパワハラとみなしている。
改正労働施策総合推進法の指針では直接的な雇用関係がない就活生やフリーランスに対してもハラスメント行為を防ぐよう企業に求める方針だが、社外の相手に対するセクハラやパワハラも禁じるよう就業規則に盛り込むことなどを想定するとされているようだ。就活生へのセクハラなどが問題になっているのに対応するわけなのだが、ある会社が実施した調査では 45% の企業が社内のパワハラを把握していると回答しているそうなのだが、その回答によると「精神的な攻撃」が 76% ともっとも多く本人の能力を超えた「過大な要求」が 24% で、、「人間関係からの切り離し」が 19% で続いている。それでも「パワハラがあると把握していても有効な対策法がわからない企業や、社内規定や罰則はあるが運用できずにいる企業も多い」という。
厚生労働省の調べでは従業員が 1000 人以上の大企業では 88% が相談窓口の設置などパワハラ対策を実施していると回答しているが、従業員規模が小さくなるほど割合は下がり 99 人以下の中小企業では 26% にとどまっているという。本業以外に取り組む余裕が無い中小企業も多く「法律で義務付けても、どこまで実効性のある枠組みを作れるかは不透明だ」との指摘もなされており、人手不足が続くなか働きやすい環境を整えることは職場の離職防止や社員の意識向上に欠かせないという。企業や労働組合がこの問題をなくすために取り組むとともに職場の一人ひとりにもそれぞれの立場から取り組むことを求めているが、国や労使の団体に対してはこの提言を周知し対策が行われるよう支援することが必要だとしている。
キーワードサーチ
コメント新着