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これがその論文です。それによると65人の患者様に白内障手術終了時に0.1mlのベガモックス点眼液を直接前房(目の中)に投与したが、視力・前房反応・角膜の厚さ・角膜内皮細胞密度(手術でダメージがあると減る)の点で非毒性(害がない)であったということでした。
しばらく前の日記でも書いたように、白内障手術後には500~2000例に1例の割合で眼内炎という感染症が発症し、最悪の場合には失明につながることもあることが知られています。またこの眼内炎は最近主流となっている角膜切開という手術法によって以前より増えてきているという報告も多くあります。
この怖い眼内炎を予防するために我々白内障手術医は以前から様々な工夫を凝らしてきたのですが、つい最近までは多数の論文解析で唯一効果があると判定されたのは「ポピドンヨード(いわゆるイソジン)による眼表面の消毒」のみでした。しかも、そのエビデンスレベルは「中等度の臨床的推奨(B)」に過ぎず、我々白内障手術医は、恐ろしい術後眼内炎に対してほとんど有効な対策を持てずにいた、というのが本当のところだったのです。白内障手術前後の抗菌剤の点眼、術後の抗菌剤内服、こういった現在の標準的な治療は眼内炎発症阻止には残念ながら無力だった、ということなのです。
こういった厳しい状況の中で、ヨーロッパから2006年に画期的な発表がありました。数千人規模での研究であったESCRS眼内炎研究班によると、白内障手術終了時に前房(目の玉の中)にセフロキシムという抗菌剤を投与すると、怖い怖い眼内炎の発症率が5分の1になった!というのです。
私も「そんなに安全なら是非自分もしたい!」と思いましたが、実は大きな問題がありました。というのはこのセフロキシムというのは本来は全身薬であり、眼に入れるためには煩雑な操作で濃度を調整する必要があるのです。調整に失敗すると中毒性前眼部症候群(TASS)という病態を発症する事もあり、そのため現在のところは日本ではあまり広まっていなかったのです。またこのセフロキシムは眼専用に作られた抗菌剤ではないので、その作用範囲があまり広くないなどの弱点もありました。
(続く)
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