国税庁の民間給与実態調査によれば日本人の平均年収は約 441 万円で 20 年近く変わっていないそうなのだが、国内総生産が世界 3 位にもかかわらず経済協力開発機構の調査によれば平均賃金は加盟国のうち 35 カ国中 19 位の水準だという。なぜ日本人の給与は安いのかということなのだがその答えは簡単でやっている仕事が高い付加価値を生み出していないからだといわれているのだ。建前では給料をあげたいなら付加価値を生み出す仕事をするしかないが、付加価値を生み出せない人は稼働率が落ち年間の売り上げも下がる。当然人事考課は悪くなっていくという仕組みが機能しているはずなのだが、それが個人個人の人事評価となり給与に反映されるという仕組みが出来上がっていることになっているのだ。
多くの日本の会社ではクライアントに付加価値を生み出すという意識が希薄化しており、大企業であればあるほど一社員とクライアントとの距離は遠くなり、付加価値を生み出そうという意識が消えているという。日本の会社にとっていちばん大事なのは社員の生活を定年まで保証することで、つまり日本社会の中での会社、江戸時代の村と同じで、そこに入った村人が死ぬまで仲良く暮らしていける生命維持装置なのであるというのだ。売り上げと利益を伸ばすよりも安定して長く続いていくことが第一目的とされることから、リスクのありそうな投資はしたがらないし会社に金をため込むという。今の日本の一流といわれている企業は新たな投資をせず内部留保を積み上げ株主へも社員へも十分に分配をしていないという。
こうした安定志向の組織では社員たちの和が最も重要になるので和を乱すことが最も嫌われることになるが、つまり前例踏襲で波風を立てず関係部署の顔をつぶさず、上司の顔を立て無難な仕事をしていく人が評価される。だから仕事のポイントは「根回しと忖度」となるという。何が正しいかではなく何が関係各署の顔を立て社内稟議が通りそうか、皆の気持ちを忖度できるかどうかが出世できるかどうかの分かれ道になるというのだ。ところがそんなスキルをいくら身に付けてもそれはほかの会社や転職市場ではまったく価値がないとされ、付加価値を生み出そうという意識を持つためには、付加価値を生んでいるかをつねに意識して仕事を進めていくように気持ちを変えなければダメで、これこそが本当の「働き方改革」であるという。
こうして仕事の取組み姿勢を変えて結果を出し始めれば上司もそれを認めざるをえなくなり、取引先や外部の人からも「あの人は仕事のプロだ。高い目的意識を持っている」と認められるようになるという。これにより自分の市場価値も高まっていくわけだがこうなればしめたもので、上司に対して自分の給与を上げてくれと自信を持って言えるようになるし、上司も結果を出してくれる部下がいなくなると困るから真剣に給与引き上げの要求に対応するはずだという。自分の仕事の価値を高めるために自分の仕事のやり方を変える。しかしそれでも上司が聞き入れず「同期の中でお前の評価は高い。でも、給与はウチの給与体系にしばられているから上げられない」と言うならそのときは転職を考えるしかないまでいる。
長引く景気低迷で雇われることの価値が相対的に上がっていることも背景にはあるが、労働者の給料を決める権利があるのは企業側であることは変わっていないし、地域によって最低賃金が定められているものの企業側が労働者を雇う際は、労働条件や給料を明確化したうえできちんと報酬を支払わなくてはならないとされている。しかし労働者側に「自分の労働はこのくらいの価値がある」と正常な査定ができないと、企業側に提示された給料で納得せざるを得ないというのだ。仕事をするうえで最も多く対価を得ている人間は仕事を与え管理する側の人間であるといわれるが、技術や知識を身につける過程で「労働者を使う側」に回らなければ、永久に搾取されつづけるという点を忘れてはならないという。
キーワードサーチ
コメント新着