日本では 4 月に主要額面の紙幣を 20 年ぶりに改刷することが麻生太郎財務相から発表されて大きな話題になったが、同じ月にお札に関するニュースがヨーロッパからあり、ドイツとオーストリアが 500 ユーロ紙幣の印刷を終了したというのだ。ユーロ圏で流通する紙幣の発行主体である欧州中央銀行は3年前の理事会で 500 ユーロ紙幣の廃止を決めており、欧州通貨統合に参加している国々は次々とこの紙幣の印刷を取りやめ、最後まで残っていたドイツなど 2 カ国もついに終了したという。ユーロ圏が最高額紙幣の製造・発行を取りやめたのは国際テロ組織やさまざまな犯罪に絡むお金の流れを遮断しようという狙いからなのだが、高額紙幣はマネーロンダリングに利用されやすいという見方があるというのだ。
それでもなおユーロ圏には 200 ユーロ札があるのだが、これは米ドル紙幣の最高額は 100 ドルで日本銀行券では 1 万円なので、次は 200 ユーロ紙幣の発行を続けることの是非が論議の対象になるかもしれないという。キャッシュレス決済を促進する狙いから 1 万円札はこの際廃止すべきだという意見も一部で出ており、これはマクロ経済学の第 1 人者である米ハーバード大学のケネス・ロゴフ教授が「日本は 1 万円札を廃止するべきだ」と自著のなかで主張したと言われている。このことは「脱税やマネーロンダリングなどの犯罪が防げる」ほか「次の金融危機が起こった際の金融政策の余地を広げることができるため」だと言うのだが、現金選好が根強い日本の実情に鑑みるとそうした意見には明らかに無理があるという。
日本では個人の預金にはマイナス金利は適用されていないのだが、今後再び深刻な景気後退が訪れれば、マイナス金利を深堀りせざるを得なくなる状況も想定されている。マイナス金利を嫌って個人が預金を引き出そうとしても高額紙幣がなければ保管にも不便であるため金融政策が効きやすいだろうという。確かに発行済みの紙幣の 9 割以上が 1 万円札であることを考えるとそのうちのかなりの部分が地下経済やタンス預金のようなものに回っていることが推定されるが、政府や日銀は 1 万円札の廃止を現時点では否定するもののキャッシュレス化を目指すことは明確にしているのだ。閣議決定している「未来投資戦略」ではキャッシュレス決済比率を倍増し 4 割程度とすることを目指すとしているという。
キャッシュレス化が多少進んでも 1 万円札が使えなくなるわけではないが、現金が使いづらい環境になっていく可能性は高いとされている。キャッシュレス化が最も進んでいるとされるスウェーデンでは「現金お断り」と張り紙をする店は珍しくないそうで、そして日本でも昨年にはロイヤルホストが現金を受け付けない実験店を開店したそうなのだ。キャッシュレスは店舗側にとっても安全面や生産性の上でメリットがあると考えられ、そのような店が今後は一気に増加する可能性はあるというのだ。さらに欧州各国だけでなく中国でも現金決済の上限額を法律で定めている国が少ないそうで、もし日本でもそのような法律が作られればタンス預金は一層使いづらくなることは間違いないと言われている。
特に高齢層にはいわゆる情報技術リテラシーが低いままの人々が多く、 1 万円札を廃止しようとすると強い反対意見が出されるとされている。キャッシュレス化が着実に進んでいくとすれば次に出てくる渋沢栄一の 1 万円札が最後になるのではないかという声も出ているが、足元ではおそらく 50 兆円に近づいているとみられる巨額の「タンス預金」は今後どうなっていくのかというと、手元の現金を預貯金に無理にシフトさせるインセンティブも現状は見当たらないという。預金封鎖や 1 万円札紙幣廃止などに対する懸念は現時点ではそれほど必要ないようにも思われるのだが、国内外でキャッシュレス化に向かっている流れは認識した上で資産防衛策としてのタンス預金も検討するべきかもしれないというのだ。
キーワードサーチ
コメント新着