のぽねこミステリ館

のぽねこミステリ館

PR

Profile

のぽねこ

のぽねこ

Calendar

2005.06.12
XML
井上泰男『西欧文化の条件-中世の復権』


 ヨーロッパ中世といえば、石造りの建物、という印象を持っていた。少なくとも、木造建築がぱっと浮かんだりはしない。けれども、プロローグから、「石が勝利を占めるのは12世紀半ば以降の新城砦においてである」と指摘されている。それまで、ふつう、小城主の城は木造だったという。
 こうした興味深い指摘を多く含む本書の構成は以下の通りである。

プロローグ 太初に殺しありき
1 樹海に生きるもの
2 中世人の衣・食・住
3 生活のリズムとしくみ
4 聖職者の世界

6 発展する都市と農村
エピローグ 見直される中世文化

 あとがきでも述べられているように、アナール学派的なアプローチが試みられている。
 内容全体に言及するのではなく、気になった点をいくつか書いていきたい。
 まず、細かい疑問ではあるが、農民は朝早くに起きて働いていたという。うん。ここで疑問。現代日本では、朝起きるときは、目覚まし時計が用いられるのが一般的であろう。モーニングコールなんてのも浮かんだが、コホン。
 さて、中世の農民はどうやって起きていたのだろう。聖職者(あるいは修道士)については、関連する文献を読んでいると、しばしば「徹夜(寝ずの番)」という表現を見いだす。特に(ベネディクト系)修道士などは、毎日決まった時間に祈祷をするから、時間もそれなりに厳密に守っていたはずだ。ならば、朝は決まった時間に起きていたはず。どうっやって?ここは、寝ずの番の人が、時間になったら起こす、ということをしていたのかもしれない、と思えば、納得できる(この理解も全くの的外れかもしれない。ル・ゴフの「教会の時間と商人の時間」という論文を読み返したら、あるいはもう少し分かるかもしれない)。ただ、農民は?自分の畑はもちろん、領主の畑でも働いたり、領主から命じられた他の仕事をしたり、彼らはけっこう忙しかったはずだ。夜は疲れてぐっすり眠っただろう。では、どうやって早起きしたのだろう。一つ浮かぶのは、鶏である。鶏が鳴かなくなったから、鳴くようにしてくれ、と聖人に頼む農民の話がある(参考:ジャン=クロード・シュミット『中世の迷信』101頁)。あ、いま文献を調べたら、「農民たちが夜明けを知るために鶏を必要としていたからではなく…」とあった。否定の形になっているのは、聖人に奇跡を頼む理由であるからで、やっぱり、農民が夜明けを知る手段は鶏だったのかな。
 一日に四回食事をとっていた、という指摘も興味深かった。もっと食べてないのかと思っていたけれど。
 それから、これはもうどうしようもないのだけれど、泣き女という習俗について。たしか、ジャン=クロード・シュミットの『中世の身ぶり』を読んだときにものすごく興味をもったことで、卒業論文では中世の泣き女についてやろうか、と思っていた時期もあった。泣き女というのは、葬儀の際に泣く、職業的な人々だったと認識している(ここも誤解があるかもしれない)。けれど、参考にすべき文献が全くといっていいほど分からなかったので、断念したのであった…。ここで、泣き女について書いたのは、本書181頁に、1348年のペスト大流行のことが言及されているのだが、そこで「泣き女の習俗を禁止することによって」という記述があったからである。新書という性格上、注がついておらず、何を参考にすればよいのかが分からないのは非常に残念である。他のことについても、本文中で非常に興味深い指摘とともに、参考文献も挙げられているが、参考にすべき頁まではあげられていない。新書という性格上、それも仕方ないことだと思うが、巻末に参考文献一覧もついていたら、なお良かったのに、と思う。





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

Last updated  2005.06.12 07:58:52
コメント(2) | コメントを書く


【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x

Keyword Search

▼キーワード検索

Comments

のぽねこ @ シモンさんへ コメントありがとうございます。 久々の再…
シモン@ Re:石田かおり『化粧せずには生きられない人間の歴史』(12/23) 年の瀬に、興味深い新書のご紹介有難うご…
のぽねこ @ corpusさんへ ご丁寧にコメントありがとうございました…

© Rakuten Group, Inc.
Design a Mobile Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: