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2005.07.19
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田中峰雄『知の運動-十二世紀ルネサンスから大学へ-』


卒業論文執筆の際、一部は読んでいたこの本。一部流し読みもありますが、一通り読みました。
まず、江川温先生の「まえがき」で、ショックを受けました。田中峰雄氏は、1993年、自宅の火事により、亡くなられたというのです。ですから、この本は、田中氏が自ら整理したものではなく、生前に発表された論文を網羅的に整理したものです。
内容自体とは関係ないのですが、「このような問題点については、いずれ稿を改めて考えてみたいと思う」という記述で、泣きそうになりました。いま引用した部分は、附論一「中世都市の貧民観」にあるのですが、この論文が非常に興味深かったため、田中氏によるさらなる研究はもう読めないという点と、田中氏は今後も研究を続けるつもりだったのに、不運な事故によりそれがかなわなくなったという点。とりわけ後者のことを考えて、です。世の中、本当に何があるか分かりません。

さて、本書には、十三章と、附論が二つ収められています。全てに言及するのは困難ですから、簡単に。
第一部「十二世紀ルネサンスとソールズベリのヨハンネス」には、二つの論文が収められています。
ヨハンネスは、1115年頃-1180年を生きた、当時の代表的な知識人です。彼の学芸観、教育観について述べられています。
第二部「十三世紀のパリ大学と対托鉢修道者闘争」、ここも二つの論文からなります。第三章「形成期のパリ大学と托鉢修道会」は、卒業論文で参考にしました。

第四章では、両修道会を一緒に考えるのではなく、区別して検討する必要があるとして、フランシスコ会に関する議論を展開しています。
第三部、第四部は、中世末期のパリ大学について。合わせて9章からなり、本書の中でのメインともいえるのですが、中世末期は私の専門とは異なるため、軽く目を通した程度です。ですが、学生の出身地分布について検討している第六章や、学位取得の年齢について論じている第十二章は、興味深く読みました。後者は、三つある学位のうち、一つ目をとる年齢が「14歳」とする規定が残っているのですが、これは二つ目の学位をとる年齢を考えるとおかしいと考えざるをえず、当時(14世紀)には、4と9はよく似た表記がなされたため、19の誤写なのではないか、と論じているものです。
先述した附論一は、私が最も興味深く読んだ章です。中世の「貧民」という概念は、現代の概念とは異なることが指摘されています。貧者への施しが、聖職者、都市社会が形成されてからはブルジョワジーを中心とする俗人にとっても重要視されたのですが、これは貧者のことを思ってではなく、自らの職務であり、自らが救済される手段として考えられていた、ということが述べられています(この私の記述は正確ではないかもしれません)。こうした、宗教的な問題だったものが、やがて社会的な問題に変わっていくということが、多くの史料の検討から指摘されています。
最後に、托鉢修道会と貧者との問題について、いくつかの問題提起がなされています。
私が専門に勉強している説教の中でも、貧者に向けた説教があり、その分析も、田中氏の問題提起に、なんらかの形で一つの見解を与えられるかもしれません。ただ、目下のところ私の関心はそこではないので(興味深い問題とは感じていますが)、修士論文で中心的に扱うことにはならないかと思います。
とはいえ、今後の視座が広がったという意味でも、本書は有意義でした。大学の制度についても勉強になりましたし。

久々にずいぶん長い記事になってしまいました…。
明日からの朝の読書は、本書と並行して既に読み進めているノルベルト・オーラー『中世の死』と、国府田武『ベギン運動とブラバントの霊性』です。

(追記)
本書の構成は以下のとおりです。

ーーー

収録論文初出一覧

序説 知の運動―学位と教育の変革

第一部 十二世紀ルネサンスとソールズベリのヨハンネス
 第一章 ヨアンネス・サレスベリエンシスの学芸観
 第二章 ソールズベリのヨハンネスの教育思想

 第三章 形成期のパリ大学と托鉢修道会
 第四章 対修道者闘争とフランチェスコ会
第三部 中世末期のパリ大学(一) 大学と社会
 第五章 中世後期のパリ左岸地区
 第六章 学生の出身地分布―イギリス人・ドイツ人ナシオを中心として
 第七章 シスマとパリ大学―シスマ初期における聖職禄の誓願とウルバニスト派教師
第四部 中世末期のパリ大学(二) 制度とその運用
 第八章 学位制度における<subdeterminatio>
 第九章 学位取得状況
 第十章 学位取得の変則形態
 第十一章 ブルサ考―学位取得料の問題
 第十二章 一四歳か一九歳か―学位取得の年齢をめぐって
 第十三章 規約と慣行―制度運用をめぐって
附論一 中世都市の貧民観
附論二 史料の数字の信憑性

解題
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Last updated  2008.07.12 21:22:37
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のぽねこ @ シモンさんへ コメントありがとうございます。 久々の再…
シモン@ Re:石田かおり『化粧せずには生きられない人間の歴史』(12/23) 年の瀬に、興味深い新書のご紹介有難うご…
のぽねこ @ corpusさんへ ご丁寧にコメントありがとうございました…

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